第40話「転移の責務」
- リリカルなのは AdventStory > 第4章 良き未来への道
- by ima
- 2016.07.18 Monday 04:31
「ヴィヴィオ…起きなさい、ヴィヴィオ…」
「ん…ママ…?」
額に当てられた暖かい手が何だか気持ちいい。
きっと私が朝になっても起きてこないからなのはかフェイトが起こしにきたと思いながら重い瞼を開く。
しかしそこには誰も居らず暖かく感じていた額も特に変わった感じがない。
「んっ…」
起き上がろうとする。でも体が酷く重い。
「ここは元の部屋?…どうして?私…!!」
「ん…ママ…?」
額に当てられた暖かい手が何だか気持ちいい。
きっと私が朝になっても起きてこないからなのはかフェイトが起こしにきたと思いながら重い瞼を開く。
しかしそこには誰も居らず暖かく感じていた額も特に変わった感じがない。
「んっ…」
起き上がろうとする。でも体が酷く重い。
「ここは元の部屋?…どうして?私…!!」
何とか起き上がって周りを見る。大人ヴィヴィオ達が借りていた部屋の寝室らしい…
ふいに広間で見た戦闘を思い出す。
トーマが凄い何かを発したのを見て聖王の鎧も一気に吹き飛ばされた。じゃあどうして元の部屋のベッドで眠っていたの?
「…ん…」
そう思っているとすぐ横で何かが動く。慌てて振り向くと
「………」
大人ヴィヴィオが居た。
「ヴィヴィオ、ヴィヴィオっ!」
「う…ううん…」
「ヴィヴィオってば!!」
「…ん…ヴィヴィオ? マズイッ逃げなきゃ!?」
【ゴンッ!!】
大人ヴィヴィオが目を覚ました瞬間ガバッと起き上がって思いっきり私の頭とぶつかった。
「…ったーい! 何するのよっ!」
「イタタタ…何? ヴィヴィオ? あれ…ここどこ?」
頭を抱えて蹲る私に彼女も額を押さえながら周りを見る。
「ミッドで借りた部屋だけど…ヴィヴィオが運んでくれたんじゃないの?」
「ううん…私も途中で気を失ったから」
彼女がここに連れてきた訳じゃないらしい。
「…1度あっちに戻ろう。アリシアも気になるし色々判ったから。行ける?」
「うん…んしょっと。」
少しふらつくけれど何とか動ける。目を閉じて魔力をチェックする。胸の暖かさは弱いけれど1回位なら飛べそうだ。
「大丈夫?」
「大丈夫♪ 行くよっ」
ジャケットを纏って悠久の書を取り出し2人のヴィヴィオは一旦この世界に別れを告げた。
「それでね…」
「アハハ、楽しそうでいいな~」
「っと…ん?」
ヴィヴィオ達がプレシアの研究所に降りた時、ロビーの方で話し声が聞こえる。
「誰だろ?」
ここでおしゃべりするのはアリシアと私、時々来るセインとチンク位だけど…。でも大人ヴィヴィオは声を聞いて判ったらしく私の横を駆け抜けてロビーに行ってしまった。
「アリシアっ!!」
ヴィヴィオも後を追いかける。
「アリシアっ、良かった…本当に…」
「お帰り、ヴィヴィオ…私がただいまって言った方がいいのかな?」
「どっちでもいい。また話せて…本当に良かった。」
ロビーに行くと大人ヴィヴィオが大人のアリシアを抱きしめていた。事情を知らなければ顔を真っ赤にして見るところだけど、アリシアがもしそうなったらと思うと彼女の気持ちも判っていた。
近くに居たチェントも涙ぐんでいる。
「お帰り、ヴィヴィオ」
「ただいま」
アリシアが私を見て駆け寄ってくる。
「ここに来てよくなったの?」
「うん、ちょっと前にウィルスが全部消えたから問題ないって。来週からママも研究所も普段通りに戻すって言ってた。」
「良かったね。」
大人アリシアが元気になって良かったと思いながら、ヴィヴィオは未知のウィルスを短期間で撃退しアリシアを助けたプレシアの凄さに感心した。
「それで…事件は終わった?」
大人アリシアが回復し、大人ヴィヴィオとチェントが揃った。ここでヴィヴィオが関わるのを止めても何も言われないだろう。でも…
「う~ん…まだ少し、ごめんね学院祭行けなくて。」
「いいよ、でもヴィヴィオと一緒に回りたかったな~」
笑顔で言う彼女に申し訳なく思うのと同時に
(事件が終わったら戻って行こう)
そう心に決めた。
「こっちでは初めまして、色々迷惑かけちゃったね。」
大人ヴィヴィオが落ち着くのを見て、彼女の腕から離れた大人アリシアは私達のところへ来て手を差し出した。
「はじめまして…でいいのかな?」
2人揃ってクスッと笑う。彼女を見ると昔のフェイトを思い出しそうになる。
「2人揃って帰って来たって事は事件解決?」
続けて同じ事を聞かれ苦笑するが大人ヴィヴィオは神妙な顔つきに変わり
「ううん、後で見て貰いたいものがあるんだ。」
「そう…、母さんにも報告しなきゃ。みんなで行こう」
一瞬悲しそうな顔をするが、直ぐに笑顔に変わりヴィヴィオの背を押した。
「お帰りなさい。ヴィヴィオ。向こうはどうだったかしら?」
彼女の研究室に行くとプレシアが笑顔で迎えてくれた。前が非常に切迫していたからそれだけ余裕が出来たらしい。
こっちでは1週間経っているけれど、実際ヴィヴィオが居たのは2日位であまり日が経った感覚がなくて
「あっちの私に会いました。あとはヴィヴィオに連絡貰って行って倒れちゃっただけだったから、お手伝いも出来て無くて…」
「そう…」
そう言うと彼女は席を立って目の前に来て額に手を当てる。
「RHdのデータ見せて頂戴、今から1日間だけでいいわ」
「はい、RHdいいよ。」
デバイスの中を見られる者は限られている。RHdもメンテナンスをしてくれているマリエルや権限のあるリンディ、なのは達以外は見られない。
プレシアは管理局員でもヴィヴィオの家族でも無いから本来は見られないのだけれどそれをあえて見せてといわれたのに少し驚きながらもRHdに許可を出し外して彼女に渡した。
【AllRight】
赤い宝石を機器の上に置くとRHdが一瞬光った後、複数の端末が開き色々な数値データと向こうの画像が表示される。
「わ~っ♪ 向こうのヴィヴィオ大っきくなってる。何年後?」
向こうのヴィヴィオとリオ、コロナ、アインハルトを見て目を輝かせアリシアが聞いてくる。
「2年後…くらい。私もびっくりした。」
「2年後か~中等科になったら私もあんな風になるのかな~」
「なれるように頑張らないとだね。」
そんな話を小声でしていたけれど…
「………」
プレシアや大人アリシア、チェントは表情を険しくしていた。
「向こうでの出来事がよくわかったわ。大きい方のヴィヴィオ、あなたは残りなさい。アリシア」
全ての端末を閉じてRHdを返した後、プレシアは言った。
「ヴィヴィオ、アリシア私達はロビーに戻ろう。」
少し悲しそうな目をした大人アリシアに言われ首を傾げる。チェントも静かに頷いている。
2人に言われてヴィヴィオとアリシアは部屋を出た。
その直後部屋の中から
【パァァァアアアン!!!】
大きな音が聞こえ振り返ろうとするが
「行こう、私達はここに居ない方がいい。」
そう言うと背を押されロビーに向かった。
「アリシアさん、何が…」
ロビーでヴィヴィオは大人アリシアに聞く。
「ヴィヴィオ、ごめんなさい。まさかあんな事をしたなんて…謝って済む問題じゃないけど本当にごめんなさい。」
彼女に頭を下げられヴィヴィオもアリシアも意味が判らない。
「転移魔法は移動先の座標を指定して飛ぶよね。それは刻の魔導書でも同じ。だから移動してる場所だと移動速度や進路を計算して飛ばなくちゃいけないから凄く高度な魔法になる。だから管理局の船はもっと安全に転移出来る様にゲートを積んでるし、マーカー…目印を付けておくんだ。それでも凄く難しくてエース級の魔導師しか出来ない。失敗して壁の中とかに飛んじゃうと大事故になるからね。」
「でも…ヴィヴィオはそれを無視してヴィヴィオを飛ばせた…。緊迫した状況だったしヴィヴィオにも何か考えがあったんだと思うけど…無視した上でヴィヴィオは追いかけられてる方の船に転移しちゃってたんだ。」
倉庫や通路みたいなのはあったけれどアレは航行船の中だったらしい。
「もし…あこでヴィヴィオが居なくなってたら…ここも私達の時間も終わってたよ。」
ポツリと呟くチェントに聞き返す。
「えっ?」
「だってまだお母さんとお姉ちゃんを助けに行ってない。もし死んじゃって助けに行けなくなったらここにはお母さんもお姉ちゃんも居なくなって…シュテルさん達やユーリさんも助けられなくて…私もヴィヴィオも消えちゃうところだった。だからお母さん…凄く怒ってた。」
「え…」
「RHdのデータ見てる途中から…」
アリシアを見ると彼女も静かに頷く。
「アリシア、ヴィヴィオ…あなた達はそこまで気付いてないと思うけど、凄く重要な…居なくなったらここだけじゃ無くて幾つもの時間軸が無くなっちゃう位の立場なんだよ。それだけは覚えておいてね。」
真っ直ぐ私を見て言う大人アリシアにヴィヴィオは自身の立場を再認識せざるえなかった。
もしこれからの未来…時空転移を使えば使う程色んな世界の未来を変えるだろう。でもその時何らかの理由で時空転移が使えなくなったら…今まで変えてきた物が全て消えてしまう。
それには隣にいる彼女も含まれている。
「…はい」
大人アリシアの言葉にヴィヴィオは深く頷いた。
それから1時間後、戻って来た大人ヴィヴィオに呼ばれてヴィヴィオは再びプレシアの研究室へと行った。彼女の頬が真っ赤に腫れていたけれど大人アリシアもチェントも何も言わなかった。
「ヴィヴィオは1度家に帰りなさい、2~3日は魔法は使っては駄目、その間デバイスは預かるわ。回復状況を見て私が異世界への転移を許可をする。」
プレシアの言葉に大人ヴィヴィオが頷く。彼女達が話し合って決めたらしい。
さっきの事があってヴィヴィオも素直に従いRHdをプレシアに渡す。
「大人のヴィヴィオ、あなたが家まで送りなさい。私とアリシアはチェントを迎えに行って家に帰るわ。あなた達はここに居なさい、外出しても良いけれど遠くまで行かない様に」
そう言うと奥の部屋に行ってしまった。
「ごめんね…反省してる…」
帰り道、大人ヴィヴィオが私に謝る。
「うん…でも、私が無茶しちゃったから」
「…ヴィヴィオが居た船、アレはあのウィルスを使う犯罪集団だった、それを母さんやはやてさん達が追いかけてた。もし捕まらない様にあの液体をみんなが浴びちゃったらって考えたら…私の鎧だけじゃ防ぎきれないから呼んだんだ…。」
液体を浴びただけで大人アリシアの様になる…目の前で彼女を見ていた大人ヴィヴィオだったから危険を感じたらしい。
「でも…さっきプレシアさんに言われちゃった。そんな簡単に無力化出来る方法があるなら捕捉された直後にしている筈だって、RHdのデータを見ただけなのに…言い返せなかった。冷静な判断が出来なくなってた…管理局員失格だよね。」
自嘲気味に笑う彼女にヴィヴィオは何も言えなかった。暫く一緒に歩いて
「ねぇ、あの中で凄い魔法…魔法なのかわかんないけどあったのは何?」
「わかんない。急に寒気がして騎士甲冑と鎧を使ったんだけど…ジャケット毎吹き飛ばされた。」
「私も…」
あの黒い闇の様なものは何だったのだろう? 聖王の鎧もアレも全く通じなかった。今まで感じた事のない怖さを感じていた。
一方、特務6課はフッケバイン一味を逃してしまったがトーマとリリィ、アイシスを無事保護しルヴェラからミッドチルダの特務隊舎に戻って来ていた。
数日が経過して今朝、昏睡状態だったシグナムが目覚めてホッと安心するもティアナから他管理世界の魔導企業ヴァンデイン・コーポレーションの研究所が襲撃され襲撃したのがフッケバイン一味と知って逃してしまった責任から苦虫を噛み潰す思いだった。
「EC因子保有者とシュトロゼック、家出中のやんちゃ娘は暫く見習いで預かるとして…、ティアナが持ち帰ってくれたメッセージは特務本部に転送、貸しについては私から報告する。」
トーマのデバイス-スティードに残されたメッセージと特務6課宛てに届いたフッケバイン首領のカレンのメッセージ、そのまま放置する訳にもいかない。
「船に潜伏していた不審者については?」
ヴァイゼンへの帰港中に通信班から報告があった不審者、誰かは判らないがその者はヴォルフラムの居住区に侵入し事件時に中から壁を壊して外に出てフッケバイン捕獲を妨害した。
(あの虹色の魔法色は…ヴィヴィオ)
ヴィータとエリオもデバイス装着時に似た彼女を確認しており、何より彼女はスターライトブレイカーを使っていた。
トーマを保護して戻って来たなのはに直接事情を話して彼女の所在を確認するが彼女はジムでアインハルト達とトレーニング中だったらしい。
そもそも彼女はあの魔法を使えない。
思い当たるのはもう1人の異世界ヴィヴィオだけれど…2年前に見た限り大人モードは使っていないしデバイス反応が無かった。
「デバイス情報は不明、潜伏していたと思われる部屋のセンサーやカメラにも何も残っていませんでした。ですが不正アクセスについては確認できており特務6課の活動報告を調べていた様です。」
シャーリーの回答にはやては眉をひそめる。
(デバイス情報も取れず、ヴォルフラムのセンサーやカメラから自身の情報を消した上でこちらの情報を取っていった…何者や?)
「「「「………」」」」
シャーリーやティアナ、ウェンディ、リインまでがはやてを見て何も言わず立っている。眉間に皺を寄せているのに気付いて深呼吸する。重い空気を作っても事件は進まない。
「不幸中の幸いかトーマとリリィの保護、あの船の攻撃手段としてEC対策とAEC武装の有効性は証明出来た。人員を強化して万全を期していこうか。いつでも緊急出動出来る様にな。」
笑顔を作って言いつつも
(魔導殺しとエクリプスウィルス…きっかけさえあれば世界レベルの騒乱と崩壊が起きる。)
それだけはなんとしても止めなければならない。
同じ頃、隊舎の付近をダッタッタッっと軽やかな音を立てながらアイシスが走っていた。
「アイシスぅ~どうしたの?」
2階の部屋の窓から彼女を見つけたキャロ・ル・ルシエが声をかける。
「キャロさ~ん、トーマとリリィ見ませんでした~?」
こっちに気付いて走って来る。
「見てないよ。訓練終わったら街に買い物に行くって言ってなかった?」
「表で待ってたんですが来なくて部屋に戻っても居なったから…何処に行ったんだろう?」
「勝手に行ったりしない子達だから、2人で話してるんじゃない? 見かけたらアイシスが探してたって伝えておくね。」
「そうですね、お願いします。ちょっと街まで行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
手を振って走って行く彼女を見送った。
~コメント~
色々謎も残っていますが新章突入です。ヴィヴィオが時空転移すればするほど未未来を変えてしまいます。そんな途中でもしヴィヴィオが時空転移出来なくなったら? 今話はそんな話です。
そして、トーマとリリィ、アイシスも無事? 見習いになって再び事件が動きだそうとしていますが…2人は何処に行ったのでしょう?
ふいに広間で見た戦闘を思い出す。
トーマが凄い何かを発したのを見て聖王の鎧も一気に吹き飛ばされた。じゃあどうして元の部屋のベッドで眠っていたの?
「…ん…」
そう思っているとすぐ横で何かが動く。慌てて振り向くと
「………」
大人ヴィヴィオが居た。
「ヴィヴィオ、ヴィヴィオっ!」
「う…ううん…」
「ヴィヴィオってば!!」
「…ん…ヴィヴィオ? マズイッ逃げなきゃ!?」
【ゴンッ!!】
大人ヴィヴィオが目を覚ました瞬間ガバッと起き上がって思いっきり私の頭とぶつかった。
「…ったーい! 何するのよっ!」
「イタタタ…何? ヴィヴィオ? あれ…ここどこ?」
頭を抱えて蹲る私に彼女も額を押さえながら周りを見る。
「ミッドで借りた部屋だけど…ヴィヴィオが運んでくれたんじゃないの?」
「ううん…私も途中で気を失ったから」
彼女がここに連れてきた訳じゃないらしい。
「…1度あっちに戻ろう。アリシアも気になるし色々判ったから。行ける?」
「うん…んしょっと。」
少しふらつくけれど何とか動ける。目を閉じて魔力をチェックする。胸の暖かさは弱いけれど1回位なら飛べそうだ。
「大丈夫?」
「大丈夫♪ 行くよっ」
ジャケットを纏って悠久の書を取り出し2人のヴィヴィオは一旦この世界に別れを告げた。
「それでね…」
「アハハ、楽しそうでいいな~」
「っと…ん?」
ヴィヴィオ達がプレシアの研究所に降りた時、ロビーの方で話し声が聞こえる。
「誰だろ?」
ここでおしゃべりするのはアリシアと私、時々来るセインとチンク位だけど…。でも大人ヴィヴィオは声を聞いて判ったらしく私の横を駆け抜けてロビーに行ってしまった。
「アリシアっ!!」
ヴィヴィオも後を追いかける。
「アリシアっ、良かった…本当に…」
「お帰り、ヴィヴィオ…私がただいまって言った方がいいのかな?」
「どっちでもいい。また話せて…本当に良かった。」
ロビーに行くと大人ヴィヴィオが大人のアリシアを抱きしめていた。事情を知らなければ顔を真っ赤にして見るところだけど、アリシアがもしそうなったらと思うと彼女の気持ちも判っていた。
近くに居たチェントも涙ぐんでいる。
「お帰り、ヴィヴィオ」
「ただいま」
アリシアが私を見て駆け寄ってくる。
「ここに来てよくなったの?」
「うん、ちょっと前にウィルスが全部消えたから問題ないって。来週からママも研究所も普段通りに戻すって言ってた。」
「良かったね。」
大人アリシアが元気になって良かったと思いながら、ヴィヴィオは未知のウィルスを短期間で撃退しアリシアを助けたプレシアの凄さに感心した。
「それで…事件は終わった?」
大人アリシアが回復し、大人ヴィヴィオとチェントが揃った。ここでヴィヴィオが関わるのを止めても何も言われないだろう。でも…
「う~ん…まだ少し、ごめんね学院祭行けなくて。」
「いいよ、でもヴィヴィオと一緒に回りたかったな~」
笑顔で言う彼女に申し訳なく思うのと同時に
(事件が終わったら戻って行こう)
そう心に決めた。
「こっちでは初めまして、色々迷惑かけちゃったね。」
大人ヴィヴィオが落ち着くのを見て、彼女の腕から離れた大人アリシアは私達のところへ来て手を差し出した。
「はじめまして…でいいのかな?」
2人揃ってクスッと笑う。彼女を見ると昔のフェイトを思い出しそうになる。
「2人揃って帰って来たって事は事件解決?」
続けて同じ事を聞かれ苦笑するが大人ヴィヴィオは神妙な顔つきに変わり
「ううん、後で見て貰いたいものがあるんだ。」
「そう…、母さんにも報告しなきゃ。みんなで行こう」
一瞬悲しそうな顔をするが、直ぐに笑顔に変わりヴィヴィオの背を押した。
「お帰りなさい。ヴィヴィオ。向こうはどうだったかしら?」
彼女の研究室に行くとプレシアが笑顔で迎えてくれた。前が非常に切迫していたからそれだけ余裕が出来たらしい。
こっちでは1週間経っているけれど、実際ヴィヴィオが居たのは2日位であまり日が経った感覚がなくて
「あっちの私に会いました。あとはヴィヴィオに連絡貰って行って倒れちゃっただけだったから、お手伝いも出来て無くて…」
「そう…」
そう言うと彼女は席を立って目の前に来て額に手を当てる。
「RHdのデータ見せて頂戴、今から1日間だけでいいわ」
「はい、RHdいいよ。」
デバイスの中を見られる者は限られている。RHdもメンテナンスをしてくれているマリエルや権限のあるリンディ、なのは達以外は見られない。
プレシアは管理局員でもヴィヴィオの家族でも無いから本来は見られないのだけれどそれをあえて見せてといわれたのに少し驚きながらもRHdに許可を出し外して彼女に渡した。
【AllRight】
赤い宝石を機器の上に置くとRHdが一瞬光った後、複数の端末が開き色々な数値データと向こうの画像が表示される。
「わ~っ♪ 向こうのヴィヴィオ大っきくなってる。何年後?」
向こうのヴィヴィオとリオ、コロナ、アインハルトを見て目を輝かせアリシアが聞いてくる。
「2年後…くらい。私もびっくりした。」
「2年後か~中等科になったら私もあんな風になるのかな~」
「なれるように頑張らないとだね。」
そんな話を小声でしていたけれど…
「………」
プレシアや大人アリシア、チェントは表情を険しくしていた。
「向こうでの出来事がよくわかったわ。大きい方のヴィヴィオ、あなたは残りなさい。アリシア」
全ての端末を閉じてRHdを返した後、プレシアは言った。
「ヴィヴィオ、アリシア私達はロビーに戻ろう。」
少し悲しそうな目をした大人アリシアに言われ首を傾げる。チェントも静かに頷いている。
2人に言われてヴィヴィオとアリシアは部屋を出た。
その直後部屋の中から
【パァァァアアアン!!!】
大きな音が聞こえ振り返ろうとするが
「行こう、私達はここに居ない方がいい。」
そう言うと背を押されロビーに向かった。
「アリシアさん、何が…」
ロビーでヴィヴィオは大人アリシアに聞く。
「ヴィヴィオ、ごめんなさい。まさかあんな事をしたなんて…謝って済む問題じゃないけど本当にごめんなさい。」
彼女に頭を下げられヴィヴィオもアリシアも意味が判らない。
「転移魔法は移動先の座標を指定して飛ぶよね。それは刻の魔導書でも同じ。だから移動してる場所だと移動速度や進路を計算して飛ばなくちゃいけないから凄く高度な魔法になる。だから管理局の船はもっと安全に転移出来る様にゲートを積んでるし、マーカー…目印を付けておくんだ。それでも凄く難しくてエース級の魔導師しか出来ない。失敗して壁の中とかに飛んじゃうと大事故になるからね。」
「でも…ヴィヴィオはそれを無視してヴィヴィオを飛ばせた…。緊迫した状況だったしヴィヴィオにも何か考えがあったんだと思うけど…無視した上でヴィヴィオは追いかけられてる方の船に転移しちゃってたんだ。」
倉庫や通路みたいなのはあったけれどアレは航行船の中だったらしい。
「もし…あこでヴィヴィオが居なくなってたら…ここも私達の時間も終わってたよ。」
ポツリと呟くチェントに聞き返す。
「えっ?」
「だってまだお母さんとお姉ちゃんを助けに行ってない。もし死んじゃって助けに行けなくなったらここにはお母さんもお姉ちゃんも居なくなって…シュテルさん達やユーリさんも助けられなくて…私もヴィヴィオも消えちゃうところだった。だからお母さん…凄く怒ってた。」
「え…」
「RHdのデータ見てる途中から…」
アリシアを見ると彼女も静かに頷く。
「アリシア、ヴィヴィオ…あなた達はそこまで気付いてないと思うけど、凄く重要な…居なくなったらここだけじゃ無くて幾つもの時間軸が無くなっちゃう位の立場なんだよ。それだけは覚えておいてね。」
真っ直ぐ私を見て言う大人アリシアにヴィヴィオは自身の立場を再認識せざるえなかった。
もしこれからの未来…時空転移を使えば使う程色んな世界の未来を変えるだろう。でもその時何らかの理由で時空転移が使えなくなったら…今まで変えてきた物が全て消えてしまう。
それには隣にいる彼女も含まれている。
「…はい」
大人アリシアの言葉にヴィヴィオは深く頷いた。
それから1時間後、戻って来た大人ヴィヴィオに呼ばれてヴィヴィオは再びプレシアの研究室へと行った。彼女の頬が真っ赤に腫れていたけれど大人アリシアもチェントも何も言わなかった。
「ヴィヴィオは1度家に帰りなさい、2~3日は魔法は使っては駄目、その間デバイスは預かるわ。回復状況を見て私が異世界への転移を許可をする。」
プレシアの言葉に大人ヴィヴィオが頷く。彼女達が話し合って決めたらしい。
さっきの事があってヴィヴィオも素直に従いRHdをプレシアに渡す。
「大人のヴィヴィオ、あなたが家まで送りなさい。私とアリシアはチェントを迎えに行って家に帰るわ。あなた達はここに居なさい、外出しても良いけれど遠くまで行かない様に」
そう言うと奥の部屋に行ってしまった。
「ごめんね…反省してる…」
帰り道、大人ヴィヴィオが私に謝る。
「うん…でも、私が無茶しちゃったから」
「…ヴィヴィオが居た船、アレはあのウィルスを使う犯罪集団だった、それを母さんやはやてさん達が追いかけてた。もし捕まらない様にあの液体をみんなが浴びちゃったらって考えたら…私の鎧だけじゃ防ぎきれないから呼んだんだ…。」
液体を浴びただけで大人アリシアの様になる…目の前で彼女を見ていた大人ヴィヴィオだったから危険を感じたらしい。
「でも…さっきプレシアさんに言われちゃった。そんな簡単に無力化出来る方法があるなら捕捉された直後にしている筈だって、RHdのデータを見ただけなのに…言い返せなかった。冷静な判断が出来なくなってた…管理局員失格だよね。」
自嘲気味に笑う彼女にヴィヴィオは何も言えなかった。暫く一緒に歩いて
「ねぇ、あの中で凄い魔法…魔法なのかわかんないけどあったのは何?」
「わかんない。急に寒気がして騎士甲冑と鎧を使ったんだけど…ジャケット毎吹き飛ばされた。」
「私も…」
あの黒い闇の様なものは何だったのだろう? 聖王の鎧もアレも全く通じなかった。今まで感じた事のない怖さを感じていた。
一方、特務6課はフッケバイン一味を逃してしまったがトーマとリリィ、アイシスを無事保護しルヴェラからミッドチルダの特務隊舎に戻って来ていた。
数日が経過して今朝、昏睡状態だったシグナムが目覚めてホッと安心するもティアナから他管理世界の魔導企業ヴァンデイン・コーポレーションの研究所が襲撃され襲撃したのがフッケバイン一味と知って逃してしまった責任から苦虫を噛み潰す思いだった。
「EC因子保有者とシュトロゼック、家出中のやんちゃ娘は暫く見習いで預かるとして…、ティアナが持ち帰ってくれたメッセージは特務本部に転送、貸しについては私から報告する。」
トーマのデバイス-スティードに残されたメッセージと特務6課宛てに届いたフッケバイン首領のカレンのメッセージ、そのまま放置する訳にもいかない。
「船に潜伏していた不審者については?」
ヴァイゼンへの帰港中に通信班から報告があった不審者、誰かは判らないがその者はヴォルフラムの居住区に侵入し事件時に中から壁を壊して外に出てフッケバイン捕獲を妨害した。
(あの虹色の魔法色は…ヴィヴィオ)
ヴィータとエリオもデバイス装着時に似た彼女を確認しており、何より彼女はスターライトブレイカーを使っていた。
トーマを保護して戻って来たなのはに直接事情を話して彼女の所在を確認するが彼女はジムでアインハルト達とトレーニング中だったらしい。
そもそも彼女はあの魔法を使えない。
思い当たるのはもう1人の異世界ヴィヴィオだけれど…2年前に見た限り大人モードは使っていないしデバイス反応が無かった。
「デバイス情報は不明、潜伏していたと思われる部屋のセンサーやカメラにも何も残っていませんでした。ですが不正アクセスについては確認できており特務6課の活動報告を調べていた様です。」
シャーリーの回答にはやては眉をひそめる。
(デバイス情報も取れず、ヴォルフラムのセンサーやカメラから自身の情報を消した上でこちらの情報を取っていった…何者や?)
「「「「………」」」」
シャーリーやティアナ、ウェンディ、リインまでがはやてを見て何も言わず立っている。眉間に皺を寄せているのに気付いて深呼吸する。重い空気を作っても事件は進まない。
「不幸中の幸いかトーマとリリィの保護、あの船の攻撃手段としてEC対策とAEC武装の有効性は証明出来た。人員を強化して万全を期していこうか。いつでも緊急出動出来る様にな。」
笑顔を作って言いつつも
(魔導殺しとエクリプスウィルス…きっかけさえあれば世界レベルの騒乱と崩壊が起きる。)
それだけはなんとしても止めなければならない。
同じ頃、隊舎の付近をダッタッタッっと軽やかな音を立てながらアイシスが走っていた。
「アイシスぅ~どうしたの?」
2階の部屋の窓から彼女を見つけたキャロ・ル・ルシエが声をかける。
「キャロさ~ん、トーマとリリィ見ませんでした~?」
こっちに気付いて走って来る。
「見てないよ。訓練終わったら街に買い物に行くって言ってなかった?」
「表で待ってたんですが来なくて部屋に戻っても居なったから…何処に行ったんだろう?」
「勝手に行ったりしない子達だから、2人で話してるんじゃない? 見かけたらアイシスが探してたって伝えておくね。」
「そうですね、お願いします。ちょっと街まで行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
手を振って走って行く彼女を見送った。
~コメント~
色々謎も残っていますが新章突入です。ヴィヴィオが時空転移すればするほど未未来を変えてしまいます。そんな途中でもしヴィヴィオが時空転移出来なくなったら? 今話はそんな話です。
そして、トーマとリリィ、アイシスも無事? 見習いになって再び事件が動きだそうとしていますが…2人は何処に行ったのでしょう?
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