AS26「アインハルト・ストラトス」
夕暮れの中2人の女性が走っていた。
「スバル、この辺なのよね?」
ティアナ・ランスターは近くに居るスバル・ナカジマに声をかける。
まさか話したその日にヴィヴィオに対して襲撃があるなんて…
「うんっ、池の畔だって…居たっ!」
凝視しながら見回していると湖畔のベンチ付近に人影が見えた。
「ヴィヴィオ~っ!!」
「スバルさん、ティアナさん」
「スバル、この辺なのよね?」
ティアナ・ランスターは近くに居るスバル・ナカジマに声をかける。
まさか話したその日にヴィヴィオに対して襲撃があるなんて…
「うんっ、池の畔だって…居たっ!」
凝視しながら見回していると湖畔のベンチ付近に人影が見えた。
「ヴィヴィオ~っ!!」
「スバルさん、ティアナさん」
声に応えるヴィヴィオとアリシアを見て2人が無事で良かったとホッと息をついた。
「それで…この子が自称覇王イングヴァルト? まだ子供じゃない!」
ベンチで横に寝かせたアインハルトと見てティアナが驚く。スバルも驚いている。
本当は自称では無く、彼女達も異世界のアインハルトには会っている。でも砕け得ぬ闇事件の記憶は曖昧にしてしまっているから良く覚えていないらしい。
「ヴィヴィオ、あんたまさか申請しないでバリアジャケット使っちゃったんじゃないでしょうね。」
「全然、何にもしてないです。私を襲ったら私が怪我しなくても犯罪になっちゃいますから。」
慌てて否定する。
アリシアが教えてくれた。この状況で無限書庫の司書とは言え私を襲撃すれば事件になるし、自己防衛の為に戦技魔法の申請なんかした日にはアインハルトは本当に捕まってしまう。
アリシアも殆ど放出しない戦技魔法でない魔法しか使わなかった。
「じゃあ、一体誰が倒したの?」
「…はい」
怖ず怖ずとアリシアが手を挙げた。
「ウソっ! アリシアすごーい!」
スバルがあげた驚きの声は湖面を揺らした。
スバルとティアナがやってくる10分位前
「んしょっと…」
ヴィヴィオは意識を失って子供姿に戻ったアインハルトをベンチに寝かせた。そして息をつくと元の制服姿に戻る。
「ヴィヴィオ…それって魔法?」
「…わかんない。でも、RHdのジャケットでもないし、魔法使った感じも無いから。撮影で…リインフォースさんと戦っててもう駄目って思った時になってて、あとブレイブデュエルで私と戦った時も出てた。上手く使えてないし、さっきもアリシアが危ないって思ったら急に出来て…」
アリシアに答える。
でも前と違って一瞬で凄く疲れた気がする。
「…使えるようになったらママ達に聞いてみる。どうすればなれるかもわかんないから…。それより、アインハルトさんだけど、誰か局員さんが来たらアリシアが倒した事にしてくれる。」
手を合わせお願いする。
「うん、そうしないと捕まっちゃうよねアインハルトさん。でも…どうして格闘家相手に街頭試合を挑んだりいきなり襲ってきたんだろう?」
静かに息をついている彼女の顔を見る。あっちの彼女と違いすぎてよくわからない。
「わかんない。」
聞かれて答えられなかった。
「じゃあこの子はスバルん家に連れて行くとして…あんた達はどうする?」
「ママが心配してると思うから…私は帰ります。」
ティアナに聞かれてアリシアは答える。流石にプレシアも心配しているだろう。
「私は…起きたらお話したいからスバルさんの家に行っていいですか?」
ヴィヴィオも答える。
彼女が求めていた聖王オリヴィエについても話を聞かなくちゃいけない。
「わかった。アリシアもう遅いし送っていくわ。スバル」
「うん、ティアまた後で。ヴィヴィオ、行こう。あっその前になのはさんに連絡だけしてね」
「はい、じゃあまたね、アリシア」
「バイバイ」
手を振ってアリシアと別れた。
「さてと…私達も行こうか。そっちに車を停めてあるから…んしょっと」
アインハルトをスバルが背負うと歩き出す。
ヴィヴィオもなのはへメッセージだけ送って後を追いかけた。
「ヴィヴィオごめんね。」
「え?」
追いついたところでスバルに謝られて思わず聞き返す。
「ギン姉から聞いて私が教えたんだ。格闘関係者を狙った連続傷害が起きてるって。自称でも昔のベルカの王様を名乗ってたんだからもっと気をつけなくちゃいけなかったのに…本当にごめんね。」
スバルはギンガから聞いてチンクに伝わり、チンクからプレシア、プレシアからアリシアに伝わったらしい。
「ありがとうございます。チンクに教えてくれてなかったら私1人になってました。それに…後で調べたら判ると思いますけど、彼女、本当の覇王イングヴァルトの子孫です。」
「えっ!? 本当!!」
驚いて背負う彼女を見る。
「…前に私みたいに昔のベルカ王家の子孫がいるのかなって調べた時があってその時似た女の子の写真を見ました。」
時空転移や異世界の話は彼女に出来ない。とっさに嘘をつく。
「…ベルカ絡みか~、私もよくよくベルカの王様と縁があるよね~ヴィヴィオに、イクスにこの子…」
笑って言うスバルにヴィヴィオも釣られて笑うのだった。
その頃…
「アリシアも強いのね~、あの子に倒された人の中には格闘系の大会の優勝候補者も居たのよ。」
ティアナに連れられてアリシアは帰路についていた。
「撮影の時にシグナム副隊長やヴィータ副隊長にしごかれたって聞いたけれど…」
「はい、凄く厳しかったです。何度も叩き落とされました」
「思い出すわ…私達も叩き落とされたから」
思い出しながら苦笑いするティアナに苦笑する。
「同じですね、油断してくれたのもあったけどおかげで事件にならなくて良かったです。」
「やっぱり…そうなんだ。」
思わずビクッとなる。
「アリシアが考えたのね。ヴィヴィオだったら大事になるって。それにあの子ならあなたを守る為に前に出ようとするでしょ。連絡だけしてきて何もしないなんて気になってたのよ。」
何だそっちかと安堵の息を吐く。
「覇王を名乗ってヴィヴィオやイクスを襲って怪我でもさせていたらそれこそ大変だったのよ、助かったわ。」
大げさに息をつくティアナが可笑しくてクスッと笑う。
「事件にはならないけど、帰って彼女の話を聞いてからもしかすると聴取が要るかも知れないからその時は協力してね。」
「はい」
笑顔で答えた。
「……ん…んんっ?」
スバルの家に来てアインハルトをベッドに寝かした後、ヴィヴィオも隣で横になっていると少し唸った様な声が聞こえた。
ゆっくりと彼女の瞼が開く。
「……ここは?…」
「おはようございますアインハルトさん…ってまだ夜ですが」
私の声を聞いてこっちを向いて、起き上がろうとする。一瞬苦痛の表情を浮かべたのを見て慌てて背中を支える。
「あなたは…聖王オリヴィエ?」
「高町ヴィヴィオって言います。ごめんなさい…思いっきり殴っちゃいました。」
「いえ…それは…でもその瞳や顔は…」
彼女もオリヴィエを知っているらしい。
「…はい、私もベルカ聖王家の子孫です。それで…お願いがあるんですが、私が最後に戦ったの、アリシア…もう1人の女の子がしたことにして貰えませんか。私、こう見えても管理局員なので、襲われたって知られちゃったらアインハルトさんが捕まっちゃいます。」
「……私は…捕らえられたのでは?」
ベッドの上でしかも私が隣で寝ているのに捕まったって…まだ頭がぼんやりしているらしい。
「ここは私の友達の家です。あの後ここに運んで貰いました。今呼んできますね。さっきの事お願いします。」
そう言うとベッドから下りてリビングへと向かった。
リビングに居たスバルとティアナにアインハルトが目覚めたのを話していると寝室からアインハルトが出てきた。
「アインハルト・ストラトスです。っ!」
「アインハルトさんっ」
アインハルトが頭を下げる時再びお腹に手をあてたのを見て駆け寄り支える。
「ティアナさん、回復魔法お願いします。アリシアが最後に思いっきり叩いちゃったから」
ここに居ない親友になすりつけて頼む。
「あんまり得意じゃないんだけど…そこに座って。治療ついでに話を聞かせて貰えるかしら? 自称覇王イングヴァルト、Stヒルデ学院中等科1年のアインハルト」
彼女がとっさにこっちを見る。話したのかと思われるのが判って名前は言ったけれど、それ以外は何も言っていなかったから首を横に振る。
「制服のポケットにロッカーの鍵があったから荷物を持ってきたわ。学生証も見させてもらいました。紹介がまだだったわね。本局執務官、ティアナ・ランスターです。それと」
「スバル・ナカジマです。消防士やってます。」
「2人とも私の友達です。」
そう言うと彼女の強ばっていた表情が少し緩んだ気がした。
「格闘家相手の連続襲撃犯があなたって言うのは本当?」
ティアナの治療魔法を受けながらアインハルトへの聞き取りが始まった。
ヴィヴィオも話を聞きながら、アリシアも話を聞きたいと思ってRHdを使って通信を開く。
「アリシア、アインハルトさんが起きて話を聞いてるんだけど…アリシアも聞く?」
『うん、でも…ママとフェイトも一緒に聞いて良い? 私が戦ったのデバイス記録見られてばれちゃってママ少し怒ってるから…』
横で聞き耳を立てていたスバルが苦笑する。後で私も怒られそうだ…
「繋ぐけど、ティアナさんの邪魔しないでね。」
そう言うとアリシアの顔が端末に映った。
ヴィヴィオはアインハルトとティアナ・スバルの話を聞きながら異世界のヴィヴィオとアインハルトを思い出していた。
アインハルトの中には昔の覇王の記憶がありその記憶の中ではベルカ統一戦争がまだ終わっていない事を。そして…
「古きベルカのどの王よりも覇王のこの身が強くあることを…それを証明したいだけで聖王家や冥王家に恨みがあるわけではありません。」
「中等科に進学する少し前、私は記憶の中にあるオリヴィエ王女にとてもよく似たシスターとすれ違いました。その時私は驚きすぎて何も話せず、慌てて彼女を追いかけましたが見失ってしまいました。それから中等科に進学した時、そのシスターが初等科の1生徒と模擬戦をしたのを聞いてその生徒に話を聞きたいと思っていると、彼女もオリヴィエそっくりで彼女と同じ色の魔法まで使うと知りました。」
「ブッ! ゲホゴホッ」
思わず貰ったジュースを吹き出してしまった。
(オリヴィエさん…)
どうもオリヴィエが初等科に来た時アインハルトにも会っていたらしい…消えてもまだ騒動の種を残しているのを知って1言言いたくなった。
端末を見るとアリシアとプレシアは笑いを堪え、フェイトはため息をついている。
「先日、クラスで初等科生の1人が高ランク魔導師の資格を取ったという噂が流れ始め、私はオリヴィエに似た女の子、ヴィヴィオさんだと確信しました。」
「それで…格闘関係者に街頭試合を申し込んで腕を磨いて私を襲ったんですか?」
口を挟まない様に気をつけているつもりだったけれど、流石に気になって聞いた。
「………」
彼女は沈黙で答える。
「明日警防署の本局に行きましょう。被害届は出てないって話だし、もう路上でケンカとかしないって約束してくれたら直ぐに帰れる筈だから。」
「体の方も心配だから看て貰おうね。」
「はい」
アインハルトはスバルとティアナに頷いて答えた。
~コメント~
ようやく登場したアインハルトですが、少しVividと様子が違っています。今話はその理由に絞りました。
アインハルトの登場は刻の移り人13話「時を越えた再会」の頃から考えていたのですが、実際に登場させる機会が作れなかったので登場した時の伏線として残してました。
オリヴィエの
「ここは本当に面白い時間です。ヴィヴィオ・チェントだけでなく夜天の王、イクスヴェリア…そしてクラウスの子孫にまで会えるなんて…」
という台詞はGODに登場したアインハルトだけでなく、今回登場したアインハルトも示唆していました。
さて明日からコミックマーケット88が始まります。私は仕事柄土日は休めず平日に休んでいるので夏はなかなか行けません。
猛暑ですので参加される皆様は水分補給に注意して楽しんでください。
「それで…この子が自称覇王イングヴァルト? まだ子供じゃない!」
ベンチで横に寝かせたアインハルトと見てティアナが驚く。スバルも驚いている。
本当は自称では無く、彼女達も異世界のアインハルトには会っている。でも砕け得ぬ闇事件の記憶は曖昧にしてしまっているから良く覚えていないらしい。
「ヴィヴィオ、あんたまさか申請しないでバリアジャケット使っちゃったんじゃないでしょうね。」
「全然、何にもしてないです。私を襲ったら私が怪我しなくても犯罪になっちゃいますから。」
慌てて否定する。
アリシアが教えてくれた。この状況で無限書庫の司書とは言え私を襲撃すれば事件になるし、自己防衛の為に戦技魔法の申請なんかした日にはアインハルトは本当に捕まってしまう。
アリシアも殆ど放出しない戦技魔法でない魔法しか使わなかった。
「じゃあ、一体誰が倒したの?」
「…はい」
怖ず怖ずとアリシアが手を挙げた。
「ウソっ! アリシアすごーい!」
スバルがあげた驚きの声は湖面を揺らした。
スバルとティアナがやってくる10分位前
「んしょっと…」
ヴィヴィオは意識を失って子供姿に戻ったアインハルトをベンチに寝かせた。そして息をつくと元の制服姿に戻る。
「ヴィヴィオ…それって魔法?」
「…わかんない。でも、RHdのジャケットでもないし、魔法使った感じも無いから。撮影で…リインフォースさんと戦っててもう駄目って思った時になってて、あとブレイブデュエルで私と戦った時も出てた。上手く使えてないし、さっきもアリシアが危ないって思ったら急に出来て…」
アリシアに答える。
でも前と違って一瞬で凄く疲れた気がする。
「…使えるようになったらママ達に聞いてみる。どうすればなれるかもわかんないから…。それより、アインハルトさんだけど、誰か局員さんが来たらアリシアが倒した事にしてくれる。」
手を合わせお願いする。
「うん、そうしないと捕まっちゃうよねアインハルトさん。でも…どうして格闘家相手に街頭試合を挑んだりいきなり襲ってきたんだろう?」
静かに息をついている彼女の顔を見る。あっちの彼女と違いすぎてよくわからない。
「わかんない。」
聞かれて答えられなかった。
「じゃあこの子はスバルん家に連れて行くとして…あんた達はどうする?」
「ママが心配してると思うから…私は帰ります。」
ティアナに聞かれてアリシアは答える。流石にプレシアも心配しているだろう。
「私は…起きたらお話したいからスバルさんの家に行っていいですか?」
ヴィヴィオも答える。
彼女が求めていた聖王オリヴィエについても話を聞かなくちゃいけない。
「わかった。アリシアもう遅いし送っていくわ。スバル」
「うん、ティアまた後で。ヴィヴィオ、行こう。あっその前になのはさんに連絡だけしてね」
「はい、じゃあまたね、アリシア」
「バイバイ」
手を振ってアリシアと別れた。
「さてと…私達も行こうか。そっちに車を停めてあるから…んしょっと」
アインハルトをスバルが背負うと歩き出す。
ヴィヴィオもなのはへメッセージだけ送って後を追いかけた。
「ヴィヴィオごめんね。」
「え?」
追いついたところでスバルに謝られて思わず聞き返す。
「ギン姉から聞いて私が教えたんだ。格闘関係者を狙った連続傷害が起きてるって。自称でも昔のベルカの王様を名乗ってたんだからもっと気をつけなくちゃいけなかったのに…本当にごめんね。」
スバルはギンガから聞いてチンクに伝わり、チンクからプレシア、プレシアからアリシアに伝わったらしい。
「ありがとうございます。チンクに教えてくれてなかったら私1人になってました。それに…後で調べたら判ると思いますけど、彼女、本当の覇王イングヴァルトの子孫です。」
「えっ!? 本当!!」
驚いて背負う彼女を見る。
「…前に私みたいに昔のベルカ王家の子孫がいるのかなって調べた時があってその時似た女の子の写真を見ました。」
時空転移や異世界の話は彼女に出来ない。とっさに嘘をつく。
「…ベルカ絡みか~、私もよくよくベルカの王様と縁があるよね~ヴィヴィオに、イクスにこの子…」
笑って言うスバルにヴィヴィオも釣られて笑うのだった。
その頃…
「アリシアも強いのね~、あの子に倒された人の中には格闘系の大会の優勝候補者も居たのよ。」
ティアナに連れられてアリシアは帰路についていた。
「撮影の時にシグナム副隊長やヴィータ副隊長にしごかれたって聞いたけれど…」
「はい、凄く厳しかったです。何度も叩き落とされました」
「思い出すわ…私達も叩き落とされたから」
思い出しながら苦笑いするティアナに苦笑する。
「同じですね、油断してくれたのもあったけどおかげで事件にならなくて良かったです。」
「やっぱり…そうなんだ。」
思わずビクッとなる。
「アリシアが考えたのね。ヴィヴィオだったら大事になるって。それにあの子ならあなたを守る為に前に出ようとするでしょ。連絡だけしてきて何もしないなんて気になってたのよ。」
何だそっちかと安堵の息を吐く。
「覇王を名乗ってヴィヴィオやイクスを襲って怪我でもさせていたらそれこそ大変だったのよ、助かったわ。」
大げさに息をつくティアナが可笑しくてクスッと笑う。
「事件にはならないけど、帰って彼女の話を聞いてからもしかすると聴取が要るかも知れないからその時は協力してね。」
「はい」
笑顔で答えた。
「……ん…んんっ?」
スバルの家に来てアインハルトをベッドに寝かした後、ヴィヴィオも隣で横になっていると少し唸った様な声が聞こえた。
ゆっくりと彼女の瞼が開く。
「……ここは?…」
「おはようございますアインハルトさん…ってまだ夜ですが」
私の声を聞いてこっちを向いて、起き上がろうとする。一瞬苦痛の表情を浮かべたのを見て慌てて背中を支える。
「あなたは…聖王オリヴィエ?」
「高町ヴィヴィオって言います。ごめんなさい…思いっきり殴っちゃいました。」
「いえ…それは…でもその瞳や顔は…」
彼女もオリヴィエを知っているらしい。
「…はい、私もベルカ聖王家の子孫です。それで…お願いがあるんですが、私が最後に戦ったの、アリシア…もう1人の女の子がしたことにして貰えませんか。私、こう見えても管理局員なので、襲われたって知られちゃったらアインハルトさんが捕まっちゃいます。」
「……私は…捕らえられたのでは?」
ベッドの上でしかも私が隣で寝ているのに捕まったって…まだ頭がぼんやりしているらしい。
「ここは私の友達の家です。あの後ここに運んで貰いました。今呼んできますね。さっきの事お願いします。」
そう言うとベッドから下りてリビングへと向かった。
リビングに居たスバルとティアナにアインハルトが目覚めたのを話していると寝室からアインハルトが出てきた。
「アインハルト・ストラトスです。っ!」
「アインハルトさんっ」
アインハルトが頭を下げる時再びお腹に手をあてたのを見て駆け寄り支える。
「ティアナさん、回復魔法お願いします。アリシアが最後に思いっきり叩いちゃったから」
ここに居ない親友になすりつけて頼む。
「あんまり得意じゃないんだけど…そこに座って。治療ついでに話を聞かせて貰えるかしら? 自称覇王イングヴァルト、Stヒルデ学院中等科1年のアインハルト」
彼女がとっさにこっちを見る。話したのかと思われるのが判って名前は言ったけれど、それ以外は何も言っていなかったから首を横に振る。
「制服のポケットにロッカーの鍵があったから荷物を持ってきたわ。学生証も見させてもらいました。紹介がまだだったわね。本局執務官、ティアナ・ランスターです。それと」
「スバル・ナカジマです。消防士やってます。」
「2人とも私の友達です。」
そう言うと彼女の強ばっていた表情が少し緩んだ気がした。
「格闘家相手の連続襲撃犯があなたって言うのは本当?」
ティアナの治療魔法を受けながらアインハルトへの聞き取りが始まった。
ヴィヴィオも話を聞きながら、アリシアも話を聞きたいと思ってRHdを使って通信を開く。
「アリシア、アインハルトさんが起きて話を聞いてるんだけど…アリシアも聞く?」
『うん、でも…ママとフェイトも一緒に聞いて良い? 私が戦ったのデバイス記録見られてばれちゃってママ少し怒ってるから…』
横で聞き耳を立てていたスバルが苦笑する。後で私も怒られそうだ…
「繋ぐけど、ティアナさんの邪魔しないでね。」
そう言うとアリシアの顔が端末に映った。
ヴィヴィオはアインハルトとティアナ・スバルの話を聞きながら異世界のヴィヴィオとアインハルトを思い出していた。
アインハルトの中には昔の覇王の記憶がありその記憶の中ではベルカ統一戦争がまだ終わっていない事を。そして…
「古きベルカのどの王よりも覇王のこの身が強くあることを…それを証明したいだけで聖王家や冥王家に恨みがあるわけではありません。」
「中等科に進学する少し前、私は記憶の中にあるオリヴィエ王女にとてもよく似たシスターとすれ違いました。その時私は驚きすぎて何も話せず、慌てて彼女を追いかけましたが見失ってしまいました。それから中等科に進学した時、そのシスターが初等科の1生徒と模擬戦をしたのを聞いてその生徒に話を聞きたいと思っていると、彼女もオリヴィエそっくりで彼女と同じ色の魔法まで使うと知りました。」
「ブッ! ゲホゴホッ」
思わず貰ったジュースを吹き出してしまった。
(オリヴィエさん…)
どうもオリヴィエが初等科に来た時アインハルトにも会っていたらしい…消えてもまだ騒動の種を残しているのを知って1言言いたくなった。
端末を見るとアリシアとプレシアは笑いを堪え、フェイトはため息をついている。
「先日、クラスで初等科生の1人が高ランク魔導師の資格を取ったという噂が流れ始め、私はオリヴィエに似た女の子、ヴィヴィオさんだと確信しました。」
「それで…格闘関係者に街頭試合を申し込んで腕を磨いて私を襲ったんですか?」
口を挟まない様に気をつけているつもりだったけれど、流石に気になって聞いた。
「………」
彼女は沈黙で答える。
「明日警防署の本局に行きましょう。被害届は出てないって話だし、もう路上でケンカとかしないって約束してくれたら直ぐに帰れる筈だから。」
「体の方も心配だから看て貰おうね。」
「はい」
アインハルトはスバルとティアナに頷いて答えた。
~コメント~
ようやく登場したアインハルトですが、少しVividと様子が違っています。今話はその理由に絞りました。
アインハルトの登場は刻の移り人13話「時を越えた再会」の頃から考えていたのですが、実際に登場させる機会が作れなかったので登場した時の伏線として残してました。
オリヴィエの
「ここは本当に面白い時間です。ヴィヴィオ・チェントだけでなく夜天の王、イクスヴェリア…そしてクラウスの子孫にまで会えるなんて…」
という台詞はGODに登場したアインハルトだけでなく、今回登場したアインハルトも示唆していました。
さて明日からコミックマーケット88が始まります。私は仕事柄土日は休めず平日に休んでいるので夏はなかなか行けません。
猛暑ですので参加される皆様は水分補給に注意して楽しんでください。
Comments