AS31「ヴィヴィオの言葉」

 夕食を食べてお風呂に入った後

【ガチャ】

 ヴィヴィオは自分の部屋に戻ると明かりも点けずそのままベッドに座り目を瞑った。

 
 どうして私は紫電一閃を選らんだのかな…

 
 コラード先生に言われたから? そうじゃない
 アリシアが言ってたみたいにブレイブデュエルで上手く使えたから? そうじゃない
 ミウラさんと模擬戦した時、使えそうになったから? そうじゃない
 そもそもどうして教えて欲しいと思ったの?
 なのはママが言ってたみたいに戦技魔法じゃなくてもいいのに…
 どうして……
 今よりも強くなりたいから?
 どうして今より強くなりたいの?
 オリヴィエさんを越えたいから?
 オリヴィエさんを越えてどうするの?
 それは…わからない。
 わからないけど…強くなりたい気持ちは本当。
 何の為に…?
 何の為…?
 ……わからない。

 フゥっと息をついて瞼を開けると…

「ヴィヴィオさん?」
「……アインハルトさん?」

 キョトンと目を丸くしたアインハルトが立っていた。



「どうしてアインハルトさんが私の部屋に?」
「…ここは私の部屋です。お風呂から出てきたらベッドの上にヴィヴィオさんが座っていて凄く驚きました。」
「えっ?」

 辺りを見回すとトレーニング用の機械らしきものがたくさんある。少なくとも私の部屋じゃない。ルーテシアの家で撮った写真もあるからここは異世界のアインハルトの家だ。

「私…知らない間に魔法使っちゃったの? ご、ごめんなさい。すぐ帰ります。」

 考えている間に虹の橋を使ったらしい。こんな事今までなかったから慌ててRHdから悠久の書を取り出した。

「待って下さい。」
「えっ…」
「ヴィヴィオさん何か悩まれてるのではないですか? 私に用があるのでは?」
「アインハルトさんに? …そっか…アインハルトさん、少しだけ私の話を聞いて貰えますか」

 呼び止められて何故ここに来たのかと考えた時、闇の書撮影時に悠久の書が異世界に飛ばしたのを思い出して私が魔法を使ったのじゃなくて悠久の書がここに連れてきてくれたのだと気付いた。

「実は…」

 アインハルトに今までの事を話し始めた。
 どうして紫電一閃を求めたのか?
 どうして戦技魔法を覚えようとしたのか?
 どうして強くなりたいと思ったのか? 

 暫く話を聞いた後アインハルトは笑った。
何故笑ったのか判らず首を傾げる。何か変な事を言った?

「クスッ、ごめんなさい。話が可笑しくて笑ったんじゃないです。私と逆ですね。」
「逆?」
「私もヴィヴィオさん、こちらのヴィヴィオさん達を会う前同じ様に強さを求めていました。『弱い王に生きる意味はありますか』『列強の王達を全て倒しベルカの天地に覇を成す』。今ヴィヴィオさんが考えている事に似ていませんか?」

 つい先日聞いた言葉。彼女の言葉が胸が刺さりズキリと痛む。

「私はノーヴェさんやヴィヴィオさん、リオさん、コロナさんと逢い私が追い求める強さがわかりました。そして…オリヴィエ陛下に逢って私の中のクラウスが求め続けていた事も知りました。私と同じ様にヴィヴィオさんも答えは持っています。」
「私が?」

 聞き返すとニコリと微笑む。

「私とヴィヴィオさんが飛ばされた世界で起きた事件…あの場所でヴィヴィオさんだけに見えていたものがあった筈です。」
「私だけが…あっ!」

 思い出した。どうしてあの時私は飛び出したのか…

「ありがとうございます。アインハルトさんが言ったみたいに私持ってました。」
「はい♪」 



「ヴィヴィオ~、今日は朝の練習しないの…って全く気が早いんだから」

 翌朝、呼んでも起きてこないヴィヴィオが気になってなのはが部屋を覗くと既に彼女の姿はなく…

「おはようございます。」

 八神家の玄関前に居た。



「さて、私に用があるらしいが。また紫電一閃を教えてくださいとでも言うつもりか?」

 リビングで待っているとシグナムがトレーニングウェア姿で入ってきた。少し汗をかいているからジョギングしていたらしい。
 リインとアギトが呼んだのかはやてやヴィータ、シャマル、ザフィーラもリビングにやってくる。

「はい。お願いします。」
「昨日も断った筈だが、教えて欲しい理由が変わったのか?」
「いいえ、昨日と同じです。コラード先生からの研修課題で新しい魔法を覚えなさいって言われたから紫電一閃を使えたらって思いました。」

 にこやかに答えるとシグナムの目が鋭くなった。

「その理由では…」
「昨日シグナムさんに断られて、シャマル先生に送って貰って考えました。どうして空戦研修で新しい魔法を使えるようにならなくちゃいけないのかって。」

 彼女が何か言おうとしたのを見て続けて話す。彼女も言おうとした言葉を止めた。

「シャマル先生となのはママに新しい魔法は戦技魔法じゃなくていいって教えて貰って、戦時魔法じゃなくていいんだってちょっと安心しました。それで課題の目的がいつも新しい、知らないものを覚えていく癖…みたいなものを教える為じゃないかって思ったんです。」 
「でもそう思ったら違う疑問が生まれました。空戦S魔導師は部隊にいれば今まで以上に危険な所にも行かなくちゃいけないんですよね。その研修の中でどうしてそんな課題を出すんだろうって不思議でした。別の…もっと大切な課題もある筈だって…でも昨日気付きました。課題で覚える魔法はきっともう少しで手が届くところへ手を伸ばす、1歩踏み出す気持ちを持ち続ける為でもあるんじゃないでしょうか。」

 みんなの顔を見ると頷いている。手をギュッと握る。 

「私も手が届かなくて悔しくて悲しくて泣いた時があります。私は2回も闇の書事件でリインフォースさんと戦いました。もし最初の闇の書事件で私がもっと詳しく事件を知っていたら、もっと別の魔法を知っていたら…リインフォースさんも助けられたかも知れません。そして撮影の時も…はやてさんの願いを壊しました。」
「ジュエルシードは純粋で強い願いを叶えてくれます。あの時リインフォースさんが現れたのははやてさんが強く願ったからです。だから本当はその願いを壊すんじゃなくて叶ったままにする方法もあった筈です。それに同じ時間を遡ってジュエルシードを見つけ封印していたら事件も止められました。でも…私はそうしませんでした。もし行けばジュエルシードが発動しない未来も出来たけれど、今の未来も続くと思ったから。」
「だからもっと沢山の知って強くなりたいんです。なのはママやフェイトママ、オリヴィエさんを目指すんじゃなくて私が高町ヴィヴィオとして。もう手が届かなくて悲して泣きたくないから。」
「それが…私が紫電一閃を教えて欲しい理由です。」
「………」
「………」
「………」
「………」

 シグナムを含め全員が黙った。何かおかしな事を言ったか不安になる。

「……ヴィヴィオ、その力を得て1歩踏み出せばそれだけお前が危険に踏み込む。なのはの様な大怪我、下手をすれば命を失うが?」
「……わかっています。でも…それでも手を伸ばすのを止めたくないです。ママ達やはやてさん、シグナムさん、ヴィータさん、シャマル先生、ザフィーラ、リインさん、アギト…機動6課のみんなが私を助けてくれたみたいに。」

 答えるとシグナムは少しの間沈黙を続けた後深いため息をついて

「…わかった…少し考えさせてくれ」

 シグナムはそう答えるに止まった。



 ヴィヴィオが家を出てStヒルデに向かうのをはやてとヴィータは見送った。

「強いね…本当に…」
「うん…隊長が教導隊に欲しいって言ってた理由がわかった。単純にストライクスターズが使えて私に勝ったからだって思ってたけど違ったんだ。誰にも出来ないから諦めるんじゃなくて誰にも出来ないって言われても出来るように目指して使える様になったから…そんな諦めない強さを見てたんだ。」

 ここまでヴィータが褒めるのは珍しい。それだけさっき彼女が言った言葉が心を震えさせたのだろう。

「さてここまでお願いされてどうするやろね?」
「私だったら教えるけどね。シグナムは堅物で頑固だからな~」

 リビングでそのまま彼女を見送る事もなく動かずに何かを考えている家族を振り返った。



 その日、なのははミッドチルダの首都クラナガンから少し離れた場所で局員への教導を行っていた。午前の練習も終わり他の教導隊員と午後からの内容や研修生の事を話しながらお弁当を食べていると

「高町教導官、お客様です」
「はい、私に? あと食べてください」

 何だろうと思いながらお弁当箱に入ったサンドイッチをみんなの前に出して弁当箱を仕舞い呼びに来た局員の方へと向かった。

「こちらです」
「ありがとうございます。…シグナムさん?」

 連れてこられたのは外だった。訓練場の前に立っていたシグナムを見て声をかける。

「休憩中にすまない」

 彼女の横に歩み寄る。

「珍しいですね。私の所に…ってやっぱりヴィヴィオですか?」

 このタイミングで来る理由は1つしか無い。
 昨夜彼女から話を聞いて翌朝に声をかけると既に姿は無かった。きっと八神家に行ったのだろうと思っていたけれど…

「…機動6課を思い出す。あの頃のヴィヴィオはなのはから離れると泣いて、転んでも1人で起き上がれず手を焼かせるなと少し苛立っていた。」
「そうですね、ピーマンが嫌いでなかなか食べてくれなくて朝練で先に出たら泣いちゃって大変でした。でも…みんなが大好きで優しくて、強い子になったって思ってます。」
「そうだな…」

 朗らかな日射と流れてくる風が心地よく昼休憩中だからか、訓練場の周りで局員が何人かグループになって楽しく昼食を食べている。

「……本当に強くなった…あの年で空戦Sランクを取るとは昔を知っていたら誰も想像できなかった。」
「私とフェイトちゃんは知ってましたよ。試験でズルをしちゃって後でヴィータちゃんから怒られましたけれど。」
「……」
「………」
「……昨日、ヴィヴィオに紫電一閃を教えてくれと言われた。」
「ヴィヴィオに聞きました。断られたって」
「昨日は研修の課題だって言われたからな…今朝もそうだったが、どうして覚えたいのかヴィヴィオの言葉を聞いた。なのはやフェイト、オリヴィエの後を追うのではなく高町ヴィヴィオとして手が届かなくて泣きたくないからだと…。」
「……ずっと私やフェイトちゃんを追いかけてましたね…そっか…」

 言葉になって嬉しい気持ちと少し寂しい気持ちが織り混ざる。

「……教えてもいいか?」
「シグナムさんが迷ってるみたいですね。」

 聞かれて互いに苦笑する。

「正直迷っている。私はなのはが墜ちた時のヴィータやフェイトを見ている。ヴィータは見舞い以外は外に出ず部屋で塞ぎ込み、フェイトは心が何処かに抜けた様になっていた。2人にとってなのはがどれ程大切だったのかその時に気付いた。」
「あの時は本当にヴィータちゃんやフェイトちゃんだけじゃなくてみんなにいっぱい心配をかけてしまいました。でも今も飛んでいます。」
「もしヴィヴィオが同じ様になれば、そのきっかけを私が与えたとしたら…教えられない。」

 シグナムが弱音を吐いているのも驚く。彼女はなのはが墜ちた時をヴィヴィオに映しているのだ。 

「大丈夫です、絶対。ヴィヴィオはレイジングハート、不屈の心と一緒なんです。もし私みたいに墜ちてもきっとまた立ち上がります。飛ぶのを諦めたりしません。だってヴィヴィオは私の自慢の娘ですから。」
「……そうか…そうだな。」

 まるで風が応援してくれている様に2人の髪を揺らす。

「再来週の休日前日夕方に家に来る様にと伝えて欲しい。手加減をする気はないから覚悟して来いと」
「わかりました。でもシグナムさんから直接聞いた方が喜ぶと思いますよ。」
「私にも用がある。時間を取らせてすまなかった。」

 そう言うとジャケットを纏って飛んで行ってしまった。

「恥ずかしがり屋さんなんだから…」

 彼女の少し変わった面を見られてなのはは飛んでいった先を眺めるのだった。

~コメント~
 今話はヴィヴィオとシグナムの回です。
 又外伝としてルネッサとアインハルトが過去に強い柵を持っているのを間近で見てヴィヴィオ自身、過去と向き合い今はどうしたいのかを考えます。
 一方でシグナムは昔なのはが傷つき倒れた時とヴィヴィオを重ね合わせています。そんな2人を比較してみたいと思ったのが今話でした。

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