AS24「王の影」

 空戦研修をコラードが担当することになった翌日、Stヒルデ学院でヴィヴィオはアリシアに彼女の事を話した。

「フェイトとなのはさんの先生か~、何だか凄そうな人だね。」
「私には優しそうに見えたんだけどママ達は凄く真剣に聞いてた。」
「ナニナニ~? 何の話?」

 そこへ登校してきたリオとコロナが話に混ざってくる。

「昨日の話?」
「うん、決まったからみんなに話そうと思って。」

 そう言って再び彼女の事を話した。
「何だか凄そうな人だね。本当は厳しいんじゃない?」
「大丈夫だよ。ヴィヴィオは危ない所には行かないんだから。」
「危ない所がヴィヴィオに近づいて来るからね~」
「う、うん。危ない所には行かないからね~」

 あえて最後の突っ込みは無視する。   

「その話も大切なんだけど学園祭どうする?」
「そっか、もうそんな季節なんだ…」

 まだ暑さは残っているけれど、そろそろそんな季節なのかと思い出す。でも…

「学園祭? そんなのあった?」

 思わずリオとコロナと転けて椅子から落ちる。

「毎年あるよっ!」
「今くらいにクラスで委員決めて、何をするかをみんなで考えて準備を始めるんだよ」 

 2人の言葉にヴィヴィオも頷くがアリシアは腕を組んで首を傾げ

「う~ん…去年あったら覚えてる筈なんだけど…」

 言われてみれば1年2年の時の学園祭は覚えてるけれど去年のは…

「…あっ、チェントだ」

 思い出した。

「チェントがどうかしたの?」
「チェントがアリシアの家に来るか来ないかって言ってたの…学園祭の頃だったよね。」
「…あっ!」

 アリシアも気づいたらしい。
 去年スカリエッティが起こしたチェントの未来改変。それを元に戻す為に私達は文字通り過去と現在を何度も行き来した。その間は無断欠席になっていたのだけれど、その後事件の詳細をフェイトがまとめて報告する為、私達は何度も管理局を行き来していて遅刻早退欠席を繰り返していた。
 そして学園祭の準備が始まった頃からチェントを妹として受け入れる為、プレシアとアリシアは聖王教会と管理局を行き来し、私はその事件でRHdが大きく変わってしまって何度もテストを受けていた。
 そんなドタバタが起きていた間に全部のイベントが終わっていたらしい…

「?」

 その時は別クラスだったリオとコロナがそんなことを知る筈もなく

「去年の今頃、私達色々あってよくお休みしてたんだ。ホ、ホラ、コアの事もあったし。」
「そうなんだ~」

 納得する2人にナイスフォローとウィンクして答える。

「話を戻すけど、学園祭のクラス委員にねアリシアとヴィヴィオがいいねってみんなで言ってるの。」

 でも直後にその目は大きく開かれた。

「え? ええ~っ!」
「どうして私達が?」

 いきなりクラス委員に推薦されると言われて驚く。アリシアも聞いていなかったようだ。

「どうしてって…2人とも学院内じゃ有名だよ。ヴィヴィオは教会騎士に正面から向かっていってみんなびっくりしたしアリシアもコアの使い方を教えてるでしょ。」
「それに2人とも管理局のビデオに出てファンクラブまであるし。」
「…え…でもあれは…先生から止められた筈…」
「ううん、それだけ人気があるってこと。そんな凄い看板があるのに使わないなんて勿体ないよ」

 …思わず唖然となる。

「研修で忙しくなるなら無理かな~って思ってたんだけど、いいよね?」

 リオとコロナは研修の話を聞いて気にしていたらしい。
 アリシアと顔を見合わせる。去年はなるべく目立たない様にしていたけれど、オリヴィエが来た時と先日あったジュエルシード事件と闇の書事件の記録映像が影響しているのだろう。
 ヴィヴィオ自身としてはあまり目立ちたくない。でも…アリシアから聞いた闇の書撮影の事を考えると…

「いいよ、去年迷惑をかけちゃったし。私もいっぱい楽しみたいもん。アリシアもいいよね」
「うん♪」

 私達が頷くのを見て2人は満面の笑みを浮かべ喜んだ。




 一方その頃、聖王教会近くにあるプレシアの研究所でチンクが滞っていた事務作業をしていた。
 先日、ようやく職場復帰(?)したのだけれど静かになった研究所を少し寂しく感じていた。
 そんな時通信が入る。

「珍しいな…スバルからだ」
『チンク姉、仕事中にごめんね。』
「大丈夫だ。何か用か?」
『仕事中に倒れてないかって気になって…。』
「休んでしまった分の勘を取り戻すのが少し大変だが問題ない。」

 こういう所を気にかけてくれるのが嬉しい。でもそれだけなら彼女も仕事中だから通信してこない

「それで何かあったのか?」
『うん、さっきギン姉から連絡があったんだけど…最近連続傷害騒動が起きてるんだって。被害者は格闘関係者が大半なんだけど中には戦技魔法を使う人も居て。』
「物騒だな…それは」
『うん、街頭試合を申し込んで倒してるから事件にはなってないらしいんだけど…容疑者の名前が…ちょっと』
「名前?」
『自称覇王…イングヴァルト。古代ベルカの王様を名乗っているらしいんだよ。』

 そこまで聞いてどうしてスバルがチンクに連絡してきたのか判った。

「了解した。今日中に妹達に話しておく。プレシアにも話してもいいか?」
『お願い』

 事件化していたら管理局から教会にも連絡しているだろうが今の段階では自称で覇王を名乗っているだけだからまだ連絡はされていないらしい。でも、先に3人…特にイクスヴェリアとヴィヴィオに被害が出てしまうと大問題にもなりかねない。
 スバルはそれを考えて連絡してきたのだろう。
 チンクは教会系の研究所に勤めているとは言え管理局からの出向扱いになっている。近くに聖王教会本部もありセイン、ディード、オットーが居るし、ここにはアリシアとチェントが帰ってくる。ヴィヴィオも来ることが多く狙われる者の周囲に声をかけやすい。

(プレシアと妹達に話をしておけば警戒してくれるだろう…しかし自称でも覇王を名乗るとは…)

 覇王の正体に思いを巡らせるが想像出来ず再び仕事に戻るのだった。

~コメント~
 来週がコミケ新刊準備で少し慌ただしくなりそうなので、更新させて頂きました。
 ASシリーズは2008年11月から書かせて頂いていてもうすぐ300話を迎えます。(書き下ろし含む)
 ヴィヴィオが主人公でも当時はVivid連載前だったのでクリスを含む魅力的なキャラクターを中々登場させられず、Vivid世界という形でAdmixStoryを始めたのが2011年4月、ようやくリオとコロナを登場させられたのが2012年2月でした。
 そんな中で今話からようやく彼女が登場です。


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