第58話「その日、ミッドチルダ(意思を以て)」

「お姉ちゃん、なのはさん達の後から首都航空隊が来てる。それに、ミッド地上部隊とザフィーラさんもっ来た…。」

 イクスに聖王のゆりかごの操縦を任せた為、チェントは再び周囲の警戒に戻っていた。大人アリシアは聞いて即座に新しいモニタを出してこっちに向かってくる2つの集団を見る。

(首都航空隊と…地上部隊じゃない! あれは…戦技教導隊!!。)
「聞こえるっ? 別の2集団がこっちに向かってくる。首都航空隊と教導隊、両方とも止めないと対AMF装備持ってる。ザフィーラさんも来たけど、ヴォルフラムは来てない。」



 
ザフィーラと一緒に飛んでくる集団、その装備を見て即座に外に居るヴィヴィオに通信を送る。

『わかった。なるべく時間を作る。もうすぐ母さん達と接触するから答えられないけど状況が変わったら教えて。』
(なのはさんとシグナムさん、首都航空隊、ザフィーラさんと教導隊…映像が効いてるって思いたいけど…次の手を考えなきゃ)

 ここで焦ると全員が動揺する。大人アリシアは頭の中で何が出来るのかを繰り返し考えていた。



「クリス、ヴィヴィオさんに何があったのか見せて貰えませんか?」

 Stヒルデ中等部の保健室から少し離れた所でアインハルトはヴィヴィオより早く目覚めた彼女のデバイス、セイクリッドハート、通称クリスに話しかけていた。
 彼女はまだ保健室のベッドで眠っていて、リオとコロナ、保健の先生が診てくれている。クリスは右手をビッと挙げると、ウィンドウを出した。
 ヴィヴィオが聖王のゆりかごに向かって飛ぼうとした瞬間、横からアリシアが飛び出して来た時からの映像だった。

『誰っ! アリシア!?』
『今、ヴィヴィオを行かせる訳にはいかない。』
『!! 何をするつもりっ?』
『ヴィヴィオは知らなくて良い。ううん、知っちゃいけない。ここは攻撃しないから教室で待ってて…それでも行くって言うなら…私が止める。』

 やはり彼女はヴィヴィオをゆりかごに行かせない為に来たらしい。そのまま学院の外で2人の激戦が始まり、やがて…

『ハァァアアアッ!』

 猛スピードで突進してきたアリシアが一瞬視界から消え、ダメージを受けたアラートが表示され映像は終わった。

(ヴィヴィオさんの視界やデバイスの認識を超える速度…)

 少し考えた後、アインハルトはイクスを抱き上げて自分の端末を呼び出す。

「アインハルトです。お願いがあります。」
   


「イタタタ…本当に足壊しちゃったかも…」

 Stヒルデから出て、レールトレインの駅に向かっていたアリシアは道から少し外れた木陰に腰を下ろしてアインハルトから貰ったテーピングを膝に巻いていた。恭也が止め、士郎がヴィヴィオに注意させた理由がよくわかった。
 魔法を使ってサポートして、方向を変えただけなのにこの激痛、部屋に戻るのは厳しそうだ。

「あの…大丈夫ですか?」
「! ッタタタ…」

 その時突然声をかけられた。今は避難警報が出ていて人影がない、そんな状況で声をかけられて一気に警戒レベルを上げ慌てて立ち上がろうとするが再び出来た激痛に顔をしかめるだけだった。

「膝を怪我してるんですね。」

駆け寄ってくる女性

「だ、大丈夫です。これを巻いたら歩けますから。」

テープを見せて答える。しかしそれを見た彼女は端末を出して

『フーちゃん、見つけたよ。アインハルトさんからお願いされた女の子。膝怪我してて歩けないみたい』
『了解じゃ♪、今からそっちに行く。』

 どうやら彼女は見逃してくれた訳ではなかったらしい。
 アリシアはその女性に抱き上げられ、道に出た所でやって来たさっきモニタに映った女性に背負われてレールトレインに乗せられた。

「あなた達は? 私を何処へ連れて行くつもりですか?」

 心の中の警戒レベルは最大まで上がっている。本来なら逃げ出さないといけないのだけれど膝を怪我していて、更に体を軽く抱き上げ担がれるアインハルトを知っている2人から逃げ出せるとは思えない。

「ワシ等はお前を会長の所に連れて行けとハルさんから言われただけじゃ。リンネ、会長は?」
「彼女を連れて家に向かってるって。フーちゃん、駅を降りたら交代しようか?」
「会長を止めるのに比べたら大丈夫じゃ♪ あんな物騒なデバイスで暴れられたらまた仕事探しからって思ったけどハルさんが落ち着かせてくれて助かった。」
(リンネというのが私を見つけた人で、フーちゃんと呼ばれてる人と一緒に探しに来た。多分ハルさんというのがアインハルトさんの事だけど…会長と彼女? 誰?)

 苦笑したフーちゃんと呼ばれた女性がこっちを向く

「ワシ等はそれ以上なにも聞いとらん。だけどハルさんから逃げ出す様なら力尽くでも連れて行けと言われとる。黙って背負われてくれ」

 その言葉と彼女の瞳には凄みがあった。アリシアはそれを見て頷くしか出来なかった。



「会長、連れてきました。」 

 駅から再び背負われて20分程歩いた所にあるマンションにアリシアは連れ込まれた。
 途中、聖王のゆりかごと『プレシア・テスタロッサの娘、アリシアからのメッセージ』は街に流れていた。大人アリシアの予想通り管理局にも止められなかったらしい。
 ヴィヴィオを止めてデータ送信の起動するのがアリシアの役目は終わった。後はヴィヴィオ達を見守るしかない。

「待ってたよ、久しぶりアリシア」
「…ノーヴェ」

 こっちのヴィヴィオやアインハルトがストライクアーツでも有名な選手になっているのは知っていたけれど、会長とノーヴェが結びつかなくて驚き息を呑む。

「聞きたい話は沢山あるけど、イクスお願い」
「はい、フーカさんそこに下ろして下さい。」

 アリシアとほぼ同じ背丈の少女がそう言って目の前にやって来て膝に手を当てるとボンヤリ光り出して痛みが和らいでいく。

「膝の…筋肉と幾つかの筋が切れちゃってます。暫く動かないで下さい、あっでも話しても大丈夫ですよ。」
「イクスは教会でも指折りの治療師だよ。こんな状況なのにアインハルトから頼まれて来てくれたんだ、感謝しろよ。…で、治療の代わりにお前達が何を考えてるのか教えて貰おうか。」
「アレはお前が変身したアリシアなのか?」    

 ノーヴェ、フーカ、リンネ、イクスの視線がアリシアに集中する。
 ニュースでは大人アリシアが話す映像と上空を飛ぶ聖王のゆりかごの映像が交互に映っている。
 ここまで来たら話しても事態は大きく変わらないだろう。

「わかりました。私達の目的…全部話します。但し、今の状況が治まるまでヴィヴィオとアインハルトさん、特務6課や教会のセインさん達に話さないで下さい。話したら…きっと何が正しいのか判らなくなるから。」

 アリシアはそう前置いてから話始めた。

「私達の目的はテレビで言っている通り、管理局が推し進めている自律型デバイス【ラプター】についてミッドチルダを含む管理世界全部で考えて貰う事です。ラプターは局員が行けない危険な場所でも行く事が出来て、もし途中で何かの事態に巻き込まれて壊れても他のラプターに経験が引き継がれます。だから管理局の人材不足問題も解決できると計画が進んでいます。」
「でも…ラプターには大きな問題があります。ラプターは製造時に自律プログラムに人格を持った機体は不良品と見なされて廃棄されます。人格を持つと廃棄される…これノーヴェさんは受け入れられますか?」

 睨んでいたノーヴェの眼差しが揺れる。 

「人やデバイスの違いって何ですか? デバイスだから壊れたら捨てて次のデバイスを使えばいいって考え方もあります。でも…マリアージュ、自律型デバイス、リインさんやアギトさんみたいな融合騎、シグナムさんやヴィータさん達、ノーヴェさんやヴィヴィオ、フェイト…人とデバイスの間が曖昧になっている中でラプターの様な考え方が進めば、人は平気で他人を切り捨てられる世界にもなっちゃいます。そのきっかけを管理局、それも特務6課が作りだそうとしている。」
「私達は管理局だけじゃなくて、もっと沢山の人が一緒に考える機会を作りたいだけなんです。もしその答えでやっぱりラプターは必要だって思うならそれは止めません。それがこの世界が出した答えだから。…でも、私は…私達はもっと世界は優しいって信じてます。」
「…アリシアの考えはわかった。それであんな物を引っ張り出したのか?」
「聖王のゆりかごはミッドチルダや管理世界の注目を集める為だけのものです。本命は今ニュースで出ているアリシアの映像です。はっきり言っちゃえば戦力は限られてます。街への攻撃はしませんしガジェットドローンも持ってません。被害が出ていればレールトレインでStヒルデからここまで来られません。」 
「会長、街にも避難情報は出ていて騒ぎにはなってますが警防隊も警戒しとるだけでした。」
「はい、フーちゃんと彼女を探していても何もありませんでした。」
「…だけど、今ゆりかごの周りでは管理局と戦ってる…違うか?」  

 フーカとリンネの言葉を聞いて腕を組み再び聞くノーヴェ。
 厳しい眼差しは既になく、それを見てアリシアも少し安心した。

「私達の目的はどうしたって管理局、特に特務6課と対立します。クラナガンを含むミッドチルダに被害が出ていなくても聖王をゆりかごを出してあの映像を見たら止めに来ます。それに…最後はどうしても特務6課…ううん、管理局のエースオブエース、なのはさんを倒さなきゃいけない。」
「「!!」」

 彼女を知るノーヴェとイクスが目を見開いて驚いた。



『それで最後の3つ目は特務6課のフォワードメンバー、フェイトかなのはさん、シグナムさん、ヴィータさんを倒す。純粋な魔力ダメージか気絶させる位でいい。』

 大人アリシアの計画、3つ目を聞いた時に他の全員が驚いた。

『ヴォルフラムがミッドチルダに来たら負傷者が一気に増える。ゆりかごかヴォルフラム…どちらかが都市部に落ちる最悪の可能性もある。だから先にヴォルフラムをミッドチルダに来させないようにヴィヴィオに動いて貰った。それでもフォワードメンバーは転送されて来るだろうからその時は…ヴィヴィオ、2人とも覚悟を決めてね。』
『倒さなきゃいけないその理由は私達の目的が管理局と対立しちゃってる事、もし私達が負けてゆりかごが落とされたら計画全部をもみ消される。だから最後に倒して対立しえる存在だというのを示さなくちゃいけない。そこまで出来たら管理局への声も広がる。』

 大人アリシア映像に目を向けて計画の3つ目を思い出す。
 彼女は最初プレシア・テスタロッサの娘を名乗り、アルハザードから戻って来たと話した後、ヴァンティンのECウィルス開発計画と一緒に管理局のラプター計画を話した。
 ECウィルスに感染した者の末路とラプターの廃棄された映像を続けて見せられた者は相当なショックを受け管理局に疑念を抱くだろう。しかし彼女は続けて話していた。

『私はラプターを全て責めるつもりはありません。何故必要になったのかを考えて下さい。管理局に全ての責務を押しつけるのでは無く、全員がECウィルスやラプターに頼らなくても良い世界にするには今何をしなくてはいけないのかを考え行動して欲しいのです。』

 あくまで中立を目指す。但しそこに至る経緯を知っても声を挙げるのかどうするのかはこの世界の住民の判断。その意思はヴィヴィオの言葉を具体的にしたもの。



 彼女の声を背に受けてアリシアはノーヴェに告げる。

「特務6課のみんなにはごめんなさいとしか言えないけど、そこまでしないと声は届かない。」

そう言い終えた後視線は映像の先、聖王のゆりかごの付近で時折現れる光を見て

「ヴィヴィオ…」

呟くのだった。

~コメント~
 2017年明けましておめでとうございます。
 本年も鈴風堂をよろしくお願いいたします。
 また、コミックマーケット91に参加された皆様、お疲れ様でした。
 
 今話は2017年最初の話ということで、本話のサイドストーリーとして考えていた話でした。
 ForceがVivid/VividStrikeの未来なのかは判りませんが、もしそうならフーカやリンネも居るでしょうし、12話以降の話なら2人はきっと離れていた時間を取り戻す様に仲良くしているでしょう。その中でもJS事件を知っている(?)ノーヴェやクラウスの記憶を持ったアインハルトからすると聖王のゆりかごは見過ごせない事態だったと思います。
 アリシアの考えを知りたいと思いながらヴィヴィオの側に残ったアインハルト(クラウス)の意思を一瞬でも出ていたらいいなと思います。

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