AS30「過去の記憶」

「シャマル先生、私…シグナムさんを怒らせちゃったんでしょうか…」

 ヴィヴィオは家までの間、隣で車を運転するシャマルに聞く。

「はやてちゃんが言ってたけれど私もシグナムは怒ってないと思うわ。それよりもヴィヴィオに感謝してると思う。」
「私に感謝?」
「ええ、この前の闇の書事件の撮影で…ううん、本当の闇の書事件でもヴィヴィオやなのはちゃん、フェイトちゃんに任せちゃったでしょう。私達は主を守る守護騎士なのにはやてちゃんを助けられなかった。それにね、私達はプログラムだから誰かに私達の魔法を伝えていきたいって思ってる。」

 
 
「じゃあどうして?」
「私はシグナムじゃないからそうだって言えないけれど、どうしてヴィヴィオは紫電一閃を覚えたいと考えたのかしら? はやてちゃんも言っていたけれどゲームでもし他の魔法、私やはやてちゃん、ヴィータちゃんの魔法が使えていたら同じ様に教えて欲しいと思った?」

 もし持っていたのが別のスキルカードだったら? 
 考えた事も無かった。はやてから貰ったカードで、他に持っていたスキルカードは似た魔法だったから…。

「どうして紫電一閃だったのか、よく考えてみて。」
「はい」
 
 彼女の言葉にヴィヴィオは深く頷いた。



「まぁ思った通りやったな」

 その頃、はやてはリビングでメールを書きながら呟いた。なのはとフェイトに落ち込んで帰るだろうからフォローした方がいいと考えたからだ。

「教官は厳しいですね。1週間で新しい魔法を覚えるなんて。」
「無茶苦茶だよ。私達の古代ベルカは固有魔法が多いんだから新しい魔法が簡単に作れるわけないのに!」

 リインとアギトの言葉に苦笑しながら頷く。
 はやてもコラード教官の研修を受けている。当時は足を治療しながら、新しい生活への切り替えもあったからなのはやフェイト達の様な詰め込み特訓ではなかったけれど、それでも毎日頭がフラフラになるまで覚えさせられたしクタクタになるまで終わらなかったのを覚えている。

「いいや、教官は新しい魔法って言ってただけで戦技魔法って言ってない。高ランク研修には新しい魔法の可能性を見つけるって課題があるからそれを言っただけじゃないかな」

 ヴィータに言われてヴィヴィオが言っていたのを思い出す。確かに新しい魔法をと言っていただけで何も戦技魔法の…それも高ランクというか古代ベルカ特有の魔法を覚えなさいとか言われてない。

「そういえば…」
「確かに…」
「課題の目的が今のランクに留まらないでいつも新しい魔法を模索、想像する姿勢を求めることだからヴィヴィオなら検索魔法の1つでも作れば課題はクリアだよ。古代ベルカ式に本の検索魔法は無いから作る度に新しい魔法になる。」

 それなのに彼女は戦技魔法-紫電一閃を求めて来た。

「あいつらしいよね。」
「親子やね~」
「そっくりですね」
「そんなとこまで似なくていいのにな」

 4人で笑い合った。その時シグナムが入ってきた。

「ヴィヴィオは?」
「シャマルに送ってもらったよ。そろそろ着くんとちゃうかな」
「先程はすみませんでした。」
「ええよ、私も先に話を聞いてたから何となくこうなる気がしてた。」

 謝るシグナムをフォローする。

「でも勿体ねーよな。前に言ってたじゃんか、『誰かに自分の魔法や技を伝えていきたい』って。折角あいつが覚える気になったのに…あんな優秀な古代ベルカの騎士他にいねーぞ。私なら教えたけどな。教えてる間に話して納得出来る理由を見つければいいんだから。」

 ヴィータがニヤリと笑っていうとシグナムは彼女を少し見てから目を瞑ってため息をつく。

「ああ、私が模擬戦でヴィヴィオに負けた直後だったら喜んで教えていた。我らベルカの騎士でも最年少だからな。しかし今はあの理由だけでは教えられん。」
「やっぱり研修の課題だから?」

 私の問いかけに首を横に振って

「私も空戦研修は受けました。新しい魔法を覚えると言った課題は覚えていませんがヴィヴィオがその課題に紫電一閃を選んだことが気になりました。」
「気になった?」
「ヴィヴィオがあの魔法に目覚める前に同じ研修があれば彼女は得意な検索魔法や日常で使う魔法をアレンジしたでしょう。ですが私の魔法を選んだ。彼女は親の背を追いかけているのではと思いました。」
「なのはちゃんとフェイトちゃん?」
「はい、偶然魔法に目覚めた彼女は1年も経たない間に私やヴィータと対等になるまで素質を開花させました。ヴィヴィオも同じ様にあの魔法に目覚めて1年が経ち、少し前には主はやてやリインフォースを圧倒するまでにまで成長しました。そこまで至った理由は彼女が激戦を勝ち抜いて来たからです。ですが…この先も同じ様に勝ち続けられるとは限りません。」
「………っ!!」
「…あっ!!」

 シグナムが言った直後ヴィータの顔が険しくなる。その表情を見てはやても気づいた。

「異世界の戦いではオリヴィエ王女のおかげで墜ちずに済みましたが、同じ様な事は無いとは限りません。ヴィヴィオの話から覚悟に値する答えを見いだせませんでした。」

 …彼女が何を危惧したのか?
 はやて自身今の彼女を知るだけにその言葉を否定できず送りかけのメールの続きは書けなかった。



「ただいま~」
「おかえり、え?シャマルさん。」
「こんばんは」

 家まで送ってもらったヴィヴィオはなのはに出迎えられた。なのははシャマルを見て少し驚いたけれど、2人の後ろの車を見て

「はやてちゃん家に行ってたの?」
「うん。」

 私が頷くのを見て軽くため息をついた。
 その後シャマルを家に案内しようとするが、彼女は家でみんなが待っているからと言ってそのまま車に乗り込み、私達は見送った。

「何か用があって行ったの?」

 一緒に夕食を食べてるとなのはが聞いてきた

「うん、シグナムさんに紫電一閃を教えて下さいってお願いに行ったんだけど…断られちゃった。」
「え? どうして?」

 流石に驚いたらしく持っていたスプーンを落とした。

「コラード先生から来週迄に新しい魔法を覚えなさいって…」

 他にも理由があったけれど私自身まだどうして紫電一閃だったのかきちんと答えを見つけられてなかったからエヘヘと空笑いしつつ言葉を濁した。

「ママも研修の課題は知ってるよ。でも課題の魔法は何も戦技魔法じゃなくてもいいんだよ。ヴィヴィオなら他の魔法を新しく考えても問題ない筈だけど…」
「そうなの!?」

 コラードの話を思い出す。

『何でも良いわ来週迄に1つ使えそうな魔法を考えてきなさい。今日の課題はそれにしましょう♪』

 …たしかに戦技魔法とは言ってなかった。

「最後はヴィヴィオが決めるんだけど、別の魔法にしない? 同じ戦技魔法でもホールディングネットとかアクティブガードとか…」

 補助魔法も魔法の1つだし、戦技魔法でもある。でも…

「ママ、ごめんね。帰りにシャマル先生に言われたの。どうして紫電一閃を教えて欲しいって思ったのかって。…先生に言われたからとかじゃなくて私がどうして使いたいって思ったのかまだわかんないけど、考えてシグナムさんに私から言いたいの。」

 何がどうだからかはわからない。
 だから見つめ直して答えたい。

「そっか、ママは応援しか出来ないけど頑張って」
「うん、ありがと」

 ヴィヴィオは笑顔で答えるのだった。 

~コメント~
 今話を書いていてふと思ったのですが、AnotherStory~AdditionalStoryの頃に同じ様な課題があったとしたらヴィヴィオはどんな魔法を覚えようとしたでしょうか?
 検索魔法だったり、補助魔法だったり、回復魔法だったり…多分その頃のヴィヴィオらしい魔法を選んでいたと思います。
 そういう意味では今や立派なバトルマニアですね。(苦笑)

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