AS19「輪廻~5~」

 ヴィヴィオがプレシアの家にお泊まりした翌朝

「ふぁ~…ルネッサさん、おはようございます」

 目覚めて体を回し隣を見ると一緒に寝ていた筈のルネッサの姿が無かった。

「あれ?」

 もう起きたのかと思って起きてリビングに行ってみると

「おはよう、よく眠れた?」
「ヴィヴィオ、おはよう」
 キッチンで朝食の用意をしているプレシアとルネッサの姿があった。

「お、おはようございます。」
「服はそこにあるから着替えなさい。朝食を食べたら直ぐに転移するわよ。」
「はい…え…ええ~っ!?」

 ヴィヴィオはそのプレシアの言葉で完全に目が覚めた。



「今から行くのは1年半前の教会前広場。私達がここに来る前の時間よ。そこで彼女を残してそのまま数ヶ月後の同じ場所へ。移動する時間は短いけれど連続転移になるわ…できる?」
「悠久の書で連続転移初めてだから…でも昨日みたいな時間移動じゃないから多分出来ます。それより…またこの服なんですね…」

 ため息をつきながら頷く。
 ウィッグや瞳の色を隠すコンタクトは着けなくていいみたいだけど、制服じゃなくプレシアの用意した服に着替えて昨日と同じでデバイスと悠久の書以外は全て外してバッグに詰め込んだ。
 アリシアとチェントが起きてくる前に大急ぎで朝食を食べて準備をする。
 今度は2回続けての時空転移。今までで時空転移の連続使用は2回しかない。
 チェントの時に刻の魔導書を使ったのと、砕け得ぬ闇事件で刻の魔導書で戻って来て悠久の書で再び向かった時だけ。

「2回目の移動が終われば少し休憩出来るわ。今までの事もそこで話すから大変だけれど頼むわね。」
「はい、じゃあ行きます。」

 そう言うと悠久の書に移動する時間先と場所を送り一気に転移した。


 
「っと! RHd、ここいつかわかる?」

 降り立ったのは言われた通りの教会前広場。少し肌寒い。
 時間は…と見ようとするとプレシアとルネッサがしている腕輪が淡く光っていた。
 RHdが表示した日付を見る。

「新暦78年の2月20日です。」
「ルネッサお願いね。もし駄目でも8ヶ月後、10月20日にはここに戻って来て。」
「わかりました。プレシア、ヴィヴィオまた後で」

 そう言うとルネッサは数歩離れ振り返る。
 まばらだけれど礼拝に訪れていた人たちが転移の光を見て少し騒がしくなってきた。

「ヴィヴィオ」
「このまま10月20日ですね。行きますっ!」

 プレシアが頷くのを見て再び悠久の書にイメージと魔力を送り、再び飛ぶ。



「っと…」

 降り立ったのは枯れ葉が舞う教会前広場。
 日が昇っているけれど周りには少し離れた所に何人か居る位で人影は少ない。

「RHd、日は合ってる?」

 再び日を確認する。プレシアのブレスレットがまた淡い光を放っている。
 RHdから新暦78年の10月20日だと教えて貰ってふぅっと安堵の息をついた。

「お疲れ様。ルネッサはまだ来ていない様だし少し木陰で休みましょう。」
「はい」

 流石に少し疲れた。プレシアの方を見て頷くとその奥の方から私達を見てか少し離れた所に居た2つの影がこちらに気づいて歩いてきた。

「日を間違えたのかと思ってました。久しぶりです。プレシア、ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオ、プレシア? 研究所に居た筈では…」
「ルネッサさんとチンク!」

 ルネッサと一緒に居たチンクを見てヴィヴィオは驚きの声をあげた。


「どこから話せば良いかしら…そうね…私が初めてルネッサと会った時からがいいわね。」

 広場から少し離れた場所でチンクが持って来たシートを広げて座り、彼女が一緒に持って来たお茶を1口飲んだ後プレシアは話始めた。

「この時の私は写本の修理とヴィヴィオやチェント、チンク達の生体データの研究をしていたわ。貴方たちは刻の魔導書に出た文字を見て異世界に行っていた頃ね。」
「異世界って…あっ!」

 思い出す。『異世界の家族を助けて』と刻の魔導書に出たメッセージを辿って、闇の書のマテリアルと戦った時だ。

「そんな時に突然ルネッサが訪ねて来たのよ。「未来のあなたからこれを預かっています」って手紙を持って…。その手紙には『ヴィヴィオの魔力増幅と時空転移の欠陥を調べなければ私達の未来はない、彼女が持って来た物が唯一の希望』と書かれていたわ。」

 魔力増幅と時空転移の欠陥…以前プレシアから聞いた話だ。

「当時の私はその問題に気づいてもなかった。ヴィヴィオが騎士甲冑姿になると高ランク魔導師とも渡り合える位になるのは知っていたけれどその理由を調べるつもりもなかった。でもいきなり知らない人が訪ねて来て、未来の私から預かった手紙なんて嘘と思った。でも…ルネッサが持って来たのを見てそんなものは全部何処かに飛んでしまったわ。」
「ルネッサさんが持って来た物?」
「ええ、あなたが持っているレリックよ。」
「!!…私が持ってる…レリック?」

 これだけ急に未来と過去を行き来したのだから何か大切な事があるのだとは考えていたけれど、
まさかレリックだったなんて…
  
「何処にあったのかは私も知らないわ。でも私が会ったルネッサから『思い出の場所』と教えて貰った。」
「ええ、私もここのプレシアにはそれしか答えていません。プレシアからの手紙にはそう書いてありましたから…」
「私はそのレリックと異世界に行って眠っているヴィヴィオ・デバイスを調べて初めてレリックに適合率があるのに気づいた。そして今ヴィヴィオのデバイスのコアになっているレリック片は適合していなくて彼女が持って来たレリックNo14が完全適合している事も判った。」
「あなたが目覚めたら調べた事を伝えてレリックを渡そうと考えた…でも当時のあなたにレリックを渡すには幼すぎた。」
「レリックはJS事件で強制的に埋め込まれ憎しみを暴走させ家族に怪我を負わせ、チェントの時もレリックに取り込まれた姿を見てしまっていた。それを見ても恐怖心を抱かずに持てるとは思えない。少し前に暴走してアリシアも大怪我させたあなたの心には聖王に対する恐れがあった。でもそのままだと未完成な時空転移といつ暴走するか判らない。」
「私は急いで悠久の書の復元と増幅暴走の限界の調査を始めたわ。そして私達が消えかけた…砕け得ぬ闇事件が起きてしまった。」

 そこからはヴィヴィオも知っている。
 1度異世界から元の世界に戻る時プレシアからメモを受け取りチンクから増幅暴走と時空転移の欠陥を教えもらって、レリックと悠久の書を手にした。
 レリックと悠久の書が無ければアンブレイカブルダークを壊し、U-D ユーリを助けられなかった…。

『理由は必ず後で話すわ。これは私達やヴィヴィオ…いいえ、もっと沢山の人の為にしなくてはいけないの。今は聞かないで頂戴』

 昨日プレシアが言った言葉の意味が初めてわかった。
 ここでプレシアやルネッサを連れて未来と過去を行き来したからこそ、レリックを得られ時間軸の衝突も食い止められた。

「じゃあ夏休みに未来に行きなさいって言ったのは…」
「悠久の書を使いこなせるのかの確認よ。夏休みに別の世界に行っちゃった時はまだ早いと思ったのだけど、予定通り夏休みが終わる1日前に戻って来た。ある程度使いこなせていると考えたのよ。」

 プレシアはそこまで言うとお茶を1口飲み、ルネッサの方を見る。ルネッサは何を話すつもりなのか知っているらしく軽く頷いた。プレシアはその顔を見て首を横に振り

「これで私の話は終わり、私達も戻りましょうか。ヴィヴィオ、転移出来そう?」
「何とか…ううん、大丈夫です!」

 2人がこれだけ頑張ってくれたのに弱音を吐いてなんかいられない。元気よく答えるとプレシアとルネッサは微笑んだ。

「チンク」
「判っている。今のことは誰にも言わない。」
「じゃあ、チンク元気でね」

 そう言うと悠久の書を取り出し、プレシアとルネッサが肩につかまるのを確認してから元の時間へと飛んだ。

~コメント~
 今回は台詞多めです。又刻の移り人第08話 「ヴィヴィオへの贈り物」の裏話でもあります。
 今まで書けなかったのはプレシアの台詞にあった様にヴィヴィオが同じ時間軸の未来に行ける様になったからです。(ルネッサがレリックに関わっているのは最初から考えていたのですが、当初空間転移で同じ時間のルネッサを脱獄させるという方法でした…無理ありすぎですよね(苦笑))
 次回で輪廻シリーズおしまいです。


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