第32話「発端」

「ん~気持ちいい~♪生き返る~♪」

 大人ヴィヴィオが湯船の中で伸びをした。

「まさかヴィヴィオが来るなんて思ってなかった。もう殆ど魔力も無くなっちゃってたからどうしようか考えてた…ってどうしようもなかったんだけど。」
「大変だったんだよ。突然本を送りつけるんだから、どうすればいいかいっぱい…本当にいっぱい考えて…」

 瞼を潤ませるチェント、手に持ったシャワーヘッドが震えている。

「私もビックリだよ。遊びに行ってた世界にチェントは来て倒れてるし、起きたらいきなり私とアリシアを助けてって言われるし…」

 
 彼女からシャワーヘッドを受け取って冷水に切り替え大人ヴィヴィオに向けて放つ。

「つ、冷たっ! ストップ、謝るしお礼も言うからストップ!!」
「じゃあ全部話してくれる?」
「でもそれじゃ…ヴィヴィオも」

 躊躇する大人ヴィヴィオに水温を更に下げ水量を強める。こっちは躊躇するつもりは一切ない。

「巻き込んでおいてまだ言うのっ!!」
「ワッ!やめて、話すっ話すから」

 彼女の悲鳴を聞きチェントが頷くのを見てヴィヴィオはシャワーヘッドを戻し水を湯に切り替えた。



「初めは本当に半信半疑だったんだ。ある日魔導書の最後のページにある1文が現れた。それも古代ベルカ文字で…。」
「魔導書は私がデバイスの中に入れているから触れられるのは私か私が本を見せるか貸した人だけ。勿論私は書いてない。」
「最初は何かの見間違いだろうと思ってた。でも…どうしてか気になって魔導書を持ってイメージを送ってみたんだ。そうしたら帰って来たのが転移の小節だった。それでアリシアと相談して行ってみる事にしたんだ。」

 少し広めな湯船でヴィヴィオは大人ヴィヴィオとチェントと一緒に入りながらその話を聞いた。
 話始めるのを見てヴィヴィオが繋げた端末を通してプレシアも話を聞いている。

(魔導書に文字…あの時と同じだ…)
「ねぇヴィヴィオ、ヴィヴィオは知ってる? あの魔導書に文字が出てくるの?」

 大人ヴィヴィオに聞かれてどう言えばいいか少し考えた後

「うん…私も知ってる。私の時は『異世界の家族を助けて』ってメッセージが出てきて、異世界…多分ヴィヴィオとチェントの世界に行った。フェイトママのジャケット着て助けてくれたの覚えてる?」
「あ~あの時ね。小さなシュテルさんやレヴィさん、ディアーチェさん可愛かった。…そっか、あの時それで来たんだ…でも、どうしてヴィヴィオにはメッセージ届かなかったんだろう?」
「それは…」
『それはヴィヴィオが持っているのは刻の魔導書をコピーして作られた本だからよ。こちらの魔導書は既に教会に返却しているわ。それより続きを話しなさい。』

 プレシアが急かせる

「は、はい。それで私とアリシアはチェントを連れてあの世界に行ったんだ。私が見たメッセージは『偽りの魂を弄ぶな』みたいな感じだった。偽りの魂というのが一体何なのか全然わからなくて、とりあえず管理局のデーターベースにアクセスして事件になっていない情報を探し始めた。」
「事件になってない?」
「事件になってたら管理局が動くでしょ。管理局から巧妙に隠れていても人や物が動けばゲートや船の運航履歴にデータが残る。そんな情報と噂を元に幾つかの世界を見て回ってた。…そこにルヴェラとあの遺跡もあった。」
「ミッドチルダでも指折りの魔導機器の企業が文化保護区の世界と頻繁に通信していて、その中にあの遺跡の名前があった。文化保護区で魔導関連の実験は違法だからね。」
「不正アクセスや局員のライセンス偽装も立派な違法行為だと思うんだけど…」

 チェントがジト目で見る。

「ま、まぁそれは必要悪っていうかそうしないと手がかりが何にも無かった訳だし…。遺跡の中は…口に出したくない実験施設だったよ。不正アクセスなんて可愛いくらいの…言うなら人を人とも思えないような…。私達は中でデータを集めてそれを管理局に匿名で送って対処して貰うつもりだった。でもその時進入がバレたのか通路が全部閉じちゃって慌ててアリシアと合流して逃げようとしたら施設が爆発して…近くにあったカプセルの液体をアリシアが被っちゃって…。」
「………」
「後はさっき行った山小屋でアリシアの中のウィルスが広がらない様に鎧を使い続けて…本をチェントに送った直後に2人が来た…」
「私が知ってるのはそこまで。プレシアさん、そろそろのぼせちゃいそうだから…出てもいいですか?」
『ええ、着替えも用意してあるから出たらロビーで待っていなさい。』

 サバッっと湯船から出る大人ヴィヴィオとその後に続くチェント。
 2人を見てから下を見る。

「…まだこれからだよね……」

 重要な話の後なのに何故かこっちの方が大問題だと思うのだった。



「プレシアさん、アリシアの様子はどうですか?」

 ロビーで待っているとリインとアギトが食事を用意してくれていて3人は舌鼓を打った。食べ終えた後でプレシアがやって来たのを見て大人ヴィヴィオは立ち上がって聞いた。

「ええ、とりあえずウィルスが起こす再構成を妨害する処理はしたわ。あとは体内に入る前の原種があればいいのだけれど。」
「カプセルが私のバッグの中に…アリシアの居る部屋にあります。」
「後で教えて頂戴、私の部屋から取り出すわ。」
「わかりました。」

 そう言うと大人ヴィヴィオは数歩下がって全員に向かい

「この度は私のせいでご迷惑おかけしました。私達だけで何とかするつもりだったのに…ごめんなさい。」

 頭を下げた。

「礼ならチェントとヴィヴィオに言いなさい。使い慣れない魔法を使ってヴィヴィオを見つけ、彼女をその世界に連れて行ったのだから。」
「わ、私はただ何とかしなくちゃって…」
「私も、魔導書に文字が出てきたのなら多分私も同じ事してた。プレシアさんが教えてくれて私達にアリシアを連れて来なさいって言ってくれなかったら何にも出来なかった。」

 そう言うとプレシアは少し照れる、そんな彼女の仕草が可愛くて頬を崩す。

「コ、コホン、それよりこれからどうするつもりかしら?」
「もう1度あの世界に行きます。事件は何にも解決してないしあの遺跡のデータをあっちの管理局に渡さなくちゃ…あんなウィルス放っておけません。でもまだ魔力戻ってないから明日になるけど…」

 真剣な眼差しでプレシアに答える大人ヴィヴィオ

「そう…ヴィヴィオも一緒に行きなさい。貴方達の刻の魔導書はこちらで預かるわ。アレにもアリシアの血が付いているから中和処理をしなければ、仮にアリシアが回復しても感染しかねない。アリシアのケアも必要だからチェントもこちらで預かるわ。ヴィヴィオの代わりをしてもらうかも知れないけれどいいわね。」
「はい。」

 今日はヴィヴィオとチェントが一緒だから魔導書の処置はしなかったらしい。それにアリシアが回復したらチェントと刻の魔導書があれば時空転移は出来る。
 乱暴な分け方だと思うけれど刻の魔導書の処置があるなら彼女は時空転移出来ず、代わりに行ける者が連れて行くしかない。

「わかりました。ヴィヴィオよろしくね。」     
「うん、私こそ」

 差し出された手をギュッと握った。



 その後、大人ヴィヴィオはプレシアにカプセルを渡して医務室のベッドで横になった。隣のベッドでチェントも寝ている。

「ヴィヴィオは寝なくても平気なんですか?」

 ロビーでなのはとフェイト、アリシアにメッセージを送ろうとしていた時リインに聞かれた。

「うん、ちょっと疲れたかなって感じはするけど全然平気です。移動したのも3人を連れて帰ってくる時だけだったから。」
「流石Sランク魔導師♪」

 アギトが冷やかす。

「そんなんじゃないよ。それで…プレシアには内緒でお願いなのですが、ヴィヴィオ達が行ったルヴェラの遺跡について教えて貰えませんか?」

 リインがヴィヴィオの耳元で囁く。

「遺跡? 私達行ってません。教会支部の近くでヴィヴィオが来るのを待ってただけだから…あっでも場所はわかります。でも…どうしてです?」
「はやてちゃんから伝言です。『時間軸が違っても影響しない場所では同じ事が起きている可能性があって、第23管理世界ルヴェラの文化保護区はこちらにもある。だからもしその遺跡で違法研究が行われているなら大きくなる前に対処したい。』だそうです。」

 戻って来たときリインとアギトが居たのに驚いた。
 彼女達ならウィルスに感染しないとなのはとフェイトが考え頼んだのだろうと思っていた。でも彼女は更にその先を考えていてルヴェラの違法研究を先に潰すつもりらしい。
 そこまで頭が回っていなかったから凄いと感心した。

「わかりました。ルヴェラのマップあります?」
「はい、ここに…」

 リインが端末を出したのを見て教会支部から西をなぞって見た地形で指を止める。
 リインはそれを念話ではやてに伝えた。 

 
 それから少し時間が経った頃

「ご無沙汰してます。はい、ええみんな元気してます。今日は少し相談がありまして…ルヴェラの文化保護区で管理してる企業の内偵を…はい、データは今そちらに…。ええですよそんな礼なんて。でしたら次会った時に食事でも、はい。」

 通信を切った後ニヤリと笑う狸娘が居た。

~コメント~
 ※注釈 今話よりヴィヴィオが2人登場します。話の進行上混乱してしまうので、主人公のヴィヴィオを「ヴィヴィオ」、異世界のヴィヴィオ・アリシアを「大人ヴィヴィオ」「大人アリシア」と表記します。

 ということでヴィヴィオ達が揃いました。
 大人ヴィヴィオは「AgainStory2・AffectStory~刻の移り人~」で2度登場し、ヴィヴィオを助けています。
 今度は揃って事件に向かうのですが…はてさて…

 

Comments

Comment Form

Trackbacks