第05話 「バランスブレイカー」

「ふぅ…」

 ヴィヴィオはブレイブデュエルから出てきて息をつく。
 突然出てきてみんなを驚かせるつもりはなかった。でもあのままフェイトが負けてしまうのは見ていられなかった。

(これで…いいんだよね…)

 ポッドから出ると

『ワァアアアアアアッ!!』

 周りから歓声と拍手に包まれた。

「!?」

 思わずたじろく。隣のポッドから出てきたアリシアも驚いている。
 その後、さっきのスタッフが駆け寄って来てエイミィからT&Hに来て欲しいと伝言を受けた。

 
 
「ブレイブデュエル、聞いてたけれど本当に凄いね。」
「うん、ヴィヴィオもアリシアもとっても格好良かったよ。」
「うん♪」

 フェイトとなのはに言われて満面の笑顔で頷く。それを見てアリシアが言う。

「うん、やっと戻った。」
「え?」
「そうだね。」
「やっぱりヴィヴィオは笑顔が1番だね。」

 続けてフェイトとなのはに言われて首を傾げる。

「最近笑ってなかったでしょ。笑っても愛想笑いで本当に笑ってなかった。」

 言われて気づく。誰かに声をかけられて笑顔で答えることはあったけれど、それはあくまで会釈。

「理由も判ってたけれど…ここに来て良かったね。」
「うんっ♪」



「それはともかく…、みんなでT&Hに行くの? こっちの私達はママ達を知ってるのかな?」

なのはに聞かれて頷く。

「うん、こっちのみんなには私達が何処から来たのか教えてるから…」
「みんなに言っちゃったんだ」
「誰かさんが私を試そうとして居なくなったからね~」

 ジト目でアリシアを見る。原因が彼女だったのを思い出したらしく苦笑いする。

「でもママ達の写真を見せてないから私のママはなのはママとフェイトママだって事しか知らないよ。」
「じゃあ…」

 なのはがフェイトの顔を見る。

「うん…」
「多分…」

 ヴィヴィオとアリシアもフェイトの顔を見る。
そして全員が頷くのだった。



 それから30分後、ヴィヴィオとアリシアはT&Hでマイクを握ったアリシアと一緒にポッドが並ぶステージに立っていた。 
 近くでなのはとすずかとアリサも見ている。
 予想通りの展開でもう1人のガーディアンは休憩室でお休み中だ。
 2人のママ達はステージ袖で様子を眺めている。

『は~い、T&Hの看板娘。アリシアです。今日のセクレタリー戦で大活躍だったヴィヴィオちゃんとアリシアちゃんに来て貰っちゃいました。何だか私を褒めてるみたいで恥ずかしいな♪』

 隣で相変わらずの凄いマイクパフォーマンスを繰り広げるもう1人のアリシアに引きつった笑みを浮かべる。

「やっぱりこっちの私、あの度胸は真似出来ないよ」

 小声で話すアリシアに苦笑する。

「前で話すのは同じじゃない? クラス会議みたいに思えば…」
「無理無理無理ーっ!」
『? 知らない人も居ると思うから紹介しちゃうね。私も見間違える位フェイトにそっくりな女の子はアリシアちゃん。アバタージャケットはこれもフェイトと同じ【ライトニング】。リアルで使う2刀流はトップランカーでもピカ1だよ。』

 アリシアが紹介されて彼女は1歩前に出て手を振って答える。

(真似出来ないって言ってるけど、アリシアの度胸も凄いと思うんだけど…)

 そう思っていると司会のアリシアがこっちを向く。

『もう1人の女の子はヴィヴィオちゃん。アバタージャケットは高火力で堅い防御な【セイクリッド】しかもショッププレイヤーのなのはと同じレアカラーの白っ。Weeklyデュエルの最速クリアタイムとノンダメージのレコードホルター♪。』

 先に行った彼女と同じ様にぎこちない笑顔で前に出て胸の前で小さく手を振る。

『セクレタリーを撃退した2人には感謝の証にカードをプレゼント。ついさっきグランツ研究所から届いたカード、早速試して貰っちゃいましょう!』
「えっと…こっちがアリシアでこっちがヴィヴィオ…と」

 そう言ってアリシアはヴィヴィオ達にカードを1枚ずつ配った。商品になったレアカードは予めどっちが私のカードなのか決まっているらしい。
 カードを見ると何か盾の様な物だけが書かれている。ランクはSR、今持ってるカードで1番レアなのはR+だからこのカードが1番強いのか?

「盾って言うよりウェンディのライディングボードを細くしたみたい。武装タイプなのかな? アリシアのは?」

 彼女のカードを覗き見る。

「ブレイズフォームで使ったザンバーフォームみたいだけど…レヴィのツインブレイバーに近いのかな?」

 確かに水色の大きな刀身が2本だけ描かれている。ランクは同じくSR。

「リライズすればわかるでしょ。ブレイブデュエルのカードなんだし。」

 体感ゲームのアイテムなのだから考えていても仕方がない。

「そうだね、じゃあいくよっ」

 2人揃ってカードを掲げ

「「リライズアッープ!!」」

 カードを起動させ新たなジャケットとデバイスを纏った。
 その姿に見ていた観客から大きな歓声が送られるのだった。

しかし…

「嘘…」
「あれは…そんな…」

 なのはとフェイトはその姿に声を震わせ驚愕の表情で娘達を見つめるのだった。



 それからヴィヴィオとアリシアは暫くなのはやフェイト、アリサ、すずかと色々話した。その途中でグランツ研究所に居たはやてとリインフォースから連絡を貰って彼女が帰るのに時間を合わせて八神堂へと向かった。
 でもヴィヴィオの世界のなのはとフェイトは何かあったのかT&Hを出るまで真剣な眼差しでヴィヴィオとアリシアが貰ったカードやブレイブホルダーを見つめていた。

「こんにちは~」

 古書店八神堂の中へ入ると

「いらっしゃい。あら、ヴィヴィオ♪」

 カウンターに居たシャマルが気づいてこっちにやってきた。

「アリシアちゃんもいらっしゃい。」
「こんにちは」

 アリシアに合わせてなのはとフェイトも会釈する。
 彼女は会釈をしてから少し首を傾げる。

「はやてちゃんから話は聞いているわ、リインフォースと一緒にもう帰ってくるから2階で待っていて。」
「はい。あれ? シャマルさん、今日ブレイブデュエルはしていないんですか?」
「ええ、今日メンテナンスなのよ。だからはやてちゃんとリインフォースはグランツ博士とお話に、他のみんなはまだ帰って来てないわ。」

 そうなんだと納得しつつ

「じゃあ、私もお手伝いします。整理中の本ありますか?」
「ありがとう、でも整理する本は無いのよ。前にヴィヴィオが全部整理してくれて、まだ沢山残ってるの。それに…」

 店内を指さす。
 以前は古書だけが並べられていたけれど、少しスペースは縮小されて出来たスペースに子供向けの本やゲームらしき物が並んでいる。

「ブレイブデュエルを待ってる間退屈でしょう。だから雑誌やT&Hの商品少し置いているの。のろうさやチヴィットがお店の中見てくれているし、ブレイブデュエルが動けば殆どそっちに行っちゃうから。」

 なるほどと納得する。

「じゃあ上で待たせて貰いますね。」
「は~い」

 そう言ってカウンター横の階段で2階に上がるのだった。



「ねぇヴィヴィオ、ママ達のこと話すの?」

 2階に上がった所で荷物を置いて、リビングに入るとなのはが聞いてきた。

「そのつもりだけど、しちゃダメ?」
「ダメって訳じゃないけどここには昔の私達が居るじゃない? ここの私達にはもう知られちゃってるし色々未来に影響しちゃうんじゃないかなって。」
「フェイトとなのはさんがこっちの2人に会ったら未来が変わるんじゃないかって?」
「うん…」
「そんなこと考えるなら一緒に来なきゃよかったのに。フェイト、ヴィヴィオからここの話聞いてたんでしょ?」

 呆れたと言わんばかりアリシアがフェイトに言う。

「それは…そうなんだけど。やっぱり心配だったから…」
「あんまりフェイトママをいじめないで。ママ達が心配してる通り、ママ達となのはとフェイトが逢っちゃって未来は変わったと思うよ。それを言うなら多分前に私とアリシアが来た時にも凄く変わっちゃってる。」
「私ね、時空転移が使える様になった時はこの魔法で時間を好き勝手に変えるのはいけないんだと思ってた。だって私が好き勝手に変えちゃったら…もし私が嫌いな人が居たら消しちゃえって簡単に出来ちゃうんだよ。私は神様じゃないんだから過ぎた力だって。」
「でも今はそうじゃなくて、もし私の魔法で良い世界に出来るなら変えていきたい。きっとこの魔法を作った人が王様になったから聖王って呼ばれる様になったと思うから。」

 オリヴィエに話し、アリシアが私に話してくれた言葉。
 きっとそれが高町でも聖王でもないヴィヴィオとして出来る事。

「だから、ここに遊びに来ようって思った時から未来が変わるのは判ってた。でも変わるなら良い世界にでもできるよね?」

 どこでどう変わるかは判らないけれど、悪い未来になる可能性もあれば良い未来にな可能性もある。だったらポジティブ思考で行こうと決めた。

「そっか…そうだね。」
「ヴィヴィオなら絶対できるよ。」

 なのはとフェイトが頷くのを見て頬を緩める。 

「そうやね、ヴィヴィオちゃんなら出来るよ。」

 その時突然聞こえた声に4人は驚き振り返る。

「ごめんな、立ち聞きするつもりなかったんやけど…久しぶり、ヴィヴィオちゃん、アリシアちゃん。」

 はやてだった。時間を合わせてここに来たのだから直ぐに帰ってくるのは

「はやてさん…、ビックリしました。あっ、えっと、こっちの2人は私のママで…」
「うん、大人のなのはちゃんとフェイトちゃんやね。嘘やと思って無かったけど流石に見てビックリや。」

 驚いて固まっている彼女達に声をかける。

「なのはママ、フェイトママっ」
「あっ、ヴィヴィオの母、高町なのはです。」
「ふぇ、フェイト・T・ハラオウンです。」
「八神堂の店主、八神はやてです。」

 慌てて挨拶する2人とはやての様子にどっちが大人かと思うヴィヴィオだった。



「アハハハ、ヴィヴィオちゃんの追っかけファンか、それは大変やったな~」

 ヴィヴィオ達にお茶を出した後、はやてはヴィヴィオの隣に腰を下ろした。
 隠していても意味が無いと思い、管理局とか事件の話をする必要もないから映画に出演した後の話をした。

「まぁ、それだけ好評やったからやろうし、変わってるとどうしても人目につくからな…」

 何か思うところがあるのだろうか?

「ゆっくり遊んでいって、と言っても今日ので思いっきり目立ったからあんまりゆっくりもできひんやろうけどな。アリシアちゃん、大人のなのはちゃんとフェイトちゃん…言いにくいからなのはさんとフェイトさんもゆっくりしていって下さい。部屋はありますから」
「ありがと、はやてさん。また本の整理頑張るよ!」
「ええよ、休みに来たのに仕事したら意味ない。前に整理してくれた本だけでも十分、1人で全部片付けられるとは思って無かったからな。ありがとうな。」
「私、またなのはの家でお世話になるつもりなんだけど…いい? また練習したいし、なのはが家に連絡してOK貰ってるし…」
「じゃあ私も一緒に。親孝行♪、世界は違うけど…」

 こうしてヴィヴィオは八神堂に、アリシアとなのはは高町家で、そしてフェイトは

「私も…親孝行…」
「フェイトちゃんはダーメ♪」
「うん、ダメ!」
「フェイトママは行かない方がいいと思う」
「こっちのフェイトちゃんがお互い気になって仕方ないやろうからここに居て下さい。」

 と4人全員から却下され八神堂でお世話になることになった。



「あの、はやてちゃ…はやてさん」

 話が終わってそろそろ全員が帰ってくるだろうとはやてが立ち上がった時、なのはが声をかけた。

「はやてちゃんでいいですよ。なんです」   
「あの…ブレイブデュエルを少しだけ使わせて貰えないでしょうか? 私達4人だけで」

 何故かなのははヴィヴィオを見る。

「?」
「今日はメンテナンスでお休みでしたけどもう終わってますから、八神堂だけで動かすのは出来ますよ。ホルダーとカートリッジは持ってます?」
「はい、T&Hで貰ってきました。」

 いつの間にと少し驚くが、ヴィヴィオ達が遊んでいる間に時間はあったからその間に作ったのだろう。

「残念、八神堂の勢力拡大狙ってたのに。ついてきて下さい。」
 


「これが八神堂のブレイブデュエル…」
「地下にこんな物が…凄いね。」

 なのはとフェイトが辺りを見回しながら驚いている。

『ブレイブデュエル起動しました。スカイデュエル…4人だけで対戦出来るモードでいいですか?』

 はやての声がスピーカーを通して聞こえる。

「は~い、ヴィヴィオ、アリシアさっき貰ったカード貸してくれないかな?」
「うん、いいよ」

何をしようとしているのか判らず、ヴィヴィオとアリシアは互いの顔を見合わせた後なのはとフェイトにカードを渡す。

「ありがと」

 そう言うと2人はポッドに入ってしまった。

「フェイト達何考えてるんだろ?」
「わかんない…」

 頭に?マークを浮かべながらポッドに入り

「「ブレイブデュエル、スタンバイっカードドライブ リライズアーップ」」

 今日2度目の仮想空間へと飛び込んだ。



「ママ達何処にいるのかな?」

 スカイデュエルというのは空の上らしい。雲と青い空、所々に浮島がある世界。
 その中を飛びながらアリシアと一緒になのはとフェイトを探す。

「居たっ!」

 彼女が指さした方を見ると2人の影が見えた。

「見つけたっ! ?」

 見つけたのは良いけれど2人とも私服のままだ。

「ママ達ジャケットにならないの?」
「えっと…」
「もしかして、使い方判らずに入っちゃったとか?」

 アリシアが聞くと

「……」

 2人とも黙って頷いた。

「なのはママ、フェイトママ、デッキ…最初に貰ったカード見せて。」

 2人はヴィヴィオに言われるままカードを見せる。
 2人ともパーソナルカードが1枚とノーマルプラスが2枚とスキルカードが1枚、あとはさっきヴィヴィオとアリシアが渡したSRカードが1枚。

「多分これでリライズアップ出来ると思うんだけど…はやてさーん、ママ達のカードでリライズアップ出来ますか?」

 空に向かって叫ぶ。彼女ならきっとここの様子を見ているだろう。

『うん、ノーマルプラスが2枚あるから出来るよ。カードホルダーに2枚通して「カードドライブ、リライズアップ」って言ってみて下さい。』
「うん」

 なのはとフェイトはノーマルプラスのカードを2枚通して

「「カードドライブ、リライズアップ!」」

 叫ぶと服が光ってジャケットが彼女達を包み込んだ。
 その姿は…

「やっぱり…」
「私達のバリアジャケットだ…」

 ヴィヴィオも予想してた通りになって頷く。

『アバタージャケットタイプ【エクシード】と【ライトニングカスタム】って…なんですかそれっ!? 初めて聞くタイプです。』 

しかし、はやてにとっては初めて見るジャケットタイプに混乱している。

「はやてさーん、大丈夫です。これママ達のいつものジャケットだから。」
「フェイト、それを見るためにブレイブデュエルに入ったの?」
「ううん。アリシア、バルディッシュと話したいんだけどどうすればいいのかな?」
「え、バルディッシュ、レイジングハートも『インビジブルモード解除』」

 アリシアが言うとフェイト達の目の前にデバイスが現れた。

【Yes Sir】
【All Right】

 2人がデバイスを手に取る。

「なのは…」
「うん…ヴィヴィオ、さっきのカード使うね。」 

そう言ってヴィヴィオ達が貸したカードを読み込ませた。

 2人の身体が光ってデバイスが変形する。その姿を見て今度はヴィヴィオとアリシアが声を震わせた。
さっきヴィヴィオ達が纏った時とは装備が大きく変わっていて…

 なのはは右手に背丈に近い大きな盾と左手にそれを凌ぐ長身の銃口、更にエクシードモードのレイジングハートの先端部分とシールドが彼女の周りを浮遊している。
 フェイトも白いマントと服が無くなり、彼女の身長程の大剣が束で繋がった状態になっていた。

「ママ…それ…」
「やっぱり…ヴィヴィオ、これはね今私達が開発テストしている試作型のデバイスなんだ。名前はフォートレスとストライクカノン。AMFの中でも運用出来る魔力駆動の兵器。」
「私のは兵器じゃないけど、ザンバーモードを更に改良化した近接武装、ライオットブレードⅡ。局内でも見せていない…」
「………」
「ヴィヴィオ、アリシア…折角カードを貰ったけれどこのカードは使わない方がいい。」

 そう言うとなのはは少し離れた所にある浮島めがけてストライクカノンの引き金を引いた。
 直後まばゆいばかりの桜色の閃光が伸びて大爆発を起こし直後、浮島は影も形も無くなっていた。

「このカードは…遊びのレベルを超えている。」

 いつもとは違う低い声で話すなのはとその威力を見てヴィヴィオは仮想空間の中で冷たい汗を感じていた。


~コメント~
 ブレイブデュエルの世界で大人なのはとフェイトがアバタージャケットを纏ったら?
 今話はそんな話です。そして…その中で登場した新しいカードになのはとフェイトは驚きを越えて戦慄を覚えます。
 その理由は…

 

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