AS17「輪廻~3~」

 軌道拘置所の職員である女性はルネッサ・マグナスの支度を調えるのを手伝っていた。
 ミッドチルダ出身ではない彼女にとってルネッサが何をしたのかも特に気にとめていなかった。
 更正支援専門の局員なら1人1人面会面会もしているけれど、そうでない者が感情移入していてはこの仕事は続かないし、保釈まで10年以上の者には外の世界には縁も無い話だからだ。

 互いが決して交わらない位置にいる、それが暗黙のルール。

 しかし今隣で衣類をまとめているルネッサにはそのルールを破りそうな程興味を覚えた。
 本局提督からの特別措置による保釈…今まで聞いたこともない。一体どんな方法を使ったのか?
 さぞ嬉しいだろうと思い彼女の顔をのぞき見る。しかし…


 
「…………何故私が……?」

 職員は彼女から戸惑いと不安しか感じ取れなかった。
 


 プレシアはルネッサと合流すると所長には何も言わず職員に軽く頭を下げ軌道拘置所を後にした。

「…どこへ? あなたは?」
「質問は後、今からあなたの保護責任者の所に行くわ」

 そう言うとプレシアは転移魔方陣を広げ一気に管理局へと移動した。

「待たせたわね」

 そう言って入った部屋では部屋の主がソファーで振り返り人差し指を立て唇に当てる。
 回り込んで彼女を見ると彼女の膝枕でヴィヴィオが眠っていた。

「疲れていたのね。待っている間に眠っちゃったわ。こんな状態でごめんなさい、ルネッサ・マグナスさんね、貴方の保護観察の責任者リンディ・ハラオウンです。プレシアの事だからきっと何も話さずに連れてきたんでしょう? どうして私が? とか何をさせるつもりか? とか色々考えてると思うけれど安心して、悪いようにはしないから。」

 誰がよと思いながらも彼女に促されそのまま対面のソファーに腰を下ろす。

「私たちはあなたの元上司、ティアナ・ランスター執務官の元上司の家族よ。」

 ティアナの名前を聞いてルネッサはビクッと体を震わせる。
 それを見てプレシアはリンディを睨んだ。
 彼女にとっては聞きたくない名前な筈。そんな話をしては彼女はプレシア達に疑念を抱き態度を硬化させる。それが判らない彼女ではない。

「とは言っても私怨がある訳じゃないから勘違いしないで。あなたをどうして知っているかを話しただけよ。疑問が1つ無くなったでしょう?」   
「………」
「私たちはルネッサさんにお願いがあって来て貰いました。でも突然色々あって疲れているでしょうからその件についてはプレシアから話を聞いて頂戴。」

 リンディはそう言ってこっちを見て笑顔で頷いた。
 その時プレシアは彼女の意図を察した。
 彼女の調査能力であればすぐに自分たちの身元はわかってしまう。隠したまま話をしても疑念を持ち続けられる。だったら最初から全てを話した上で動いて貰った方がいい。

(全く…リンディは…)

 ため息をつきながら頷いた。

 
「ヴィヴィオ、起きなさい」
「…んん…?」

 ゆさゆさと体を揺すられてヴィヴィオは重い瞼を開いた。

「おはよう、よく眠れたかしら?」
「…リンディさん?」

 プレシアを待っている間に眠くなってソファーで眠ってしまったらしい。体を起こすと目の前にプレシアと見知らぬ女性が1人居た。

「プレシアさん?」
「待たせたわね。用は済んだわ。帰るわよ」

 帰ると言われてここが未来だったのを思い出す。頷いて悠久の書を取り出す。

「後はお願いね。」
「ええ、任せて頂戴。ヴィヴィオ、ルネッサも一緒に連れて行くわよ」
「えっ? はい。」

 一瞬驚くが彼女に用があって来たのだろう。まだ彼女が何を考えているのか判らないけれど再び頷いて2人が肩に手を置くのを待ってその時を後にした。



「着きました。っと…」

 トンっと研究所へ降りた瞬間、足下がふらつくがルネッサがヴィヴィオを支える。

「ありがとうございます。転けちゃうところでした。」
「いや…」
「ヴィヴィオ、今日は泊まって行きなさい。魔法力もう殆ど残ってないでしょう?」
「え?」

 言われてかなり消耗しているのに気づく。時空転移は魔法力を凄く使うけれど10数年行き来するだけでこれだけ消耗するのかと驚く。

「フェイトに話しておくわ。ルネッサ、あなたも疲れたでしょう。今日はゆっくり休みなさい。判らない事があればヴィヴィオに聞いて頂戴。私は…アリシア達が帰ってくるまでに用事を済ませておくわ。あと…ルネッサ」

そう言ってプレシアが渡したのはブレスレット。

「…これは」
「腕につけておいて。発信器とかあなたの行動を制限するものじゃないから」 

 そのブレスレットをヴィヴィオも知っていた。チェントの時と砕け得ぬ闇事件の時にプレシア達が使っていた物だ。効果は確か…持ち主の時間を固定する。彼女が未来人だからここにも彼女が居て影響を受けるから…なのか?

「アリシア達もすぐ帰ってくるわ、それまで待っていて。」

そう言うとプレシアは部屋の中に入っていってしまった。



「ヴィヴィオ…ここはどこですか?」

 ロビーで待っているとルネッサが声をかけてきた。

「ここは新暦79年のミッドチルダ、プレシアさんの研究所です。自己紹介がまだでした。私は高町ヴィヴィオって言います。ルネッサさん」
「新暦79年…!! そんな…私は…」 

 驚いて私を見るルネッサ。

「…はい、私の魔法です。私達は時空転移って言ってます。」

 本当は隠さなくてはいけない魔法。でもプレシアがここに連れてきたという事は遅かれ早かれこの魔法にも気づかれてしまう。

「何か判らない事があれば聞いて下さい。でも…私もどうしてルネッサさんをここに連れてきたのかとかはわからないので聞かれても答えられないですけど…」
「…時空転移…時間移動魔法は誰も為しえなかった筈…」
「はい、私…ベルカ聖王家で資質のある人しか使えません。」
「!? 君は…」

 笑顔で頷く。 

「はい、私もその1人です。」
「ただいま~、あれヴィヴィオ?」
「ただいま~」

 その時アリシアがチェントと一緒に帰って来た。ヴィヴィオとルネッサの顔を見てチェントがアリシアの後ろに隠れる。まだ警戒されているのか見知らぬ彼女を見て隠れたのか…少し傷つく。 

「どうしたの?」
「うん、プレシアさんに呼ばれちゃって。」

 そう言いながらルネッサに会釈する。

「ルネッサさん、2人はプレシアさんの娘でアリシアとチェントです。」
「こんにちは、アリシア・テスタロッサです。」
「こんにちは…」
「ルネッサ・マグナスです。」
(ルネッサ・マグナス…どこかで聞いたような…)

 ここで私は初めて彼女のフルネームを教えて貰い以前何処かで聞いた様な気がした。

「おかえりなさい、アリシア、チェント」

 アリシア達の声が聞こえたのかプレシアが部屋から出てきた。私服に着替えていて2人が戻ってくるのを待っていたらしい。

「今日はヴィヴィオとルネッサも家で泊まるわよ。アリシア、帰ったら部屋の用意手伝って。」
「えっ? ヴィヴィオがお泊まり♪ やった! いっぱいお話できるね。」
「あんまり夜更かししては駄目よ。」

 プレシアが笑いながら言った。



(チェント、楽しそう)

 帰路の間、プレシアと手を繋いだチェントが嬉しそうに今日あった事を色々話している。それを見てヴィヴィオも頬が緩んだ。

「最近はいつもこんな感じ、学院がすっごく楽しいみたい。」

 隣を歩くアリシアも笑っている。
 保護観察処分が解けてStヒルデの幼年科に来ると聞いた時、ヴィヴィオは素直に喜べなかった。
 空戦Sランク、ベルカの騎士になった事を先生に伝えてしまったからで、彼女にもそれが影響するのではと考えた。
 でもそれは考えすぎだったらしい。

「やっぱり同じ年の子達と一緒に遊ぶのが楽しいみたい。いっぱい話してくれてご飯食べてお風呂入ったらもうグッスリ。この前なんか泥まみれになって帰って来てママも呆れて笑ってた位なんだから」
「泥まみれって凄いね。ちょっと羨ましいな…」 

 チェントの笑顔を見て思う。
 今の彼女よりもう少し大きくなった頃にヴィヴィオはなのはに保護されJS事件に巻き込まれた。だから彼女みたいに誰かと遊ぶというより1人で遊ぶしかなくてザフィーラやアイナが仕事の傍らで見てくれていた。

「運動は得意みたいだよ。ヴィヴィオもお姉ちゃんみたいなものなんだから簡単に追い抜かれないでね♪ 私は毎日練習してるから大丈夫だけど…」
「うっ…が、頑張る」

 そんなやりとりをルネッサは何も言わずただ見つめていた。

~コメント~
 AS短編は本編では書けないヴィヴィオの周りのキャラクターメインの話を交えながらヴィヴィオ達の暮らす世界を書いていけたらというシリーズです。
 今回の主人公はプレシアとルネッサです。ルネッサはCDドラマ「StrikerS」のみに登場したなのはシリーズの中でもどちらかと言えばスピンオフ元のとらいあんぐるハートに近いイメージを持ったキャラです。(生まれや所持デバイスからそんな印象を持ちました)
 そんな彼女に時空転移や聖王の話を教えたらどういう反応をするだろう? と考えながら進めていきますのでおつきあいくださいませ

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