AS32「新たな刃」

「うわ~…すごい~!!」

 目の前に広がる断崖絶壁の大地
 ヴィヴィオが八神家を訪れてから2週間後の休日、ヴィヴィオはシグナム達とミッドチルダから遠く離れた世界にやってきていた。

「こんな世界があるんだね~」

 隣でアリシアも驚きの声をあげていた。

 コラードから言われた新しい魔法の課題では今使える紫電一閃を見せた。
 ヴィヴィオは炎熱系への変換が使えない。ブレイブデュエルで使っていた時もそれは同じで炎熱変換ではなく高密度に圧縮されるイメージを元に魔力集中させて使った。

「まさか戦技魔法を考えてくるとは思わなかったけれど、魔力の集中も踏み込みもまだまだね」

 コラードは少し驚きながらもヴィヴィオ自身まだ使えないと思っていた所を1回見せただけでズバリ指摘した。
 そこでシグナムから直接教えて貰えると言う話をするとそんな機会は滅多にないから次の課題はそれねと言われ、もしヴィータも一緒に行くなら渡して頂戴とメールを渡された。
 言われた通りヴィータにメールをそのまま渡すと

「相変わらず容赦ねぇな…」

 メールと私を交互に見て苦笑いした。
 …なんて書いてあったのかは結局教えて貰えなかったけど…

 

 それから数日が経って練習する場所が決まったと連絡があって前日の夜に八神家でお泊まりした後、シャマルの転移魔法でここに来た。
 どうしてアリシアまで来たのかと言えば…

「私も練習しないとね、魔法使ってないアインハルトさんに簡単に負けちゃったから。」

 ヴィヴィオの魔法を見る傍らでいいならと言われ付いてきた。



「凄いですね。岩山の間を河が流れて…でも何か変な感じが」
「ええ勘してるね。ここは教会側の管理世界の1つでな、センサーとか魔力探知系の機器がない無人世界なんよ。しかも船も滅多に通らんすっごい辺境な世界。」

 後ろに居たはやてに言うと彼女は笑って答える。
 管理局や聖王教会が管理している世界は勿論、管理外世界であっても過去に何らかの魔法が関係した事件があった世界も魔力検知用センサーが設置されている。でもここは管理世界なのにそれが無い。ヴィヴィオは首を傾げた。

「センサーが無い…んですか?」
「センサーを置けへんっていうのが正確かな。」
「?」
「ここの地中深い所に何かのロストロギアが埋まってるらしくてな、凄く魔力が不安定なんよ。だからセンサーを置いても直ぐに壊れてしまうし不安定すぎて魔法文化は使えん。危険なロストロギアやったらって発掘しようとしたらしいけど結局見つからへんかったんやって。」
「え…」

 何故か凄く危ない場所に連れてこられた気がする。

「それって危険なんじゃ…」
「逆だ逆、そんな場所じゃねぇとお前の練習なんか出来ないかんな。」

 ヴィータがはやての後ろからやってきて口を挟む。

「シグナムに感謝しろよ。ここの利用許可とか転移魔法の使用許可とか全部取ってくれたんだからな。」
「私の為…」
「まぁここならちょっと位壊しても怒られへんし、全力出せんと練習にならんしな。」
「それよりお前等もテント立てるの手伝え!」
「テント?」
「さっき言ったやろ魔法系の機器は使えんから、文字通りキャンプやね。」

 後ろを見るとシグナムとザフィーラが大きなテントを立てていて、シャマルとリイン、アギトが簡易テーブルを組み立てている。

「ヴィヴィオ~アリシアも水くみお願い」
「「は~い」」

 シャマルに呼ばれて駆けだした。



「さて…初めに言っておくが私は教えるのは得意ではない。だからきっかけだけを教える。そこからは自分で考えて組み立ててくれ。」
「はい」
「アリシアは私とだ。ここは魔法が不安定だからどんな風に動くかわからねぇかんな。使わなくてもいいぞ」
「はいっ」

  
「おお~早速やってるやってる♪」

 テントの隣で石を積み上げて簡易な釜戸を作っていると音と声が聞こえてきた。
 まだ慣れていないからか4人とも魔法は使っていない。ヴィヴィオは素手だけれどシグナムとヴィータはそれぞれ自分の愛機と同じ長さの木刀を、アリシアは短めの木刀2本を使っている。時折連続で木がぶつかる音やかけ声が聞こえてくる。

「はやてちゃん、良かったんですか? 魔力が不安定な場所に来て…」  
「使わへんだら同じやろ? 久しぶりにキャンプしてみたかったし、なのはちゃんとフェイトちゃんにも連絡出来るようにしてる。家にゲートも置いてきた。それよりそこの網持って来て。」
「はいです~、んしょっと」」

 フルサイズになったリインが自分の半分位の大きさの金網を持ってくる。釜戸に置いて角に岩を置いて固定する。
「それにな、不安定な場所やからこそ私が居らんとな。」

 無人の未開世界だったら気にもしないが、魔力が不安定なだけで昔は鉱石の採掘なんかもしていたらしいし過去50年程の事故や事件も確認したが何も無かった。
 不安定だからこそ、主であるはやてが居ないともしシグナム達に何かあったら魔力を供給しなければいけない。注意はするけれどそれ程気にすることもないと考えていた。

(まぁ気にするのはヴィヴィオが全力出した時とブレイカー使った時やね…)

 それまでは気にすることもないだろう。

「さてと、キャンプの料理は時間かかるからお腹空かせて帰ってくる前に作ろうか♪」

 そう言って腕まくりをした。



 練習が終わってその日の夜、ヴィヴィオはテントから出て近くにある岩の上に座り夜空を見上げていた。
 辺りに光が無くて辺境と聞いていたからこんなに綺麗だとは思って無くて…

「綺麗…」
「星みてるの?」

 アリシアがテントに居ない私を探して出てきた。

「うん…。綺麗だなって。」
「そうだね。」

 暫く2人で空を眺める。

「…魔法って凄いんだね」

 体だけを動かして練習するイメージがあまり無くて、疲れて重い感覚も殆ど感じた事がなかった。それに、料理もそうだけど料理で使ったかまどで岩を焼いてその岩を河をせき止めて作った所に入れてお湯を沸かすなんて考えた事も無かった…。
 いつもどれだけ魔法に助けられてるかが改めて気付かされた。

「まだまだ知らない事沢山あるんだなって。魔法もそうだし、撮影やルネッサさんの事、RHdやアインハルトさん、コラード先生にシグナムさん…。」

 何でも無い様に日々が過ぎていく様に見ても知らない事は沢山出来ている。 

「へぇ~じゃあ私の事は知ってるんだ。」
「みんなよりは少しは知ってると思うけど、全部は知らないよ。だって今もどうしてここに居るんだろう?って思ってる。アレだけ練習してクタクタなんでしょ?」
「勿体ないじゃない。こんな景色を見ずに寝ちゃうなんて。それで…出来そう?」
「何となく感じはつかめたよ。明日最後に1回だけ本気で使ってみるつもり。」

 シグナムから紫電一閃を教わって何度も見せて貰って気付いた。
 紫電一閃は魔法だけじゃなくて身体的な能力、技能も必要だということ。
 だから体や魔力の成長に合わせてその時々で切り替えて到達すればいい。

「でも…また他に魔法を覚えなさいって言われちゃったら大変だね~あ、そうだ。ブレイブデュエルで色んなカードを使わせて貰えば…」
「私も考えたんだけどね…あの時偶然帰る方法を見つけられたから良かったけど…今度も帰れるかわかんないよ。」
   
 苦笑する。 

「2人とも早く寝ろよ~、練習日明日しかないんだからな。」

 ヴィータに声をかけられ

「は~い、行こっか」

 私はアリシアの手を取ってテントへ向かった。



 そして翌日の午後…

「じゃあ行きます。RHdっ」

 狙うのは目の前の岩塊。
 虹色の光の中でバリアジャケットから騎士甲冑を纏い、更に

「レリック封印解除、ユニゾンインッ!」

 虹色の光が輝きを強め白色に変わる。

 シグナムやヴィータ達は勿論、アリシア、はやて達も様子を見守っている。

(ユーリの時を…オリヴィエさんの剣のイメージで…)

 目指すのは魔法の刃。聖王の鎧を意識的に変化させて剣状にする。拳に集める事は出来たのだし、1度だけ作り出せたのだから…。
 ヴィヴィオのイメージに合わせるかの用にナイフより少し長めの光の刃が生まれた。
 それを維持したまま構えて一気に飛び出し目標の前で一気に引き抜く。

「紫電一閃っ!!」

 腕を振り抜いた直後、刃は消えてしまいレリックの融合も解けてしまった。

「失敗か?」

 岩塊は切れた様子もない。

「…形は悪くない。これからも日々練習を…」

 シグナムがフォローしようとした瞬間、岩山が揺れ始める。何が起きたと警戒する一同の中

「あれ…」

 アリシアが指さしたのは岩塊の奥にそびえ立つ岩山群、

「ウソ…」

 それがまるでヴィヴィオが振った軌跡を追う様に線が入りズレ落ちて、崩壊した。

「あ~……日々の練習もやけど場所選んだ方がいいね。」

 その言葉にヴィヴィオは深く頷くのだった。



 翌週の研修で、コラードにヴィータからの報告メールを渡した直後

「力加減を先に教えた方が良いかしら?」

 ヴィヴィオには返す言葉が無かった。

~コメント~
 今回はヴィヴィオの周りから始め、ルネッサやアインハルトと逢ったヴィヴィオの心の変化を書きたくてAS短編集としてまとめました。
 これで短編集は少しお休みですが次回は…

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