AS14「アリシアとヴィヴィオ」

 私がはっきりと覚えているのは小さかった頃の記憶。
 家でママが帰ってくるのを待っていた時、知らないお姉さんがやって来てママの所へ連れて行ってあげると言われた。
 その後急に眠くなって起きたら少し痩せたママが私を見て抱きしめてくれた。
 それからママと知らない世界に行って一緒に暮らし始めて、学校にも通って新しい友達も沢山出来た。
 その頃のママは病気で辛そうだったけれど、日が経つに連れいつもの…私の知っている元気なママに戻った。
 でも私が小学3年生になった時、ママから大切な話があると言われた。
 私達は魔法世界から来た異世界人で本当ならずっと前に死んじゃってる事。
 私達を助けてくれた女性は今は私と同じ年で近い未来にその子がある魔法に目覚める事。
 その子が目覚めたら私達は恩返しもあるけれど私達の未来の為に行かなきゃいけない事…

 最初は少しずれたエイプリルフールとか冗談かと思ったけれど目の前でママが魔法を使ったのを見て本当だと知った。
 その夜は眠れなくて熱を出して何日か休む位考えた。

 だって私はその子を知らないし、助けられたっていう実感も無かった。友達との楽しい時間を全部捨てて知らない魔法世界に行くのが凄く怖くて嫌だった。
 でも…

「アリシアちゃん、知らないものを知るのも楽しいんじゃないかな」
「私達の娘も居るんだからきっとここより楽しい所よ。」

 お世話になっていた夫婦に背中を押して貰って私達は海鳴を離れミッドチルダに来た。


 その子…高町ヴィヴィオと初めて会った時、私には特に変わった風に見えなかった。何処にでも居る女の子。どちらかと言えば彼女の方が私を見て驚いていた位…。
 凄く明るくて誰にでも優しくて、でも何かに集中すると周りが見えなくなるっていう玉の傷はあるけど…話にしか聞いていなかった年の離れた妹の事もあって彼女と話している間に仲の良い友達になった。

 ヴィヴィオの印象が変わったのはチェントの事件に巻き込まれた時。怖くても怪我をして…私ならもうダメだって諦めちゃいそうな時も瞳の中の光が消えない…逃げない、諦めない強さをヴィヴィオは持っていた。
 それに気づいた時、私はもっと彼女と一緒に居たい一緒に歩いて同じ物を見てみたいって思った…少し無茶もしてママ達に怒られたけれど。


 そうしてヴィヴィオと私は友達から親友になった。


 その後は本当に驚きと冒険の毎日だった。
 ヴィヴィオと同じ聖骸布から生まれたチェントが妹になって、色んな世界のフェイトやなのはさん達、フェイト達を基にした闇の書のマテリアルとか闇の書リインフォースさん、ヴィヴィオとチェントの複製母体のオリヴィエさん、紫天の盟主ユーリ、覇王の直系アインハルトさんや異世界のヴィヴィオ、ちょっとちっちゃくて可愛い私、色んな人に会った。

 でも…そんな日々の中で起こる事件は激しくなってヴィヴィオはその中に飛び込まなくちゃいけなくて…何度も倒れそうになって大怪我もして…それでもヴィヴィオは負けなかった。

 でも…今度はまさかヴィヴィオ自身が問題になってるなんて…
 目の前が真っ暗になった気がした。



「こんな不安定な状況は長く続かない。必ず何処かで綻びが生まれる。半年前、異世界の事件から彼女達が帰って来た後で砕け得ぬ闇との戦いを知って私はRHdとレリックの封印を考えたわ。あの力は見せては…見られてはいけない、もし見られたら彼女達の世界が変わってしまうものだから…。でもね…」
「『大人の都合で子供の可能性を閉ざすのは未来を閉ざすのと同じ』あなたのお母様、プレシアが言ったの。」
「え…ママが?」

 思わず聞き返す。

「既に私達は…世界は彼女に助けられている。彼女が何かを求めるのはこの先に必要になるから…それを閉ざせば何かが崩れてしまう。私にはわからないけれどプレシアは判っているのね。だから私はプレシアを…あなた達を信じているの。私はそうね…管理局での門番というところかしら」

 そう言ってリンディはある物を見せた。カード状のデバイス…っぽく見えるけれどそれは私も知っている。

「それってアミタさんから…」

 アミティエとキリエから貰った記憶を曖昧に出来るカードデバイス。

「プレシアから預かったものよ。記憶を消す訳ではないから使う機会が難しいけれど…、アリシアさん、今の話を聞いてあなたはどうする?」

 鋭い彼女の視線と手に持つデバイスが冷たく光っていた。



「バリエーション…ですか?」

 ヴィヴィオ達が本局技術部のマリエル・アテンザの所に行って直ぐ彼女の口から出た言葉に私は首を傾げた。

「バリエーションっていうのかな、バリアジャケットを変えてみるのもいいんじゃないかって。ヴィヴィオのジャケットって昔なのはさんが使っていたものをアレンジしてるでしょ。」
「魔導師試験の映像を見ててあのジャケットはなのはさんみたいに杖形デバイスを持ってて防御が堅い魔導師向けなの。RHdは杖形デバイスじゃないでしょ。内側からの魔力ダメージでジャケットが壊れるのって合ってないからなんだよ。」
「合ってない…ですか…」

 思う所は幾つもあった。インパクトキヤノンを使ったらジャケットが吹っ飛んだ事もあったし、この前もミウラの拳を受けた瞬間強めのシールドを作ったら逆にジャケットのハードシェル装甲が壊れてしまった。
 でも…あのジャケットは

「でもあのバリアジャケットは…」

 RHdに組み込まれているジャケットは初めて時空転移した先でリンディが作ってくれた物。幾つかの事件を経て所々は変わってるけれど大きくは変わっていない。10年以上前に作られた物だから最新の魔法技術で作られた物から見れば見劣りする部分もあるだろう。
 でも…あのジャケットは…そっか…
 どうしても納得出来なかったものがわかった。

「マリエルさん、色々考えてくれたのにごめんなさい。私、このまま使い続けたいです。」



「えっ?」
「どうして?」

 ヴィヴィオの返答にフェイトとマリエルは戸惑った。
 少し前にバルディッシュとレイジングハートから相談を受けて考え、マリエルにも相談に乗って貰って考えたのがバリアジャケットのバリエーション追加。
 ヴィヴィオの騎士甲冑を基本として近接用と中長距離用を追加しそれぞれ特化させる。
 バリアジャケットの強化することでRHdの悩みや彼女の騎士甲冑やユニゾンを抑える。そんな風に考えていたのだけれどまさかヴィヴィオに断られるのは全くの予想外だった。

「折角ジャケットを強く出来るんだよ?」
「私の…ううん私とRHdのバリアジャケットは私達だけで作ったんじゃないです。」
「ママ達から貰ったのを壊しちゃった時にリンディさんが作ってくれてマリエルさんやメンテスタッフのみんなが見てくれて、ママ達や友達…みんなが居て出来たのが私達のバリアジャケットなんです。だから…ごめんなさい」



「……」
「………」
「マリエルさん? フェイトママ?」

 黙ってしまった2人にヴィヴィオはおずおずと声をかける。
 フェイトがここに連れてきたのは今日思い立っての事ではないし、マリエルも時間をかけてRHdのバリエーションを考えてくれていたのはわかっている。それを自分の都合だけで白紙にしたのだから不機嫌になるのも当たり前。
でも…

「わかった。じゃあいつものメンテナンスだけしておくね。出来上がったらメッセージするから。用事あるんでしょ、変な話してごめんね。」

 微笑むマリエルにRHdを渡して部屋を出た。



「マリーさん、ごめんなさい。私が話をしていなかったから…」

 ヴィヴィオが部屋を出て行くのを見送ってからフェイトはマリエルに頭を下げた。

「私もまだまだです。沢山デバイスを作ってメンテナンスもしているのに1番大切な事を忘れていました。」
「1番大切なこと?」
「魔導師とデバイスの信頼です。互いに信じることで本来の性能を超えた力を発揮する…ヴィヴィオの話を聞いて闇の書事件の時のバルディッシュとレイジングハートを思い出しました。RHd…そんな訳だからバリエーションの話はなし、次からはバルディッシュ達だけじゃなくて私にも相談して欲しいな。」
【AllRight】

 キラリと光って答える彼女に2人は微笑むのだった。

 

 額に冷たい汗が流れる。

(リンディさんが私に本当の話をして、あのデバイスを見せたって事は…)

 答え次第によって記憶を消すということ。ドアの鍵もかけられているし逃げ場はない…
 どうすれば逃げられるか…彼女の前でアリシアの頭はフル回転していた。
 だがその時彼女の目から一滴の涙が流れたのに気づく。よく見れば手に持ったデバイスも小さく震えていた。

(そうか…リンディさんも…)

「全くもう…仕方ないですよね、私達の聖王様は。映像が出てから2ヶ月くらいだから冬まで我慢すればいいですか?」
「…そうね。それ以降はこちらで抑えるわ。巻き込んでしまってごめんなさいね。」
「前ので慣れてますから。学院の中でまたファンクラブ出来ちゃいそうだからそっちの相手だけでも大変なんですよ。ヴィヴィオが暴走しなきゃいいけど…」
「それも…お願いするしかないわね。」

 2人して苦笑いした。

 闇の書事件の記録映像の製作理由、人気が高かったジュエルシード事件の続編だったから。
 その中にははやてさん―八神はやてと守護騎士に対する枷を外す為と私達の存在を証明する為でもあった。  
 更に…撮影中にヴィヴィオがレリックを使った事も隠さなくちゃいけなくなった。
 ママ達はこの後も何か起こると確信している。そしてそれにはヴィヴィオが必ず関わってくる事も…

 だったら私は…私も行かなきゃいけない、彼女と一緒に。
 その日、アリシアは親友に話せない秘密を持つ決意をした。
 


「早かったね。」

 外出するリンディと別れ、待ち合わせのカフェでアリシアがフェイトにメッセージを打っているとヴィヴィオがやってきた。送る必要のなくなったメッセージを消して端末を閉じる。
 彼女も飲み物を頼んで前の席に座った。

「うん、リンディさんとの話どうなったの?」
「闇の書事件やはやてさん達って本局内でもまだ悪い印象持ってる人が多いんだって。だから民間からの声大きくしてその考えも少しずつ変えていきたい。その為には前以上に沢山の人に見て貰わなくちゃいけない。そう言ってた。」
「…そうなんだ…」

 ヴィヴィオはそう答えるだけだった。
 もっと怒るかと思って宥める言葉を考えていたけれど、そちらも無用になったらしい。

「いいの?」
「うん…さっきRHdのメンテナンスの話をしていて初めてあの魔法使った時の事思い出したんだ。私が困った時リンディさんやママ達・プレシアさん…いつも誰かに助けて貰ってた。リンディさんもそうだけどママ達も何か理由があって出したんじゃないかって。闇の書事件は私も知ってるから。」
「でも…前の私みたいになるよ?」
「う~ん、それも嫌なんだけど…頑張って止めるしかない…よね。」

 ハハハと苦笑する。

「それでも止まらない時は…私が何とかするよ。」

 ギュッと拳を握って言う彼女にやっぱり私が何とかするしかないか…と思うアリシアだった。


 翌朝には2人が思っていた通り…それ以上の騒ぎになりかけたのだけれど、シスターからStヒルデにあるまじき行為で言語道断と何とかするまでもなく収まったのはまた別のお話。

~コメント~
 今回のAS短編集は1話完結もありますが、AS13~14の様に2~3話でまとまった話もあります。
 今話は大人の闇に触れたアリシアの話でした。
 ASシリーズのアリシアは「AnotherStory13話」で初登場し「再びの地へ」「旅路の果て」で登場理由に触れられています。
 以前からその辺の話を補完してみたいと思っていました。

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