第38話「はじめての学院祭(後)」
- リリカルなのは AdventStory > 第3章 湾曲した世界
- by ima
- 2016.06.26 Sunday 13:15
(えっ! うそ…)
目の前でヴィヴィオがクラスメイトに囲まれている。
彼女から戻ってきたと言う連絡も無かったし、プレシアやフェイト、なのはの顔を見ると彼女達も驚いていて隠していたという訳ではない。
「チェント、プレシアさんそこにいるよ」
「かあさま~」
繋いでいた手を離すとチェントがプレシアに駆けていって抱きついた。それを見てアリシアも我に返ってクラスメイトの輪に入った。
「ヴィヴィオっ!! いつ戻って来たの? 連絡が無かったからすっごく心配してたんだよ。」
「ごめん、少し前に着いたから念話で話すより来た方が早いかなって。また戻らなくちゃいけないんだけど…」
目の前でヴィヴィオがクラスメイトに囲まれている。
彼女から戻ってきたと言う連絡も無かったし、プレシアやフェイト、なのはの顔を見ると彼女達も驚いていて隠していたという訳ではない。
「チェント、プレシアさんそこにいるよ」
「かあさま~」
繋いでいた手を離すとチェントがプレシアに駆けていって抱きついた。それを見てアリシアも我に返ってクラスメイトの輪に入った。
「ヴィヴィオっ!! いつ戻って来たの? 連絡が無かったからすっごく心配してたんだよ。」
「ごめん、少し前に着いたから念話で話すより来た方が早いかなって。また戻らなくちゃいけないんだけど…」
まだ事件は終わってないらしい…
「そう…でも今日はこっちに居られるんでしょ?」
「うん♪ 準備手伝えなかった分頑張るよ。」
笑顔で頷く彼女を見てヴィヴィオが帰って来たのを実感した。
「お姉ちゃん…どう?」
「ありがと。うん、美味しいよ」
同じ頃、研究所では留守番をしていたチェントがアリシアにスープとパンとサラダが乗ったトレイを渡していた。食欲も戻って来たのを見て体力を戻す為にスープから普通の食事に切り替えていた。
美味しそうに食べるアリシアを見てホッとしたチェントも手元のパンを手に取る。
その時
【トゥルルルルル】
近くにあった端末から光って音が鳴った。
「えっ? 通信」
何処からかの端末通信。こっちのプレシアもアリシアも居ない状態で出ると相手を驚かせてしまう。どうしようかと迷っている間も端末は鳴り続けている。
「チェント、ヴィヴィオの振りして出てみたら? 母さんかもしれないし…」
「うん…」
アリシアに促されてチェントは端末のボタンを押す。
「はい、テスタロッサ研究所です。」
『驚かせてごめんなさい。』
端末から聞こえたのはプレシアの声だった。
「お母さん?」
プレシアの声は聞こえるが映像が出ないのにチェントは小首を傾げる。
「どうして声だけ? あっ、学院祭だから」
彼女の声と一緒に周りの賑やかな音が聞こえる。
ヴィヴィオがここに居るとサボっていると思われてしまうし、成長したアリシアの姿をクラスメイトに見られたらややこしくなると考えたらしい。
『ええ、体調はどう?』
「どんどん元気になってるよ。パンやサラダも食べられるようになった。」
『そう、その調子なら今夜にでも治癒魔法使えそうね。それで…ヴィヴィオは帰って来たかしら?』
「ヴィヴィオ? 戻ってないよ。まだ連絡もない」
『えっ?』
通信先で彼女が驚いている。アリシアが自分のデバイスを取り出す。
「うん、ヴィヴィオのデバイス反応もないからまだ戻ってない。何かあったの?」
『な、何でもないわ。2人が食べられそうなものを買って帰るわね。何かあったらこれで連絡頂戴』
そう言うと通信は切れてしまった。
「…ヴィヴィオに用事でもあったのかな?」
「…わかんない」
何が聞きたかったのかよくわからず、アリシアもチェントは互いの顔を見て首を傾げた。
「確かにお手伝い頑張るよって言ったけど…これがお手伝い?」
「仕方ないじゃない。まさか戻ってくるって思ってなかったんだから。」
教室から離れてグラウンドに向かう途中でため息交じりに聞くヴィヴィオにアリシアもため息交じりに答えた。どよーんとした雰囲気を醸し出す2人とは対照的に
「思いっきり楽しみましょうね」
満面の笑みで頷く1人の少女の姿があった。
30分前、早速ヴィヴィオにカフェを手伝って貰おうと彼女の制服を準備していたアリシアに学院祭実行委員会からメッセージが入った。
メッセージを見た瞬間、【ある約束】を完全に忘れていたのを思い出した。
それは学院祭から1週間程前に遡る。
アリシアのクラス、初等科4年A組が企画したカフェ、操作系が得意な子がぬいぐるみやおもちゃを動かしファンタジーな世界観を作る。そんな世界も内装や衣装を用意するだけで周りが普通の教室だとおもてなししても魅力は半減する。
そこでアリシアは世界にあった風景を作って投影させる事を思いついた。
幻影系の入門的魔法である投影魔法は戦技魔法扱いになっている。戦技魔法とは言っても攻撃力は皆無で使う魔力も少なくプログラムも難しく無い。
問題は常に投影させる必要がある為開催時間中は続けて魔法を使い続けなくてはならず、初等科生でそんなレベルに居るのは数人しか居ない。
アリシアはそれを魔力コアと自身のデバイスで投影魔法を自動実行する事で解決した。アリシアのデバイスはプレシアがフェイトのバルディッシュを元に魔力コア専用にカスタマイズした特別製でプログラムの自動実行する方法も知っているし使った事もある。
数度のテストで使い続けられるのを確認し、セインを通じて聖王教会にもコアの貸し出し許可を貰い企画書に盛り込んで提出した。
だがその企画書を見た他の学年やクラスから不満が噴出した。
不満の内容は色々あったけれど集約すると【アリシアのクラスだけ魔力コアを使うのはずるい】だった。そうは言っても魔力コアは出力が弱くても魔力の塊、使う方法を間違えたら爆発もするし怪我もする。初等科生が常時案魔法を使い続けるのは大変だから自分のデバイスに入れて使うだけだと説明した。
双方の折衝の結果、4年A組はクラス以外で何か学院祭全体を盛り上げる企画を出すという事になりアリシアは条件付きの企画を提出した。
『アリシアとヴィヴィオ、特別招待するなのは役の少女の3人で闇の書事件撮影の様な模擬戦を見せる。』と…
なのは役の少女には学院から招待状が出されたけれど、彼女はジュエルシード事件と闇の書事件の記録撮影を皮切りに幾つかの管理世界のメディアで有名になっていて教会系の学院祭に来る余裕は無いと予想し、企画を出した時には既にヴィヴィオが事件に巻き込まれていて戻ってこられないと考えた。
流石に1人では何も出来ないから提出した企画も立ち消えになるだろう。アリシアはそう考えていた。
しかし昨日なのは役の少女からスケジュールを空けて遊びに行きますねと返事が来て慌てて企画の話をするも快諾された。そしてヴィヴィオも戻って来た時点で企画は消える事無く…実行するしか無くなった。
「そんな約束、勝手にしちゃうんだから…もうっ」
「仕方ないでしょ、相談したくてもヴィヴィオ戻ってこなかったんだから」
見せるのは特に気にしていない。
アリシアとヴィヴィオが気にしているのは映像公開からまだ熱が冷めていない状況でこんなパフォーマンスをしたら…また注目の的になってしまう。要は自分たちのストレスの原因を自分たちで作ってしまう。
そうは言っても企画を出したのは自分だから無理とは言えない…。それに…久しぶりにジャケットを纏うのか、忙しい中で気分転換したいのか判らないけれどバリアジャケット姿のなのは役の少女が凄く乗り気なのを見てヴィヴィオと一緒に苦笑するしかなかった。
「リインフォースさん役しようか? 模擬戦って言っても魔法見せるだけだし2人ともコアの魔力強くないでしょ。」
ヴィヴィオに持ちかけられて考える。
カフェも忙しいしバルディッシュを持ち出している間、フェイトに投影魔法任せているしそんなに時間をかけられない。
「撮影の時に使ったはやてさんのジャケット、アンダーを変えるだけだから直ぐにできるよ。」
そう言うとヴィヴィオはジャケットを切り替えた。
それを見てアリシアはある確信を得る、でもここでそれを聞くわけにも行かず
「じゃあそれで、見せるだけだから2人とも全力全開はナシだからね」
「はい♪」
「うん♪」
大きく頷いた3人は空へと飛び上がった。
「フェイトちゃん、手伝おうか?」
なのははカフェの窓際のテーブルで隣に居るフェイトに聞く。
「大丈夫、デバイスを使わなくても良いくらい軽いから。」
「ふぇ~」
「管理局の執務官って凄い…」
微笑んでお茶を飲むフェイトに近くに居たリオとコロナが感嘆の声をあげる。
2人がグラウンドに行かずに残ったのはアリシアから魔法を見せてる間交代してと頼まれたからだ。
「なのは、かあ…プレシアさんもヴィヴィオ達の模擬戦見に行っていいよ。」
「う~ん…行かない方がいいかも。」
「ええ、3人が揃っている所に私達が行けば何が起こるかわかるでしょう?」
あの映像の3人が揃って魔法を見せているのだからそこに実際に出演したプレシアや本物が行けば何が起きるか…考えるまでもない。
「それに…あの子を置いては行けないわ。」
コロナが操るウサギのぬいぐるみと一緒に踊るチェントを見てクスッと笑う。楽しそうな彼女を引き離してまで行けない。
「こちらも楽しいですよ。」
「そうそう、イクス様これ美味しいよ」
同じテーブルでお茶を飲むイクスと彼女の隣でセインは何かのお菓子を食べている。彼女は答えながらも優しい眼差しで踊る少女を見ている。それを見て彼女が来た目的に気付いた。
イクスに未来を託したある女性、彼女はヴィヴィオと同じ位チェントを想っているに違いない。
「イクス様、気になるのでしたら一緒に遊んできてはいかがですか?」
踊ったりはしないだろうけれど、より近くに行きたいとウズウズしているのは見て取れた。
「いえ、そこまでは…」
「チェント、こちらに来なさい。一緒にお菓子を食べましょう。」
プレシアが気を利かして彼女を呼ぶ。ぬいぐるみが手を振るのを見てこっちに走ってきた。プレシアの横の席に行くのかと想っているとイクスの前に来て彼女の顔をジッと見る。
「こんにちはチェントさん。イクスといいます。」
イクスは会釈するがチェントは彼女の顔をジーッと見てからテーブルの上にあったキャンディの袋を1つ取って
「おりう゛ぃえ、はい」
彼女に差し出した。
「「!?」」
それを見ていたなのははティーカップを思いっきり揺らした。お茶を飲んでいたら気管に入ってむせていただろう。フェイトも驚いたらしく一瞬だけ投影魔法がと切れてしまう。
「あ、ありがとうございます。私はイクスですよ。」
「いくす…はい、いくす♪」
キャンディを受け取るのを見て眩しい位の笑顔で答え、プレシアの隣に座った。
「……フェイト、なのはさん、後で話があるのだけれど良いかしら?」
プレシアは鋭い眼差しをこちらに向けて2人に言う。
「は、はい…」
なのはとフェイトは蛇に睨まれた蛙の様に固まりながらぎこちない笑みで答えるしかなかった。
『以上をもちましてStヒルデ学院、学院祭を終了いたします。生徒の皆さんは後片付けを始めて下さい。保護者の皆様は…』
それから少し時間が経って夕暮れの中、学院内にアナウンスが流れる。
「アリシア、どうだった? Stヒルデの学院祭」
教室内で使っていたコアを集めているとヴィヴィオに聞かれる。
「うん、色々大変だったけどすっごく楽しかった。」
クラス委員に推薦されて選ばれた理由を考えたりもしたけれど、逆に私が私らしい学園祭にしちゃえばいいと考え直しクラスで決めた出し物に伝を使って色々詰め込んだ。おかげでもっと大変になったけど終わってみたら凄く盛況だったし、みんなにも喜ばれたと思う。
それに…
(一緒に見て回れたしね)
戻ってくるとは思わなかったヴィヴィオが来て、みんなに魔法を見て貰って休憩時間に一緒に色んなクラスを見て回って楽しかった。でも…
「そろそろ時間なんでしょ、私ヴィヴィオを見送ってくるね。すぐに戻るから」
「えっ?」
彼女に聞かなければいけない。
アリシアは彼女の手を取って教室を出た。向かったのは屋上
バタンとドアが閉じるのを聞いて振り返る。
「未来のヴィヴィオ…なんだよね。私の為に来てくれたの?」
「…やっぱりバレちゃった…気をつけてたつもりだったんだけど…」
「わかるよ。ヴィヴィオだもん。」
今日の彼女には幾つも違和感を感じていた。
学院の中だからなのかも知れないけれどなのはやフェイト、プレシアの所に行かず手を振ったり会釈だけをしていたし、なのはとフェイトを見て一瞬悲しそうな顔を見せていた。
模擬戦でも周囲に気を配っているのか手加減をしていたのかわからないけれど動きに精細を欠いていた。それに…パッと見気付かないけど手や腕に痣らしいものもあった。
「私は…ちょっと先の未来、今私が巻き込まれちゃった事件が終わって帰って来た時から来たんだ。アリシアが頑張ってくれた学院祭、私も参加したかったから。」
「じゃあ…もうちょっとで帰ってくるんだよね? いつ帰ってくるの?」
「…ごめんね。答えられない…答えちゃったら未来が決まっちゃうから。ここの私はまだ事件で頑張ってる最中だから未来を決めさせたくない。」
「そっか…うん、わかった。ありがとう約束守ってくれて。」
本当は彼女も一緒に学院祭を楽しみたかったのだろう。でも…状況がそれを許さなかった。
「…またね」
「うん、またね。」
ヴィヴィオが1冊の本を取出す。
それを見つめながら色々無理して来てくれた事が嬉しくて、逆に彼女はそうなってしまうのが判ってしまい止められない自分が悔しくて…涙が溢れそうになるのを我慢して笑顔を作って手を振って別れを告げた。
夕日に染まる屋上から1筋の虹が空へと向かい伸びていった。
~コメント~
Web拍手で「Stヒルデ学院なのだから学園祭じゃなくて学院祭では」というご指摘を頂きましたので、前数話を学院祭に変更しました。変更されていない話はありますが、掲載中の順番の都合で全話掲載した後に変更いたします。
ということでStヒルデの学院祭話でした。
本話はVivid64話の魔法喫茶を元にAS世界のいろいろな要素を含めています。
(本編に書けなかった裏話的なもの)
魔力コアはAs01 新デバイス誕生?でプレシアが開発したもので魔法力の弱いアリシアは魔力コア専用のデバイスを使っています。
学院祭で使うのだから形式上は学院から教会を通して許可を貰わなければいけませんが、アリシアは上記話で騎士カリムとコネクションを持っており、そのコネと投影魔法の自動起動テストという名目で直接許可をもぎ取っています。
一方で他のクラスから出た不満については自分のデバイスを使ってテスト名目で借りたのだから何を言われても関係ないと簡単に一蹴出来る内容でしたがそうするとアリシアのクラスが孤立してしまうと考え、クラス全体で盛り上げるのではなく借りた本人=アリシアが出来る事ならという落とし所を作って学院祭全体でという条件で折衷案へと促しています。
(会議を見ていたシスターもそれに気付いているのでアリシアの折衷案へと他のクラス代表を促しています。)
ヴィヴィオ不在の話が続きましたがともあれこれでようやく現地ステージの受け入れ体制が整ったので次回からヴィヴィオ本編に戻ります。
「そう…でも今日はこっちに居られるんでしょ?」
「うん♪ 準備手伝えなかった分頑張るよ。」
笑顔で頷く彼女を見てヴィヴィオが帰って来たのを実感した。
「お姉ちゃん…どう?」
「ありがと。うん、美味しいよ」
同じ頃、研究所では留守番をしていたチェントがアリシアにスープとパンとサラダが乗ったトレイを渡していた。食欲も戻って来たのを見て体力を戻す為にスープから普通の食事に切り替えていた。
美味しそうに食べるアリシアを見てホッとしたチェントも手元のパンを手に取る。
その時
【トゥルルルルル】
近くにあった端末から光って音が鳴った。
「えっ? 通信」
何処からかの端末通信。こっちのプレシアもアリシアも居ない状態で出ると相手を驚かせてしまう。どうしようかと迷っている間も端末は鳴り続けている。
「チェント、ヴィヴィオの振りして出てみたら? 母さんかもしれないし…」
「うん…」
アリシアに促されてチェントは端末のボタンを押す。
「はい、テスタロッサ研究所です。」
『驚かせてごめんなさい。』
端末から聞こえたのはプレシアの声だった。
「お母さん?」
プレシアの声は聞こえるが映像が出ないのにチェントは小首を傾げる。
「どうして声だけ? あっ、学院祭だから」
彼女の声と一緒に周りの賑やかな音が聞こえる。
ヴィヴィオがここに居るとサボっていると思われてしまうし、成長したアリシアの姿をクラスメイトに見られたらややこしくなると考えたらしい。
『ええ、体調はどう?』
「どんどん元気になってるよ。パンやサラダも食べられるようになった。」
『そう、その調子なら今夜にでも治癒魔法使えそうね。それで…ヴィヴィオは帰って来たかしら?』
「ヴィヴィオ? 戻ってないよ。まだ連絡もない」
『えっ?』
通信先で彼女が驚いている。アリシアが自分のデバイスを取り出す。
「うん、ヴィヴィオのデバイス反応もないからまだ戻ってない。何かあったの?」
『な、何でもないわ。2人が食べられそうなものを買って帰るわね。何かあったらこれで連絡頂戴』
そう言うと通信は切れてしまった。
「…ヴィヴィオに用事でもあったのかな?」
「…わかんない」
何が聞きたかったのかよくわからず、アリシアもチェントは互いの顔を見て首を傾げた。
「確かにお手伝い頑張るよって言ったけど…これがお手伝い?」
「仕方ないじゃない。まさか戻ってくるって思ってなかったんだから。」
教室から離れてグラウンドに向かう途中でため息交じりに聞くヴィヴィオにアリシアもため息交じりに答えた。どよーんとした雰囲気を醸し出す2人とは対照的に
「思いっきり楽しみましょうね」
満面の笑みで頷く1人の少女の姿があった。
30分前、早速ヴィヴィオにカフェを手伝って貰おうと彼女の制服を準備していたアリシアに学院祭実行委員会からメッセージが入った。
メッセージを見た瞬間、【ある約束】を完全に忘れていたのを思い出した。
それは学院祭から1週間程前に遡る。
アリシアのクラス、初等科4年A組が企画したカフェ、操作系が得意な子がぬいぐるみやおもちゃを動かしファンタジーな世界観を作る。そんな世界も内装や衣装を用意するだけで周りが普通の教室だとおもてなししても魅力は半減する。
そこでアリシアは世界にあった風景を作って投影させる事を思いついた。
幻影系の入門的魔法である投影魔法は戦技魔法扱いになっている。戦技魔法とは言っても攻撃力は皆無で使う魔力も少なくプログラムも難しく無い。
問題は常に投影させる必要がある為開催時間中は続けて魔法を使い続けなくてはならず、初等科生でそんなレベルに居るのは数人しか居ない。
アリシアはそれを魔力コアと自身のデバイスで投影魔法を自動実行する事で解決した。アリシアのデバイスはプレシアがフェイトのバルディッシュを元に魔力コア専用にカスタマイズした特別製でプログラムの自動実行する方法も知っているし使った事もある。
数度のテストで使い続けられるのを確認し、セインを通じて聖王教会にもコアの貸し出し許可を貰い企画書に盛り込んで提出した。
だがその企画書を見た他の学年やクラスから不満が噴出した。
不満の内容は色々あったけれど集約すると【アリシアのクラスだけ魔力コアを使うのはずるい】だった。そうは言っても魔力コアは出力が弱くても魔力の塊、使う方法を間違えたら爆発もするし怪我もする。初等科生が常時案魔法を使い続けるのは大変だから自分のデバイスに入れて使うだけだと説明した。
双方の折衝の結果、4年A組はクラス以外で何か学院祭全体を盛り上げる企画を出すという事になりアリシアは条件付きの企画を提出した。
『アリシアとヴィヴィオ、特別招待するなのは役の少女の3人で闇の書事件撮影の様な模擬戦を見せる。』と…
なのは役の少女には学院から招待状が出されたけれど、彼女はジュエルシード事件と闇の書事件の記録撮影を皮切りに幾つかの管理世界のメディアで有名になっていて教会系の学院祭に来る余裕は無いと予想し、企画を出した時には既にヴィヴィオが事件に巻き込まれていて戻ってこられないと考えた。
流石に1人では何も出来ないから提出した企画も立ち消えになるだろう。アリシアはそう考えていた。
しかし昨日なのは役の少女からスケジュールを空けて遊びに行きますねと返事が来て慌てて企画の話をするも快諾された。そしてヴィヴィオも戻って来た時点で企画は消える事無く…実行するしか無くなった。
「そんな約束、勝手にしちゃうんだから…もうっ」
「仕方ないでしょ、相談したくてもヴィヴィオ戻ってこなかったんだから」
見せるのは特に気にしていない。
アリシアとヴィヴィオが気にしているのは映像公開からまだ熱が冷めていない状況でこんなパフォーマンスをしたら…また注目の的になってしまう。要は自分たちのストレスの原因を自分たちで作ってしまう。
そうは言っても企画を出したのは自分だから無理とは言えない…。それに…久しぶりにジャケットを纏うのか、忙しい中で気分転換したいのか判らないけれどバリアジャケット姿のなのは役の少女が凄く乗り気なのを見てヴィヴィオと一緒に苦笑するしかなかった。
「リインフォースさん役しようか? 模擬戦って言っても魔法見せるだけだし2人ともコアの魔力強くないでしょ。」
ヴィヴィオに持ちかけられて考える。
カフェも忙しいしバルディッシュを持ち出している間、フェイトに投影魔法任せているしそんなに時間をかけられない。
「撮影の時に使ったはやてさんのジャケット、アンダーを変えるだけだから直ぐにできるよ。」
そう言うとヴィヴィオはジャケットを切り替えた。
それを見てアリシアはある確信を得る、でもここでそれを聞くわけにも行かず
「じゃあそれで、見せるだけだから2人とも全力全開はナシだからね」
「はい♪」
「うん♪」
大きく頷いた3人は空へと飛び上がった。
「フェイトちゃん、手伝おうか?」
なのははカフェの窓際のテーブルで隣に居るフェイトに聞く。
「大丈夫、デバイスを使わなくても良いくらい軽いから。」
「ふぇ~」
「管理局の執務官って凄い…」
微笑んでお茶を飲むフェイトに近くに居たリオとコロナが感嘆の声をあげる。
2人がグラウンドに行かずに残ったのはアリシアから魔法を見せてる間交代してと頼まれたからだ。
「なのは、かあ…プレシアさんもヴィヴィオ達の模擬戦見に行っていいよ。」
「う~ん…行かない方がいいかも。」
「ええ、3人が揃っている所に私達が行けば何が起こるかわかるでしょう?」
あの映像の3人が揃って魔法を見せているのだからそこに実際に出演したプレシアや本物が行けば何が起きるか…考えるまでもない。
「それに…あの子を置いては行けないわ。」
コロナが操るウサギのぬいぐるみと一緒に踊るチェントを見てクスッと笑う。楽しそうな彼女を引き離してまで行けない。
「こちらも楽しいですよ。」
「そうそう、イクス様これ美味しいよ」
同じテーブルでお茶を飲むイクスと彼女の隣でセインは何かのお菓子を食べている。彼女は答えながらも優しい眼差しで踊る少女を見ている。それを見て彼女が来た目的に気付いた。
イクスに未来を託したある女性、彼女はヴィヴィオと同じ位チェントを想っているに違いない。
「イクス様、気になるのでしたら一緒に遊んできてはいかがですか?」
踊ったりはしないだろうけれど、より近くに行きたいとウズウズしているのは見て取れた。
「いえ、そこまでは…」
「チェント、こちらに来なさい。一緒にお菓子を食べましょう。」
プレシアが気を利かして彼女を呼ぶ。ぬいぐるみが手を振るのを見てこっちに走ってきた。プレシアの横の席に行くのかと想っているとイクスの前に来て彼女の顔をジッと見る。
「こんにちはチェントさん。イクスといいます。」
イクスは会釈するがチェントは彼女の顔をジーッと見てからテーブルの上にあったキャンディの袋を1つ取って
「おりう゛ぃえ、はい」
彼女に差し出した。
「「!?」」
それを見ていたなのははティーカップを思いっきり揺らした。お茶を飲んでいたら気管に入ってむせていただろう。フェイトも驚いたらしく一瞬だけ投影魔法がと切れてしまう。
「あ、ありがとうございます。私はイクスですよ。」
「いくす…はい、いくす♪」
キャンディを受け取るのを見て眩しい位の笑顔で答え、プレシアの隣に座った。
「……フェイト、なのはさん、後で話があるのだけれど良いかしら?」
プレシアは鋭い眼差しをこちらに向けて2人に言う。
「は、はい…」
なのはとフェイトは蛇に睨まれた蛙の様に固まりながらぎこちない笑みで答えるしかなかった。
『以上をもちましてStヒルデ学院、学院祭を終了いたします。生徒の皆さんは後片付けを始めて下さい。保護者の皆様は…』
それから少し時間が経って夕暮れの中、学院内にアナウンスが流れる。
「アリシア、どうだった? Stヒルデの学院祭」
教室内で使っていたコアを集めているとヴィヴィオに聞かれる。
「うん、色々大変だったけどすっごく楽しかった。」
クラス委員に推薦されて選ばれた理由を考えたりもしたけれど、逆に私が私らしい学園祭にしちゃえばいいと考え直しクラスで決めた出し物に伝を使って色々詰め込んだ。おかげでもっと大変になったけど終わってみたら凄く盛況だったし、みんなにも喜ばれたと思う。
それに…
(一緒に見て回れたしね)
戻ってくるとは思わなかったヴィヴィオが来て、みんなに魔法を見て貰って休憩時間に一緒に色んなクラスを見て回って楽しかった。でも…
「そろそろ時間なんでしょ、私ヴィヴィオを見送ってくるね。すぐに戻るから」
「えっ?」
彼女に聞かなければいけない。
アリシアは彼女の手を取って教室を出た。向かったのは屋上
バタンとドアが閉じるのを聞いて振り返る。
「未来のヴィヴィオ…なんだよね。私の為に来てくれたの?」
「…やっぱりバレちゃった…気をつけてたつもりだったんだけど…」
「わかるよ。ヴィヴィオだもん。」
今日の彼女には幾つも違和感を感じていた。
学院の中だからなのかも知れないけれどなのはやフェイト、プレシアの所に行かず手を振ったり会釈だけをしていたし、なのはとフェイトを見て一瞬悲しそうな顔を見せていた。
模擬戦でも周囲に気を配っているのか手加減をしていたのかわからないけれど動きに精細を欠いていた。それに…パッと見気付かないけど手や腕に痣らしいものもあった。
「私は…ちょっと先の未来、今私が巻き込まれちゃった事件が終わって帰って来た時から来たんだ。アリシアが頑張ってくれた学院祭、私も参加したかったから。」
「じゃあ…もうちょっとで帰ってくるんだよね? いつ帰ってくるの?」
「…ごめんね。答えられない…答えちゃったら未来が決まっちゃうから。ここの私はまだ事件で頑張ってる最中だから未来を決めさせたくない。」
「そっか…うん、わかった。ありがとう約束守ってくれて。」
本当は彼女も一緒に学院祭を楽しみたかったのだろう。でも…状況がそれを許さなかった。
「…またね」
「うん、またね。」
ヴィヴィオが1冊の本を取出す。
それを見つめながら色々無理して来てくれた事が嬉しくて、逆に彼女はそうなってしまうのが判ってしまい止められない自分が悔しくて…涙が溢れそうになるのを我慢して笑顔を作って手を振って別れを告げた。
夕日に染まる屋上から1筋の虹が空へと向かい伸びていった。
~コメント~
Web拍手で「Stヒルデ学院なのだから学園祭じゃなくて学院祭では」というご指摘を頂きましたので、前数話を学院祭に変更しました。変更されていない話はありますが、掲載中の順番の都合で全話掲載した後に変更いたします。
ということでStヒルデの学院祭話でした。
本話はVivid64話の魔法喫茶を元にAS世界のいろいろな要素を含めています。
(本編に書けなかった裏話的なもの)
魔力コアはAs01 新デバイス誕生?でプレシアが開発したもので魔法力の弱いアリシアは魔力コア専用のデバイスを使っています。
学院祭で使うのだから形式上は学院から教会を通して許可を貰わなければいけませんが、アリシアは上記話で騎士カリムとコネクションを持っており、そのコネと投影魔法の自動起動テストという名目で直接許可をもぎ取っています。
一方で他のクラスから出た不満については自分のデバイスを使ってテスト名目で借りたのだから何を言われても関係ないと簡単に一蹴出来る内容でしたがそうするとアリシアのクラスが孤立してしまうと考え、クラス全体で盛り上げるのではなく借りた本人=アリシアが出来る事ならという落とし所を作って学院祭全体でという条件で折衷案へと促しています。
(会議を見ていたシスターもそれに気付いているのでアリシアの折衷案へと他のクラス代表を促しています。)
ヴィヴィオ不在の話が続きましたがともあれこれでようやく現地ステージの受け入れ体制が整ったので次回からヴィヴィオ本編に戻ります。
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