AS12 「デバイスのノイローゼ」

 真夏の猛暑が真っ盛りなある日、管理局本局から少し離れた世界で新型のデバイステストをしていた高町なのはは愛機レイジングハートの調子がいつもと違っているのに気づいた。
 魔法を使おうとするとちゃんと思った通りの魔法が発動するし、細かな調整も出来るから異常と言うほどのものでもない。でもいつもとどこか違う。

「レイジングハート、どこか調子悪い?」

 気になって話しかけると

【Master…】

 愛機から予想もしていない答えが返ってきた。

 同じ頃、こちらは時空管理局の執務室で愛機ーバルディッシュの様子に違和感を感じたフェイトも

「バルディッシュ、どうしたの?」
【Sir…】
「……え?」

 彼(?)からの返事に思わず聞き返した。



 それは数日前の深夜だった。
 なのはやフェイト、ヴィヴィオが寝静まった後、レイジングハートとバルディッシュにRHdからメッセージが送られてきた。
 RHd-レイジングハート・セカンド。その名の通り、レイジングハートのインテリジェントシステムをコピーしたベルカ式、ヴィヴィオ専用のストレージデバイス。
 その開発過程からレイジングハートだけでなく、バルディッシュのデータも使われていて、つい1年程前から何があったのか知らないけれどインテリジェントシステムが付加され、以降なのは達が寝静まった後時々こんな風にメッセージのやりとりをしていた。

 RHdはインテリジェントデバイスとしての稼働時間は短い。
 マスターとの情報共有方法という初歩的な事からインテリジェントシステムとしての意味というデバイスの自我と言われるところまで相談されていて、マスターとの長いつきあいで姉妹機とも言えるレイジングハートは勿論、普段寡黙なバルディッシュも彼女(?)の相談に乗っていた。
 しかし…その夜受けた相談は2体のシステムも答えられず悩んでいるらしい。

その相談と言うのは…

「『絶対に壊れないバリアジャケット』をどうやって組み立てたらいいんだろう?って」

 帰宅したなのはは先に帰宅していたフェイトに話した。
 まさか互いが同じ悩みを抱えていたとは思わなくて愛機の事ながらクスッと笑い合う。

「壊れないって攻撃を受けても壊れないバリアジャケット…だよね? どれだけ強化しても壊れないジャケットなんて作れない。」
「ううん。レイジングハートを通して聞いたんだけどRHdのバリアジャケットはヴィヴィオの魔法力に耐えられないんだって。あっちの世界に行った時もハードシェルに変えて術式強化もしたのに簡単に壊れちゃったんだ。それにヴィヴィオ、すぐ騎士甲冑を使うから…」
「でも修復機能もあるから直るよね? 騎士甲冑の方が防御力高いならそっちの方がいいんじゃない?」
「騎士甲冑はヴィヴィオの魔法力で作ってるから、デバイスとしてバリアジャケットの方が弱いのってヴィヴィオに負担かけてるみたいで嫌なんじゃないかな。」
「そうなんだ…」

 私達はそれぞれのデバイスに組み込まれているバリアジャケットを纏っている。開発スタッフやデバイスとも相談しながら作ってくれた物だ。
 ヴィヴィオのバリアジャケットもそこは同じだけれど騎士甲冑は彼女の魔力とイメージを元に作っている…らしい。
 理由はわかったけれどじゃあどうすれば? と聞かれると…

「……答えられないね…」
「……うん……」

 どうやら私達も同じ悩みを抱えてしまったらしい。 
 幸か不幸か2人と2体を悩ませたデバイスとその主は時空転移を使って来週あたりに戻ってくる予定だ。それまでに何か良い案が浮かべばいいのだけれど…

「それでね、帰りにマリエルさんにお願いしてRHdのメンテデータを貰ってきた。」

 なのははそう言うとフェイトとの間にモニタを出してデータを広げる。
 メンテナンスデータはデバイス情報の塊で管理局員だからと言って誰でも貰える物ではない。
 なのはが貰えたのはRHdの開発依頼者であり、所有者-ヴィヴィオの親だからだ。

「半年位前まではメインフレームを含めてフレーム系の消耗が酷くて毎回フルメンテしてたらしいけど、あの事件の後は消耗パーツを変えてるだけだって。」
「本当にレリックで安定しちゃったんだ。オリヴィエと母さんにお礼言わなきゃだね。」

 フェイトの言葉になのはは笑顔で頷く。
 ヴィヴィオに適合した融合可能なレリックが必要と管理局と聖王教会相手に話したオリヴィエと人知れず適合するレリックを探し出していたプレシアには本当に頭が上がらない。

「それで…肝心のジャケット強度は…え?」

 フェイトは端末を触って目的の場所を見つけて指を止めた。  

「これ…本当?」
「うん。私もびっくりしちゃった。」

 バリアジャケットのガード部分、特にシールドや攻撃を受けやすい箇所はハードシェル装甲や強化された素材に防御術式を重ねて構成されている。
 これは術式体系が違うはやて達の騎士甲冑でもあまり変わらない。
 それはそうとして、ヴィヴィオのジャケットはというと…レイジングハートやバルディッシュより数段強固な素材が使われていて防御術式もどんどん強化されている。
 メンテナンスの度にいかにマリエル達が奮闘していたかがよくわかる。それでもヴィヴィオの魔力に耐えられないのだから…

「…聖王って凄いんだね」
「うん…」

 頷かざるえなかった。



 その夜、なのはは寝室で横になっても眠れないでいた。
 レイジングハートからの相談に答えられなかったのもあるけれど、ある事が頭から離れないのだ。

(あれ以上のジャケットで戦ってたなんて…)

 もしRHdの悩みが解消出来るジャケットが出来たとしてもそれはヴィヴィオをより激戦の中に飛び込ませるんじゃないか?
 じゃあ逆に昔の様にRHdを封印し、レリックを預かっていたら?
 チェントの時みたいに私達が居ない状態で事件に巻き込まれたら?
 思い切って管理局を辞めて海鳴市に戻って母さん達と一緒に翠屋で…でも、海鳴でもジュエルシードや闇の書が見つかっているから魔法と無縁という訳でもない。

 更に思い切ってヴィヴィオが時空転移を使えなくなれば…
 でも魔法に会って無かった時、ヴィヴィオと会わなかったら?
 闇の書事件で闇の書が覚醒した後ヴィヴィオが助けに来てくれなかったら?
 JS事件でもう1人のヴィヴィオが出てきた時、ヴィヴィオが来てくれなかったら?
 時間軸がぶつかりそうになった時ヴィヴィオがいなかったら?
 そして…闇の書事件の撮影でヴィヴィオがあの場所に居なかったら?

 現在はもっと違っていたに違いない。

「私…どうしたらいいのかな…」

 知らない間に涙が頬を伝っていた。
 
~コメント~
 短編2話目はミイラ取りがミイラになったというか
 なのはとフェイト…というかレイジングハートとバルディッシュとRHdの関係です。RHdにとって両機は大先輩です。2機も若いRHdの相談は乗っていますが今回の悩みは答えられず考え込む事になります。
 その悩みはなのはとフェイトにも伝播していくのですが…答えがみつかるのでしょうか?
 それはそうと、なのはイノセントで遂にアリシアメインのイベントが始まりました。
 休日もいい具合に重なっているので頑張ってみようと思います。

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