第70話「未来への希望」

 病室のドアを開けた瞬間、空気が張り詰めたのにヴィヴィオはすぐに気づいた。その原因は中に居たはやてとフェイト…2人とも私達を睨んでいる。

「ヴィヴィオ…」
「…何の用? ってお見舞いなんやろ。入って来たら?」

 言葉の節々に棘がある。

「お邪魔します…」

 そう言ってヴィヴィオはアリシアとなのはの病室に入ってドアを閉めた。
「…………」
「…………」
「……………」

 入ったはいいが誰も話さない。私達をじっと見つめているだけ…何か言わなくちゃという決意の後

「……あの……」
「……ヴィヴィオ、小さいアリシアも…ここで逮捕出来るんよ? 聖王のゆりかごを使ってクラナガンの上空で局員の指示を無視、都市部での無許可で魔法行使、結界内の局員を全員負傷させた。2人の映像はヴォルフラムのメモリにも残ってる。アリシアはヴィヴィオへの傷害容疑もある。」
「はい…」
「何で顔出したん? 見舞いに来るつもりなら何であこまでする必要があったん? ちょっと違ってたら取り返しつかへん状況にもなってたのわかる?」

 厳しく責めるはやて、彼女がそこまで言ってもなのはとフェイトはヴィヴィオ達のフォローをしてくれない。2人も同じ気持ちなのだろう。

「…ごめんな…」
「ちょっと違ったら? ちょっとでも違ってましたか?」

 私が謝ろうとした時、それを遮ってアリシアが言い返した。

「違わずに全部終わりました。それが全てです。フェイト、なのはさん、はやてさん…私達も本当はここまでしたくありませんでした。でもしなくちゃいけなくなったのは…理由判ってますよね?」「ヴィヴィオ達が先に話に行ってここまでしなくても良くなる様にお願いしました。でもそれを断ったのはフェイト達の方でしょ? 違う?」
「それでも怪我した人も居るし、ヴォルフラムも…」
「判ってる。でもヴォルフラムと聖王のゆりかごが戦って、どっちかが…ううん両方がクラナガンに落ちる『最悪の被害』と比べたらどう? それでも違ってた? 私達、クラナガンの民間人に何にもしてないよ。町の上に行ってフェイト達に見せた情報を出しただけ。」
「それでもね…」
「フェイトちゃん…」

 アリシアに言い返そうとするフェイトの肩に手を置いて止めるなのは

「ねぇヴィヴィオ、ラプターを作るのを止めるはここまでする程大切だったの? ラプターが完成して管理世界の色んな所で使われたら…良い未来もあったんじゃないかな?」
「…違うの、そうじゃないの。」
「……ママやはやてさんやアリシアと違って私やフェイトママは複製母体から作られた、シグナムさん達はプログラムだし、リインさんやアギトは融合騎、スバルさんやチンク達は機械に合わせる為に作られた。レイジングハートやバルディッシュは会話が出来るインテリジェントデバイス…みんな生まれ方は違うけど凄く大切な人達。」
「でもラプターは…みんな一緒に多くの経験が得られるけれど逆に局地で壊れてもって壊れるのが決まってるみたいに作られてる。ラプターを平気で使い捨て出来る世界になっても今のみんなみたいな関係が出来ると思う? きっと…人が人じゃない物を使い捨てにする世界になる。そのきっかけを管理局…ママ達が作っちゃうのが嫌だった。」
「私達はラプターをきっかけにしてもう1度、今度はみんなで考えて欲しかったの。管理世界のみんなが考えてそれでもラプターみたいなのを作りたい、そう決めて作るなら私は止めないよ。それでこの世界の未来が悪い世界になってもそれがこの世界のみんなが考えた結果だから…。でも今のラプターはそうじゃないでしょ。私達が持って来た異世界の技術を使ってみんなで話し合わずに決めちゃってる、だから止めた。」
「でもそれじゃ助けられなくて泣く人も増える、助けられなくて悔しいって想う人も…あの時ラプターがあればって想うんじゃないかな?」
「ラプターがあれば助けられる人も増えるかも知れないけど手が届かない時は来るよ。その時どう思ってどう感じて、それからどう動くかが大切だと思う。私も助けられなかった人が居るからわかるの。あの時悔しくて悲しくて沢山泣いたから…私はここに居る。なのはママ、フェイトママ、はやてさんもそうじゃないの?」
「それは…」

 3人は顔を見合わせる。

「それでもラプターが無くて怪我した人や家族を失った人から見れば言い訳にしかならない。『どうしてあの時無かったんだ』って。ヴィヴィオはそう言われても耐えられる?」

 そう、ヴィヴィオの言葉は助ける側の視点であって被害にあった人から見れば関係ない。

「フェイトママ、それはラプターがあっても何処かで…ううん今も誰かが言われちゃってる。管理局も私も神様じゃないよ。私なんてまだ子供で背も小さいし見える所なんてすっごく狭い。だから手が届かなくて見えない人より近くで手が届いて守りたい人は絶対守る。」

 そう答えて私は隣に居る親友の手をギュッと握った。



 アリシアは急に手を握られて驚いた。
 ブレイブデュエルの世界に行く少し前、彼女は八神はやての持っていたジュエルシードによって蘇った闇の書-夜天の魔導書の管制人格-リインフォースと戦い消滅させた。ジュエルシードは純粋で強い願いを叶えてくれる。はやての強くて純粋な願いを潰した。ブレイブデュエルの世界でリインフォースに話した時思いっきり泣いたそうだ。
 助けられない辛さと悲しみを彼女は知っている。

(ヴィヴィオ…)

 ヴィヴィオがこっちを見て頷く後で

「それは…私が高町ヴィヴィオだから。JS事件でママ達に助けられて…聖王のゆりかごを動かす為に作られたのにいっぱい優しくしてくれてママになってくれたから私はここに居る。きっとここの私も同じ、だから今度は私が守りたいの。この時間のママ達や私、私の手が届く人を。」
「………」

 彼女の背を押そうと何か言おうと思ったが彼女の瞳に光る雫を見て口を噤む。
 異世界の私達の様にヴィヴィオを後ろでヴィヴィオのフォローをするのも良いだろう。彼女が望む結果を目指し最も安全で確実な方法を探して教える。

 でも…離れているからこそ見えるものがあるように近くに、隣にいるから見えるものもある。

(私は…)

 今は一緒に歩きたい。いつか大人の私達みたいになるかも知れないけどそれまでは一緒に…
 彼女に握られた手を強く握り返した。



「ヴィヴィオ、帰ろう…2人とも元気なのは判ったから」

 アリシアはそう言ってヴィヴィオを促す。目の前に居るフェイト達は知っている彼女達と違う、彼女達から見れば私達は家族というより犯罪者というフィルタがかかってしまう。

「うん…」

 ヴィヴィオが小さく頷いたのを見て彼女の背を押し入って来たドアへと促した。

「…ヴィヴィオ、アリシア、自覚を持ったラプターが廃棄された理由知ってる?」

 出ようとしたところではやてに声をかけられる

「いいえ」
「『自分を壊してくれ』…最初に口から出た言葉やったらしい。全機ともな」
 ヴィヴィオは驚いて体をびくつかせる。それを見てはやてを一瞬睨むが
「そうですか、ありがとうございます。」

 力を強めて彼女と一緒に部屋を出た。



「私…ラプターの気持ちまで気づいてなかった…」

 部屋を出てすぐにヴィヴィオは体を震わせる。ショックだったらしい。聖王医療院の外に出た所で近くにあったベンチに彼女を座らせる。
 わざわざ言わなくてもいいものと…と心の中で毒づく。

「気にしなくていいよ、その思いを叶えるんじゃなくて別の方法を見つけなかったのが悪いんだから。私は…なんとなくそうじゃないかなって思ってた。あっ、ちょっと忘れ物してた。すぐ戻ってくるから待ってて」

 私はそう言って再び病室へと戻った。

「失礼しますっ」

 ドアのノックも呼びかけもせずに開いて中に入る。一瞬驚く3人

「どうしたの?」
「フェイト、はやてさん、なのはさん私も忘れ物をしてました。これを」

 フェイトが聞くのを無視して彼女の手にメモリディスクを握らせる。

「これは?」
「魔力コアの設計データ。ママから渡されたんだ。『私がこの世界がこれを使いこなせると思ったなら渡しなさい』って。フェイトなら私がフェイトにこれを渡す意味判ってくれるよね?」

 プレシアから預かっていた魔力コアの設計データ。ここが私達の世界の様にコアを使うかはわからない。でも渡さなかったら同じ過ちを犯すか再び不安定なコアを量産しかねない。
 それに比べたら正しい設計データを渡したほうがいい。
 フェイトに渡した後なのはの方を向く。

「なのはさん、今日…ヴィヴィオ元気に見えましたけど戦った後、先日まで倒れてました。あんな無茶苦茶な魔力の使い方をしたら当たり前ですけど…それにまだ回復魔法でも治ってなくて額とか腕にいっぱい傷が残ってます。私達がした事が良いか悪いかは置いておいてここまでして止めたかったってヴィヴィオの気持ちだけはわかってあげてください。」

 今は相容れないのは判ってる。でもこれだけは彼女に判って欲しかった。
 そして、最後にさっきやられた仕返しをする為にはやてにキッと眉を上げながら振り向く

「はやてさん、フェイトに渡した設計図ですけど、もしこれを使ってラプターみたいなのを勝手に作ったら…その時はこの時間軸を壊します。脅しとかじゃありません。」
「私はこの世界よりヴィヴィオが大事です、大切な親友です。また同じ事が起きて彼女が傷つくならその前に守りたい…私達は何時でもそれが出来るっていうのだけは忘れないで下さい。」
「もし…また会えたらその時はもっと和やかに話したいです。」

 そう言うと再び部屋を出た。



「………」

 なのははアリシアが出て行ったドアを見る。
 最初に考えなければいけなかった事だった。異世界のヴィヴィオはここがどうなろうと彼女の生活が変わる訳ではない。それなのにここまでした理由

「…私達とヴィヴィオを守る為…」

 この世界よりも私達の未来を考えてくれていたのだ。私達と敵対していても…


「………」

 フェイトは姉から受け取ったメモリディスクを見つめる。
コアとは呼ばれなかったが新しい増幅型デバイスが出来たと聞いて配備は進んでいた。ラプターに組み込まれているのは知らなかったけれど…プレシアがアリシアを通じてこれを渡すということの意味…。
 ヴィヴィオとの戦闘中に全てのラプターの機能が停止し、教導隊員が持っていた増幅型デバイスも止まってしまった。異世界の技術だから彼女達が壊したと考えていた。その後でこれを渡すという事は…

(私達だったら使いこなせるって…信じてくれてる?)

 正しい使い方を考えなければいけない。
 ギュッとメモリディスクを握りしめた。


「時間軸を壊すか…私らは作る側から止める側に立つしかないな」

 はやては苦笑いしながら去って言った彼女の姿を思い出す。でも彼女達は大切な事を教えてくれた。彼女達はラプターを全て否定していない。ある機能とその思いに警鐘を鳴らしていた。
 だったら…

「なぁ、なのはちゃん、フェイトちゃん、あのな…」

 そしてその世界は新しい1歩を進み始めた。

~コメント~
 バトル後の再会です。
 ヴィヴィオの台詞は似た言葉を何度か書いていますが3人全員に対して話すのは初めてだったりします。
 本話では書いていませんがプレシアは異世界のデータを見た時から魔力コアが改造されて使われていると考えています。そこで大人アリシアに魔力コアの自壊プログラムを、アリシアには魔力コアの設計データを渡しています。
 それぞれが相反する物を渡されたのはアリシアでは自壊プログラムを使う機会の判断が出来ないと思い、逆に大人アリシアは既にこの世界に対して心理的にマイナス印象を持っている(事件に巻き込まれて死地をさまよっている)為新しい未来の可能性を見いだすのはヴィヴィオと一緒に居たいというアリシアの未来を見る可能性を信じたからだったりします。

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