AS11 「プレシアのため息」

「…ハァ…」

 彼女は深いため息をついていた。
 そこは聖王教会から少し離れた所にある大きな建物。その中の1室で1人の女性が…

「…ハァ…どうしたものかしら…」

 深いため息をついていた。



「プレシア~チェントとお菓子作ったから一緒に食べま…どうしたんです?」

 そこにやって来たのはシスター服のセイン。

「ありがとう、今行くわ。」

 椅子から立ち上がった。

「あんまり調子良くないみたいですけど大丈夫です?」
「ええ、それより急に頼んで悪かったわね。」
「アハハハ…チンク姉だけじゃなくてみんな寝込んじゃうなんて思ってなかったですから…大丈夫です。騎士カリムにも許可貰ってます。」

 苦笑いするセインにプレシアも笑う。



 Stヒルデが夏休みになってアリシアがヴィヴィオと一緒に旅行に行った頃、プレシアもチェントを連れてStヒルデへと赴いた。彼女に課せられていた保護観察処分が2度の撮影協力によって解けた為、他の子と同じく養育機関に通える様になったからである。
 普段から同年代の子供と会ったこともなく、人見知りする彼女に少しでも慣れさせる為だったのだけれど…
 プレシアの心配を余所に行った初日から他の子達と仲良くなって安堵したが、その翌日から問題が発生した。
 チェントがStヒルデに行きたいと言い出したのだ。
 何日かはチンクに連れて行って貰った。でも幼年科が夏休みになるとどうしようもなく…更にプレシアが会議の為に日中研究所から数日間不在になると彼女の潜在化していた問題が表に出てしまった。
 先ずその毒牙にかかったのはチンクだった。
 日々やつれていく彼女が心配を心配してディエチが研究所に様子を見に行った所、出迎えようとして立ち上がった瞬間パタリと倒れてしまったらしい。
 プレシア・アリシア不在の中彼女1人にしておける筈もなく、ディエチが彼女を見ることになったのだけれど彼女も巻き込まれ、更に教会の依頼で来たオットーとディードも倒れてしまった。

 全員、過度の心労による衰弱…
 そんな時セインとウェンディが巡礼と任務から戻ってきた。彼女達は姉・妹が酷い有様になっているのを知って興味半分、多方面からの依頼半分で引き受けたのである。

「ちっちゃい陛下だと思っちゃうと命令に逆らえないから普通の子供だと思っちゃえば良いッスのに」
「みんな頭硬いから~一緒に遊べば良いのに」

 ギンガを含め先の5人が倒れたのには彼女達特有の問題があったらしい。
 それはともかく…



「さっきのため息ってStヒルデのスケジュールに何かあるんですか?」

 前を歩くセインに言われ驚く。手元で広げていた端末の内容を読み取っていたらしい。

「よく見ているわね。Stヒルデのイベントスケジュールが…私の問題なのよ…」
「問題?」

 意味がわからずセインは首を傾げるのだった。



「さっき言ってた問題って何です?」

 チェントとウェンディが待つ外の木陰に作られたシートに座ってセインから差し出されたティーカップを受け取った直後セインが聞いてきた。
 何もここで聞かなくても…と思いつつずっと気になって仕方がないのは彼女の顔を見たら直ぐわかる。彼女に動物型の尻尾があればブンブン振っているだろう。

「問題って何っス?」

 ウェンディも興味津々らしい。

(この2人が倒れないのはこういうところかしら…)

 ため息をつきつつ、チェントが目の前のシューに夢中になっているのを見て

「Stヒルデのイベントスケジュールの中にね…保護者参加のイベントがあるのよ。」

 2人に話し始めた。 


 プレシアはジュエルシード事件の前、酷く肺を患っている。
 ヴィヴィオに助けられた後もそれは続いていて海鳴市で暮らしていたのも身を隠す意味もあったけれど病気療養の意味もあった。寛解してからも激しい運動などはしていない。でも…

「運動系のイベントがあるのよ。保護者参加の…」
「そんなのアリシアに頼んじゃえばいいっス」
「それで済むなら悩まないわよ。よく考えてみて、周りの子達は保護者…父母が一緒に居るでしょうね。その中でチェントはアリシアと…私は見ているだけ…納得するかしら?」
「…あ~確かに…アレ? でもアリシアの時はどうしたんです? 学院系なら何処でも同じ様なイベントあったでしょう?」 

 海鳴に居た頃にアリシアが通っていた学校でも同じ様なイベントはあった。

「ええ、その時は友人の夫婦に頼んだのよ。2人とも…特に旦那さんは運動能力凄く高くて皆驚いていたわ。」
「へぇ~会ってみたいッスね。」
「そうね」

 ウェンディの言葉にクスッと笑う、でも直ぐにその笑顔は曇らせる。

「流石に管理外世界の民間人に頼む訳にもいかないし…」
「アリシアがダメならフェイトやチンク姉…でも同じだよね。自分のクローンを作っちゃうとか?」
「そんな事で作れるわけないでしょう。」 

 技術的には可能でもいくら何でもそんな理由で作れない。

「…う~ん…困ったッスね~」

 3人とも考え込んでしまった。

「母さんが頑張ればいいんじゃないですか?」

 その時声が聞こえた。振り返えると

「フェイト」

 フェイトがこっちに歩いてきた。



「母さん、こっちに戻ってから何処かで検査して貰いましたか?」

 シートにフェイトが座ってセインからティーカップを受け取り一口飲んだ後プレシアに言う。

「出来ないわ、だってここには私の診察履歴もあるのよ。」

 PT事件前にプレシアは複数の病院で診察を受けている。その時の医療情報は今も残っている。
 もしその情報と今のプレシアが同一人物だと判れば、管理局も庇えない。

「そうですね。でも今の母さんは教会関係者、先に話を通しておけば聖王医療院で診て貰えます。」
「あっ!」

 聖王医療院、聖王教会に属する病院。ここから近く、更に周りも教会関係者しか居ないし民間の医療施設とは情報を共有していない。即ちプレシアの事は知られない。
 更に言えば聖王教会側から隠して貰う事も…

「診て貰って相談しながら運動すれば今からなら間に合います。」
「そう…そうね、ありがとうフェイト。」
「私や姉さんの分も頑張って」

 何を悩んでいたのだろうと馬鹿らしく思いながらも、彼女の最後の言葉に
 
「ええ、任せなさい」

 強く頷くのだった。
 

 その後、聖王医療院のスタッフに相談しながらプレシアは運動を始めてアリシアが戻って来た後は朝のジョギングに付き合う迄になるのだけれどそれはまた別の話。

~コメント~
 お久しぶりです。AdditionalStoryが終わって少し経ちました。
 久しぶりの短編集です。
 今回はあまり揃わない面々としてプレシアが主役です。
 プレシアはPT事件前に肺を患っています。成長したヴィヴィオにアリシアと共に助けられた後海鳴市で静養していましたが、ヴィヴィオの時空転移発現を機にミッドチルダへと戻って来ました。
(AnotherStory--話~14話) 
 以降、ヴィヴィオに何かあれば彼女を助け時には叱り影ながら支えています。
 そんな彼女にも悩みはあります。
 今回はそんな彼女の子育ての悩みでした。

 話は少し変わりまして、昨日から魔法少女リリカルなのはVividのTVがスタートしました。
私も深夜に起きて見ていて「ヴィヴィオが笑った~」とか「変身シーンかっこいい~」と静奈君と話してたら「imaはプラスタイプ」だねと言われました。

 アニメを見る時、期待値の様なものがあって
 視聴した時にどんどん評価をプラスする「プラスタイプ」
 先に期待値が凄く高くて見る度に悪い点を見つけて評価をマイナスする「マイナスタイプ」があるそうです。
 皆様はどちらですか?


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