AS28「聖王の願い」

 アインハルトがイクスと会っていた頃、ヴィヴィオとアリシアというと…
 帰り道で警防署から出てきたスバルとティアナと出会い、カフェで少し早い昼食を食べていた。

(私とティアナさんは見慣れてるけど…やっぱりびっくりするよね。)

 軽めの物を頼んだ私、アリシア、ティアナさんだったけど、スバルさんは少し…かなり多い料理を注文して私達と会話をしながら吸い込むように料理を口の中に入れていた。アリシアは途中から手を止めて驚いている。

「フェイトさんに任せちゃったけどどうするつもりかしら?」
「はやてさんの所に連れて行ったんじゃないかと思います。相談出来る人が居ないとずっと考え込んじゃうだけだから…」
「そっか…八神司令も古代ベルカ使いだったわね。」
「イクスも一緒に居るよきっと。」

 大きめの野菜と魚のフライを挟んだパンを口に放り込むとスバルが言った。

「えっ?」
「どうしてわかるのよ?」
「昨日の夜、アインハルトから話を聞いてイクスに連絡したんだ。ベルカ王の記憶に悩まされている子が居るんだけどって」
「イクスは何て」
「八神司令からその子の事聞いてて明日会うって。てっきり司令が迎えに来るって思ってたんだけどフェイトさんだったから驚いたんだけど」

 思わず転ける。

「あんたね~…そう言うことはもっと早く言いなさいよ」

 ティアナも机に突っ伏していた。  
 ヴィヴィオが悩んでいる間にフェイト達は先に動いていたのだ。
 でも…いくらイクスでも当事者じゃない人から話を聞かれてもアインハルトの過去の記憶を解決出来るのか?

「ティアが話してる間に医局に問い合わせたんだ。記憶継承っていう病気…じゃない、症例なんだって。子供の頃に覚えていて成長すれば忘れちゃうみたい。いつでも相談出来る友達や楽しい思い出をいっぱい作っちゃえば次第に忘れていくよきっと。あ~もうお腹いっぱい♪」

 見れば注文した料理を全て平らげていた…

「…全部食べちゃったよ…」

 呆然となっているアリシアを見て笑いながら

『もしアインハルトが何か見つけられたら…ヴィヴィオと競いたいって言ったらお願い出来るかな。』

 フェイトが言ったのはきっと何か変わると考えての事だったのだろう。



「それにしてもイクスに会わせて何の話をするつもりかしら? 幾ら昔の王様って言っても居た場所も違うでしょ。アインハルトが悩んでいるのは当時の世界情勢とかそういう話じゃないし」

 ティアナが首を傾げる。 
 ヴィヴィオもそう思って頷く。でも世界情勢という話を聞いてふと思い当たる事があった。

「夏休みに気になって無限書庫で調べたらこんな本があったんです。持ち出し禁止だったからコピーだけしか無いんですか…」

 そう言ってRHdから1冊の書籍データを取り出す。

「エレミアの手記?」
「ヴィヴィオ…それって」
「ヴィルフリッド・エレミアって人の手記で、オリヴィエや覇王イングヴァルト…クラウスって呼ばれてますが、その人達と一緒に居た頃の日記です。」

 珍しそうに覗き込むスバルとティアナ。

「へぇ~」
「ヴィヴィオは読んだの?」
「はい。当時の世界の事も書いていたり、オリヴィエやクラウスがどんな風に暮らしていたのか…とかアインハルトさんが言っていたオリヴィエを止められなかったって言ってたのもどの辺りの事かは何となく…。」
「ヴィヴィオ、その話をアインハルトさんにすれば…あっ! ごめん今のなし」

 アリシアが言いかけて止めた。
 本の中の記述と記憶が同じとは限らない、もし同じであって幾ら感情移入しても更に彼女の持つ記憶を解決させられるかは別問題。
 彼女も言いかけてそれに気付いたのだろう。ヴィヴィオも頷く。

「読んで、アインハルトの話を聞いてヴィヴィオはどうなの? 何か答え見つけた?」
「私の感想でいいなら…」

 そう言うと3人は黙って頷いた。



「手記に書かれているオリヴィエは幼い頃に魔導事故に遭っていて両腕を含む体内の臓器を失っていたそうです。新たな命も生み出せないって…それは全てが終わった後エレミアへの手紙で書かれるまでクラウスもエレミアも知らなかった様です。それでもオリヴィエは体内に入れられた聖王核のおかげで問題なく成長したそうです。」
「ベルカ聖王家でも継承順位が低いオリヴィエは聖王家の命令でシュトゥラ、イングヴァルト家への出向しました。」
「…今で言う人質ね…続けて」
「そこでクラウスやエレミアと仲良くなり、特にクラウスとは仲が良くゆくゆくは結ばれてシュトゥラと聖王家はより強く繋がって平和になるだろうと期待されてました。」
「でも…当時の土地が廃れ、幾つかの王国も滅んで世界情勢がどんどん険悪になる中でその影響はシュトゥラや聖王家にも出てきて聖王家は聖王のゆりかごを起動させました。当時の技術でもオーバーテクノロジーの切り札だったようです。」
「聖王のゆりかご…」
「やっぱり凄いものだったんだ…」

 スバルとティアナの顔が一瞬険しくなる。彼女達はJS事件で私達を助ける為に中に入っている。

「聖王家はゆりかごを使って世界を平定を目指し、オリヴィエはその鍵として聖王家に自らの意志で戻ったそうです。エレミアが何度も説得したけれど聞き入れてくれなかったって書いてありました。クラウスは凄くまっすぐな性格だったみたいで、オリヴィエを力づくで止めようとしたんだと思います。アインハルトさんが『どの王よりも強く』みたいに言っていたのは弱かったから止められなかったと思っていたんだと思います。それから…オリヴィエはそのまま聖王家に戻って聖王女としてゆりかごに乗って戦乱は終わりました…」
「その後オリヴィエはシュトゥラに戻ったの?」
「ううん…聖王核を持った聖王女はゆりかごの鍵だから、動かせば鍵の自我も消えて数年で命を落とすって…その後オリヴィエについては何も書かれてなかったけど…前に読んだ別の本に砦で命を落としたって。クラウスやエレミアも戦乱が終わる迄何処かで捕らえられていたそうです。エレミアの手記はその時に書かれたものです。」
「………」
「それで…ここからは私の想像なんですけど、オリヴィエが自ら聖王のゆりかごに乗ったのはクラウスとエレミアの将来を思ってだったんじゃないかって」
「どういうこと?」

アリシアが聞いてくる。

「私、まだ子供で王様の事もよくわからないですが昔の王様って何人も子供が居たんですよね? オリヴィエも継承権は低いって書いてあったから継承権の高い兄や姉が居たと思うんです。そんな中で幾ら中が良くてもシュトゥラ王家のクラウスと結婚すれば次に期待されるのは子供です。新たな命を生み出せない…子供が出来ない体になっていたオリヴィエは自分と結ばれるとクラウスの立場が悪くなって王家に災いになると考えたんじゃないでしょうか?」
「クラウスは気づいてなかったそうですが、手記を書いたエレミアも女性でオリヴィエやクラウスと拳を交える位仲が良かったから…聖王のゆりかごに乗って戦乱を終わらせてクラウスとエレミアが結ばれて新しい命と未来を作って欲しいと願ったんじゃないでしょうか。」
「そうね…そういう考え方も出来るわね。私も昔の王様の気持ちはわからないけれど…」

ティアナが頷く。

「でもアインハルトさんが…クラウスが好きだったのはオリヴィエなんでしょ?『私はいいからエレミアさんと仲良くね』って言われても…私なら無理にでも…あ!」
「うん、私もそう思った」

アリシアの言葉にヴィヴィオも頷く。クラウス-覇王イングヴァルトはそうやってオリヴィエを止めようとした。でも彼女の強い意志と力に敵わず彼女は行ってしまった。クラウスはその気持ちを捨てきれず後悔の念としてアインハルトにも受け継がれてしまった。
『どの王よりも強くあることを』



「辛い話ね。戦乱の頃って言っても…そんな時の記憶をずっと持っていたら…」
「イクスもそんな時間を知ってるんだ…」

 話を終えると一気にその場の空気が重くなってしまった。予想はしていたけどまさかここまでとは思わず。

「ごめんなさい、変な話しちゃって」
「いいのよ。私から頼んだんだから。さてと貴重な歴史の話も聞けた事だし、アインハルトの事はフェイトさんやイクスに任せて、私達も1日オフだからどこか遊びに行きましょうか? このまま帰るなんて勿体ないでしょ」
「さんせー! ヴィヴィオ、アリシアもいい?」

 空気を払うようにティアナとスバルが言う。私はアリシアと顔を見合わせ

「「はい♪」」

 強く頷きながら2人に感謝した。



 それから数日が経って、ヴィヴィオが学院から帰ろうとした時、校門前でアインハルトが待っていた。

「ヴィヴィオさん、ごきげんよう」
「アインハルトさん…ごきげんよう」

 スバルが話してくれた様にフェイトは彼女を連れてイクスと会わせたらしい。その後の2人の会話はフェイトも知らない。   

「あの…また…私と戦って貰えますか? 何処かの施設で模擬戦で…アリシアさんも一緒に」

 頬を赤めながらもまっすぐ私を見る。その瞳は悲しみは感じられず前よりまっすぐで

「はい、勿論です。次は私も全力で頑張ります」
「あ、ありがとうございます。それではっ」

そう言うと彼女は頬を崩したが次の瞬間それに気づいて頬を赤め小走りで行ってしまった。

「一緒に帰ればいいのに…今度誘っちゃお♪」

 ヴィヴィオは頬を崩して笑うのだった。


~コメント~
 アインハルト編の中でも1番悩んだ回でした。
 今話は過去の話に関連しています。エレミアの手記についてはVivid世界の無限書庫で無断コピーしてきたものAdditionalStory第37話「入れ替わるヴィヴィオ」とVivid本編を参考にさせて頂きました。又、オリヴィエの最期についてはAffectStory第08話 「繋がる糸」。話が長くなると何処かで書いたか調べるのも大変ですね(苦笑)。
 ASアインハルトについては暫くお休みですが、今後も登場予定をしていますのでお楽しみに。

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