第07話 「得意と苦手」

 ブレイブデュエルの世界にやってきた次の日、早朝からヴィヴィオは少し離れた小高い丘にある公園に来ていた。色んな世界の海鳴を見て来てきたけれどここは変わらない。それがヴィヴィオの心を落ち着かせてくれる。
 瞼を閉じて心を静め集中する。
 風が木々の葉を鳴らす音が次第に消えていく。そして…僅かだけれど胸の奥が暖かくなる。
 弱い反応だがリンカーコアの鼓動。魔力の素みたいな物がここには無いからこんな風に魔法の基礎練習しか出来ない。でも…

「大丈夫…しっかり感じるから…」

 胸の奥で微かな鼓動を感じて深呼吸をした。

「もういいの?」
「うんお待たせフェイトママ」

 待っていたフェイトにヴィヴィオは目を開いて答える。
 彼女が来たのは私の付き添いだけじゃなくて… 

「そろそろ来る時間なんだけど…あっ来たみたい」

 と言っていると走る足音が聞こえて前の坂を駆け上がってくる姿が見える。恭也と美由希が軽く手を振ってそのまま駆け上がっていく、その後を追いかけるようにアリシアが…来ない?

「あれ? こっちじゃ朝起きて練習してた筈なんだけど…また寝ちゃってるのかな?」

 彼女は朝が弱い、それもちょっとやそっとじゃ起きない位…でもこっちじゃずっと早朝練習していたけれど…?

「来たみたいだよ、クスッ」

 フェイトが指さした坂下の方を見て『ああ』と納得した。

「ハァッ、ハアッ…」
「も…もうちょっと…ゆっくり…」
「あと少し、坂を上ったら休憩ですっ!!」

 フラフラと走る2人のなのはを後ろから押しながら来るアリシアが居た。

「お、おはよっ…フェイト…ちゃん、ヴィヴィオ…ここでちょっと休も…」

 息も絶え絶えに挨拶するなのはに苦笑するフェイト。

「思った通りだった。なのはもうちょっとだから、頑張ろうっ♪」
「ええ~っ、フェイト…ちゃん厳しっ」

 そのままなのはの後ろに回って背を押す。
 その様子にヴィヴィオは半ば信じられない様な物を見た気がして内心凄く驚いた。



「ヴィヴィオは知らなかったんだね。」

 坂を上がった所で『もうダメ』と2人のなのはは地面に寝転がってしまった。

「私もびっくり、なのはさん…運動苦手なんですね。」

 まさか管理局の中でも名前が知れ渡る位、有名な魔導師でエースオブエースと呼ばれている彼女が…寝転がって荒い息を吐いている。
 その様子がヴィヴィオとアリシアには信じられなかった。

「なのははね元々持ってる魔力が凄いんだ。だから教導でもずっと飛んでる。昔は少し運動もしていたけれど最近は全然だったからね。ここじゃ魔法が使えないから飛べないでしょ。アリシアからこっちのなのはも朝の練習していたって聞いてたからきっとこうなるんじゃないかなって」

 フェイトとなのはの顔を交互に見る。

(なのはママにも苦手なのあるんだ…)

 と言っても帰れば魔法が使えるのだから彼女がエースオブエースには間違いないのだけれど…



『そろそろ朝ご飯やから帰って来てな~』

 はやてからの電話を受けてヴィヴィオとフェイトは朝練中のアリシア達と別れ八神家に帰って来た。

「ヴィヴィオちゃん、フェイトさんもご飯食べたら一緒にグランツ研究所に行ってな。」

 ヴィヴィオがパンを頬張っているとはやてに言われる。そのまま頷こうとしたら対面のフェイトがジッと私を見ていたから慌てて飲み込んで答える。

「はい」
「私も?」
「はい、昨日のカードとフェイトさんとなのはちゃ…あっちもなのはさんの方がわかりやすいな。なのはさんのアバタージャケットについて博士に調べて貰える様にお願いしてます。」
「博士?」

 フェイトは首を傾げる。

「フェイトママ、グランツ博士はブレイブデュエルを作った人だよ。とっても良い人♪ 私も【みんな】に会いたいなって思ってたからいいよ。」   

 元々昨日の間にグランツ研究所には行くつもりだった。でもセクレタリーやT&Hに寄って遅くなってしまった。それに彼女達も私達が来たのを知っているから呼ばれるだろう…。



 1時間後、ヴィヴィオはアリシア、なのはと待ち合わせた後、一緒にグランツ研究所が見える所までやってきた。はやては1度八神堂に寄ってから来るらしい。

「ふぇ~…」
「ここがグランツ研究所…凄いね。」
「こんな所で驚いてないで行こう♪」
「そうそう、フェイトもここで驚いてたら今日は驚き過ぎちゃって気絶しちゃうよ♪」

 アリシアと一緒に驚くなのはとフェイトの手を取って、庭園を通り抜け建物の中へと向かった。


 
 同じ頃、グランツ研究所では

「ヴィヴィオとアリシア来るのまだ~?」

 リビングで本を読んでいるシュテルの周りをレヴィがウロウロしていた。ディアーチェは洗濯中でユーリは庭の花や木々に水をあげていてアミタとキリエは博士と一緒に先にシミュレータールームに行っている。
 シュテルとレヴィはヴィヴィオとアリシアが来た時のお出迎えという事で待っている。でも…

「朝から来ると博士が言っていましたからもうすぐでしょう。」
「さっきもそう言ったけど、もう朝だよ。全然すぐじゃないよ~」
「私も先程言いましたがもう少し待ちましょう。姿が見えればユーリが教えてくれます。それに、楽しみは待った後の方がより楽しくなりますよ。その間に対戦用のデッキを考えませんか?」
「ぶ~、そんなの昨日いっぱい作っちゃったよ! ほらっ」

 何枚かの紙を見せる。…何やら文字なのか絵なのか判らないものが乱立しているが、どうもデッキカードと攻撃防御の計算式らしい。

「…何が書いてあるのかよくわかりませんが、あの2人に攻撃や防御のパラメーターを考えても意味がないのでは? SR+のスキルカードも意味を成さないのですから」

「あっ! そうだった!!」

 ヴィヴィオとアリシアは前に来た時、ブレイブデュエルで1番強いランクに位置されるSR+のスキルカードを攻略している。
 アリシアはフェイトとのデュエルで自らのデバイスを囮にして高速移動しファランクスレイドを放った直後のフェイトを倒した。そしてヴィヴィオはシュテルが公では初めて見せたハーキュリーブレイカーを突き破った。それもデッキにある全てのスキルとスキルカードを1つにまとめると言う誰も出来なかった方法で…。
 しかも昨日のデュエルを見る限り2人とも前より強くなっている、それも格段に。

「2人とデュエルをするのでしたらパラメーターより弱点…といいますか癖を見つけた方がいいのでは?」
「癖? アリシアの癖なんてそんなの知らないよ?」
「はい、私も知りません。」

 シュテルがあっさり言った直後レヴィが転ける。

「シュテル~ん!!」
「癖は知りませんが…戦い方は判ります。アリシアのデバイス、2本の剣は迎撃する際に上手く使っている気がします。彼女から攻撃をする機会を作ってみてはどうですか?」
「アリシアが攻撃する機会を作る?」

 ヴィヴィオとアリシアを待つ事から興味を惹けたようだ。

「少し待っていて下さい。」

 クスッと笑い読みかけの本を閉じて自室に戻り端末を持って来てテーブルで開ける。

「ヴィヴィオと再戦する時の為にと博士にお願いして昨日の映像を貰いました。」

 そう言ってアリシアの映っている分だけまとめた映像ファイルを再生する。

「浮島から飛び立ったアリシアはセッテに1度斬りかかりますが彼女が避けるとそのままドゥーエに対し高速で向かいました。この一瞬でドゥーエとセッテは攻撃対象をアリシアに決めた様です。彼女もそれを考えて最初からヴィヴィオがトーレと1対1で戦える状況を作っています。ドゥーエ達は空手の有段者でブレイブデュエルでも同じスタイルのトーレが負けるとも思っていませんし、アリシアもヴィヴィオが負けるとは考えていなかったから双方の考えが同じだっただけかも知れません。そして2人を引きつけたアリシアはヴィヴィオ達と離れます。近接戦では最初の大剣では大振りになって上手く使えないと考えたのでしょう。」

 早送りする。

『私、フェイトがあんなにされて少し怒ってるんだ。だから…ちょっとだけ本気でいくよ。』
「ソードダンサーを使って2本の短剣に切り替えました。ドゥーエの爪やセッテのブーメランは見ての通り全て弾いていますが逆に攻撃手段は切り返しのカウンターしかありません。ドゥーエは兎も角セッテに至っては攻撃される心配もありません。」
「攻撃してるように見えるんだけど?」      
「ドゥーエに対してはカウンターか離れ際の1撃を狙っています。このデュエルにおいてはアリシアはヴィヴィオが来る迄の時間稼ぎ、2人がかりでも落とされない自信と実力持っています。それ程の壁をレヴィは1人で壊せますか?」
「そんなの気合いの1撃でっ!」
「彼女が同じ位の気合いを入れてきたら?」
「その時はもっと強く…」
「彼女ももっと強くしたら?」
「う~~~~…………」

 レヴィは眉間に皺をよせる。ちょっと意地悪しすぎたようだ。

「彼女が得意な迎撃主体で動くのであれば勝つのは難しいでしょう。しかし、それ以外の方法…例えばレヴィが得意で彼女が苦手な所を見つけられたら勝機もあるでしょう。」

 それ以外にもデュエルで勝つ方法はある。彼女の迎撃スタンスはとても集中力が必要で疲労しやすい。1日に何度もデュエルすれば最初はレヴィが負けていても途中で逆転するだろう。

(レヴィならこちらの方がいいでしょう。)

 でも彼女はそんな勝ち方を望まない。そう思ってシュテルはあえて言わなかった。

 そんな時

「シュテル~レヴィ~来ましたよ~。」

 ユーリの声が聞こえた。

「私は端末を部屋に置いてから行きますから先に行って下さい。」
「うん、ありがとシュテルん♪」

 軽やかな足取りで出迎えに行く彼女を見て微笑む。

「レヴィ、あなたの天真爛漫さは誰も持っていないあなただけのものですよ。」

 彼女がいれば周囲は自然と笑顔になる。それは彼女の才能だと思った。

「さて…私も後を…」

 端末を閉じて部屋に置きに行こうとした時、階段を駆け上がる足音と

「シュテルん、大変大変っ!!」

 さっき出迎えに行ったレヴィが戻って来た。

「どうしました?」
「大変っ、ヴィヴィオとアリシアと一緒におっきななのはとフェイトも来たっ!!」
「………はい?」

 流石のシュテルも彼女の言葉が理解出来なかった。



「こんにちは~」

 レヴィに手を引っ張られて階段を下りて玄関へと向かうと丁度声が聞こえた。

「レヴィそんなに引っ張らないでください。ようこそグランツけっ!…研究所へ」

 笑顔でヴィヴィオ達を出迎えようとした時、ヴィヴィオとアリシアと一緒に2人の女性が見えた。
 驚きの声をあげかけるが何とか踏みとどまった。しかし…

「ヴィヴィオ、アリシアいらっしゃ…きゃああああっ!!」

 花に水をあげていたユーリはその余裕がなかったらしく4人を見て悲鳴をあげる。
 その声を聞いて衣類を干していたディアーチェが外から走ってきて

「今の悲鳴は何だっ!…!? わぁぁあああっ!」

 流石に2人の悲鳴を聞いてラボに居たキリエやアミタやグランツ、研究員達がわらわらと顔を出し、その場が落ち着いたのは

「みんな玄関で何してるん?」

 遅ればせながらにやってきたはやてが来た時だった。


~コメント~
 イノセントの世界にやってきて2日目、ようやくグランツ研究所に来られました。今回はヴィヴィオは殆ど聞き役です。


 

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