第22話「デュエルの果てに」

 八神堂でははやてとシグナムが、T&Hではなのは達T&Hエレメンツの全員が、グランツ研究所ではディアーチェ達DMSの3人とアミタとキリエ、グランツがデュエルの結末を見守っている。
 この攻防で勝負が決する…
 緊迫した雰囲気は3ショップ全体に伝わり遊びに来ていた子供達の視線も大モニタに釘付けになっていた。その中には目を輝かせる青髪の少女と、家族へお弁当を届けに来た少女の姿もあった。
 

『リライズアーップ!!』

 ヴィヴィオは虹色の光を発しながらも襲い来る蒼い光の奔流に呑み込まれる。
 幾らカウンターが上手くても、いくら複数の魔法を使えても防御力以上の攻撃を受けてしまえばライフポイントは減る。ヴィヴィオのライフポイントが一気に減り始めた。

『……ぉぉぉぉ』
しかし…砲撃音の中で声が聞こえてくる。

『ぉおおおおっ!!!』

 その声は徐々に大きくなりやがて全員が聞こえる様になった時、蒼い奔流の中から虹色の光が突き抜けてきた。
 そして魔法発動直後の硬直が解けないシュテルにぶつかり彼女もろとも海面に大きな水柱を作り出した。

「………」
「………」
「………」

 固唾を呑んで見守る中、モニタに結果が表示される。

『Winner Vivio』

 直後、ショップ中で歓声と驚きの声が響き渡った。
 


「はぁっはぁっはぁっ…」

 海面から少しだけ浮いたままヴィヴィオは息を整える。ライフポイントはほんの僅かに残っているだけで,魔力は底を尽き上着も無くなっている。彼女の腕の中には気を失ったシュテルがいる。
 最後の魔法をぶつけた瞬間彼女が意識を失ったのに気づいて、海面に叩きつけられる前に何とか手を取って抱き寄せた。

「ん…んん…」
「大丈夫?」
「ヴィヴィオ…あ、私は負けたのですね。」
「ゴメンね、手加減できなかった。」  

 流石にこの体勢は恥ずかしいのかシュテルは「もう大丈夫です」と言って離れる。

「公式では初めて使った魔法だったのに、何故判ったのですか?」
「あ…えっと、フェイトのファランクスシフトを見てたからかな。SR+のカードがあるって知ってシュテルだったら切り札みたいな感じで1枚はデッキに入れてて最後に使うと思ってた。それで私もなるべく魔力を使わないでおこうって…」
「そこまで読まれてましたか…完敗です」
「とっても楽しかった。ありがとうシュテル♪」

 ヴィヴィオはシュテルから差し出された手を握って笑って答えた。


 
一方

「………」
「……シュテルが…」
「…うそ…」
「…シュテルんが…まけた?」

 グランツの側でディアーチェが、レヴィが、ユーリは呆然とその様子を眺めていた。テストでしか使わなかったSR+の魔法を使ったのに…負けた。目の前で起きた事が信じられないのだろう。
 とは言え、グランツ自身もまさか集束砲を突き破って攻撃してくるなんて予想出来ただろうか。
 3人の中でいち早く我に返ったユーリがブレイブデュエルのコンソールを使って直前の状況を調べ始める。

「…!! ディアーチェ、レヴィ、見て下さいっ。」

 ディアーチェとレヴィ、アミタ、キリエがユーリの所へ駆け寄ってくる。

「シュテルのハーキュリーブレイカーはヴィヴィオに直撃しています。ですがこれを…」

 ヴィヴィオがハーキュリーブレイカーに飛び込んでいく。だが呑み込まれる直前に彼女が自ら放ったインパクトキヤノンに追いつきアクセルシューターも彼女の目の前に集まる。

『ほしよぉぉおおおおおおっ!!』

 叫び声と共に光る拳を前に向けた。 

「3つのスキルカードを合わせた?」
「いや、5つだよ。」

 横から訂正する。

「ヴィヴィオ君はこの時点で既に残り2枚のカードを使いリライズしている。リライズしたカードの固有魔法は『セイクリッドディフェンダー』、防御力を強化し更に防御成功時にカウンターの威力を強化出来るカウンターも付いているね。」

 映像表示部分の右隅にある履歴を指さす。

「本当に凄い、同時に魔法を使うだけじゃなく組み合わせるとは…彼女の叫びも何かあるかも知れないね。」
「強い魔法を使えるデュエリストが強いとは限らない。弱い魔法でも組み合わせれば強くなる、現実の経験をデュエルの中で生かせば魔法に頼らなくても強いデュエリストになれる。ヴィヴィオ君とアリシア君はブレイブデュエルに新しい風を吹き込んでくれたね。」

 嬉しそうに言うグランツにアミタが頷く。

「そうです。私達も猛練習しなくてはいけませんねっ!」
「ええ~、メンド…」
「キリエ~っ!」
「冗談だって。これだけ派手に負けちゃったんだから付き合うわよ。」

 何だかんだと言っても2人とも負けず嫌いなのだ。そして彼女達と同じく他の3人も再戦の意志を見て取って頬を崩した。
 


「ヴィヴィオ、楽しかったね」
「うん」

 グランツ研究所からの帰り道、アリシアが声をかけてきた。

「フェイトちゃんに勝ったんだって? ブレイブデュエルはあまり良く知らないんですが、フェイトちゃんは強いんですよね?」

 彼女の横を歩いている恭也がその隣を歩くシグナムに聞く。2人はヴィヴィオ達がグランツ研究所から帰るのが遅くなった為迎えに来てくれていた。

「ええ、ブレイブデュエルでの上位プレイヤーです。生憎対戦を見ていませんでしたがブレイブデュエルであの剣術は様になっていたそうですよ。」

 タッグを組んで模擬戦をしていた時から気づいていたけれど、アリシアの動きは私との模擬戦と比べて凄く自然だった。デバイスのアシストが無くても動ける様になったらしい。2人が彼女の事を褒めているのを喜ばしく聞いていた。

「はい、でも私よりヴィヴィオの方がもっと強いですよ。トップデュエリストが参加するACEで初挑戦で10戦全勝と最速タイム叩き出しちゃったんですから。しかも最後のシュテルとのデュエルまではノンダメージで♪ 私なんてフェイトに勝った後気が抜けて負けちゃったし…」
「私も途中から見ていた。私も含めて同時に魔法を使うなんて気付きもしなかった。八神堂でも皆驚いていたよ。明日の土曜は大変だな。」

 フッと笑うシグナムの言葉の意味に気づいて慌てて振り返る。

「え…?」 
「デュエルの後、ヴィヴィオは何処に行けば会えるか八神堂に遊びに来ていた子供達に何度も聞かれたんだ。その時我が主が『明日はここに居る』と話していた。対戦を望む者も多いだろうが同時に複数の魔法を使う方法を教えて欲しい者が八神堂へ押しかけるだろうな。」

 ヴィヴィオがデュエルを終えてアリシアを探そうとした時、周りを多くの子供達に囲まれた。
 フレンド登録は勿論、デュエルの申し込みもあったけれど何よりも同時に2つ以上の魔法を使う方法を教えて欲しいとお願いされたのだ。魔法文化も無く、ゲームの中使う魔法もスキルカード形式だったから【同時に使う】という感覚は誰も持っていなかったらしい。
 どうやらソレが八神堂でも起きるらしい…はやてが認めたとなると

「ハハハ…アリシアも来るよね?」
 隣にいるアリシアの手をギュッと握る。こうなったら1人で巻き込まれるより2人で巻き込まれた方が被害は少ない。
「えっ? わ、私は翠屋のお手伝いあるから無理。今日お休み貰った分頑張らなきゃ♪」

 彼女はソレを察したらしく一気に逃げようとする。だが…

「アリシア、母さんから伝言だ。土日は遊んできてもいいよ。美由希やアルバイトも来る。」
「あ…ありがとうございます…」
「クスッ、良かったなヴィヴィオ」

 肩を落とすアリシアを見て面白そうに言う2人に

「はいっ♪」

笑顔で答えるのだった。



「お帰りヴィヴィオ、今日はお疲れさんや♪ シグナムも迎えに行ってくれてありがとな」

 アリシアと恭也と別れ八神家に戻ったヴィヴィオ達を出迎えたのははやてだった。

「只今帰りました。」
「遅くなっちゃった。ごめんなさい」
「ええよ、あんなデュエル見せられたら来てた子に色々聞かれたんやろ、それより仕度出来てるからご飯にしよ♪」

 そう言えばお昼に少しご飯と翠屋のお菓子を食べた後何も口にしていなかった。
 キッチンから漂う美味しそうな香りにお腹がキュ~っとなって慌てて隠す。

「体は正直や。食べながら今日の話聞かせてな。」
「うんっ」

 八神家の食卓は今日はヴィヴィオのデュエルの事で盛り上がった。
 はやては勿論、シャマルやシグナムも和やかに頬を崩しながら彼女が嬉しそうに話すのを聞いていた。
彼女の様子は昨日までと打って変わっていて、これが本当の彼女なのだろうと思う。
 一方で彼女の隣で黙々とご飯を食べるヴィータは明らかに不機嫌そうだ。

(まぁ…自分もACEに出て1勝しか出来んだしな…)

 こっちも後のフォローが大変だろうが彼女もヴィヴィオが良い刺激になるだろう。
 


 賑やかな八神家の食卓とは少し違って、シュテルは1人外へ出て星を眺めていた。

「シュテルが1人で星を見るなんて珍しいですね。」

そこにアミタがやってきた。

「ええ、久しぶりに見たくなりました。」
「綺麗ですね。」

 隣で空を見上げるアミタ、

「…はい。」

 シュテルも答えて再び見上げる。2人の前には満天の星空が広がっていた。

「シュテルがどうして彼女達をブレイブデュエルに誘ったのか判りませんでしたが今日判りました。『ヴィヴィオ』だったんですね…いつから気づいていたんです?」
「…初めは本当に偶然でした。街でフェイトが大きな荷物を持って歩いていたので声をかけようと近づいたらヴィヴィオと話しているのが聞こえたんです。『海鳴だったら魔法が使える』と…。結局彼女はフェイトではなくアリシアだったのですが…、近くにいた私を知るデュエリストにお願いしてヴィヴィオ達にブレイブデュエルで遊ぶ様に勧めて貰いました。アミタはその2人から聞いたのでしょう?」
「はい。」
「今思えばあの時から彼女に…何か感じていたのかも知れません。初めてなのはのデュエルを見た時の様に…」

 目を閉じて思い出す。
 シュテルがヴィヴィオのデュエルを初めて見たのはモンスターハントではない。その少し前にあったヴィータとのデュエル、彼女が『2人目の』白のセイクリッドを纏った時から何かを感じていた。その時はまさか自身が敗れるとは思ってもいなかったが…

「まさか、これ程とは思いませんでしたが。」

 苦笑いする。

「ヴィヴィオも凄かったですけどシュテルも凄いですよ。彼女達が同時に魔法を使う迄誰も出来ると思って無かったのに、いきなり使い始めたんですから。」
「魔法の同時使用は以前から練習していました。それでも2つまでしか使えませんでした。本当に凄いですね。」
「でも、このまま負けを認める気ではありませんよね?」
「はい、次こそ必ず勝ちます。」

 差し出された拳にシュテルも拳を作って突き合わせるのだった。



 同じ頃、T&Hのブレイブデュエルシミュレータ、オペレーションルームではフェイトとアリシアが今日のデュエル記録を再生して見ていた。
 再生しているのはフェイトともう1人のアリシアとのデュエル。

「アリシアの誘いに乗っちゃったのはしかたないけど、SR+の魔法をこんな方法で防ぐなんてすごいよね。」

 フェイトのファランクスシフトが当たる直前に片手のデバイスを囮にして後方に移動し、デバイスにファランクスシフトが当たったのと同時に上空へ高速移動していた。その間の時間はコンマ数秒。考えて動けるレベルを超えている。

「うん、当たったんだと思ってた。」
「それに…シュテルとヴィヴィオのデュエルも…こっちなんて0.1秒もないよ」

 ハーキュリーブレイカーは見るのも初めてだったが、彼女はそれを突き破る為に複数の魔法を1カ所に集中させた。普通のデュエルでも相手に魔法を当てるのは難しいのに、魔法に対して複数の魔法を1点集中させた。

「…魔法の使い方、私達より上手だよね…」
「うん…」

 対戦する前から気負っている風にも聞こえるが、2人の瞳は彼女達とのデュエルを見据え燃えていた。

~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界に行ったら?
 掲載が遅れすみませんでした。
 今話はシュテル戦&グランツ研究所編のラストです。

 それはさておき、遅ればせですがコミックマーケットに参加された皆様お疲れ様でした。
 私も初めて夏コミなるものを体験させさせて貰いました。朝7時頃に行ったにも関わらず人の多さに驚かされました。
 先日のSSでも書いたようになのはイノセントのキーホルダーを目的に行ったのですが…全部売り切れてました。無念…
(携帯を家に忘れていてなにも連絡していなかったんですが、静奈君が先に並んでいてキーホルダーを買ってくれてました。感謝)

 そして、遂にヴィヴィオが主人公のアニメ「リリカルなのはVivid」がアニメ化です!! 
 ヴィヴィオメインでSSを書かせて頂いている私も待ち遠しいです。



 

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