AS27「古きベルカのどの王よりも」

「古きベルカのどの王よりもこの身が強くあることを…か……」

 ヴィヴィオはスバルの家のベランダで外を眺めながら考えていた。

「アインハルトさんもそうだったのかな…」

 なのはにはスバルの家に泊まるとメッセージで伝え、アインハルトの話を聞いた後事情も話した。アリシアと一緒にフェイトも話を聞いていたし大丈夫だろう。
…それよりも…

「あ~~~~やっぱり私のせいだよね?」
 頭を抱える。
 あっちのヴィヴィオとアインハルトの仲が良いのはストライクアーツやカイザーアーツがあってリオ・コロナも知り合う前から学んでいて競い合える関係だからでもある。
 こっちに仮にカイザーアーツがあったとしてもストライクアーツや関係する大会とか無い。
 時空転移のせい…とは言わないけれどアインハルトが目指す先が…違っている。
 朝が来ればアインハルトは警防署に行ってそのまま帰されるだろう。じゃあその後は?
 どうすれば良いのか判らなかった。



 翌朝、ヴィヴィオはティアナ・スバル・アインハルトと一緒に警防署に来ていた。
 アインハルトはティアナと部屋の中で職員と何か話していてヴィヴィオはスバルと一緒に部屋の外で待っていた。
 その前に病院に行こうとしたけれど、一晩で治ったからと固辞された。

「ねぇヴィヴィオどうすれば良いかな…アインハルト、このまま帰っちゃっても何にも変わらないよね。心の問題…そのままになっちゃうよね。」

 スバルの言葉にコクンと頷く。彼女が求めているものが本当に強さなのか? 先日のルネッサの様に半年前に戻ってオリヴィエに会うとか異世界に行ってもう1人のアインハルトに会うという方法が本当にいいのか判らない。

「やっほ、ヴィヴィオ」
「アリシア、どうしてここに? フェイトママ?」

 アリシアがやってきて声をかけた。彼女の後ろにフェイトも居る。

「一応事情聴取…だって。ヴィヴィオ達より前に来てたからさっき終わったところ。大人も大変だよね~」

 ニヘラと笑っているとフェイトは困った顔をして

「話を聞いて本当にびっくりしたんだから…無茶しないで。」

 フェイトは付き添いらしい。

「はいはい、昨日いっぱい怒られたからもうしないって。少しお話しない? スバルさん、ちょっとヴィヴィオ借りていいですか?」

 何の話をするんだろうと思いつつ頷く。

「うん、終わったら連絡するね。」

 そう答えられて私はアリシア達と外へ出た。



「この辺りで良いかな、フェイト。」
「うん」

 アリシア達と少し歩いて近くの公園らしき場所に入った。人気が無いけれどアリシアはフェイトに声をかける。フェイトも先に聞いていたのか3人を包む小さな結界魔法を作った 

「結界?」
「ヴィヴィオ、アインハルトさんの事で悩んでるでしょ。あっちのヴィヴィオみたいに一緒に競いあえたら悩まなくてもいいのにって」
「えっ? どうして」
「やっぱりね。フェイト言った通り。」

 自信満々に言うアリシア。

「ヴィヴィオならきっとあっちのヴィヴィオとアインハルトと比べちゃってるって…でもね、それは私達は答えられないよ。」
「過去に行ってオリヴィエさんに会わせたり、アインハルトさんを連れて異世界に行ってアインハルトさんに会ってもそれって私達が知ってる人の答えを見せるだけでしょ。それじゃアインハルトさんに答えはこれですって言ってるようなものじゃない?」

 言葉に詰まる。彼女も同じ事を考えていたのだ。

「でもっ!」
「うん、このままじゃアインハルトは過去を引きずったまま前に進めない。ヴィヴィオ、ここはフェイトママに任せてくれないかな。」
「えっ?」
「それでね、もし何か見つけられたら…ヴィヴィオと競いたいって言ったらお願い出来るかな。」
「フェイトママ?」

 一体何をするつもりなのだろう? 判らないけれど、今考えている事より良い方法なのだろうと思い

「うん、わかった。」
「フェイト、任せたよっ!」
「うん、任されました♪」

 ヴィヴィオとアリシアはフェイトに強く頷くのだった。



「ティアナ…久しぶり。」

 ヴィヴィオとアリシアと別れてフェイトは再び警防署に戻ってきた。

「「フェイトさん」」

 アインハルトへの聴取は終わってヴィヴィオを待っていたらしい。

「ゴメンね、ヴィヴィオとアリシアは先に帰ってもらった。アインハルト、初めましてヴィヴィオの母、フェイト・T・ハラオウンです。」
「ヴィヴィオさんの?」
「うん、聴取は終わったんだよね。ティアナ、スバル、アインハルトを私が送っていっていいかな? 少し話があるんだ。」
「え? はい…でも…」

 スバルが逡巡する。彼女もアインハルトの悩みに気付いているらしい。

「私も判ってるから。任せて」
 
 それからフェイトとアインハルトはティアナと別れ、近くに停めていた車に乗った。

「ヴィヴィオさんのお母様…ですか?」

 俯きながらも時々運転するフェイトを見る。

「うん」
「でも…アリシアさんと…」
「似てるでしょ♪ アリシア、私の姉さんなんだ。」
「えっ?」

 じっと私を見る。きっと彼女の頭の上には?マークがたくさん浮かんでいるだろう。

「少しだけ寄り道するね。」

 そう言って車をある場所へと向けた。



「ここは?」

 車を小1時間程走らせた所にある住宅の前に来るとフェイトは車を降りた。

「私の友達の家。」

 流石にヴィヴィオの母と子供のアリシアの妹と名乗って不信感たっぷりの状態で凄く警戒している。

「お帰り~フェイトちゃん。」
「ただいま、なのは」

 車の音で判ったのかなのはが玄関に迎えに出てきた。

「アインハルトちゃんだね。ヴィヴィオの母、高町なのはです」
「えっ? でもさっきフェイトさんがヴィヴィオさんの母だって…?」

 2人を見比べる様子にフェイトはなのはとクスッと笑う。

「うん、その辺りもきちんと話すから。疲れたでしょう、中に入って」

 彼女の手を取って家の中に入った。



「私がお母さんなんだけど、私達は今のヴィヴィオ位の頃からずっと一緒にいるからフェイトちゃんの事もママって呼んでるの。」

 先に家に上がって出迎える用意をしていたなのははアインハルトをリビングに案内してお茶を持って来た後、最初に打ち明けた。

「だから私達は2人ともヴィヴィオのママ。」

 そう言うとアインハルトは軽く頷く。

「ここに来て貰ったのはアインハルトと少し話をしてみたいって思ったからなんだ。昨日、ヴィヴィオ達に話していたけれど…古いベルカの王様より強くなりたいのは置いておいて、強くなって何をしたいの?」

 フェイトがいきなり本題に入ったからアインハルトは背を震わせ表情を強ばらせた。それを見て少し頬を膨らませる。

「フェイトちゃん、急すぎ。アインハルトちゃんびっくりしちゃってる。私達もね昔のベルカ王家の関係者だからどうしてそうなりたいのかなって知りたいだけ。責めてる訳じゃないから。」
「……私の記憶の中の彼が叫ぶんです。聖王のゆりかごに向かうオリヴィエを連れ戻せなくて…拳を交えて…弱かったから彼女を止められなくて…」
「彼って覇王イングヴァルト?」
「…彼と子孫が残した数百年分の後悔が私の中にあるんです。でもここには救うべき相手も、守るべき国もない。だから…」
「せめて王様よりも強くならなくちゃ…って?」

涙混じりに話す言葉は重かった。

「そっか…辛かったんだね。じゃあ…きっと今から会う人はその辛さを少しだけ軽くしてくれるよ」



「えっ?」

 アインハルトがなのはの顔を振り仰ぐと玄関から「ただいま~」と声が聞こえ誰かが家の中に入ってきた。

「おかえり、はやてちゃん」
「ごめんな、道が混んでてちょう遅れた。いらっしゃい、少しやんちゃな昔の王様やったっけ? この家の主、八神はやてです。私も昔の王様…夜天の魔導書、闇の書の主やから昔の王様同士仲良くしような。」
「闇の書…あの記録映像の?」
「見てくれたん? ありがとうな♪」

 よく見ると髪飾りが同じだ…そして思い出す。あの映像の中で出ていた名前

(なのは…フェイト…はやて…ヴィヴィオさんとアリシアさんが…そうだったんですね。)

 アインハルトは思わず納得する。
 目の前に居るのはあの事件に巻き込まれ解決した本人であり、彼女の家族があの映画に登場していたヴィヴィオとアリシアだったのだと。

「うん、でも今日来て貰ったんは紹介したい子が…入って入って」

 リビングの入り口に声をかけるとそこから私と同じ年位の少女が入ってきた。
 長めの水色のフレアスカートと白いブラウスを着てどこかのお嬢様と思わせる。

「初めまして、アインハルト・ストラトスさん。冥府の王イクスヴェリアです。」

 微笑み自己紹介された瞬間、私は固まってしまった。 
 


「…あれ…私?」

 額に冷たい何かが当たるのを感じてアインハルトは目を覚ました。

「アインハルトちゃん、良かった~。急にパタンと倒れちゃうからびっくりしちゃった。」

 なのはの膝枕から起きる。

「あ…いえ…」
「ごめんな…驚かせて。驚いてくれた方が気が紛れるかって思ったんやけど…」

 確か八神はやてと言っていた。その横で心配そうに私を見る子…

「はやてさんと…イクスヴェリアさん? イクスヴェリア…」

 名前を何度か反芻する…海底遺跡で保護された冥府の王がそんな名前だった様な…そうだ!

「イクスヴェリア様っ!?」
「イクスでいいですよ、アインハルト」

 驚きの声をあげるアインハルトにイクスヴェリアは優しく答えた。



(さて…イクスはどうするつもりやろ…)

 フェイトから話を聞いてはやてとなのはが思いついたのはアインハルトとイクスを会わせて彼女の悩みに対するきっかけを作る。
 でも彼女が今まで抱えてきた心の問題をそんな簡単に解決できるものなのか?

「ヴィヴィオならオリヴィエさんやあっちのアインハルトちゃんに会いに行こうとするんじゃないかな」

 昨夜なのはが言った言葉を思い出す。
 その方法も1つ。
 でもこことは違う世界を見せるのではなく、彼女が自分で好きな時に相談出来る人の方が良いんじゃないかと考えた。
 その話をイクスにすると彼女と彼女の中に居る『彼女』は是非会いたい、今すぐにでもと答えた。
 『彼女』についてはヴィヴィオに知られる訳にはいかない。
 それでヴィヴィオが来ない、彼女を知る私達とアインハルトがあえる場所として自宅に集まった。
 でもここから『彼女』が何をしようとしているのかはやてにも判らない。
 アインハルトの顔色が戻ってきたのを見て。

「イクス、私達は2階にいます。何かあったら廊下で声をかけてください。なのはちゃん、フェイトちゃん」
「えっ?」
「はい」
「「うん」」

 驚くアインハルトと笑顔で頷いたイクスを残してはやて達は部屋を後にした。
 


(本当に大胆さと細やかな配慮が出来る方ですね)

 イクスは部屋を出て行った彼女に頭を下げる。
 重い空気を驚きで払拭し、故人の記憶についてというプライベートな話をするには人が多すぎると考え席を外した。
 彼女に部屋を提供してくれたと言うことは私が何をしたいのかも大体は察しているのだろう。

(ありがとう…)

 瞼を閉じ中で眠る閉ざされた記憶と意識に繋ぐ。

「クラウス…あなたの子孫にこの様な形で会えて嬉しく思います。アインハルト」
「どうして…その名前を…あなたは?」

 その言葉に目の前の彼女は私の顔を大きな眼で見つめた。


~コメント~
 久しぶりに人生経験豊富な3人+1人がそろい踏みです。
 ヴィヴィオは『彼女』について知らないのでアインハルトの悩みを解決するきっかけはアインハルトにしか聞けないのではと考えています。なのはやフェイト達はヴィヴィオがそう考えるとこちらのアインハルトまで時空転移に巻き込んでしまうのと相談するには必ずヴィヴィオを通さなければならず躊躇し悩みを抱えたままになると考えています。
 
 さて、少し話が変わりましてコミックマーケット88に参加された皆様お疲れ様でした。
 猛暑で倒れる方が続出するのではと思っていましたが思ったより涼しい(?)夏コミだったそうで、行けずに悔し涙を流しながら呟きを見ていました。(静奈君が3日目のみ参加&とんぼ返りだと聞いて便乗すれば良かったと激しく後悔)
 また、サークルに足を運んでくださった&「ASおもちゃ箱2」を手にとってくださった皆様、ありがとうございました。
 今回は先に入稿したカバーで不備があり当日別のカバーをお渡ししながらとなりました。皆様にはご不便をおかけいたしました。
 尚、新カバーには「感想io」のアドレスを入れております。
 http://kansou.io/s_shina/2でも感想書いて頂けるとうれしいです。

「ASおもちゃ箱2」は今話を含んだ話になっています。
 この後の話としては文庫本にある話を掲載しますが、本編で書けなかった話もあるので都度入れていきたいと考えています。
 サウンドステージやINNOCENTSを読んでまたイノセントワールドに行ってみたいです。


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