AS16「輪廻~2~」

「失礼します」

 ヴィヴィオがリンディの執務室に入ると彼女は一瞬驚いた顔をしたがその後笑顔で出迎えた。

「いらっしゃい、あら小さなお客様ね。」

 10数年経っている筈なのにその姿は殆ど変わっていなくて逆にヴィヴィオが驚かされた。

「たか…じゃなかった。チェント・テスタロッサです。プレ…母様から預かった手紙を持って来ました。」
(チェント…たしか母様、姉様って言ってたよね…)
 一瞬自分がチェントになっていることを忘れて慌てて言い直す。 

「はい、ありがとう。紙でなんて珍しいわね…」

 そう言いつつ手紙を受け取って開いて読みつつ時々こっちを見て微笑む。
 一体何が書いてあるのだろう?

「遠くまで大変だったでしょう。ゆっくりしていって」

 そう言ってヴィヴィオをソファに座らせて、彼女は部屋の奥に行った。カチャッと堅い物が当たる音が何度か聞こえた後、トレイに乗せたカップを持ってくる。

「プレシアは元気?」
「えっ! はい、とても元気です。」

 こっちの彼女の様子は知らないけれど、ヴィヴィオの時間の彼女はついさっきまで一緒にいたのだから元気だと思う。
 テーブルに置かれたカップを受け取る。

「お砂糖幾つ?」
「え? 私はそのままで…」
「そう…」

 そう言うと、彼女は自分のカップに砂糖をダバダバと入れた。

(うわ…) 

 思わず引きそうになる、しかし彼女はそのまま何事も無かったかのようにスプーンで混ぜた後飲むのを見て更に引いた。

「プレシア…病気だって聞いていたのだけれど、元気になったのね。よかった」
「えっ!?」

 思わず聞き返す。しかし直後彼女が笑うのを見て…

「あっ…」

 思わずはめられたのに気づいて俯いた。その時

「失礼します。」

 1人の女性が入ってきた。

「リンディ提督、母からの手紙を持って来ました。」

 女性を出迎えるリンディ。

「ありがとう、紙で2通なんて珍しいわね。」

 彼女の言うとおり念話や端末・デバイスを通してメッセージを送る方が多いのに紙の手紙を持ってくるなんて珍しい。そう思って俯いていた顔を上げて持って来た女性を見た。

「!?」
「?」

 思わず目を疑った。
 目の前に居たのは少し茶色かかった金髪で、虹彩異色の目をしていたからだ。
 目の前の彼女は私が驚いているのに首を傾げつつ会釈する。

「…ありがとう。あなたもゆっくりしていきなさい。」
「ありがとうございます。」

 そう言って女性はヴィヴィオの隣に座った。


 
(誰?…もしかしてこっちの私?)

 ヴィヴィオは半ばパニックになっていた。同じ髪の色で瞳の色も同じ…そして白衣を着ているけれどその下には管理局の制服…。もし今のまま成長したらなのはやフェイトを目指して管理局に入っている気がする。
 時々彼女の方を振り向く。彼女は気にする風でもなくヴィヴィオの視線を感じると微笑む。慌ててヴィヴィオは再び俯く。
 そんな事が何度か繰り返された後 

「はい」
「ありがとうございます。」

 奥からもう1つカップを持って来たリンディが彼女に渡す。

「紹介がまだだったわね。彼女はチェント・テスタロッサさん、無限書庫の司書長と聖王教会系の研究施設の研究員でもあるの。お母様は元気?」
「!?」

 心臓が飛び出しそうになる。

「はい、今日は大切な用事があるから連絡出来ないと言っていました。それから手紙の返事を聞いてきて欲しいと。」
「ええ、手続きは終わっているわ。何も問題はありません、安心して任せておいてって伝えて頂戴。それで、こちらの可愛い女の子はチェント・テスタロッサさん」
「えっ!?」

 目の前の女性-チェントが驚きの声をあげた後顔を険しくする。

「…というのは嘘で高町ヴィヴィオさん。10数年前から来てくれたお客様よ。」

 続け様にリンディが笑って爆弾を落とし、2人は固まった。



「ここね…」

 同じ頃プレシアは管理局から離れた管理世界にある、ある場所を訪れていた。
 ここに来る前にこの時間の自分は居ないのを確認している。

 同じ時間に同じものは転移能力者とその者と密接に関わっているもの以外存在出来ない。
 ここではヴィヴィオと彼女のデバイスと時空転移するための悠久の書以外は消えてしまう。
 しかし予め時間の影響から隔離した状態であれば存在出来る可能性はある。
 念の為にチェントの事件前に作った指輪を持って来ていたが、こっちに来て指輪は消えてしまった。それなのにプレシアはここにいる。
 ここのプレシア自身が自分の代わりに隔離された場所に居るのだろう。

「待たせてはいけないわね…」

そう呟くと、目の前にそびえる建物の中に足を進めた。



 30分後、建物の責任者に伴われプレシアはある女性の前にやって来た。彼女が責任者の顔を睨んだ後こっちを見る。

「誰?」
「あなたの観察保護者代理人といったところかしら? ルネッサ・マグナス元執務官補佐」
「観察保護? 私の刑期は…」
「特別措置…だそうだ。」

 責任者の顔が渋る。

 ルネッサ・マグナス。元は鑑識官だったがマリアージュ事件を担当したティアナに見初められ執務官補佐となってミッドチルダへやってきた。
 だが、マリアージュ事件そのものが彼女の犯行であり、管理局員でありながら複数世界での殺人の為に逮捕され、刑期も決まりここに収監されている。
 それが観察保護、即ち保釈になるのだからルネッサが驚くのも、拘置所の責任者が不機嫌になるのも当然だった。
 しかしそんな事はプレシアには知ったことではない。

「そうよ、着替えも用意しているわ。あまり時間がないの、すぐに着替えて来て頂戴。」

 そう言って持って来た衣類を入れたバッグを渡した。



「命令ですから私に拒否する権限はありませんが、あまり賛同できませんな、法規を軽んじた命令は…外に漏れたらメディアが何というか…」

 ルネッサが準備するまでプレシアは所長室で待っていた。手近にあった椅子に座って待っていると責任者が憎々しげに洩らす。

「勿論承知しています。ですから彼女が観察保護責任者になっています。もし何かあれば責任を取るでしょう。ですが、仮にこの情報が外に洩れてそのせいで彼女が何らかの事件に関わった場合は洩らした側も責任追及されるでしょう、勿論その施設の責任者も。」

 微笑んで言うがその言葉は鋭利な刃物よりも恐ろしかった。

「情報統制はどうかと…」
「いいえ、あくまで施設の管理責任という話ですわ。もし彼女の情報が漏れた場合…そんな事も無いでしょうから待ち時間潰しのたわいのない話です。」

 差し出された飲み物を飲まず、持って来たお茶を1口含んで再び笑みを浮かべたがその瞳は明らかに不快を示していた。

 

「!? ヴィヴィオ?」

 目の前の女性-チェントが立ち上がって1歩後ずさる。
 プレシアはリンディは既に知っていると言っていた。だから彼女には知られているのは想像の範囲内であったし、さっきの会話で引っかけられたからそれは間違いないと思っていた。
 でも待っている間にまさか未来のもう1人の自分がここに来るとは思っていなくて、そして彼女に正体をばらすなんて…
 警戒色を強めるチェントに対し流石にまだチェントだと言い張ることも出来ないと考え
 ウィッグとコンタクトを外す。

「まさかリンディさんにばらされるなんて思ってなかったよ…。大っきくなったねチェントって10年以上経ってるんだから当たり前か」
「……だったんだ…」
「?」
「母さんから今日きっと驚く出会いがあるって言ってたのは…ヴィヴィオだったんだ。」
「チェント、私からお願い。ここで会ったのは秘密、それとここの私やアリシアや私達が関わった話はしないで。そうじゃないと未来が変わっちゃう。もう私はここでチェントが大きくなって司書になっててプレシアさんも居るのを知っちゃってるから…」
「それは気にしないで。チェントさん、ヴィヴィオさんに見せてあげて」
「はい♪」

 そう言うと彼女が見せたのは赤い球型のペンダントと1冊の本。それを見て今度はヴィヴィオが驚かされた。それはレイジングハートそっくりの形状で本は刻の魔導書のオリジナルに見える。 

「レイジングハートと刻の魔導書…」

「レイジングハートとオリジナルの魔導書じゃないよ。ヴィヴィオみたいにレリックとの融合出来ないから。」
「彼女の生まれは知っているでしょう? ヴィヴィオさんが聖王のゆりかごを動かす為に作られ、ヴィヴィオさんの暴走防止と予備としてチェントさんが作られた。」
「リンディさん、それはっ!」

 彼女が口にしたのは危険な言葉だった。言ってしまえば彼女自身の存在理由がヴィヴィオのコピーという意味なのだから。

「彼女も知っているわ。知ってチェントさんは本来の役目であるあなたの暴走防止と予備としての役割を引き受けてくれたのよ。」

 少し頬を赤めて微笑み頷くチェント。
 何が彼女の心境を変えたのかは判らない。でも…  

「グスッ嬉しい…ありがとう…チェント」

 嬉しくて涙が溢れた。


~コメント~
 輪廻とは生死を繰り返すという意味の仏語ですが、今回は循環的に繰り返している意味で使っています。
 ルネッサはASシリーズで初登場です。今回ルネッサの行動が鍵になっていきます。
 そして…成長したチェントというかヴィヴィオのお姉さん的な扱いをしてみたいと思って未来のチェントを書いてみました。

 
 それはさておき、今日久しぶりに静奈氏と会って話していると(珍しく休日が重なりました)
「SSの挿絵やイラストを他の人に描いてもらうならどうすればいい?」という話を振られました。

※~ここから少し長文になります。興味の無い方はここで閉じて下さい~

 サークル鈴風堂では静奈氏がイラスト、漫画やホームページ等を、私がSSやシナリオを担当しています。
 ですから文庫本を作る際に私が思っている情景と静奈氏のイラスト(初稿)が100%合うなんて事は滅多にありません。(今までで2~3枚あったかな?という位珍しいです)
 拙い文章なのでそこから情景が読み取れるという自負もありませんし、逆に細かい所まで書いてしまうと説明文になってしまいます。(昔は良く口論になり、何度か打ち合わせをしていたお店から怒られた事もあります)
 
 例えば…
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お疲れ様、なのは」
「フェイトちゃんもおつかれさま♪」
 2人の様子を見て一同も頬を崩した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~

 こんなシーンをイラストにする時
T:時間。朝・昼・夕・夜、ASシリーズだとどの時間の話なのか(1期・As・StrikerS等)
P:場所。何処に居るのか?
O:場合。例えば学校のテストが終わった後なのか? 魔法の模擬戦後? 任務終了後に集まったところ?
 こんな風にTPOは当然必要ですが特に「O:場合」には重要です。

 視点は誰に(又はどこ)あるのか? その時の登場キャラクターの心情は? 
 シーン前後の経緯等も考えるとイラストではすぐに読み取れても文章では凄い量の描写が必要です。

 イラストを描いてもらう時に「このシーンを挿絵でお願いします」と言っても絵描きさんが???となったり考えていた絵と違うなんて当たり前です。


 なので当サークルでも挿絵をお願いするときは私はこんなものを用意しています。
・簡単な絵(なのはとフェイト、その他一同の立ち位置)(1冊で大体10枚程度)
・TPOとなのは、フェイトの心情(テキストで列記)

 静奈氏もこんなものを用意してきます。
・SS(ホームページで公開する前に文章ファイルをやりとりしてコンセプトやあらすじ、掲載中の話は数話先まで共有しています。)を読んで良さそうなシーンを簡単な絵にしたもの(10枚~20枚)
・SSでよくわからない部分をチェックしたもの

 これらを持って相談して、決まったシーンが挿絵になっています。
表紙や裏表紙なんかのイラストはこの打ち合わせをした後で静奈氏が物語のバランスを考えて描いてくれています。
 
 もしSSを描いていて他サークルさんにイラストをお願いするなら依頼するシーンなら当然判るだろうという考えは一旦置いておいて、相手に理解して貰う様に努めるのが良いと思います。

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