AS13「視線の中に潜む闇」

 色々あった夏休みも終わって新学期を迎えた日

「ねぇねぇ、あの子…」
「え~そうかな…」
「あの子…」
「本物じゃない?…」

「……なんだかずーっと誰かに見られてる?」

 レールトレインの中でヴィヴィオは変な視線を感じていた。
 その視線は登校中のレールトレインに乗った時から始まって、Stヒルデまでの通学から教室に入るまで続いた。その後も授業間の休憩時間、お昼まで視線は消えなかった。
 数ヶ月前に空戦魔導師S+ライセンスを取った後、いきなり『護衛』がついた事があった。
 撮影が終わって期間をおかずに始まった夏休みにはミッドから離れていたから特に気にならなかったけれど…また護衛されてるのだろうかと考えた。



「ねぇ 朝からみんなに見られてる気がするんだけど…」

 一緒にお弁当を食べていたアリシアが聞いてきた。

「アリシアも? 私だけじゃなかったんだ。」

 私だけでなくアリシアもと言うことになると、管理局関係でもないらしい…でもその謎の答えはすぐ判った。

「だって、あんなに凄いの見たらね~」
「うん、凄く格好良かった♪」
「「え?」」
「2人ともこれ見てないの?」

 そう言いながら端末を取り出して私達に見せる。


『これはある宿命を背負った少女の物語』
『我ら闇の書の蒐集を行い、主を護る守護騎士にございます。』
『夜天の主の下に集いし雲』
『ヴォルケンリッター』

『闇の書のページを集めるには色んな人にご迷惑をおかせせなあかんのやろ。そんなんはあかん、私は今のままでも幸せや。お父さんお母さんはお星様やけど家も蓄えも残してくれたし、それに何より今はみんながおるからな』

『数奇な運命が少女たちを巡り合わせる』
『フェイトちゃん』
『ただいま、なのは』


「………え…ええ~っ!!」

 そこには数カ月前に撮っていた闇の書事件が映っていた。
 前のめりになって凝視する。

「夏休みの間にいろんな所で出てたんだよ。知らなかったの?」
「えっ? ギリギリまで管理外世界に居たから…」



 ヴィヴィオはやられたと思った。
 誰にかといえばなのはとフェイト、プレシアにである。
 普段ヴィヴィオが時空転移魔法を使うのを余りよく思っていなくて、異世界ヴィヴィオの所に遊びに行くと言っただけでも凄く心配された。
 それなのに戻ってきたら夏休み終了直前に行きなさいと言われた。
 理由もあったしあの時は特に何も思っていなかったけれど…3人は知っていたらしい。

「やられちゃったね」

 アリシアも苦笑いしている。

「それでね、これは管理局でしか配ってないんだけど…」

 リオが再び端末を操作すると

「………ウソ……ええ~っ!!!」

 ヴィヴィオは驚きの余り固まった。



「どうしてアレが出てるんですかっ! 消してくださいねってお願いしましたよね」

 放課後、ヴィヴィオはアリシアと一緒に本局にあるリンディ・ハラオウンの執務室にやってきていた。
 なのはが教導で不在、フェイトも何かの任務でプレシアも会議で連絡が取れなかったのもあるけれど、前回のジュエルシード事件撮影に参加していたリンディが少なからず…彼女が仕掛けたと直感的に感じたからである。

「いらっしゃいヴィヴィオ、アリシアさん。 アレ? ああ、ビデオの話ね」

 ヴィヴィオの怒りなんかどこ吹く風なリンディは微笑んで出迎える。

「そうですっ!」

 地上本部で貰ってきたディスクを見せる。そこには



『闇の書さん、私は…あなたを倒さなくちゃいけない。それが私の…あなたとあの人の願いだから』
『…何故取り込まれない? お前の心の中にも闇がある筈だっ。』
『私の心にも闇はあるよ。でもそれは私と今ここに居るっ!』



 闇の書の撮影とは関係の無い、ヴィヴィオと闇の書と化したはやてとの戦闘が映っていたのだ。

「アレも闇の書事件の撮影風景よ♪ 高度な空中近接、中距離戦の研修映像だもの誰にも見て貰えないなんて勿体ないじゃない。」
「そうじゃなくてっ!」
「異世界のあの子達やあの魔法は出ていないわよ。何か問題あるかしら?」
「大問題ですっ! 私1人で闇の書と戦っていた訳じゃ…」
「ヴィヴィオ、フェイトが『部屋に来て』って」

 髪を逆立てる様に言っていた私の肩を叩いた。
 こんな時にと思いながらも彼女に呼ばれるというのは珍しくて

「私がリンディさんに話しておくから行ってきて。」

 少し頭が冷えて、彼女に対し大声で叫んでいたのを思い出す。

「ごめんなさい。フェイトママが呼んでるから行ってきます。アリシアまた後でね」

 そう言って部屋から出て行った。



「失礼しま~す。」

 10分ほど移動した所にフェイトの執務室はある。
 ドアをノックし中に入るとシャーリーが出迎えた。

「あらいらっしゃい、ヴィヴィオ」
「シャーリーさん、こんにちは」
「あんまりこっちに来ないのに珍しいね。どうしたの?」
「フェイトママに呼ばれて…フェイトママは?」
「ちょっと用事で出かけてるの、そろそろ戻ってくるから待ってて。」

 そう言うとヴィヴィオを執務机の前にあるソファーに案内し、ジュースを渡した。

(あれ? フェイトママすぐに来てって言ってたのに…?)

「ねぇねぇヴィヴィオ、聞きたかったんだけどあの魔法いつ教えて貰ったの?」
「っ!! あの魔法?」

 一瞬ドキッとなる。時空転移の事? 
 でも彼女の記憶封鎖は解けてない筈…

「そう、ストライクスターズ!」

 なんだそっちかと思い胸を撫で下ろす。

「こっちじゃ凄く話題になってたのよ。教導隊のエースオブエースの娘が空戦S試験を受けるって。総合魔導師ランクAの司書が空戦Sを受けるだけでもみんな驚いてたのに、試験官のヴィータさんに勝って1回で受かっちゃうんだから。教導隊の偉い人も教導隊にスカウト出来ないか、戦技披露会に出て貰えないかってなのはさんに話してた位なんだよ。」
「そんなに凄かったんですか…」

 確かにライセンスを取った後色々面倒な事になっていたけれど、丁度闇の書事件の撮影が始まっていたしあまり気にしていなかった。
 でもこっちじゃ話題になっていたらしい…広報部の人が知っていたのも納得出来る。

「それはもう、空戦S所持者を一般局員にしておくなんて勿体ないってレティ提督やリンディ提督は勿論、フェイトさんの所にまで勧誘メッセージがいっぱい届いていて断るの大変だったんだよ。」

 ただレリックを持っていたかっただけなのに話が色々大きくなっている…

「そんな後で闇の書事件の映像とあの戦闘でしょ、今ちょっとした有名人だよ。ねぇねぇいつ覚えたの?」
「あ、えっと…ママが使ってるのを見て練習してました。RHdにもシステムコピーがあったから」

 流石に異世界のなのはから教えて貰ったとは言えず誤魔化す。
「やっぱり親子なんだね~なのはさん以外今まで誰も使えなかったのに…」
「ありがとうございます。」

 素直に嬉しくて微笑む。
 でも何故かヴィヴィオの頭の隅に彼女の言葉が引っかかった。



「ただいま、ごめんねヴィヴィオ待たせちゃって。」

 シャーリーと話しているとフェイトが戻って来た。走ってきたのか少し息が荒れている。

「お帰りフェイトママ。シャーリーさんとお話してたから」
「そう、ヴィヴィオに来て貰ったのはRHdをメンテナンスに出す為なんだ。」
「RHdを?」
「うん、夏休みの旅行で色々あったでしょ。診て貰っておいた方がいいかなって」

 夏休みに行った魔法の無い世界ともう1人のヴィヴィオが居る世界。確かに変わった所でジャケットを使っていた。RHdがバリアジャケットも考えて変えてくれていたし…

「一緒に行こ。シャーリーも一緒に来てくれる」
「うん♪」
「了解です♪」

 そうして3人は部屋を後にした。



 少し時間が戻って、ヴィヴィオがリンディの執務室から出て行った直後アリシアは振っていた手を下ろし振り返る。

「はやてさんが高く評価しているって聞いていたけれどフェイトを使ってヴィヴィオを呼び出すなんて流石ね。アリシアさんも私を怒りに来たのかしら?」
「やっぱりわかっちゃいました。」

 バレバレだったらしい。
 ヴィヴィオと一緒にここに来る迄の間、彼女が相当怒っているのはわかっていたしこのまま行ってもリンディに踊らされると思っていた。落ち着いていたら色々頭も回る彼女だけれど、こういう感情的になった時は相手にはめられやすい。
 そこで地上本部に向かっている間にフェイトに何か理由をつけてヴィヴィオを呼び出し引き留めておいて貰える様に頼んでいた。そしてその返答がさっきあったからヴィヴィオに行って貰った。

「私も少し怒ってますけど、どちらかと言えば教えて貰いたくて来ました。ヴィヴィオとはやてさん…リインフォースさんとの戦闘を出した本当の理由を教えて欲しいんです。」
「さっきも話したけれど緊迫した戦闘シーンを多くの人に見て貰う為…という理由じゃダメかしら?」

 笑顔で言う彼女を見てまだ何かあると感じる。

「はい、ジュエルシード事件の時は管理局が昔の事件の映像化をしてるなんてヴィヴィオやフェイトも知りませんでしたから何か事故を起こして映像そのものに話題性を持たせたのはわかります。でも今はすごく有名になってるからその理由だけだなんて思えません。」
「そうね~でも、本当にそれだけなのよ」

 リンディは笑顔を崩していない。

「じゃあ…私が考えてる事を聞いて貰っていいですか? ジュエルシード事件の撮影でリンディさんとフェイトが家に来てくれた後ママが教えてくれました。私とママが別人だって証明しようとしてくれてるって。だからあの話も納得しました。」

 闇の書事件の撮影前にあったジュエルシード事件の映像化、そこでアリシアはフェイト役として参加した。
 その時、『何処かの誰か』が撮影で使うジュエルシードのイミテーションを本物とすり替え、運悪く撮影中に発動した。近くに魔導師が居ない中でアリシアはなのは役の少女を守りながらジュエルシードを封印した。その際の映像が本編公開前に発表されアリシア達の存在を多くの人が知ることになった。
 だから今度のヴィヴィオの映像も何か理由があると考えた。

「何か理由があると思うんです。闇の書事件の封印された情報、秘匿制限のかかった情報の解除なんてヴィヴィオもフェイトも聞いた事が無いって言ってました。」
「ええ、私も数える位しか知らないわね。」

 まだ笑顔を崩していないけれど少し雰囲気が変わった気がする。

「ヴィヴィオの戦闘映像を出したのにも理由がある気がするんです。ヴィヴィオの…あの魔法とは別に隠さなきゃいけない事があるんじゃないですか? 例えば…レリックのユニゾン…」

 そこまで行った時、リンディはため息をついて端末のボタンを押す。ロック音に少し驚き警戒する。

「ドアをロックしただけよ、誰かに聞かれちゃうと大変でしょう、あの情報から答えを見つけるなんて本当に凄いわ。そうね…アリシアさんは知っておいた方がいいのかも知れないわね。」

 そう言うと彼女の顔から笑顔が消えた。ゴクリと息を呑む

「妹さんも居るのだしヴィヴィオの家系や彼女達だけしか使えない魔法は知っているわね。じゃあ彼女の魔法力についても知ってるかしら?」
「ヴィヴィオの魔法力…騎士甲冑やユニゾンですか?」
「普段、彼女が見せている魔法力はそれ程強くないしバリアジャケットでもAかAA程度、同年代の子達と比べれば高いけれどデバイスの性能も含めば驚く程でもない。けれど騎士甲冑とユニゾンは別。」
「騎士甲冑は魔法力ランクS以上、試験の時に知られてしまったけれど教導隊員しか知らないし幸い教導隊のエースオブエースの娘が空戦Sランクを取ったという話題の方が1人歩きしてくれて上手く隠せている。」
「どうして隠すんですか?」
「さっき言ったでしょう。家系が問題なのよ。」
「家系が? …あっ!」

 そこまで言われて気づいた。

「彼女の魔力資質が極めて高いというのは彼女を知る1部の関係者には前から知られていたけれど、今はもっと多くの人に知られてしまっているの。今はなのはさんの娘だからと理解して貰っているけれど本当の家系―ベルカ聖王の末裔だって知られちゃったらどうなると思う?」
「彼女がユニゾンした時の魔法力は最新のセンサーでも測定不能、暴走すれば都市なんて簡単に破壊してしまえる程強力よ。そんな危険なものを1人の子供に持たせておいていいと思う?」

 笑顔が消え鋭い眼差しを受けて足が震える。

「全て知られてしまったら彼女の資質と家系を知った聖王教会は彼女を聖王…とまではいかなくても教会騎士以上の待遇で迎えるでしょう、【聖王の再来】として。反対に管理局は管理世界の平和と秩序を乱す可能性が高いと彼女のデバイスを封印し魔法力に制限をかけなくちゃいけない。でもそんな事をしたら聖王教会は黙っていない。」
「管理局と聖王教会…2つの組織で争いが起こる。私達が話し合って解決出来る様な話ではなくなるわ。そして…この争いは必ずあなたの妹にも飛び火する。」
「…妹…っ!」

 チェントもヴィヴィオと同じ聖骸布から生まれた。管理局、聖王教会での争いが始まればヴィヴィオが巻き込まれるだけじゃなくチェントも巻き込まれる。

「大人の問題にヴィヴィオさんやアリシアさん達を巻き込みたくない。でも前の撮影でヴィヴィオさんはユニゾンしてはやてさん…闇の書を1人で倒してしまった。しかも撮影スタッフやクラウディアの局員の見る中で…集束魔法まで使って…それは本当に大変な事なのよ」
「………」


そこまで言われたら幾ら私でもわかった…

大人達が隠していた彼女の闇の存在を…


~コメント~
 AgainStory3でMovie2ndA's編を書かせて頂きました。今回はその後日談です。
 ASシリーズの悩みのタネ…といいますか私の自爆なのですが、ヴィヴィオの魔法力インフレが色んな悩みを作ってくれています。そんな悩みを隠したり誤魔化したりする為に大人達が色々裏で奔走しています。
 リンディはASシリーズで最初にヴィヴィオの時空転移能力を知った大人です。そんな彼女にとってヴィヴィオやアリシアはどんな風に見えているのでしょうか。

 それはさておき、前回お話していたなのはイノセントのお話です。
 何とか頑張りまして93位に入る事が出来ました。
 以前からなるべく消費アイテムを貯めておいてこれだ!というイベントで頑張るつもりだったのでアリシア登場でアイテムを使い切る位の覚悟で動いたら…本当に使い切ってしまいました(苦笑)
(マイ飴3000個近く使ってもこの順位…上位の方の本気度が怖かったです)

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