第11話「グランツ研究所にて~その4~」

「みんなそろそろ疲れてるみたいだし、休憩しよっか♪」

 ブレイブデュエルの中でなのははフゥと一息ついてから言った。
 目の前でシュテル、レヴィ、ディアーチェは膝をついて荒くなった息を整えている。
 流石に飛ばしすぎたかなと思いながらも普段の教導と比べて時間が限られているから仕方ないかなと思い直す。

「ヴィヴィオからズルイって言われちゃうね。」

 フェイトが近寄って来て囁く。彼女も完全にブレイブデュエルの世界に慣れたようだ。

「まだ出来ます。1勝も出来ずに終わるのは…」
「ダ~メ、ブレイブデュエルは多分体を動かさない分頭を凄く使うんでしょ? 集中力が切れたままで対戦しても同じ失敗を繰り返すだけ。私達に勝ちたいならさっきまでのデータを見て何処が悪かったのか理解するのも方法の1つじゃないかな。」   
「「「………」」」

 そう言うと3人は渋々頷いた。


 

 元々なのははブレイブデュエルでシュテル達と対戦するつもりは無かった。あくまでヴィヴィオとアリシアの引率、違う世界を一目見てみたかったからついてきた。
 それがここの未来に少しは影響するだろうと考えていたけれど正体を明かさなければそれ程大きなものじゃないとも思っていた。
 しかし昨日、ヴィヴィオは未来が変わるのを知りながら悪い未来になる可能性もあれば良い未来になる可能性もあると考えた上でなのは達が一緒に来るのを快諾したのを知った。

 だったら私達はここで何が出来るか?
 朝から苦手なランニングに参加したのもグランツ研究所でシュテル達と対戦したのもそれが理由。  
 昨日ブレイブデュエルで遊んでいたどのプレイヤーよりシュテル・ディアーチェ・レヴィの3人は慣れている。ヴィヴィオの話から察するに彼女達もテストプレイヤーとして開発時から携わって来たからだろう。
 又、同時に彼女達はT&H・八神堂と一緒にブレイブデュエルを盛り上げる立場であり、それは単純に強いというだけでなくショーアップで魅せる強さでなくてはいけない。

(だからだと思うんだけどね…)

 違和感を感じたのはレヴィがアリシアと対戦した時、確信を持ったのはシュテルがヴィヴィオと対戦した時。
 魔法を魅せるのであれば今のままでも良いのだけれど、ヴィヴィオの様に実戦に身を置いてきた者やアリシアの様に実技を直接ブレイブデュエルに組み込める者が現れた時、魅せるだけの強さは崩れてしまう。
 近い将来、ここのなのはとフェイトは実技を組み込む事を覚えるだろう。
 その時になって彼女達がフロントランナーとして走り続けられる様に彼女達と競い合える様になればと考えた。


 
「それじゃ、ヴィヴィオ達と代わって向こうでさっきの反省会しよっか。」

 3人が渋々頷いたのを見てブレイブデュエルから出る。
 ポッドの中で瞼を開くと外にヴィヴィオが立っていた。

「待たせちゃってごめんね。直ぐ入る?」

 入るのかと思って場所をあけるが、彼女は首を横に振って

「なのはママ、フェイトママ何だか凄いことになっちゃってるから驚かないでね。」
「「凄いこと?」」 

 なのはとフェイトが首を傾げると、ヴィヴィオはある方向を指さす。

「「!?」」

 そしてそこに居たトーレとセッテを見て息を呑んだ。


 
「…本当に凄いね…」

 トーレとセッテ―三月と七緒の紹介に会わせてヴィヴィオ達も簡単に自己紹介をする。
 彼女達がここに来た経緯を聞いてヴィヴィオとなのは、フェイトは「ふぇ~」と感嘆の声をあげた。
 三月と七緒はジェイル・スカリエッティの娘で、ジェイルはグランツの学生時代の同期でありクイントの兄でもある。
 姉妹は一架・二乃・三月・四菜・七緒の5人。隣家の中島家にはゲンヤとクイント、ギンガ・チンク・ディエチ・スバル・ウェンディ・ノーヴェが暮らしている。
 更にクイントと高町桃子は学生時の後輩先輩の間柄らしい…。

(本当に偶然なの?)

 ヴィヴィオ達からすると三月達はJS事件で逮捕された後軌道拘置所にいる5人とJS事件時に死亡したドゥーエで中島家はヴィヴィオが生まれる前に死亡したクイントと現在の中島家の家族に分かれている。
 これで教会組のセイン・オットー・ディードが居ればナンバーズ全員が揃ってしまう。
 ディエチは前に来た時会っていたからもしかしたらスバル達も…とは思っていたけれどここまで重なっていると流石に疑いたくなる。
 でも、向こうの彼女達と違っているのは…

「よろしくな、ヴィヴィオ♪」

 爽やかな笑顔とまっすぐな言葉。

「はい。三月さん。」

 三月から差し出された手を握るヴィヴィオだった。 
 

 
「そんな訳でヴィヴィオ、早速私と勝負だ。」

 三月がブレイブホルダーを取り出す。その横で七緒も見せる。しかし

「えーずるいっ、私達も」

と彼女達と一緒に来たなのはとフェイトが頬を膨らませる。
 それを見てアリシアは苦笑いして聞いてくる。

「連戦する?」
「う~ん…アミタさん、私達ここで遊んじゃってますがまだ時間ありますか?」

 アミティエとキリエが時間を確認する。

「そうですね。午後から全ショップで新バージョンのお披露目がありますし、準備したりご飯を食べる時間や移動時間を考えれば…あんまり。」

 やっぱりとヴィヴィオは思った。
 昨日八神堂はブレイブデュエルのメンテナンスをしていた。グランツ研究所が止まっていたのもメンテナンスでスタッフが八神堂に来ていたからだろう。それにさっきグランツがユーリに手伝って欲しいと頼んでいたし、はやてが一緒に来たのも単にカードの問題だけではないだろう。
 アミタの言葉を聞いてこっちのアリシアとフェイトも「もうそんな時間なんだ」と言っている。彼女達もT&Hに行かなきゃいけない。

「じゃあ…6人みんなでしない?」

 と持ちかけた。


  
「ヴィヴィオも無茶言うよね。」

 アリシアがジト目で呟く。
 最後の1戦ということでヴィヴィオ・アリシアとなのは・フェイト、三月・七緒の2人3チームが戦う3つ巴デュエルが決まってヴィヴィオはアリシアの隣のポッドへと入った。

「3つ巴って言っても三月さんとなのははヴィヴィオに、七緒とフェイトは私目当てなんだから2対4で無茶苦茶不利じゃない。」

 他4人の目的が私達とのデュエルなのだから結果的にそうなる。    
「楽しいよきっと。士郎さんが前に言ってたじゃない『勝つ事だけが目的なのかい?』って。折角の機会なんだから私達も遊ぼう♪」

 ここでのデュエルでは負けて悔しくなっても失って悲しくなる事はない。だったらここで遊びながら新しい可能性を見つけるのもいいのかなと思っている。ヴィヴィオにとって勝敗はその次なのだから。

「まぁいいけど…何か作戦あるの?」
「なのはとフェイトの連携を崩すのが最優先。別々に相手しながら私達だけが連携できる…っていうのがベストだけど、三月さんと七緒ちゃんも居るから難しいかな。1人でなのはを相手にするのは大変だからね。」

 三月のインファイト、七緒の変則的な攻撃、フェイトの高速戦も脅威だけれどヴィヴィオにとってなのはが1番警戒しなきゃいけない相手、同じセイクリッドで砲撃系も近接戦も出来て…

(なのはは多分アリシアと同じ剣技も使える筈)

 アリシアがブレイブデュエルの中であんな技見せなければ彼女も考える事は無かったと思うけれど既に何度も見ていて、更に朝練にも参加しているなら苦戦は必至。

「とりあえず私が先に出て誰かが追いかけて来たら先にその人を倒しちゃおう。」
「うん。」

 ブレイブホルダーをポケットから出して掲げ

「「ブレイブデュエル スタンバイ、カードドライブ リライズアーップ!」」

 仮想世界へと飛び込んだ。



「都市ステージか…」 

 6人のデュエルをなのはとフェイトは興味津々に見守っている。こっちの私達がどんな風に動くのだろうという期待感と

「2対4の不利な状況をどうやって攻略するんだろうね」

 ヴィヴィオとアリシアのコンビネーションが楽しみだった。
 そんなところに

「こんにちは~レヴィ」
「お邪魔しま~す。居た居たシュテル♪」
「このは、オーッス♪」
「わかば」

 少女が2人入ってきた。ふと何処かで見たような…と首を傾げ思い出す。

「私とレヴィのクラスメイトです。今日はどうしたのですか?」

 シュテルが聞くとわかばとこのは途中で立ち止まる。

「えっ!? 今日は忙しくなるから手伝って欲しいって」
「レヴィから電話貰って来たんだけど?」
「レヴィ~」
「あっ! 忘れてた…」

 睨むディアーチェにレヴィがポンと手を叩く。察するにレヴィが彼女達に頼んでそのまま忘れてしまっていたらしい。
 彼女らしいと言うか何というかと思ってクスッと笑った瞬間、2人の肩の所で何かが動いた。

「はいはい、そろそろお昼だから色々買ってきたんだ。なはと、リヒトももうちょっとだけ我慢ね。」

 ぴょこっと肩に乗る様に2匹の動物が現れる。その1匹が飛び降りてはやての肩に乗った。

「おかえり、なはと♪」
(なはと?)

 何処かで聞いた名前…。

「うちで飼ってるんですけど人見知りなんでメンテナンスの間預かって貰ってたんです。迷惑かけへんだか?」

 なはとの喉をくすぐると気持ちよさそうにしている。

(なはと…もしかしてナハトヴァール!?)

 ギョッとしてなはとを見るを睨んでいると思ったらしく額の角を震わせて威嚇されてしまった。

「あの~もしかして昨日の」

 なのはの様子をみていたわかばが会釈する。

「昨日? あっ!」

 思い出す。ヴィヴィオ達のデュエルを気にしていた時なのはとフェイトに話してくれた2人。

「知っているのですか?」
「昨日ちょっとね。あの子の母です。」

 あえて名乗らず会釈すると彼女も「ああ!」と納得する。
 ディアーチェが2人と一緒に昼食を用意すると出て行った後

「世間は狭いですね。」

 シュテルの言葉に頬を崩して頷いた。
 


 一方ブレイブデュエルの中ではバトルは既に始まっていてヴィヴィオとアリシアは窮地に陥っていた。

『流石に強いね。アリシア大丈夫?』
『なんとかっ!でもそんなに持たないかも…』

 ヴィヴィオが囮役として飛んでいると三月と七緒と遭遇した。作戦通りアリシアに連絡するとタイミングを合わせたかの様に彼女はなのはとフェイトと対峙していた。
 ヴィヴィオが囮なら後ろを必ずアリシアが追いかけている筈だと考えたらしい。

(早く応援に行かなきゃ…なんだけどっ!)
「こっちも楽しもうぜっ!!」

 トーレの連続パンチを避けながら背後のセッテを警戒する。彼女達にもばれていたのだ。


 
「リインフォースさんも大変だったんだ。ブラッディダガーがあれば完璧だったんだけど」

 なのはとフェイトの挟撃に対峙しながらアリシアは呟く。
 ソードダンシングで2本の小太刀に変えて対峙する。
 フェイトの素早さよりも驚異だったのはなのは。彼女も剣術を教わっているからなのか次の動きを知って攻撃してくるし、何よりあの黒いジャケットになった途端の速さとフェイトへの的確なフォローで連携を崩すきっかけすら見つけられない。
 


(このままじゃ…)

 フォートレスのシールドのみ起動させてセッテのブーメランを弾く。このままではそれぞれ負けてしまう。トーレのキックを受けて後ろに飛んだ時、市街地の中で少し広い公園を見つけた。

『こうなったらっ、アリシア聞こえるっ?』
『何? 今忙しいんだけどっ!』
『東に少し飛んだら大きな公園が見えるからそこに集合、そこで4人まとめて相手する。2人ずつ相手にしてるより良い。』
『わかった!』
  


(正解♪)

 ヴィヴィオとアリシアの通信を聞いてなのはは笑みを浮かべる。三つ巴の中で三月と七緒、なのはとフェイト、互いの矛先が向き合えば良かったのだけれどこういう状況も想定しなきゃいけない。
 思った通りこっちのなのははアリシアの攻撃を全て抑えているしフェイトも対策を考えてきている。前回ヴィヴィオを子供だと油断していた三月にも隙はなく、出来た瞬間七緒がフォローしている。
 こうなると時間が経つほど不利になる。状況を改善するには合流するしかない。あとは合流するまでに4人がそれに気づくかどうかだ。
 それにしても…

「楽しそうだね、ヴィヴィオ。」
 
 ピンチだというのに彼女はその状況を楽しんでいる様にみえるのだった。

  
~コメント~
 グランツ研究所での出来事、まだ2日目なのに11話まで来てしまいました。そしてイノセント編でやっと登場させられたななと&リヒト。
 ほぼ登場キャラクターも出そろって来たのでこれから少しずつ話は進みます。
 
 

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