第30話「事件の発端」

「今から2週間前…私の時間でですが、私はお姉ちゃんとヴィヴィオに連れられて時空転移して異世界のミッドチルダに行きました。お姉ちゃん達その日から調べに行くって出て行っちゃって、私は1人留守番をしていました。」

 チェントはプレシアからジュースを受け取って1口飲むと話始めた。

「でも…3日前にヴィヴィオから私宛に荷物が届きました。その荷物を開けたら刻の魔導書と手紙が入っていました。」
「手紙?」
 メッセージや念話じゃないんだと少し驚くがよく考えると異世界で端末を使うと違うトラブルを呼びかねないと言うのを思い出す。

「手紙には2人である事件の調査で探索していた研究施設が爆発し、その中にあったウィルスにお姉ちゃんが感染してしまった事が書かれていました。」
「!?」

 息をのむ

「ヴィヴィオはお姉ちゃんを看病しながら治す方法を探しているけれどもし見つからなかった時、もしくはこの手紙を読んだ時点で連絡が無い場合は急いで戻って時空転移を使いこなせる様になってお母さんとお姉ちゃんを助けて欲しいと書かれていました。」
「………」

 ヴィヴィオの持ったカップが震える。
 刻の魔導書をチェントに送ったのは彼女がもう時空転移を使える魔力が残っていないか使えない状態にあるということであり、プレシアとアリシアを助けて欲しいというのはチェントにヴィヴィオの代わりを頼むと言っている。…それ程追い詰められている。

「……幾つか質問いいかしら?」

 静かに聞いていたプレシアがチェントに聞く。

「はい」
「どうして私…いいえ、こちらのヴィヴィオの所に来たのかしら? あなたの世界にも私は居るわね?」
「私は魔力が強くないから時空転移も上手く使えません。使ったのも今ので2回目で…思った通りの世界に飛べるか…。ヴィヴィオの所に行ったのも本当に偶然だったんです。」
「でも…前にヴィヴィオがお姉ちゃんに言ってました。ヴィヴィオが時間軸のルーツじゃないかって、だからきっとヴィヴィオなら助けてくれるんじゃないかって。」

 チェントが私の方を見て言う。時間軸のルーツという言葉が引っかかる。

「あなたがそのウィルスに感染しなかったのは何故かしら?」
「聖王の鎧のおかげです。刻の魔導書と手紙の端が少し赤くなってました、多分お姉ちゃんの…だと思います。」

 プレシアが端末を操作し、カプセルの中にあったポシェットを開けて中の箱を取り出し、その箱を開ける。そこには1冊の本と紙が折りたたまれていた。  

「そう、ヴィヴィオ、アリシアはフェイトと一緒かしら?」
「はい、チェントが後でプレシアさんから連絡するって言ったから家にいます。」
「…ごめんなさい…」

 ヴィヴィオが答えるとチェントは頭を下げて謝る。 

「…仕方ないけれど賢明な判断ね。あなたの姉、アリシアが感染した以上こちらのアリシアとフェイトも感染すると考えた方がいい。」
(そうか、それでチェントはアリシアが来るのを止めたんだ。)

 何故止めたのかが判り感心するヴィヴィオだった。



 その後、プレシアは魔導書と手紙に付いた血痕から調べると言って2人には医務室で休む様に言った。
 ブレイブデュエルの世界から戻ってそのまま空間転移を2回した位だったからヴィヴィオ自身はそれ程疲れていなかった。しかしチェントは使い慣れていない時空転移をした影響で相当魔力を使っていて、プレシアに状況を伝えられ精神的な緊張か解けたからか

「…スゥ…」

 ベッドに横になった途端寝息を立ててしまった。折角おしゃべり出来ると思っていたのにちょっとつまらない。

「私を知ってたって事はU-Dの時に来たヴィヴィオだよね。ヴィヴィオとアリシアはどうして行ったんだろう?」

 今まで意識して異世界に行った事は何度かあるし事件に巻き込まれたのも1度や2度じゃないからまだ落ち着いていられる。でも…ヴィヴィオが刻の魔導書をチェントに渡さなきゃいけなくなる程の窮地に陥るという状況が思い浮かばなかった。
 それはヴィヴィオが初等科学生で無限書庫の司書で古代ベルカ文字を読むことが出来ても、プレシアやチェントの会話が理解出来なかったからなのだけれど…
 流石にまだ眠れそうになく、チェントを起こさない様に医務室から出てロビーへと向かう。
 その途中でプレシアの研究室を覗いたが

「………」

 こっちに気づく様子もなく複数の端末を広げて調べていた。
ヴィヴィオはそっとその場を離れロビーへと向かった。


 その頃、元の世界に戻って来たなのは達は一息つきたいところだったけれどプレシアからの通信を受けてヴィヴィオが何らかの事件に巻き込まれた現実に向き合わざるえなかった。

(朝になったらアリシアと一緒に家に行って身の回りのものを持ってこなきゃ…あっ、今夜の夕食何にしよう?)

 どうでも良いことや妙な事が頭の中で浮かんではそれを打ち消していた。 
 そんな中でアリシアが端末を出して何かを始めていた。フェイトも気づいたのか彼女の端末をのぞき込む。

「姉さん、何してるの?」
「何って学園祭の準備。ヴィヴィオにも出て欲しいけれど多分無理でしょ。私がフォローしなきゃ。前にどんなのがいいか相談してたからそれを忘れない内にまとめてるの。私が出来るの…それ位だから。だからヴィヴィが来られなかったのを悔しがる位楽しい学園祭にしちゃうんだ。」
(そっか…アリシアは…)

 今までの彼女ならヴィヴィオについて行こうとしただろう。しかし今度の事件では無理を通せばヴィヴィオ達にも危険が及ぶ。プレシアの言葉の節々にそれは込められていた。
 相反する思いを抱え込んで更に前に進もうとしていた。

「そうだね。私達も何か手伝えないかな?」

 そう言った時、彼女の端末が鳴った。



「アリシア、まだ起きてる?」

 RHdを通して彼女に通信を送る。

『うん。フェイトやなのはさんも一緒に居るよ。繋ごうか?』
「お願い。」

 そう言うと画面が現れそこに3人の顔が映る。

「なのはママ、フェイトママ、アリシア…何だか凄い事になっちゃった。」

 エヘヘと笑う。

『プレシアさんから話は聞いた。ヴィヴィオは大丈夫?』
「うん、ちょっと疲れたかなって感じ。でもチェントは凄く疲れてたみたい。」

 答えるとなのはとフェイトはホッと息をつく。

『これからどうするの?』
「わかんない。でもチェントがアレを使うより私の方が使い慣れてるからプレシアさんが作った薬を届けるか2人をこっちに連れてくるんじゃないかなって。」

 多分ある程度判った時点でプレシアから話はあるだろう。そしてその結果と共に動かなくちゃいけない。そうじゃないとここに私達を残した理由が思いつかない。

『やっぱり学園祭はお休みになりそう?』
「わかんないけど…多分そうなるんじゃないかな。ごめんね」
『いいよ、どっちかって言うと私が迷惑かけてるんだし。異世界のだけど』

 苦笑いする。

『ママとしては危ないから行って欲しくないんだけど…行かなきゃいけないんだよね?』
「うん、チェントの話だとヴィヴィオとアリシアはユーリを助けた時に来てくれたから2人だから、私…あっちの私に1度助けて貰ってる。だから行かなくちゃ。」
『…うん、途中で帰って来たらメッセージでも良いから連絡してね。』
「うん、約束」

 右手を出して小指を伸ばした。触れられないけれど確かな約束。

「いってらっしゃい。」
「行ってきます。」
 


「ふぁ…」

 翌朝、ベッドで目が覚めると見慣れない天井だった。プレシアの研究所で泊まったのを思い出して外を見る。
 小窓を見ると光が差し込んできていた。起き上がってン~っと伸びをする。
そんなに疲れていないと思っていたけれどそうでもなかったらしい。

「おはよう、チェン…ト?」

 隣のベッドで眠っている筈の彼女に声をかけようと振り向いた時、そこは空っぽになっていた。

「?」

 部屋を出るとチェントがトレイ乗せたカートを運んでいた。

「おはようヴィヴィオ」
「おはよう…それは?」
「朝ご飯。あり合わせの物ですけど…」

 程よく焼けたパンが入ったバスケットとサラダとスープ。生活力は私よりある…妙な所で感心する。

「お母さん、私のせいで徹夜だから…一緒に食べましょう」

2人で一緒に呼びに行くと

「一区切りついたところだから丁度いいわ、食べながら話しましょう。」

 プレシアの研究室で朝食を食べ始めた。



「食べながら聞いて頂戴、アリシアが感染したのは魔導技術で作られたウィルスよ。感染すると何らかの効果を発揮するウィルス、でも適合しなければ…時間の問題。」

 パンを運ぶ手が一瞬止まる。

「魔導技術で作られているウィルスだからヴィヴィオやチェントは無意識で危険を察し聖王の鎧で遮断出来たのね。ヴィヴィオはアリシアの感染を広げさせない為に鎧を作り続けている筈。」

 アリシアの近くで聖王の鎧を使い続ける…そんな無茶苦茶な使い方をすると幾ら成長したヴィヴィオでも持たない。

「ええ、それで彼女はチェントに本を託した。ヴィヴィオ、食べ終わったらチェントと一緒に2人の居る世界に行って連れ帰って来なさい。時間は1週間後…それ迄に対処法は用意する。」
「はいっ!」

 きっとこうなると思っていた。今はまだ何が起きたのかも判らない。それを知るには彼女達に会うしかない。
 ヴィヴィオは真剣な眼差しで深く頷いた。


「それで…どうやって行くのですか?」

 食事を終えた後、チェントに聞かれた。ヴィヴィオはプレシアと顔を見合わせる。

「「…………」」
「…チェントが時空転移使って連れてってくれるんじゃ?」
「えっ!?」
「えっ?」

 驚いて聞き返すチェントにヴィヴィオも驚いて聞き返す。

「む、無理ですっ!! 1人でも使いこなせないのにヴィヴィオを連れてなんて」
「でも、私その世界行ってないし…知らない世界は流石に無理かと…」
「…お母さん~」

 困り果てた彼女がプレシアに助けを求める。

「困ったわね、私もチェントが連れて行ってくれるものだと。チェント、貴方はどうして使えないと思うの?」
「私の魔力はヴィヴィオみたいに高くないんです。デバイスとジャケットを使っても総合Bくらいしか…。」
 成る程と納得する。刻と空間を飛ぶ時空転移は相当な魔力を消費する。そしてその時間が現在と離れれば離れる程より多くの魔力が必要になる。ヴィヴィオもデバイスとレリックを持っていなければ時間軸を越えての転移は難しいだろう。

「それに私のデバイスは私達、お姉ちゃんとヴィヴィオが一緒じゃないと全部の能力が使えないから…」

 赤い球体のペンダントを見せる。RHdやレイジングハートと同じみたいだけど…

「魔力だけなら問題ないわね。」
「「えっ?」」

 ヴィヴィオとチェントは2人揃って聞き返した。



「以前あなたが異世界に連れて行かれて異世界のヴィヴィオがこっちに来た事があったでしょう? チェントに刻の魔導書を使わせるにはあの子は幼すぎて魔力が不安定で使いこなせないからアリシアのデバイスと同期させたのよ。今度はヴィヴィオが魔力の供給をすれば良いのだからもっと簡単。」

 食事を終えた後、プレシアが和やかに言う。確かに他者の魔力に同調させて供給するのはデバイスを通さないと難しいし消耗しているのではなく、更に上昇させるのだから高度な魔法制御能力が必要になる。
 それをいとも簡単と言える彼女にヴィヴィオとチェントは揃って「ふぇ~」と感嘆の声を出した。

「向こうに行った後はヴィヴィオ、あなたが魔法を使って連れて帰ってきなさい。さっきも言ったけれど1週間後の未来に」
「はい。」

 プレシアからチェントに刻の魔導書が渡され彼女はそれを開き目を閉じる。空いた手をヴィヴィオは握りしめRHdを通して自らの魔力を彼女へと送るイメージを浮かべRHdに伝える。

【【StandByReady Setup】】

 ほぼ同時にヴィヴィオとチェントの衣服が解除されバリアジャケットを纏う。

「行きますっ」
 
 ― 旅の扉が集う地から ―
  ― 隔たる目下の地へ ― 
 ― 願うは我が手の主 ―
  ― 緑萌ゆる世界  ―
 ― 時は交い推し移る日 ―
  ― 望むは我が想い人 ―   
 
 チェントが発する文節の言葉に応じ刻の魔導書から虹色の光が溢れ出し2人を包み込み次の瞬間、2人毎光が消えた。

「ヴィヴィオ…しっかりね…」

 残されたプレシアは時を越えた彼女に呟くのだった。

~コメント~
 チェントの口から語られる彼女が来た理由、なのはシリーズをご存じの方でしたら彼女達が何処へ向かったのかはピンときたと思います。
 
 ヴィヴィオと今回チェントが使った時空転移については今までのシリーズを踏襲していますが久しぶりだったので少し書かせて頂きます。

 ASシリーズでは【資質を持った者】が【媒体となる書物型ストレージ】を以て相応の魔法力を消費して【時空転移】を使います。
 ヴィヴィオの世界で【資質を持った者】と言うのは聖王オリヴィエ・彼女の聖骸布から作られたヴィヴィオとチェントが該当し、【媒体~】は聖王教会に収められていた【刻の魔導書】とそのコピーを修復した【悠久の書】のみで、【刻の魔導書】はオリヴィエが管理者として登録されています。
 ヴィヴィオ&悠久の書(ヴィヴィオ命名)はヴィヴィオが管理者として登録されているのでイメージを送るだけで転移していますが、刻の魔導書は先も書いた通りオリヴィエが管理者なので全ての機能が使えず、時空転移でも誤差を生んでしまいます。又イメージを送るのではなくイメージを送って帰って来た言葉を紡いで(同時間軸なら4小節、異なる時間軸なら更に2小節追加)転移します。

 ヴィヴィオはASシリーズにおいてAnotherStory・AgainStoryとAgainSTStoryでコピーを使い、途中で破壊、以降AgainSTStory・AgainStory2・AddmixingStory・AffectStoryまでは【刻の魔導書】、刻の移り人~現在はコピーを修復した【悠久の書】を使っています。

 又今章は過去の話と絡まった発言があります。
チェントが「ヴィヴィオがルーツ」という話は
 AffectStory~刻の移り人~番外編「記録を辿って」
 
ヴィヴィオが異世界に連れて行かれてチェントが時空転移を使った話は
AdmixingStory第07話「ヴィヴィオの弱点」

興味を持たれた様でしたら読んで頂けると嬉しいです。

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