第45話(最終話)「幾つもの世界を経て」

「これ…本当にヴィヴィオがしたの?」

 翌朝、なのははフェイトやルーテシアを伴って昨日の場所に来ていた。薄暗かったからストライクスターズで岩山が吹き飛んで穴が出来ただけだと思っていたけれど…
 明るくなった状態で見ると思っていた以上に凄まじい状態になっていた。
 巨大なクレーターの中に水が流れ込んで小さな湖になっていたのだ。
 周りには岩山だった物の残骸が付近に散らばっていて、放たれた魔法の威力を感じさせた。
 当の本人は帰り支度をアリシアと一緒に行っている。終わり次第念話を送って貰って、聖王化を見せる事になっている。

 
 
「うん…」
「ストライクスターズ…だったんだよね?」

 フェイトの問いかけに頬を崩して頷く。

「凄かったよ。ミウラちゃんとの模擬戦で使ったのはかなり抑えてたんだって。」
「こんなの受けたら…」

 顔を青くしてビクッと身体を震わせるミウラ。

「ストライク…スターズ…こんなに凄い魔法なんだ…」

 ヴィヴィオが息を呑むのを見てなのはは続けて言った。

「ヴィヴィオはきっと色んな…想像出来ない、本当に色んなものを見て来たんじゃないかな。ここは私に見せようとしてこんな事になっちゃったけど本当に優しい子だからこんな事しない。誰かを助けたい、守りたいっていう気持ちから得た力なんだよ。」
「でも力は力…時には人を傷つける事もある。みんなにはそれを知っておいて欲しいな。」

 ヴィヴィオ達が学んでいるストライクアーツはスポーツとは言っても魔法を使った異種格闘技。練習して強さを求める事も重要だけれど、その力は時として凶器ともなる。
 なのはやフェイトは勿論、ルーテシアやアインハルトもそれは身を以て知っている。でもヴィヴィオやリオ、コロナ、ミウラは教わっていても感じた事はないだろう。
 目の前の光景からその事を少しでも感じとって欲しい。
 向こうの世界の2人を残して、フェイト達、特にヴィヴィオやアインハルト、ミウラをここに連れてきたのにはなのはなりの想いがあった。

『なのはママ、準備できたよ。』

 その時念話が届く。

『うん、こっちに来て。場所は昨日の所だよ。』
『わかった。』

 そう届いた直後、なのは達の前にヴィヴィオとアリシアが現れた。高速移動魔法じゃない。無限書庫からミッドチルダに移動した時の魔法なのだろう。2人の小脇にはまとめられた荷物があった。

「うわ~…凄いね。」
「ルールー…ごめんね。」

 目の前のクレーターを見たアリシアは驚きヴィヴィオは申し訳なさそうに謝る。

「いいよいいよ、私もこんなになっちゃうって思わず言ったんだから。あの岩堅くて掘るのも大変だったから助かったわ。気にしないで」
「ヴィヴィオ、みんなに見せてあげて」
「うん。」

 頷くと目の前の少女はデバイスを取り出しバリアジャケットから騎士甲冑を纏った。ここまでは全員見ている。

「レリック封印解除、ユニゾンインッ」

 赤い結晶―レリックを取り出し取り込むと虹色の魔力色が強くなって白色に変わった。



「それが今のヴィヴィオなんだね。」

 フェイトやミウラ達が驚く中、なのはに聞かれ頷く。

「うん。」

 高町ヴィヴィオでもあり聖王ヴィヴィオでもある。

「なのはママ、フェイトママ、ヴィヴィオ、アインハルトさん、リオ、コロナ、ルールー、ミウラさん、ありがとうございました。またね」

 アリシアの手を取ってもう片手に悠久の書を持つ。そして光の中へ共に消えた。



「空牙!」

 ミウラのキックがエリー・スタウトに決まってライフポイントを全て奪った。
 季節は変わって秋。インターミドルの全国大会で、苦戦ながらもミウラは逆転勝利を飾った。

「ハァッハァッハァッ」

 へたり込んで息を荒げながらも顔を上げる。ヴィータに肩を借りながら対戦者のエリーに一礼した。

(使わずに勝てました。ヴィヴィオさん)
『叩き斬るなら相手の攻撃を避けるか、攻撃やカウンターもまとめて斬らなきゃ反撃を受けちゃいます。幾ら撃たれてライフポイントが削られてもここって言う時に必殺の一撃を撃てるように考えなくちゃ。』

 彼女のクロスファイアシュートを受けた時を思い出し、直撃を受けないよう防御に徹しながら反撃の機会を探していた。そしてその機会を見逃さず一気に勝負を決めた。スターライト…集束魔法を使わずに…。



「ミウラさん、また強くなりましたね。」

 観客席で思わず呟くと興奮冷めやらぬヴィヴィオが顔を覗き込んで

「はいっ! 私達も頑張りましょう。」

 満面の笑顔で答えた。
 彼女にかけられていた砕け得ぬ闇事件の記憶封鎖は解けてしまった。数日間は色々考える事があったらしく事件時の事を聞かれたけれど、その後はいつもの明るさが戻って来て安堵した。

(今思えば、ヴィヴィオさんはこちらのヴィヴィオさんに伝えに来たのではないでしょうか?)

 曖昧なイメージとして残る記憶封鎖。もしヴィヴィオの記憶封鎖が解けずに未来、何かの壁にぶつかってしまったら? その時ヴィヴィオが彼女の影を追いかけない様に。
 はっきりそうだとは言えないけれど、ヴィヴィオの笑顔を見てアインハルトはふとそんな事を思っていた。 



 魔法の使えない世界―ブレイブデュエルの世界と、異世界ヴィヴィオの所から帰ってきたヴィヴィオとアリシアはと言うと…

「えっと、こっちは終わったからあとこれとこれと…」

 夏休みを利用した小旅行から無事帰ってきたのはいいけれど、2人の頭の中からすっかり抜け落ちていたものがあった。

「ヴィヴィオ、こっちの課題は終わった?」
「えっ? そんなのあった? あ~…思い出した。」

 夏休みにはつきものの山積した課題。2人は思いっきり忘れていてヴィヴィオの部屋で格闘する姿があった。

「ヴィヴィオ~アリシアも宿題進んでる?」

 なのははお茶とお菓子を差し入れようと部屋に入ると

「ママっそっちノート広げたままだから気をつけてっ!」
「は~い♪」

 足下に広がったノートとテキストの間を注意して通り、テーブルに置けないと考えてトレイをベッドの上に置く。色んな事があって成長したのかなと思っていたけれどこう言う光景を見ているとやっぱり子供なんだなと嬉しくなってしまう。
 本人達にとっては大変な状況なのだけれど…



 ヴィヴィオ達が帰って来たのは出かけてから丁度1週間が過ぎた頃だった。まだ夏休みも沢山残っているから本当なら2人がこれだけ必死になって課題をしなくても良いのだけれどそれには理由があった。
 戻って来たその日の夜。ヴィヴィオは高町家でなのはとフェイトに、アリシアもテスタロッサ家で旅行の話をした。
 2人の旅話を楽しく、時にはヒヤヒヤして聞いていたのだけれど、なのは・フェイト・プレシアは彼女達の話から1つ重大な事に気づいてしまった。

「ねぇヴィヴィオ…」
「教えて欲しいんだけど…」
「アリシア、ちょっといいかしら?」
「「「あなた達、どれ位向こうに居たの?」」」

 そう、異世界ヴィヴィオの世界は元世界と同じ時間感覚で進んでいる。ヴィヴィオ達が滞在したのが1週間だったらこちらも1週間過ぎた事になる。悠久の書を使えばその辺りは調節できるらしいけれどヴィヴィオ達は滞在期間と同じ時間が過ぎた後の時間に戻って来た。でも…
 ブレイブデュエルの世界で過ごした時間、おおよそ1週間と少しの時間はそこに含まれていなかった。
 子供の成長は早い。今までも2人は何度も時間移動、異世界間移動を繰り返している事に気づいたなのは達は全ての時空転移の誤差を聞いて調べたところ1ヶ月近く彼女達がここより多くの時間を過ごしている事を知った。
 今後、時空転移を使う事を考えたらどこかでその日数分を調整する必要がある。
 夏休みはその機会にうってつけだった。
 なのは達はヴィヴィオとアリシアに対して、夏休みの課題を終えた時点で時空転移魔法を使い【夏休み終了直前の未来】へ行くように促したのである。



「あ~折角のお休みなのに、何か損した気分」 

 背伸びをしながらぼやくアリシアの言葉を聞いてヴィヴィオとなのははクスッと笑う。

「今まで私達だけが時間を多く使ってたんだから仕方ないよ。それにあっちに行ったら学院でみんなに会えるんだからいいじゃない。」
「あっ! そうだヴィヴィオ。もう1回時空転移して1週間前に戻ったら旅行行った直後に帰ってきて1週間お休みが増えるよ♪」

 ナイスアイデアとばかりアリシアが持ちかける。要領が良いというか頭が回ると言うか…

「だ~め! そんな使い方ママ達が許しません♪」
「そんな事に使ったらオリヴィエさんに怒られちゃう。オリヴィエさんに私が受けた特訓…アリシアも受けたいの?」
「良い考えだと思ったんだけどな~」
「アリシア~でも、そんなこと何度もしていたら私達だけ初等科に居る間におばあさんになっちゃうんだよ。それでもいいの?」
「…それはヤダ」

 私達のやりとりを聞いてクスクス笑っていたなのはが言う。

「アリシア、ヴィヴィオも良く聞いてね。あの魔法は凄い魔法なんだよ。どれだけ魔力が強くても幾ら魔導師ランクが高くてもここじゃヴィヴィオしか使えないし簡単に私達の世界を壊してしまえる魔法なんだって事は忘れないでね。」
「何度も使って慣れてきたからって気軽に使うんじゃなくて、ちゃんと考えて、ママ達にも相談してね。」
「「うん」」

 ヴィヴィオは彼女に深く頷いて答えた。


 時空転移、時の魔導書・悠久の書をヴィヴィオが使って行使できる時間移動魔法。

 些細な事で未来は揺れ動き、その変動は時間が経つにつれ大きくなる。

 その中でも決して変えられないものがある。

 それは術者自身の時間。

 いくら時空転移で過去、未来に行っても術者の生きた時間は変えられない。

 だから術者は考えなきゃいけない。


 世界は必然が積み重なってできている。
 いくら偶然と思えようと何か理由があるからそこにある。
 必然が連なっているからこそ世界は成り立っている。 
 例え幾つもの事象が目の前にあっても、選んだ事象だけが必然になる。
 選ぶ必然、それは自身が考えて決めた未来になるのだから。 


~魔法少女リリカルなのはAdditionalStory Fin ~

~コメント~
 もしヴィヴィオは●●の世界に行ったら?
 ヴィヴィオASシリーズはこんなコンセプトで始まりました。
 幾つもの世界を経てヴィヴィオは成長してきました。
 今回はそんなヴィヴィオ達の夏休みの話です。
 現実では魔法は存在せず、ブレイブデュエルという仮想体感ゲームの中で魔法が使えるイノセントの世界と1度やって来たVividの世界。
 その中でヴィヴィオ達は何を得られたのか、どんな風に成長したのでしょうか。
 
 AdditionalStoryは過去作「砕け得ぬ闇事件(AffectStory~刻の移り人~)」と「Movie2ndA's製作(AgainStory3)」「AS」の継承と否定を課題にしていました。
 もしヴィヴィオがベルカ式からミッド式の魔法を覚えようとしたら聖王ヴィヴィオはどう思うだろう?
 イノセントの世界でヴィヴィオがユーリやリインフォースと会ったら?
 はやてが記憶封鎖で曖昧になった記憶からリインフォースを強く思い闇の書-リインフォースが蘇ったのなら同じ記憶封鎖を受けたVividヴィヴィオは大丈夫だろうか? 
 ASシリーズを経てきたからこその課題だったのですが、その答えはある程度答えられたのではないかと思います。



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