第39話「急転」

「わ~本当にちっちゃいヴィヴィオだ。」
「かわいい~♪」
「こんな頃もあったのですね。」
「………こ、こんにちは…」
「それじゃ今の私がかわいくないみたいじゃない!」

 異世界に来たヴィヴィオは目前で彼女達のやりとりを聞きながら今起きている状況にぎこちない笑みを浮かべていた。
 こっちのヴィヴィオに会ってそのまま高町家に来た後、彼女からの連絡を受けてリオとコロナ、アインハルトがやって来ていた。
 3人を見て声が出ない程驚いた。

(こんなに変わっちゃうんだ…私もこんな風になれるのかな…)

 
 2年前の彼女達に会ったのが先月だったから余計に4人の背やスタイルが凄く大人になった様に感じる。

「そうだ、また一緒にトレーニングしようよ! すっごく良い所が出来たんだよ。」

 ヴィヴィオが言うとリオ達は何の事か気づいたらしく笑みを浮かべる。

「良い所? でも…私のデバイスは…」

 RHdはこっちで登録していないから知られる訳にはいかない。でもヴィヴィオは

「うん、そういうのも含めて大丈夫なところ。もうすぐあと1人来るから一緒に行こう。」
「……う…うん」

 元気さは前より凄くなった気がする。若干ヴィヴィオに押されて頷くヴィヴィオだった。


 だがその時

『ヴィヴィオ聞こえる?』

 RHdを通して念話が飛び込んできた。

「えっ? 誰?」
『私、ヴィヴィオ! あっマズイっ動き出しそう。』
「ヴィヴィオ!?」
「ん?」

 捜査に向かった大人ヴィヴィオかららしい。目の前のヴィヴィオ達がどうしたのかと首を傾げる。

「ちょっと待って、連絡来たみたい。」

 そう言って4人から離れ家を出て玄関を閉める。

『どうしたの? もう調べるの終わった?』
『う…ん、そうじゃな…ヴィヴ…急い…こっ…に来て。』
『来てって、どこへ?』
『ルヴ…ラのいせ…』
『ル…ラ? ルヴェラ? ルヴェラの遺跡に行けば良いの?』

 大人ヴィヴィオの念話が酷くノイズが混ざって聞こえにくい。

『…C…ルスの…集団…へ課の…てさん達が…ムさんが倒れ…』

通信なら兎も角念話でここまで聞きづらいのは初めて。
 途切れながらだけど大人ヴィヴィオの声から何かが起きていて私に来て欲しいらしい。

 ルヴェラなら前にも行ったし1人で飛ぶなら十分行けるし何か起きてるのは間違いない。
バリアジャケットに切り替えて

「RHd、ヴィヴィオの居る場所に飛ぶよ。ごめ~ん、ヴィヴィオ。呼ばれたからちょっと行ってくる。さっき借りた端末持っていくね~。」

 玄関のドアを開けて大声で言う。

「えっ? 行くってどこに?」
「ちょっとルヴェラまでっ、またね。」
「「「!?」」」

 驚いてこっちに来る4人を背に光の中へと飛び込んだ。



「っと、ここどこ?」

 虹の光から飛び降りた先は見たこともない場所。何処かの倉庫の様にも見える…

「ここ本当にルヴェラ?」  
【Sorry】

 RHdにも判らないらしい。とすると

「そこに誰か居るの? トーマ? リリィ?」

 ここに誰か居るらしい。トーマを知っているヴィヴィオは声の方へ向かおうとして自分がジャケットとヴィヴィオの姿で居るのを思い出して慌てて解除しウィッグを付けて恐る恐る覗くと。

「…誰? !!」

 1人の女性がこっちを睨んでいた。でもその姿を見てヴィヴィオは驚く。シーツ1枚をかぶせられ手と足を拘束されていたからだ。

「…あんたもあいつ達の仲間?」
「あいつ達? それよりもどうしてそんな格好で」
「…………見張り…じゃないみたいだね。あんまり見られても気分いいものじゃないから。ちょっと後ろ向いてて」
「は、はい」

 慌てて後ろを向くと何度かの金属音の後、

「アーマジャケット、オン。もういいよ」

 声が聞こえて再び振り向くとそこには見慣れないジャケットを纏ったさっきの女性が立っていた。

「…この人どこかで…あっ!」

 思い出す。前に魔導書が見せたイメージの中でトーマとリリィと一緒にいた女性。

「どうしてここに居るのか知らないけど、攻撃も始まってるし急いで逃げなよ。」
「攻撃? キャッ!」

 彼女が言った意味が判らず聞き返した瞬間ズズンと響く音と部屋が揺れた。

「っと、でもどっちへ逃げたらいいかわかんないね。一緒に逃げよう。私はアイシス」

 転びそうになったのをアイシスに支えられ

「私はヴィ…チェントっていいます。」
「チェントね、友達がここに居るから先に探さなきゃ。悪いけど付き合って。」

そう言うと私の手を取って部屋から駆け出した。

「は、はい」

 仲間、攻撃、逃げる…ヴィヴィオは全く何が起きているのか判らず魔導書で見た女性、アイシスに手を取られ一緒に走るしかなかった。



『アグレッサー1・2の攻撃継続、フッケバインの飛行速度上昇、ヴォルフラム追撃します。』

 インカムを通して艦橋の声を聞きながら溜息をつく。

「どうしよう…」

 特務6課があのウィルスを追いかけているのを知ってセンサーを飛ばし中の様子を窺っていたが何かあるのか動きが慌ただしいのを見て潜入するチャンスだと考えヴォルフラムに乗り込み、手頃な部屋を見つけてそこから船のデータにアクセスして特務6課の活動やウィルス絡みの捜査レポートをデバイスにコピーした。
 ここには管制システムのスペシャリストが何人も居るから本来は即座に気付かれてしまうところだけれど慌ただしい動きのおかげで気付かれずに済んだ。しかし途中でゴゴゴという駆動音が響きヴォルフラムが動いた。行く先を見るとルヴェラ、ウィルスを使って管理外世界で犯罪を行っている集団「フッケバイン」を捕捉した。
 自分は兎も角ウィルスをばらまかれたらヴォルフラムや周辺が大惨事になる。そう考えてヴィヴィオに来て貰おうとしたのだけれど高速飛行の影響かジャミングを使われているのか判らない彼女との念話も通信も全て切れてしまった。
 捜査レポートを見る限りあのウィルスに感染した時に何が起こるのか特務6課は知らない。

「出るしか無いか…」

 知られるのを承知で外に出るしかないかと2度目の溜息をついた瞬間

【傷つけるのもみんな…邪魔をするものみんな】

 念話でも通信でもない言葉が頭の中に聞こえる

【怖い戦いも全部みんな…】
(何…これマズイっ!!レイジングハートっ!)

 騎士甲冑を纏い

【消えてなくなればいい】

ゾクリとする悪寒が現実になる直前、虹色の光を放出した。

「!? ウソ…」

 だが大人ヴィヴィオが感じた力は瞬時にデバイスとの接続を吹き飛ばしてしまった。


  
 同じ頃、飛空戦挺フッケバインの中でも

「な…何…?」

 ヴィヴィオは倒れ込みながら呻き意識を失った。


 アイシスと一緒にトーマとリリィを見つけた時、その向こうでは…。

「ソードブレイクッ!」
「スバルさん!」
「ハァアアアッ!」
「!?」

フェイトとエリオ、スバルが見知らぬ3人と戦っていた。

「トーマッ!」

 アイシスが声をかけた時、彼がフラリと力なく立ち上がる。

【…てくれ、…んだ】

 駆け寄ろうとするアイシスだがヴィヴィオは重く響く声に彼女の手を引いて止める。

【頭の中に突き刺さる…邪魔するものみんな】

その声は体を押しつぶしそうな程重くて警戒レベルを一気に跳ね上げる。

【怖い戦いも全部みんな】

【StandbyReady setup】

 危険を察したRHdがジャケットを起動させる、しかし

「だめっ!!」

 無理矢理ジャケットを解除して『鎧』を纏い魔力を全開する。

「何っ?」
「虹っ!?」
「まさかっ!」
【消えてなくなればいい】
『Divide Zero Eclipse』

 部屋に溢れる虹色の光を闇が飲み込み、周囲を闇に染めヴィヴィオの魔力を奪い去った。 



「なんや…何が起きた? 管制!状況報告っ!」

 虹の光が飛空戦挺フッケバインから発生した直後それを飲み込むかのような闇にヴォルフラムも包まれ、艦橋には『Emargency』の画面と警告音が鳴り響いていた。
 艦長の八神はやて自身も魔力が一気に持って行かれた感じが否めない。

『何らかのエネルギー干渉を受けました。本艦の駆動炉出力低下。フッケバインの速度も低下しています。』

操舵室のルキノから応答の通信が入った。

『気絶者多数。確認を急いで』

 通信で聞こえるシャマルの声も叫び声に変わっている。

(これがゼロエフェクトか…あの虹が緩和してくれた?)
『アグレッサー1・2支援不能、突入部隊の状況不明』

通信室を通じてなのは達の状況が入る。近くを飛んでいたヴィータやヴォルフラム上で砲撃していたなのはですら支援不能の状態に陥っている。突入したフェイト達が気がかりだった。

『特務の管理局艦船に告ぐ、こちらは飛空戦挺フッケバイン操舵手兼管制責任者。現在侵入してきたお邪魔虫と民間人2人を預かっています。』
(子供?)

 全帯域に向けての通信を聞いて相手は子供かと疑う。だがあの攻撃を間近で受けたら3人は無力化されている可能性が高い。

『無事に返す意思はあるから安心して。それから特務か何だか知らないけど、私達に構わないでよね。そりゃ指名手配されてるのは知ってるけど私達はここ数年管理世界での大きな事件とか起こしてないから。ちゃんと管理外世界でやってるんだから面倒な手続き踏んで追いかけるより他にもっとやることあるでしょ!!』

好き勝手言われてここまでやられて黙っていられる訳がない。

「特務6課部隊長八神2佐や、法を侵す犯罪者を見逃せってのは無理な話や。人の命や財産に管理世界の中も外もあらへん」
『簡単な足し算引き算も出来ない人と話すことはありません。とにかく5分後に局員と民間人を後部ハッチから排出するから!』

 そう言い切ると通信が切れた。
ここで捕り逃がしたらまたどこかで誰かが殺される。それが判っていて指を咥えて見ている訳にはいかない。

「アグレッサー1.2再出撃の準備。船は私が止める。本局に承認申請」

 そう言って艦橋から駆け出た。



「イタタタ…何が起きたの? レイジングハート大丈夫?」

デバイスとの接続が切れて飛びそうになった意識だけは繋ぎ止めた。頭を振りながら手近にあったテーブルを支えにして立ち上がる。
 まだ頭がフラフラするが艦橋のセンサーを呼び出す。
 通信から聞こえる状況からしてヴォルフラムと追いかけていた船は未知の攻撃で相当なダメージを受けたらしい。

【Master. The existence of a device was confirmed.】
「え?」

 その影響かヴィヴィオのデバイスRHdの所在がわかった。彼女が居るのは追いかけている船の中。転移座標がずれたらしい。
 あの攻撃をまともに受けて無事かは判らないけど、ここで待っている訳にはいかない。

「行かなきゃ!レイジングハートっ!」

 バリアジャケットを纏い窓に向かって砲撃魔法を放ち飛び出た。

「居住区画の爆発を確認、遮断と共に侵入警報発令」

 通信室で爆発と共に外部に脱出した者を確認し警報を発令しつつ区画そのものを遮断した。
 最優先は目前の飛空戦挺を止める事、さっきの攻撃が内部から行われた可能性もあるが区画そのものを遮断してダメージコントロールを行う。幸いにも大人ヴィヴィオの姿は見られておらず、状況も幸いして追撃も無かった。



『突入隊3名、民間人2名排出』

 甲板に上がったはやては目視で5名を確認する。なのはに先に離脱した少年の保護を任せ海上に到達するまでに距離を詰める。
 ヴィータとエリオの足止めが効いているのか目の前の船は速度も高度も落ちていく。

「海の上であの凶鳥は捕まえる! 行くよ」
『本部および本局より八神部隊長の技能封印開放許可! アグレッサー2・ライオット3の退避確認』

 切り札は整った。

(ここで終わらせる)
「海より集え水神の槍…」


(ヴィヴィオ! 何…あれっ?)

 大人ヴィヴィオが甲板に上ったのは丁度その時だった。
 はやてが海水から巨大な氷塊を作り出して放とうとしている。

『ヴィヴィオっ聞こえたら直ぐ逃げて!!』

 あんな物の直撃を受けたら幾ら何でも船が壊れてヴィヴィオまで…
話して止められる余裕はない、一気に魔力集束を始める。果たして間に合うか?

「警告や、その艦止めて降伏しなさい」

 間に合わない、ここで撃てばと発射態勢を取ろうとした直後、目標の船から誰かが飛び出して氷塊を吹き飛ばした。だがはやてはそれを再氷結させた。

「これが最終警告や、艦を止めて降伏しなさい。」
「この光…お前どうして!?」
「ヴィヴィオ!?」

 警戒していたヴィータとエリオに見つかった。 

「はやてさん、ごめんなさい。でも…止めさせて貰う!スターライトッブレイカァァアアアッ!!」
「ヴィヴィオ!?」

 はやてが気付いた時にはヴィヴィオが放った砲撃は氷塊の中央に直撃していた。

【ドォォオオオン!!!!】

 直後大爆発を起こす。

「あ…まず…」

 一気に集束させて意識を集中させてしまったからか大人ヴィヴィオはそのまま意識を失い、集束砲の反動を受けてヴォルフラムから落ちていった。



 一方で…

「こいつ…何だ?」

 民間人と管理局員を全員落とした後、飛空戦挺フッケバインの中で端に倒れた少女をフッケバイン一味の1人ヴェイロンは見つけ近づき足で蹴り転がす。
 力なく転げる少女、気絶しているのか死んでいるのか?

「ステラ、見慣れない奴がいるがこいつお前のおもちゃか?」

 そう言いながら少女の髪を掴んで持ち上げようとした瞬間、妙な気配に気付き振り向く

「何だお前達?」
 そこに居たのは見たこともない女、同じ顔が5人並んでいる。

【その方は貴方が触れていい方ではありません】

 重い言葉が聞こえた瞬間、振り返るとさっき迄転がっていた少女を同じ顔をした女が抱きかかえていた。高速移動というより瞬間移動に近い速度。

「おもしれぇ…」

 銃を取り出して向ける。
だが目の前の6人はそれを気にするでもなく少女を連れ虹色の球体の中へと消えていった。

『ステラは転移準備中です。どうしたのですか? ヴェイロン』

 端末の中にフォルティスが現れる。

「いや…何でもない。」

 今のが何だったのか…上手く説明も出来ず言葉を濁して端末を閉じた。


~コメント~
 文章構成の関係で1週間遅れてしまいました。体調管理は大事です(私も笑えませんが)
 今話はなのはForce08話~14話が舞台です。特務6課とフッケバインとヴィヴィオsの関係をそこに加えたかったのですが大混乱に陥りました。(大反省)

 
 

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