第01話「T&Hエレメンツの危機」

 世界は必然が積み重なってできている。

 いくら偶然と思えようと何か理由があるからそこにある。

 数多の必然が連なって世界は成り立っている。 

 例え幾つもの事象が目の前にあっても、選んだ事象だけが必然になる。

 事象が些細な事であっても重大な事であっても変わらない。

 それが理であり真意。

 連なってしまった必然を消す事は出来ない…

 でも…もし…選び直す事ができるなら、あなたはどうしますか?



「作戦が裏目に出ちゃったかな…」

 白い雲をかき消しながらフェイト・テスタロッサは誰ともなく呟いた。
 金色の光跡を追いかける気配はある。そしてもう1つ、先回りする光も…

「…ううん、みんなも頑張ってるんだから、私も頑張らなくちゃ!」

 愛機を握りしめ、最小半径で来た方へと向きを変えて彼女を追いかけて来た光へと向かった。



一方で

「まさか同時に2カ所だなんて…」

 高町なのはは神経を研ぎ澄まし周囲の気配を探っていた。
 相手は隠密性に特化し私達の動きを予測している。
 全力全開の1撃を当てられたら勝負はつく。でもそれは相手も判っていて射程外ギリギリの距離を維持している。
 ……明らかな時間稼ぎ。

「はやく行かなきゃ…」

 焦りだけが全力で空回りしていた。

 

 事の始まりは20分前だった。
 今日はホビーショップT&H主催のイベント。新入プレイヤーが沢山参加するイベントだからお店のお手伝いと張り切るアリシアやフェイトは勿論なのはや月村すずか、アリサ・バニングスも達ショップチーム【T&Hエレメンツ】としてイベントを手伝っていた。
 自分で作ったアバタージャケットそっくりなコスチュームを着てマイクパフォーマンスで盛り上げるアリシアと彼女に引き出されてこれまた同じ様にアリシアの色違いアバタージャケットを着せられて顔を真っ赤にしながら頑張るフェイトに遊びに来た小学生は勿論、中高生も大いに盛り上がっていた。

 しかし次の瞬間

『ハーハッハッハッ!!』

 会場を包み込む笑い声に緊張が走る。
 メインモニタに映ったのは1人の男性と2人の女性、ブレイブデュエルにドクターJとその僕セクレタリーズが突然乱入してきたのだ。

 ドクターJとセクレタリーズ。彼らは数週間前に起きたブレイブデュエルの総本山グランツ研究所への不正アクセス事件の首謀者だ。
 その事件で何らかの決め事が交わされて彼らは『目的は世界征服』と言いながら今みたいにイベント中にランダムに乱入してくる様になった。
 決め事というのはブレイブデュエルのプログラムに干渉するのではなく、ブレイブデュエルのプログラムやルールに則って強制乱入する事。
 ブレイブデュエルを運営するグランツ研究所、ホビーショップT&H、古書店八神堂はそれぞれ対応策を取っていた。


 T&Hの取った対応策というのは…

「「お願い、助けてガーディアン!」」

 デュエル中の新入プレイヤーの声を聞いて

「いくよ、アリサちゃん、すずかちゃん」
「ささっと行って片付けちゃいましょう」
「うん」

 デュエルスペース奥にある3つのポッドに飛び込みアバタージャケットを纏って彼女達の前へと飛んだ。
 やっぱり来たかと予め考えていたアリシアは少し大げさに驚きながらも私達の事を紹介している。
 セクレタリーズを上手く撃退出来ればお礼としてレアカードをプレゼント。撃退は難しいと思った人はなのは達ショッププレイヤーをガーディアンとして呼んで代わりに戦って貰うのだ。

「お願いします」
「頑張ってください。」
「応援してます!」
「うん、任せて♪」

 なのははオドオドする彼女達に笑顔で答えながら愛機、レイジングハートを呼び出し構える。

「この前みたいに出来たらいいんだけど3人だから1人ずつ…3人?」

 前回の乱入ではドクターJとセクレタリーズが2人、新メンバー1人の合計4人が乱入していた。しかし今回は…中距離戦の新メンバーが居ない。

「近づいちゃえば私達の勝ちよっ!!」
「待って、アリサちゃん」

 なのはが止めようとしたけれどアリサはセクレタリーズに突進してしまった。このまま彼女だけを向かわせたら連携が崩れてしまう。
 仕方なくなのはとすずかはアリサの後ろを追いかけた。しかしそれが罠だったと気づいたのは数分後だった。



『えっ? また乱入!?』

 なのは達の活躍をマイクで話していると別のデュエルスペースでも乱入を示すアラートが鳴る。管制室に居たエイミィの驚く声を聞いてアリシアとフェイトは顔を見合わせる。

『こんな子供相手に暴れるのは好きじゃないが、これも作戦だ。』
『おねんねして貰うわよ』
『………(何も言わず頷く)』
「さっきの乱入に中距離戦の新メンバーの子と近接戦の2人が居なかったのはこれなんだ…」

 顔を険しくしてフェイトは呟く。

「「「助けてガーディアン!!」」」 

 デュエル中の新入プレイヤーからの声が聞こえる。

「で、でも…なのは達はまだデュエル中だし…私達も司会してるし…」

 オロオロする姉に

「私が行くよ。なのは達が戻って来たら直ぐに来てって。」

 そう言うと浮いた司会席から軽快に飛び降りて奥にあるポッドに入り。

「カードドライブっ、リライズアップ!!」

 勢いよく青い空の中へと飛び込んだ。 
 


「あーもうっ! いい加減に切られなさいよっ!!」
「まだこれからじゃない。ゆっくり遊びましょう♪」

 丸いロボットみたいから次々と伸びてくる触手を切り落としながらアリサは焦っていた。死角に回り込んだ触手をすずがが防御し、なのはが撃ち落としている。
 自分が飛び込んでしまったからフェイトの応援に行けなくなってしまった。
 ここで時間をかけていたらフェイトや乱入したデュエルスペースのプレイヤー達が倒されてしまう。
 ヴィータから貰ったラケーテンハンマーを使って一気に距離を詰めて倒したいが、触手を操るメガネ女は一定の距離を保ち、もう1人の女性はその背後で何かしている。途中から触手の動きが変わったのは彼女のせいだろう。

「なのはっ、すずかっ!!」
「うん」
「でもっ」
「行かせませんよ」

 なのはとすずかの後ろにも丸い敵が現れて触手を伸ばし始めた。2人はそれを相手にせざるえなかった。

  
 一方でフェイトも

「オラオラオラッ!!」

 長身の女性が繰り出す拳の連打を必死に防ぎつつ

「んっ!!」

 時々襲い来るブーメランを弾き

「まだまだよ♪」

 上下左右に繰り出される鉤爪を避けていた。でも流石にそれらを全部防ぎきる事は難しく…

「ハァッハァッハァッ…」

 黒いマントは殆どマントの形をなさず、手足を守るのアバターも亀裂が入っていてライフポイントも残り3割位になっていた。



 フェイト1人でセクレタリーズ3人を相手にしている姿はグランツ研究所でもモニタに映されている。

「……」
「………」
「………」

 シュテルやディアーチェ、レヴィ、ユーリは勿論、用事があって来ていたはやてやリインフォースもその様子を黙って見ている。

「このままじゃT&H負けちゃうよ。」
「わかっておる。」
「僕達が応援に行けばっ!」
「…それは出来ません。」
「……そういう約束なんです。ドクターJとセクレタリーズは好きに動いても良い代わりにブレイブデュエルのプログラムには干渉しない。私達はセクレタリーズの強制乱入にはショップ毎に適宜対応する。」

 悲しそうにユーリが答える

「T&Hはなのは達をガーディアンとして対抗すると決めました。もし私達が応援に行けばショップ毎では無くなると言われて前の様にプログラムをハッキングされる口実を作ってしまいます。博士の知人ですが油断は出来ません。」
「そんな無茶苦茶な…」
「あの方法取られたら耐えられるのは精鋭が揃ってるグランツ研究所だけやろうね~、負けてもイベントが盛り上がってくれるならいいけどな。」
「じゃあ見てるしかないの?」
「……」
「……」

 レヴィの問いかけにシュテルもはやても頷くしかなかった。

  

「そろそろ降参しない? 今なら私の爪牙で楽にしてあげるわよ♪」

 空に浮かぶ小さな浮島で鋭い爪を動かしながら女性は言う。同じく鋭い眼差しで睨むフェイト。しかし既にマントは消え魔力もライフポイントも底をつきかけている。
 3人のセクレタリーズを前にここまでくれば勝敗は誰の目にも明らかだった。

「誰がっ!」

 それでも降参する訳にはいかない。
 ガーディアンとして、ショッププレイヤーとして…1人のデュエリストとして。

「あらそう、残念。じゃああっちの角で小さくなってるあの子達と一緒に落ちなさい。」  

 せめて呼んでくれたプレイヤー達だけでも逃がしたい…
 長身の女性が襲い来るのを見て目をギュッと瞑る
 しかしその時

【ガキッ】

 フェイトと彼女の間に1本の剣が突き刺さる。そして

「ディバインシューターっ!」
「落ちるのはそっちだよっ!!」

 続けざまにフェイトを除く3人に幾つもの光球が降り注いだ。
 この魔法は…ようやく来てくれた、待っていた彼女達が、声を聞いて笑顔が戻る。 

「なのはっ♪ っ!?」

 突き刺された剣の間近に2つの影がトンっと降りる。
 白のセイクリッドと漆黒のライトニングを纏った2人の少女。

「……ヴィヴィオ…アリシア!」
「うん♪」
「久しぶり、フェイト♪」

 それはブレイブデュエルを駆け抜けた【本物の魔導師】が再来した瞬間だった。

~コメント~
 前回まで短編集で久々の新シリーズです。と言っても1話完結の話ではなかったので久々という印象はあまり無いのですが(苦笑)
 AdventStoryの「advent」というのは出現とか到来という意味でad:~方へ vent:来る という複合単語です。
(もう1つ意味はあるのですが、それはまた後で…)

 今回のASシリーズで登場するイノセントは時系列的に前回から少し時間が経ってINNOCENTS「Duel:11」以降になります。
(セクレタリー全員が登場していたりするので、どんな話が気になる方は「魔法少女リリカルなのはINNOCENTS2巻」を読んでみてください。

 舞台も変わって沢山キャラクターが登場するので混乱しない様に頑張ります。

 

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