第28話「彼女からもたらされたもの」
- リリカルなのは AdventStory > 第3章 湾曲した世界
- by ima
- 2016.04.16 Saturday 22:29
ヴィヴィオ達が高町家に向かっていた頃
「みんな、グランプリお疲れ様。無事に終わったお祝いに」
「「「「かんぱーい!」」」」
ハラオウン&テスタロッサ家ではグランプリの成功を祝っていた。
プレシアとリンディは疲れを癒やすアルコールを得る口実として、アリシアはフェイトを慰める会としてエイミィと一緒に音頭を取って設けた席だったのだけれど…
「アリシア、司会凄く良かったよ。クロノ、エイミィ手伝えなくてごめんね。」
今までグランプリでシュテルに負けた後はそれなりに沈んでいたから今回もそうだと思っていたのだけれど、いつもと変わらないのを見てアリシアはクロノとエイミィと顔を見合わせる。
「みんな、グランプリお疲れ様。無事に終わったお祝いに」
「「「「かんぱーい!」」」」
ハラオウン&テスタロッサ家ではグランプリの成功を祝っていた。
プレシアとリンディは疲れを癒やすアルコールを得る口実として、アリシアはフェイトを慰める会としてエイミィと一緒に音頭を取って設けた席だったのだけれど…
「アリシア、司会凄く良かったよ。クロノ、エイミィ手伝えなくてごめんね。」
今までグランプリでシュテルに負けた後はそれなりに沈んでいたから今回もそうだと思っていたのだけれど、いつもと変わらないのを見てアリシアはクロノとエイミィと顔を見合わせる。
「フェイト、落ち込んでないの?」
「どうして?」
不思議そうに首を傾げるフェイト
「どうしてって…」
「グランプリの後いつも落ち込んでるでしょ。『シュテルに勝てなかった』って。今日もそうじゃないかって、一緒に元気づけなきゃと思ってたんだけど…あれ?」
クロノとエイミィに言われて『ああ』と納得して頷く。
「うん、負けて悔しかったよ。沢山練習したしなのはが負けちゃったから私が勝たなきゃ、絶対にって思ってたのに私も負けちゃった。シュテルにも負けて2位から4位になっちゃった…。」
「でもね、アリシアとヴィヴィオのデュエルを見てそんなの全部吹き飛んじゃった。」
エヘヘと笑うフェイト
「だって、あんなデュエル見ちゃったら今の私じゃ勝てないって判った。でも…足りないものも教えてくれた。」
「強くなるよ。次は負けない…。」
瞳に宿る強い意志と拳を強く握りしめる妹を見て
「さっすが私のフェイトだよ~♪」
イスから飛び降りて彼女の後ろに回り込んで抱きしめた。
その光景をいつの間に用意したのかビデオカメラでさり気なく収めるプレシアに他の皆は嘆息しつつも頬を崩した。
同じ頃グランツ研究所では日も暮れてきたのにグランツを含むスタッフ全員が端末に向かっていた。
今までのグランプリであれば無事に終えてパーティでもするところなのだけれど今回は違っていた。
その原因はヴィヴィオとアリシアだった。
ヴィヴィオは魔法を先に読み込むだけでなくSR+スキルカード、スターライトブレイカーの効果を限定的に使った。
アリシアがなのは戦とヴィヴィオ戦で見せた高速移動はスキルカードを使った効果ではなく実際に彼女が動くイメージをブレイブデュエルが反映させた結果だった。
今まで誰もしなかった、出来なかった事が次々と繰り広げられたデュエルはテストプレイでは得られなかった貴重なデータの宝庫でそれを得た全員がデータ解析に集中していた。
その片隅でシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリも1台の端末を借りてデータと睨めっこしていた。
「映像データではコマ送りでも5コマしか映っていません。しかも移動開始と方向転換、攻撃を除けば2コマです。」
「ヴィヴィオとアリシアの相対距離は大体10メートルでこの映像は1秒60コマだから速さは…」
「200メートル、1時間だったら720キロ」
ディアーチェが計算しようとした時横で即答するレヴィ。ユーリが端末で計算結果を出すと同じ値が出て感心する。
「音速の約6割ですか…仮想空間の中とは言えとんでもない速度ですね。」
「それでもヴィヴィオは動き始めた時にはインパクトキャノンを放って防御態勢に変わっている。」
数値に出して見て改めて驚かされる。アリシアの動きは瞬間とは言え飛行機並の速さを出していた。動いたアリシアも凄いがその動きについて行っていたヴィヴィオも大概だ。
「凄いです。ヴィヴィオはアリシアが動き出す前にインパクトキャノンを撃とうとしています。」
「動く先を読んで? でもそんな事は…」
出来る筈がと言いかけるがその後ヴィヴィオは防御しているのだから…
「…であろうな。」
ディアーチェも同じ考えらしい。
「明日にでも八神堂に行って聞いてみましょう。」
「そうだな」
それぞれが今日のデュエルを反省、調べていた頃ヴィヴィオ達は高町家に着いた。
「ごめんなさい、なのはママ。遅くなっちゃった。」
「ううん、こっちもさっき起きたところだから。」
玄関を入った所でなのはが待っていた。
「起きた?」
「…うん…驚いて大声出さないでね。フェイトちゃん、アリシアも…」
なのは、フェイト、アリシアの顔を見る。どういう意味か判らないけれど頷いて家の中に入りリビングへと向かった。
「…連れてきたよ。」
なのはがそう言ってリビングの中へと入り、その後に続いて入ると…
「…っ!」
目の前に彼女は居た。
「……ヴィヴィオ?」
「ウソ…」
桃子の横でヴィヴィオが座っていたからである。
「ヴィヴィオちゃんが…2人?」
目を丸くして驚く桃子、2人のヴィヴィオを見て驚く士郎と恭也、美由希。子供のなのはも2人を見比べている。
「私?…」
「未来から来たヴィヴィオじゃないよ。彼女はアインハルトちゃんと一緒にグランツ研究所に居る筈だから。」
「えっ! じゃあ…」
ヴィヴィオの思考を読んだのかなのはが言う。
目の前のヴィヴィオが私とアリシア、フェイト、なのはを見た後小さな声で呟く。
「お姉ちゃんとヴィヴィオ…やっと見つけた…」
その呟きをヴィヴィオとアリシアは聞き逃さなかった。
「お姉ちゃん?」
「まさか…チェント?」
恐る恐る聞いたアリシアの言葉に目の前の少女は頷いて答えた。
「私を探してたって?」
チェントの希望でヴィヴィオは家の隣にある道場に来ていた。なのはやアリシア、フェイトには
「後で全部話すから今はごめんなさい」
と言われ2人きりなるここを選んで連れてこられた。
「お願い、お姉ちゃんとヴィヴィオを助けて」
「私とアリシア…何があったの?」
そこで彼女から聞いた言葉はヴィヴィオの想像を遙かに超えるものだった。
話を聞き終え、チェントを連れてリビングに戻るとアリシアが駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「うん…私も全部は聞いてないけど私達を探しにここに来て魔法が使えなくなって困ってたみたい。アリシアごめん、直ぐに戻らなきゃ。なのはママ、フェイトママも一緒に」
「戻るって?」
「私達の世界。私、先にグランツ研究所に行って直ぐに帰れる様に話ししてくる。アリシア、チェントと後で来て。フェイトママ、はやてさん達に直ぐ帰らなきゃいけなくなったってお話お願い。」
「急にどうしたの?」
「何かあった?」
「ヴィヴィオ、何があったのかはわかんないし急いでるのは判るけど、チェントの顔色もあまり良くない…明日の朝じゃだめなの?」
振り返ってチェントを見るとなのはの言った通り顔色は良くないし少し歩いただけでも少し息を荒げている。でも、彼女の話だとそれ程時間は残されていない。
「わ、私は大丈夫です。急がなきゃ…」
弱々しくもはっきりと頷き返したのを見て。
「いきなり来て、また直ぐに帰ってって我が儘言ってごめんなさい。次に来た時に何があったのかお話します。」
そう言うとペコリと頭を下げて駆けだした。
「ハァッハァッ…博士、みんな、夜遅くごめんなさい。」
全速力で走ってグランツ研究所に着いた時、そこにはグランツとシュテル、ディアーチェ、レヴィ、ユーリとヴィヴィオとアインハルトが待っていた。
「なのはさんから話は聞いているよ。何があったのかは知らないけれど急に戻らなくてはいけなくなったと、プロトタイプの準備は出来ている。」
なのはが電話で連絡してくれたらしい。
「ありがとうございます。」
「全員揃うまで少し時間があります。その間に何があったのか教え貰えませんか?」
「それは…ごめんなさい。でも次に来た時全部お話します。」
グランツや彼女達は直接関係していない。今言うべきかは悩むが士郎や桃子達にも話していないから話すべきではないと考えた。
「勝手すぎるのではないか?」
眉間にしわを寄せるディアーチェ。言われなくても判っている。
「本当にごめん…でも、急いで戻らなきゃ大変な事になっちゃう。」
「ディアーチェ、ここまでヴィヴィオが急いでいるんです。責めるのは…」
「判ってる、判ってるが…」
「ねぇ、私たちにも手伝えないかな?」
ヴィヴィオが言う、でも
「ごめん、でもその気持ちだけでも嬉しい。」
彼女達を関わらせてはいけない。
でもそこでそう言わせているのが今のヴィヴィオだと気づいた。
話を聞いて焦りすぎていたのに気づく。フゥ~っと深呼吸をする。
「そうだ♪ ママ達が来るまで少し時間があるからちょっとデュエルしない? みんなに見て貰いたいのあるし。」
「!?」
「ええ、構いませんが…いいのですか?」
「うん、でも揃ったら終わりだけど。」
さっきとは打って変わって和やかに答えた。
「伝説的なショッププレイヤー、シュテルさん、ディアーチェさん、レヴィさんの3人を相手にヴィヴィオさん2人と私で大丈夫でしょうか?」
アインハルトが不安そうに言う。
「平気平気♪ アインハルトさんとヴィヴィオのデバイスって補助制御タイプだよね。だったらきっと覚えると便利だよ。あっ忘れてた。シュテル~見せたいものあるから私ちょっとズルするよ~。」
彼女を励ましつつポッドに入ろうとするシュテルに声をかける。
「何をするつもりか知りませんが最初にズルといわれても…」
彼女は手を上げて苦笑いしながら入る。
「じゃあ行くよ。ブレイブデュエル スタンバイ、カードドライブ リライズアーップ!!」
「ここは…」
「何にもないですね?」
「うん。」
ヴィヴィオ達が降りたのは灰色かかった地上に格子状の線が引かれたステージだった。
空は青いけれど雲はなく周りには建物も木々もない。
「最初に作られたテストステージです。見て欲しいものが何かが判りませんが、後でわかりやすいようにこの場所を選びました。勝負は簡単、10分間でライフポイントが残った方が勝ちでどうでしょう?」
「いいよ。」
即答するとヴィヴィオとアインハルトがギョッとして振り返る。
「そんな無茶な」
「大丈夫、2人とも近接戦は得意だよね。それ以外の攻撃は全部何とかするから。」
「………?」
どうするのか判らないヴィヴィオとアインハルトは不安そうに頷く
「補助制御タイプの凄い所見せてあげる。」
そう言って笑った。
「ヴィヴィオ君は何をするつもりだろう? ズルをすると言っていたが。」
「わかりません。それに…急に戻るっていう理由が気になります。」
「余程慌てていた様だが、こちらのヴィヴィオ君が落ち着かせてくれて助かったよ。この前みたいに壊されたら皆倒れかねないからね。」
「クスッ、そうですね。」
グランツとユーリがそんな話をしている間にデュエルが始まった。
『スターライトッブレイカァァアアッ』
ヴィヴィオが開始直後、猛ダッシュするヴィヴィオとアインハルトの援護の為かスターライトブレイカーを放つ。ヴィヴィオの魔法力ゲージが一気に残り2割まで下がった。
「「「!?」」」
最初からSR+魔法を使うと思っていなかったシュテル達だったが、咄嗟の判断で避けた。
『何を考えているのだっ!』
再び集まってフォーメーションを組もうとした所に
『タァアアアッ!』
『ハァアアアッ!』
未来組の2人がレヴィとシュテルへと飛び込んだ
『攪乱ですかっ! ですが!!』
『3対2じゃボク達は止められないよっ』
レヴィとシュテルがヴィヴィオとアインハルトの拳を受け流す。そこへディアーチェが
『穿てぇっ!』
2人目がけて砲撃を放つ。襲い来るかと身構えるヴィヴィオとアインハルトだが、砲撃魔法はディアーチェから離れるにつれて急速に萎み始め2人の所に着く前に消えてしまった。
『なっ!?』
再び放つが結果は同じ。
『奴かっ!』
『王、私が』
シュテルがヴィヴィオの蹴りを避けて飛び上がり
『ブラストファイアッ』
遠方のヴィヴィオに対して誘導弾と直射砲を放つ。
だがその魔法も急速に萎み消えた。それを見てシュテルは数値を可視化させた。
『魔力ゲージが戻っている…魔法を食べた?』
まさかの事態に声を震わせた。
「…ヴィヴィオさんの魔力ゲージがディアーチェとシュテルの砲撃魔法が消えるのに合わせて戻っています…まるで魔法を吸収したみたいに。」
「ヴィヴィオ君が言った『ズル』というのはこれだね。スターライトブレイカーの様に集束させて攻撃値を上げるスキルカードの機能を1部だけ使う。最初に彼女が放ったのはこれを私達に見させる為だろう。」
グランツは頭を掻きながら苦笑いした。
シュテルの攻撃を消したヴィヴィオはそのまま未来組を追いかけるように飛んでくる。
『洒落臭いっ、紫天の書よ』
ディアーチェが紫天の書を取り出し
『剣兵召喚、乱数展開…滅ぼせっ』
ヴィヴィオ目がけて複数の剣が現れ放たれた。
(レギオンオブドゥームブリンガー…)
ディアーチェが持つ中でも大出力系スキル。しかし放たれるのと同時にヴィヴィオは急停止し
『紫電一閃っ!』
振り抜いた軌跡を虹の光が追いかけ触れた瞬間、剣が全て消失した。
『!?』
再びかき消されたのを見て
『貴様っ!何をした!』
ディアーチェが声を荒げた。
「ヴィヴィオ君のデッキに紫電一閃は入っていないね…ということはアレはアリシア君と同じで現実の剣技とスターライトブレイカーを組み合わせたのか…」
『博士、私が見せたかったのはこれで全部です。ここからはズルなしでいくねっ♪』
そう言ってディアーチェに向かっていった。
「博士…」
「うん、ヴィヴィオ君は可能性と一緒に危険性を示してくれたんだ。魔法の1部を限定的に使えば魔法は無力化される、もしライフポイント吸収系魔法を同じ様に使われたら誰も敵わないだろう。それと現実の技をスキルと組み合わせるとその者にしか使えない新しい魔法が生まれる。しかしその威力はSR+ですら対抗出来ない。ヴィヴィオ君はグランプリでこれに気づきながらもあえて使わなかったんだ。ゲームバランスを壊しかねないと…みんなが気づく前に対処しなければいけないね。」
これ程の能力と思慮を持つ彼女が慌てるほどの事態…一体何が起きたのかと思うのだった。
~コメント~
最初に熊本県及び九州地方で地震にみまわれた方々へ、心からお見舞い申し上げます。
ということで第3章突入です。
やって来たヴィヴィオそっくりな少女「チェント」はオリジナルキャラです。
【リリカルなのはAgainSTStory】で初登場し、プレシアやアリシアと一緒にASシリーズを支えてくれています。
今回はある事件への鍵になるのですが…
「どうして?」
不思議そうに首を傾げるフェイト
「どうしてって…」
「グランプリの後いつも落ち込んでるでしょ。『シュテルに勝てなかった』って。今日もそうじゃないかって、一緒に元気づけなきゃと思ってたんだけど…あれ?」
クロノとエイミィに言われて『ああ』と納得して頷く。
「うん、負けて悔しかったよ。沢山練習したしなのはが負けちゃったから私が勝たなきゃ、絶対にって思ってたのに私も負けちゃった。シュテルにも負けて2位から4位になっちゃった…。」
「でもね、アリシアとヴィヴィオのデュエルを見てそんなの全部吹き飛んじゃった。」
エヘヘと笑うフェイト
「だって、あんなデュエル見ちゃったら今の私じゃ勝てないって判った。でも…足りないものも教えてくれた。」
「強くなるよ。次は負けない…。」
瞳に宿る強い意志と拳を強く握りしめる妹を見て
「さっすが私のフェイトだよ~♪」
イスから飛び降りて彼女の後ろに回り込んで抱きしめた。
その光景をいつの間に用意したのかビデオカメラでさり気なく収めるプレシアに他の皆は嘆息しつつも頬を崩した。
同じ頃グランツ研究所では日も暮れてきたのにグランツを含むスタッフ全員が端末に向かっていた。
今までのグランプリであれば無事に終えてパーティでもするところなのだけれど今回は違っていた。
その原因はヴィヴィオとアリシアだった。
ヴィヴィオは魔法を先に読み込むだけでなくSR+スキルカード、スターライトブレイカーの効果を限定的に使った。
アリシアがなのは戦とヴィヴィオ戦で見せた高速移動はスキルカードを使った効果ではなく実際に彼女が動くイメージをブレイブデュエルが反映させた結果だった。
今まで誰もしなかった、出来なかった事が次々と繰り広げられたデュエルはテストプレイでは得られなかった貴重なデータの宝庫でそれを得た全員がデータ解析に集中していた。
その片隅でシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリも1台の端末を借りてデータと睨めっこしていた。
「映像データではコマ送りでも5コマしか映っていません。しかも移動開始と方向転換、攻撃を除けば2コマです。」
「ヴィヴィオとアリシアの相対距離は大体10メートルでこの映像は1秒60コマだから速さは…」
「200メートル、1時間だったら720キロ」
ディアーチェが計算しようとした時横で即答するレヴィ。ユーリが端末で計算結果を出すと同じ値が出て感心する。
「音速の約6割ですか…仮想空間の中とは言えとんでもない速度ですね。」
「それでもヴィヴィオは動き始めた時にはインパクトキャノンを放って防御態勢に変わっている。」
数値に出して見て改めて驚かされる。アリシアの動きは瞬間とは言え飛行機並の速さを出していた。動いたアリシアも凄いがその動きについて行っていたヴィヴィオも大概だ。
「凄いです。ヴィヴィオはアリシアが動き出す前にインパクトキャノンを撃とうとしています。」
「動く先を読んで? でもそんな事は…」
出来る筈がと言いかけるがその後ヴィヴィオは防御しているのだから…
「…であろうな。」
ディアーチェも同じ考えらしい。
「明日にでも八神堂に行って聞いてみましょう。」
「そうだな」
それぞれが今日のデュエルを反省、調べていた頃ヴィヴィオ達は高町家に着いた。
「ごめんなさい、なのはママ。遅くなっちゃった。」
「ううん、こっちもさっき起きたところだから。」
玄関を入った所でなのはが待っていた。
「起きた?」
「…うん…驚いて大声出さないでね。フェイトちゃん、アリシアも…」
なのは、フェイト、アリシアの顔を見る。どういう意味か判らないけれど頷いて家の中に入りリビングへと向かった。
「…連れてきたよ。」
なのはがそう言ってリビングの中へと入り、その後に続いて入ると…
「…っ!」
目の前に彼女は居た。
「……ヴィヴィオ?」
「ウソ…」
桃子の横でヴィヴィオが座っていたからである。
「ヴィヴィオちゃんが…2人?」
目を丸くして驚く桃子、2人のヴィヴィオを見て驚く士郎と恭也、美由希。子供のなのはも2人を見比べている。
「私?…」
「未来から来たヴィヴィオじゃないよ。彼女はアインハルトちゃんと一緒にグランツ研究所に居る筈だから。」
「えっ! じゃあ…」
ヴィヴィオの思考を読んだのかなのはが言う。
目の前のヴィヴィオが私とアリシア、フェイト、なのはを見た後小さな声で呟く。
「お姉ちゃんとヴィヴィオ…やっと見つけた…」
その呟きをヴィヴィオとアリシアは聞き逃さなかった。
「お姉ちゃん?」
「まさか…チェント?」
恐る恐る聞いたアリシアの言葉に目の前の少女は頷いて答えた。
「私を探してたって?」
チェントの希望でヴィヴィオは家の隣にある道場に来ていた。なのはやアリシア、フェイトには
「後で全部話すから今はごめんなさい」
と言われ2人きりなるここを選んで連れてこられた。
「お願い、お姉ちゃんとヴィヴィオを助けて」
「私とアリシア…何があったの?」
そこで彼女から聞いた言葉はヴィヴィオの想像を遙かに超えるものだった。
話を聞き終え、チェントを連れてリビングに戻るとアリシアが駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「うん…私も全部は聞いてないけど私達を探しにここに来て魔法が使えなくなって困ってたみたい。アリシアごめん、直ぐに戻らなきゃ。なのはママ、フェイトママも一緒に」
「戻るって?」
「私達の世界。私、先にグランツ研究所に行って直ぐに帰れる様に話ししてくる。アリシア、チェントと後で来て。フェイトママ、はやてさん達に直ぐ帰らなきゃいけなくなったってお話お願い。」
「急にどうしたの?」
「何かあった?」
「ヴィヴィオ、何があったのかはわかんないし急いでるのは判るけど、チェントの顔色もあまり良くない…明日の朝じゃだめなの?」
振り返ってチェントを見るとなのはの言った通り顔色は良くないし少し歩いただけでも少し息を荒げている。でも、彼女の話だとそれ程時間は残されていない。
「わ、私は大丈夫です。急がなきゃ…」
弱々しくもはっきりと頷き返したのを見て。
「いきなり来て、また直ぐに帰ってって我が儘言ってごめんなさい。次に来た時に何があったのかお話します。」
そう言うとペコリと頭を下げて駆けだした。
「ハァッハァッ…博士、みんな、夜遅くごめんなさい。」
全速力で走ってグランツ研究所に着いた時、そこにはグランツとシュテル、ディアーチェ、レヴィ、ユーリとヴィヴィオとアインハルトが待っていた。
「なのはさんから話は聞いているよ。何があったのかは知らないけれど急に戻らなくてはいけなくなったと、プロトタイプの準備は出来ている。」
なのはが電話で連絡してくれたらしい。
「ありがとうございます。」
「全員揃うまで少し時間があります。その間に何があったのか教え貰えませんか?」
「それは…ごめんなさい。でも次に来た時全部お話します。」
グランツや彼女達は直接関係していない。今言うべきかは悩むが士郎や桃子達にも話していないから話すべきではないと考えた。
「勝手すぎるのではないか?」
眉間にしわを寄せるディアーチェ。言われなくても判っている。
「本当にごめん…でも、急いで戻らなきゃ大変な事になっちゃう。」
「ディアーチェ、ここまでヴィヴィオが急いでいるんです。責めるのは…」
「判ってる、判ってるが…」
「ねぇ、私たちにも手伝えないかな?」
ヴィヴィオが言う、でも
「ごめん、でもその気持ちだけでも嬉しい。」
彼女達を関わらせてはいけない。
でもそこでそう言わせているのが今のヴィヴィオだと気づいた。
話を聞いて焦りすぎていたのに気づく。フゥ~っと深呼吸をする。
「そうだ♪ ママ達が来るまで少し時間があるからちょっとデュエルしない? みんなに見て貰いたいのあるし。」
「!?」
「ええ、構いませんが…いいのですか?」
「うん、でも揃ったら終わりだけど。」
さっきとは打って変わって和やかに答えた。
「伝説的なショッププレイヤー、シュテルさん、ディアーチェさん、レヴィさんの3人を相手にヴィヴィオさん2人と私で大丈夫でしょうか?」
アインハルトが不安そうに言う。
「平気平気♪ アインハルトさんとヴィヴィオのデバイスって補助制御タイプだよね。だったらきっと覚えると便利だよ。あっ忘れてた。シュテル~見せたいものあるから私ちょっとズルするよ~。」
彼女を励ましつつポッドに入ろうとするシュテルに声をかける。
「何をするつもりか知りませんが最初にズルといわれても…」
彼女は手を上げて苦笑いしながら入る。
「じゃあ行くよ。ブレイブデュエル スタンバイ、カードドライブ リライズアーップ!!」
「ここは…」
「何にもないですね?」
「うん。」
ヴィヴィオ達が降りたのは灰色かかった地上に格子状の線が引かれたステージだった。
空は青いけれど雲はなく周りには建物も木々もない。
「最初に作られたテストステージです。見て欲しいものが何かが判りませんが、後でわかりやすいようにこの場所を選びました。勝負は簡単、10分間でライフポイントが残った方が勝ちでどうでしょう?」
「いいよ。」
即答するとヴィヴィオとアインハルトがギョッとして振り返る。
「そんな無茶な」
「大丈夫、2人とも近接戦は得意だよね。それ以外の攻撃は全部何とかするから。」
「………?」
どうするのか判らないヴィヴィオとアインハルトは不安そうに頷く
「補助制御タイプの凄い所見せてあげる。」
そう言って笑った。
「ヴィヴィオ君は何をするつもりだろう? ズルをすると言っていたが。」
「わかりません。それに…急に戻るっていう理由が気になります。」
「余程慌てていた様だが、こちらのヴィヴィオ君が落ち着かせてくれて助かったよ。この前みたいに壊されたら皆倒れかねないからね。」
「クスッ、そうですね。」
グランツとユーリがそんな話をしている間にデュエルが始まった。
『スターライトッブレイカァァアアッ』
ヴィヴィオが開始直後、猛ダッシュするヴィヴィオとアインハルトの援護の為かスターライトブレイカーを放つ。ヴィヴィオの魔法力ゲージが一気に残り2割まで下がった。
「「「!?」」」
最初からSR+魔法を使うと思っていなかったシュテル達だったが、咄嗟の判断で避けた。
『何を考えているのだっ!』
再び集まってフォーメーションを組もうとした所に
『タァアアアッ!』
『ハァアアアッ!』
未来組の2人がレヴィとシュテルへと飛び込んだ
『攪乱ですかっ! ですが!!』
『3対2じゃボク達は止められないよっ』
レヴィとシュテルがヴィヴィオとアインハルトの拳を受け流す。そこへディアーチェが
『穿てぇっ!』
2人目がけて砲撃を放つ。襲い来るかと身構えるヴィヴィオとアインハルトだが、砲撃魔法はディアーチェから離れるにつれて急速に萎み始め2人の所に着く前に消えてしまった。
『なっ!?』
再び放つが結果は同じ。
『奴かっ!』
『王、私が』
シュテルがヴィヴィオの蹴りを避けて飛び上がり
『ブラストファイアッ』
遠方のヴィヴィオに対して誘導弾と直射砲を放つ。
だがその魔法も急速に萎み消えた。それを見てシュテルは数値を可視化させた。
『魔力ゲージが戻っている…魔法を食べた?』
まさかの事態に声を震わせた。
「…ヴィヴィオさんの魔力ゲージがディアーチェとシュテルの砲撃魔法が消えるのに合わせて戻っています…まるで魔法を吸収したみたいに。」
「ヴィヴィオ君が言った『ズル』というのはこれだね。スターライトブレイカーの様に集束させて攻撃値を上げるスキルカードの機能を1部だけ使う。最初に彼女が放ったのはこれを私達に見させる為だろう。」
グランツは頭を掻きながら苦笑いした。
シュテルの攻撃を消したヴィヴィオはそのまま未来組を追いかけるように飛んでくる。
『洒落臭いっ、紫天の書よ』
ディアーチェが紫天の書を取り出し
『剣兵召喚、乱数展開…滅ぼせっ』
ヴィヴィオ目がけて複数の剣が現れ放たれた。
(レギオンオブドゥームブリンガー…)
ディアーチェが持つ中でも大出力系スキル。しかし放たれるのと同時にヴィヴィオは急停止し
『紫電一閃っ!』
振り抜いた軌跡を虹の光が追いかけ触れた瞬間、剣が全て消失した。
『!?』
再びかき消されたのを見て
『貴様っ!何をした!』
ディアーチェが声を荒げた。
「ヴィヴィオ君のデッキに紫電一閃は入っていないね…ということはアレはアリシア君と同じで現実の剣技とスターライトブレイカーを組み合わせたのか…」
『博士、私が見せたかったのはこれで全部です。ここからはズルなしでいくねっ♪』
そう言ってディアーチェに向かっていった。
「博士…」
「うん、ヴィヴィオ君は可能性と一緒に危険性を示してくれたんだ。魔法の1部を限定的に使えば魔法は無力化される、もしライフポイント吸収系魔法を同じ様に使われたら誰も敵わないだろう。それと現実の技をスキルと組み合わせるとその者にしか使えない新しい魔法が生まれる。しかしその威力はSR+ですら対抗出来ない。ヴィヴィオ君はグランプリでこれに気づきながらもあえて使わなかったんだ。ゲームバランスを壊しかねないと…みんなが気づく前に対処しなければいけないね。」
これ程の能力と思慮を持つ彼女が慌てるほどの事態…一体何が起きたのかと思うのだった。
~コメント~
最初に熊本県及び九州地方で地震にみまわれた方々へ、心からお見舞い申し上げます。
ということで第3章突入です。
やって来たヴィヴィオそっくりな少女「チェント」はオリジナルキャラです。
【リリカルなのはAgainSTStory】で初登場し、プレシアやアリシアと一緒にASシリーズを支えてくれています。
今回はある事件への鍵になるのですが…
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