第44話「夏休みの目的」

「じゃあ練習に戻ろっか、でも今日は魔法を使わないでね。」

 ミウラとの話も終わり、なのははミウラに声をかけた。

「はい♪」
「ミウラちゃんは先に行ってて。私はヴィヴィオと少し話があるから」

 ヴィヴィオも一緒に練習に戻ろうと椅子から立ち上がったけれど、彼女はヴィヴィオを引き留める。ミウラはペコリと頭を下げて部屋から出て行った。


「なのはママ、話って?」

 また後でと彼女に手を振り足音が聞こえなくなったところでヴィヴィオはなのはの方を向く。

「ストライク・スターズ見たよ、凄かった。それとミウラちゃんの事ありがとう。」
「え?」

 思わず聞き返す。

「はやてちゃんから相談されてたんだ。ミウラちゃんが集束系に頼り過ぎてるから使いすぎると危いって教えてあげてって。」
(そっか…だから…)

 どうしてはやてがカルナージを選んだのか判った。
 ミウラに集束系魔法に頼り過ぎるのは危ないというのを気づかせるには同じ集束系魔法か同等…それ以上の魔法で対抗するしかない。
 そうなると余程シールドがしっかりした場所が無人世界に限定される。

「インターミドルは1回負けちゃったら終わりだからヴィータちゃんやザフィーラが注意しても負けそうになると使っちゃうだろうって…。私が集束系魔法…抜剣は万能じゃないって教えるつもりだったんだけど、ヴィヴィオが代わりにしてくれた。」

 スターライト、集束系魔法は確かに強い。周囲の魔力を集めるのだから1撃必殺になりえる。
 でも、その分反動も大きい。
 彼女が集束系魔法を使わなければヴィヴィオも聖王の鎧の魔力無効化能力とストライクスターズを使うつもりはなかった。でも彼女は両手両足に魔力を集束させた。
 それを見て発動の反動だけでも潰せば負担は減ると考えた。更に集束系魔法を圧倒できる魔法があると言うことを見せる必要があった。

 ヴィヴィオの世界でも色んなスポーツはあるし、そのスポーツで怪我をして引退したアスリートは何人も知っている。ミウラもヴィヴィオ達と同じストライクアーツのアスリートだ。
 こんな事で怪我をして辞めてほしくない。ミウラにはヴィヴィオと競い合って貰いたいから… 

「ミウラちゃんには伝わったんじゃないかな。集束系魔法が最強じゃない、相手を見て適した魔法を選ぶのが1番だって。」
「うん…」

 優しく抱きしめてくれたなのはの胸の中でヴィヴィオは小さく頷くのだった。 



『そうか、ありがとななのはちゃん、ヴィヴィオにも礼言っといて』

 その日の練習を終えヴィヴィオ達が温泉に入っている間になのはははやてに連絡を入れた。

「うん。」 
『さっきミウラからも連絡があったよ。ヴィータやザフィーラが言ってた事判ったって。インターミドルの間も絶対使わないとは約束出来ないけど、なるべく使わない様にして終わったら新しい魔法を練習するって。さすが経験者の説得は重みがあるな。』
「そんなんじゃないって」

 茶化すはやてに突っ込みを入れる。

『あの子…ヴィヴィオは凄いね。ストライクスターズはなのはちゃんが教えたん?』
「うん、前にヴィヴィオが来た時にスターライトを使ってたから…でも、ちょっときっかけを教えただけで、まさか近接戦で使うなんて思ってなかったけどね。」
『新しい後継者の誕生やね。』

 ニヘラと笑っているとドアが開きヴィヴィオが入ってきた。

「やほ~、ヴィヴィオ♪」
「ヴィヴィオ、もうお風呂いいの?」
「うん、みんなはまだ入ってるけど…」
『ヴィヴィオ、ありがとうな。ミウラと練習してくれて。』
「私も楽しかったです。ママ、ちょっとだけ練習に付き合って欲しいんだけど…いい?」

 練習を終えてせっかく温泉でさっぱりしたのにまた練習をするという彼女に首を傾げる。

『私も見せて貰って良い?』
「……みんなにナイショにしてくださいね」
『了解や♪』

 そう言うと彼女はバリアジャケットを纏った。



 アルピーノ邸から10分ほど飛んでヴィヴィオは丘の上に降りた。後をついてきたなのはも降りる。

「こんなに離れちゃったけど…いいの?」
「うん、ママにはちゃんと私の魔法見て欲しかったから。ルールーが言ってたのあの岩山かな」

 彼女の視線の先にあったのは少し大きめの岩山。

『何するつもりやろ?』
「黙って見てよう」

 少し離れて様子を見る。

「RHd、行くよっ」

 デバイスに声をかけると虹色の光がヴィヴィオを包み込み新しいジャケット、騎士甲冑を纏っていた。レイジングハートが魔力値を計測するとSランク程度らしい。
 これはさっきも見た。

「続けていくよ」

 そう言うと彼女は鎧の縁から赤い結晶を取り出した。

「レリック!?」

そして…

「レリック封印解除、ユニゾンインッ」

 レリックを胸に宛て体内に取り込んだ。直後彼女の周りから虹色の光が奔流となって広がっていき、虹色の光はどんどん輝きを増し白色に変わっていく。
 レイジングハートが検知しきれない魔力に警告を発する。彼女の放出魔力はSSSを越えている…

「ヴィヴィオ…何をしたの?」
『……レリックを取り込んだんか?』
「うん。それで…これが私のっ」

 目の前の岩山向かって飛び出し

「星よぉぉぉおおおおおおっ!」

 周囲に10個の魔法球と彼女の前に一際大きな光を作って同時に放つ。直後彼女の姿が消えて…

【ドォォォォオオオオオン!!】

 強烈な光と共に地鳴りを生み、岩山は大爆発を起こした。
 直後発生した爆風がなのはも包むがフィールド系魔法で衝撃を和らげた。

「………何…」

 爆発と爆風が落ち着くと目の前の場所は大きく抉られクレーターが生まれていた。
目の前の光景に体が震える。

「っと…ただいま。」

 何でも無かったようにそう言って帰って来たヴィヴィオの姿はバリアジャケットに戻っていた。



その頃、アルピーノ邸にも爆発の余波が届いていた。

「キャアアアアアッ!」
「なにっ?」
「地震!?」

 湯船の湯が小刻みに揺れる。出ようとしていたリオやコロナはしゃがみ込んで様子を伺う。

「この世界は地殻変動が少ないから地震なんて起きる筈ないんだけど…」

 ルーテシアが端末を出して周囲をチェックする。
 モニタに少し離れた場所で円状の赤いグラフが表示された。

「っ! 近くで爆発的な魔力を検知! 推定でもSS以上っ?」

 フェイトやルーテシアに緊張が走り、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラの顔が険しくなる。でも…

「も~っ、折角の温泉なのに湯が枯れたり濁ったらどうするのよ。ちょっと位加減すればいいのに…」

 地震が収まると何事も無かったかの様に文句を言いながらアリシアは再び湯に入った。

「…え?」
「アリシア、どういうこと?」
「どういうことって、地震の後は湯が出なくなったり小石や砂が混じって変な臭いしたりするでしょ? 綺麗で温度も丁度いいのに…もったいないよね。」

 洗い場でヴィヴィオとミウラがこける。

「誰も温泉の話をしていませんっ! 地震の原因…知ってるんですか?」

 アインハルトが突っ込みを入れるとフェイトやルーテシアも頷く。
 地震の原因と言われて、彼女達は知らなかったのだと思い至る。

「地震はヴィヴィオが原因だよきっと。さっきルーテシアさんに聞いてたでしょ『近くで壊していい大きい岩とか無いか』って、ルーテシアさんは水路を作る途中に岩山があって中をくり抜くのが大変って話してたじゃない。」
「確かに言ったけど…それがどうして?」
「ヴィヴィオがなのはさんに本気のストライクスターズを見せる為にその岩山を的にしたんだよ…今頃消し飛んでおっきな穴が出来てるんじゃない?」

 フェイトとアインハルトに聞かれるがあたかも当たり前かの様に振り向かずに答えた。

「あれは魔法の余波? でもさっきSS以上って…ヴィヴィオの魔力はSランク位…」
「『只の騎士甲冑』を着てるだけだったらね…アインハルトさん、ヴィヴィオは知ってるでしょ。」

 アリシアがそこまで言うと2人はハッと気づく。
 アインハルトは記憶封鎖を受けていないし、ヴィヴィオの記憶封鎖もヴィヴィオのストライクスターズを見て解けてしまった。

「…うん……」
「…ヴィヴィオさんの本気は…計測不能…SSSを上回ってます。」

 ヴィヴィオ1人なら魔力量だけで言えばなのはやフェイトの方が高い。でも彼女がデバイスとレリックを用いれば…

「でも全力で使わなかった分だけ成長したのかな。」
「………」
「……冗談…ですよね?」

 引きつった笑みを浮かべながらリオが呟いたが、それに答える者は誰も居なかった。



「ヴィヴィオ…今の…何?」

 なのはと端末に映ったはやてが険しい表情で聞いてきた。

「私の本当のストライクスターズ。ミウラさんとの模擬戦で使ったのは弱くしたバージョンだったから。」
『あのレリックは?』

 ポケットからレリックを取り出して見せる。

「これは私に適合したレリックです。普段は封印してるけど必要な時に解除して取り込めるの。ライセンスにも付加条件で許可貰ってる。」

 そう言って自身の魔導師ライセンスを見せた。

「空戦S+…」

 ここのヴィヴィオは無限書庫の司書資格は持っているけれど、アスリートだ。デバイスを持っていても魔導師ではない。
 それが、ヴィヴィオが彼女たちに対して本気で模擬戦出来なかった理由。
 ミウラですら騎士甲冑を纏ってしまったらライフポイントシステムで制限を加えても相手にならない。

「さっきの状態を私は聖王化って言ってる。エレミアの手記にあった聖王核…レリックを取り込んで聖王のゆりかごの動力源になれる位…。」
「ヴィヴィオは…ここの私は、私を目標にしちゃいけない。ヴィヴィオはミウラさんやアインハルトさん、リオ、コロナやストライクアーツを通して出来た友達やライバルと一緒に練習して強くなって欲しい。私とヴィヴィオは違うから」


 夏休みにアリシアからこっちの世界に行こうと言われて思っていた事。
 世界は違ってもヴィヴィオなのは同じだから…同じなのに…と彼女が抱く理想像を壊さなきゃいけない。
 そうじゃないと彼女は何かのきっかけで私を目指しレリックを無理矢理取り込もうとするかも知れない。そうならない様に、私達は全くの別人だと思われる様にしなきゃいけない。

「なのはママ、はやてさん…これが私の気持ちです。」
「…ううん、私から見れば2人とも同じだよ。」

 頷いてくれると思っていたのになのははそう言うとヴィヴィオを優しく抱きしめる。

「違う、違うのっ。同じだったらこっちのヴィヴィオは…」
「同じだよ。いつもみんなの事を気にかける優しいところも、一生懸命頑張るところも同じ。私達とお別れするつもりだったんでしょ? だからミウラちゃんを通して闘い方を見せて、私にもストライクスターズを見せてくれた。」

 何も言えない。
 全くの別人と思わせるには…2度と会わなければいい。会う術が無くなれば目指す事も出来なくなる。

「ダ~メ、折角仲良くなったんだもん。」
「私ね、ヴィヴィオが来てくれて娘が2人になったみたいで嬉しかったんだ。ちょっとした仕草を見てて似ているけど全然違うんだな~とか、本当にそっくりなんだ~とか、ヴィヴィオにお姉さんか妹が居たらこんな感じなのかな~って。」
「ヴィヴィオが心配するみたいに、例えば…レリックがあればもっと強くなるんじゃないか…私が逃げていたのはこれなんだ…みたいに取り込もうとするかも知れない。でも私はそんな風にはならないって信じてる。ヴィヴィオにアリシアやあっちの友達が一杯居るのと同じでリオちゃんやコロナちゃん、アインハルトちゃんにミウラちゃん、ストライクアーツを通して友達になった子たくさん居るんだもん。」
「だからね…明日、帰る前にさっきの姿見せてあげて」
「えっ?」

 抱かれた体勢のまま仰ぐ。

「隠す事ないよ。…流石に管理世界じゃアレはまずいけどここならね」
(そっか…わたし…そうなんだ)

 ヴィヴィオが考えていたのはヴィヴィオとの関係を、この世界との繋がりと絶つ事で時空転移が起こす騒動に巻き込まれないように、ここのヴィヴィオがヴィヴィオを目指さない様にする。
 でもなのはは違った。私達を同じだと考えずそれぞれの私達を見ていてくれた。

「ストライクスターズ…凄かったよ。びっくりした。」
「うん…」
『あの…私もおるんやけど』
「あっ!」

 端末のウィンドウの中で頬をポリポリと掻くのを見て2人笑うのだった。

~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはVividの世界にやってきたら?
 ヴィヴィオ版ストライクスターズ(改)のお披露目です。
 ヴィヴィオのストライクスターズは少し変わった関係です。前回Vivid世界に来た時になのはにきっかけを貰い、元世界でシャッハやユーノからアドバイスを貰って練習し、オリヴィエとの模擬戦で初めて見せた後は砕け得ぬ闇事件でアンブレイカブルダークを壊しユーリを救うきっかけを作った魔法でヴィヴィオの成長に併せてちょっとずつ変わってきています。
 AdditionaiStoryでも変化はあったのですが…それはまた次の機会で(笑)
 次回、AdditionaiStoryファイナルです。


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