AS18「輪廻~4~」

(ルネッサさん…名前どこかで聞いた気がするんだけど)

 プレシア達の夕食の団らんに混ざりながらヴィヴィオは思い出そうとしていた。
 チェントの話を聞いて時折笑顔を見せるけれど、ヴィヴィオの視線に気づくと直ぐ強ばった表情に変わってしまう。時折ヴィヴィオやアリシアが話を振っても「はい」とか「いいえ」とか1言で終わって話が続かない。
 突然10数年前に連れてこられたら警戒するかもとは思ったし、ルネッサの紹介は以前お世話になっていた人の家族と言っていたから今回の転移についてはアリシアは知らせるつもりはないらしい。
 それに…
「ふぁ~~」

 時空転移の魔力消費が凄すぎて、特にご飯を食べた後は…瞼を開いているのが大変。それを見てかプレシアが言った。

「ヴィヴィオ、先にお風呂入りなさい。ルネッサも着替えは用意してあるから一緒に入ってきなさい」
「えっ?」
「じゃあ私も~」
「アリシアは後よ、チェントは1人で入れないでしょう。」

 驚くルネッサの横でアリシアが窘められる。

「着替えは…私のでいいよね。後で持って行くから入ってきて、ルネッサさんのも持って行きますから」
「ありがと、ルネッサさん行きましょう」
「えっ、私は…」

 ルネッサは何かを言いかけるが、言葉を止めヴィヴィオの後を付いてきた。 


  
(プレシアさん…本当に何を考えてるんだろ?)

 未来のリンディも関わっているから何かの理由があるのだと思うけど何が目的なのか見当もつかない。ヴィヴィオ自身というか時間移動してまでルネッサを連れてくる必要があったというのもよくわからない。
 脱衣室でササッと服を脱いで髪を巻いて

「先に入ってますね」

 と浴室へと入った。


 ヴィヴィオが先に体を洗って湯船に入ったのとルネッサが浴室に入ってきたのはほぼ同時だった。湯船から彼女の身体を見て思わず驚く。薄くだけれど彼女の背中に幾つもの傷跡があったからだ。

「あまり…見ないで、気持ちのいいものじゃない。」
「あっ、ごめんなさい」
「怒ってない、小さい頃に紛争で…。」
「紛争…ベルカ統一戦争みたいなのですか?」

 聞き馴染みのない言葉に聞き返す。

「あれ程大きくは…クスッ、ヴィヴィオは面白いですね。」

 何か変な事を言ったらしくルネッサが笑った。

「えっ?えっ? 私変な事言いました?」

 慌てるヴィヴィオ、でも彼女がクスクスと笑うのを見てヴィヴィオ自身心のどこかで彼女を警戒し彼女にも警戒されていたのに気づいた。



「さっきヴィヴィオ言ったベルカ統一戦争、私が知っている紛争…規模は違いますがどちらも争いです。どうして争いが起こるのか知ってますか?」

 ルネッサが身体を洗って湯船に入り、一息ついたところで聞いてきた。争いの元…

「国と国が争うから…じゃないんですか?」
「ではどうしてその国同士が争う事になったと思いますか? 人の好き嫌い、土地の奪い合い…私も判らない位色んな原因があるでしょう。でも争いは大きくなる程周りを巻き込みます。貧しくても平和に暮らしていた場所が…原因を知らない子供も戦わなければ水や食べ物すら得られない位になるほど」

 彼女の言葉は何故だか凄く重く感じた。

「…………」
「ここに来た時、私に話してくれた時空転移…あの魔法は争いの原因になるには十分すぎる魅力と力を持っています。」
「え……」
「あの魔法1つで世界が変わる…それだけは覚えていて。私みたいな者を作らない為にも…少し暖かくなりすぎたので先に出ます。」

 湯船から先に上がったルネッサをヴィヴィオは何も言えず目で追いかけるのだった。



(この子は一体…)

ルネッサはヴィヴィオの寝顔を見つめていた。
 客間に案内して貰い、少し大きなベッドで2人一緒に横になった。ヴィヴィオは相当疲れていたのかそれとも風呂で話した事を考えたのか、殆ど口も聞かずに眠ってしまった。
 本当に不思議な子だ。自身の事を何も聞こうとせず、風呂でも体に残った銃創を見ても少し驚いただけでその事について触れようとしない。
 無邪気な様に見えるけれど、時折見せる仕草が凄く大人じみていて…

『私…ベルカ聖王家で資質のある人しか使えません。』
『私もその1人です。』

 ベルカ聖王家の直系と聞いて思い出したのがイクスヴェリアの事。彼女が今どうしているのだろうか?
 ふとそんな思いを巡らせ微睡みを誘おうとしたがそれはやってこず、ヴィヴィオが熟睡したのを見て彼女を起こさない様に気をつけながら客間を出る。
 足音を殺して階段を下り家の中で唯一明かりが点っているリビングへと足を向けた。

「あら? ベッドが合わなかったかしら?」

 端末を出して何かをしていたプレシアがこちらに気づいた。

「いえ…その」
「冗談よ。突然色々ありすぎて整理出来ないのでしょう。」
「………」

 クスっと笑うプレシアに静かに頷く。

「いいわよ、少し話をしましょうか。アリシアはミルクでいいわね」
「っ!」

 後ろから小さな影が現れて驚いて数歩後ずさる。

「見つかっちゃった。チェントを寝かせてヴィヴィオの部屋に行ったらグッスリ寝てるんだもん。」

 アリシアはペロッと舌を出した後ルネッサの背を押してリビングに入り自分の椅子に座った。
 その様子にプレシアはヤレヤレといった感じでため息をついた。



「ルネッサ・マグナスさん。元フォルスの管理局員で…マリアージュ事件の犯人…ですよね?」

 プレシアから出されたカップを受け取って1口飲んだ時アリシアの口から出てきた。

「!!」
「あら、よく調べたわね。他には」

 思いっきり驚くルネッサの対面でプレシアは聞く。 
 
「今は19歳の筈だから…10数年後の未来からヴィヴィオに…ママが連れて来たんでしょ。」
「そうよ。ルネッサにお願いがあってここに来て貰ったわ。ヴィヴィオは知っている?」
「ううんまだ気づいてない。でもヴィヴィオは去年ティアナさんから事件から依頼されてるから…。私はこの前マリアージュが出た時に事件の事調べていて知ったの。」
「じゃあ思い出すまで黙っていて。ルネッサ、ヴィヴィオを見てどう感じた? あの子の魔法と血族について。」

 有無を言わせぬ形で話を終えて今度はこちらを見る。

「……ヴィヴィオは素直で誰にも優しい子だと思います。でも…その優しさが却ってあの魔法を危うくしています。魔法と血族の情報が広まれば…必ず争いが起こります。」
「そうね。それを知ってあなたはどうする? マリンガーデンで大事故を起こし多くのマリアージュで争乱の火を生み出そうとしたあなたはどうするかしら?」
「!」
「あの子の魔法を使わなくてもこの話を表に出せばもっと簡単に争いが生まれるわ。しかもあなた自身は手を汚さなくてもいい。これ程良い戦乱の種は無いわね。」
「ちょっとママっ!」
「アリシアは少し黙ってなさい!」

 怒られたアリシアは拳をギュッと握って黙る。
 ルネッサは瞼を閉じ考える。
 プレシアが言った通り時間移動魔法と失われた聖王の系譜が現存しているという話を出せば管理世界・聖王教会は大混乱に陥るだろう。しかもルネッサ自身は情報を出すだけでいい、後は勝手に争いが大きくなって…。
 でも…それは…

「………プレシアはずるい。そんな事をしたらあの子の笑顔は永遠に失われるのを判っていて…出来る訳ないです。」

 開いた目で彼女を見て笑顔で答えた。



 プレシアにとってこれは賭だった。
 ルネッサがヴィヴィオと会い、彼女を知った上で限られた時間の中でどんな風に考えるか?
 それを聞いた上でないと彼女に願いを託せない。
彼女の答えを聞いて頬を崩し

「そう考えてくれて良かった。それじゃ、貴方へのお願いについて話すわね。」

 そう言い予め用意していた2通の手紙と1枚のカードをテーブルの上に置いた。

~コメント~
 「輪廻」を書いていて1番考えさせられたのはルネッサの心境でした。StrikerSの時にはマリアージュを使って争乱を作ろうとした彼女がもしヴィヴィオの時間移動魔法を知ったらどうするだろう?というところでした。
 
 話は変わりまして、夏のコミックマーケットの当落発表がありました。私共のサークルもスペースを頂けたそうです。
 3日目東 ヘ-08b 鈴風堂 でお待ちしています。

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