第72話「未来を選ぶということ(最終話)」

「っと…わわっ!」
「!?」
「キャッ!」

 ヴィヴィオが降り立ったのは高町家リビングだった。
 ソファーの真上に落ちてきたのをフェイトがキャッチする。

「…っと、おかえりなさいヴィヴィオ」
「あ、ありがと。フェイトママ」
「どうしたの~? ! おかえりヴィヴィオ。」

 パタパタとスリッパを鳴らせてやってきたなのはに

「ただいま、なのはママ」

 笑顔で答える。2人の顔を見て帰って来たんだという実感がこみ上げてきた。

「…ヴィヴィオ教えて…ブレイブデュエルから戻ってからのこと…」

 夕食を食べた後、再びリビングでなのはとフェイトが聞いた。
 2人の横で2つのウィンドウが開かれている。1つはアリシアとプレシア、テスタロッサ家。もう1つは八神家。話す前になのはとフェイトに頼んで繋いで貰った。
 プレシアには突然巻き込まれたのもあるし彼女がアリシアに聞くだろうと考えたから、そしてはやて達に聞いて貰いたかったのはこっちの彼女も異世界の彼女達について聞いて貰いたかったから。
 異世界ヴィヴィオ、アリシア、チェントの事。ECウィルスの事、人造端末ラプターの事、そしてラプターを巡って聖王のゆりかごを動かして管理局、異世界のなのはやフェイト達と戦った事…
 1つ1つヴィヴィオは話していった。
 最初は土産話の様に微笑みながら聞いていたなのは達も管理局と対峙する為に聖王のゆりかごを持ち出したのを聞いて神妙な顔つきに変わっていった。

「……私の話はこれでおしまい。」

 フゥっと息をつくと隣に座っていたなのはに抱きしめられる。

「…大変だったんだね。」

 その暖かさが嬉しくて思わず涙ぐんでしまう。

「…ねぇヴィヴィオ、もしここでラプターみたいな物が作られそうになったらヴィヴィオは止める? 聖王のゆりかごを使う?」

 フェイトから聞かれる

「私も聞きたいわね。ラプターに似た物は既に作られている可能性もあるわね。」
「そうやね。私も聞きたい…あっその前に教えて貰ったルヴェラの遺跡やけど執務官が違法実験してるの確認して他の管理世界にある関連施設も捜索入って責任者も逮捕されたそうや。規模が大きくて本局主導で動いてるから詳しい情報は届いてないけど近々ニュースになる予定。」

 ECウィルスは作られる前に終わったらしい。はやての話を聞いてホッと安心する。そしてフェイトの質問に何て答えたらいいかを考える。

「…わからないです。でも…同じ目的で作るなら止めると思う。聖王のゆりかごを使うかは判らないけどあっちみたいに管理局…ママ達と戦いたくない。」

 もしここでラプターが作られたら?
 ラプターの事をみんなで考えた結果作られたらどうするだろう?
 あっちは私の世界じゃないからそこまで考えなかった。

(そうならないって信じてる…でも信じるだけで良いの?)

 信じるだけじゃなくて、私自身がどうしたいか…ラプターを全部否定する訳じゃなくて…

(どんなラプターだったら私自身納得出来るの?)

 考えていると胸に光る宝石が目に入った。 

(そっか…私…)

 どうして私はラプターを否定したのか?
 考えなくても答えは身近にあったのだ。

「ラプターが作られたらラプター同士が繋がってなくてもいい、1人1人が道具じゃなくてデバイスみたいなパートナーになれる。もしリインさんやアギトみたいに話せるなら…デバイスとは少し違うけど…友達になれる。」
「RHdは私がどうしたいのかを何時も考えてくれてる。だから私もRHdに答えたい。同じ様な関係がラプターとも出来るなら…私はその未来を見てみたい。」  

 それが正しいのかはわからない。きっとラプターが居た世界とは違う問題も起こるだろう。でも…それでも、ラプターが作られる時が来るのなら『壊して欲しい』なんて思わせない、生まれてきて良かったって思って欲しい。その為に何をすべきなのか見つけなくちゃいけない。

(それが…私が聖王で…高町ヴィヴィオだから)

 それが未来を選ぶという事だから。
 
 

「ヴィヴィオ…少し見ない間に大きくなっちゃったね」

 その夜、ベッドで横になったなのはは呟く。

「うん…あんな風に答えるなんて思ってなかった。嬉しいけどちょっと寂しい…かな」

 まだフェイトも起きていたらしい…

「フェイトちゃんはヴィヴィオが何て言うと思ってたの?」
「…私は『もし作られそうなら作られない未来に変える』とか『オリヴィエのメッセージには意味あった筈。』とかかな…。」

 以前小耳に挟んだ事がある。同期システムを使ったヒューマノイド端末。多分こっちのラプターになる筈だったもの。しかしその計画は中止されたと聞いている。
 中止理由は融合騎・戦闘機人・人造魔導師計画と並べた時、法的・倫理的に曖昧になってしまう為と…

「魔導師の魔力枯渇時においた支援…」

 魔力コアが発表された時点で本来の目的が失われた為…魔力コアはカートリッジシステムと合わせてどの様に使っていくか装備部でテストが行われている。フェイトは中止になったのを知りながらあえてヴィヴィオに質問していた。
 ヴィヴィオはラプターそのものを否定せず、友達になれるという可能性を見つけていた。

「本当に大きくなったね…『未来を見てみたい』…か…オリヴィエさんがヴィヴィオに任せた理由が少し判った気がする。」
「そうだね…。それと、私達ももっと頑張らなくちゃね。ヴィヴィオに負けないように」
「うん、じゃあ明日から朝ジョギングしよう、一緒に♪ 私も負けられないから…ヴィヴィオにも姉さんにも」
「え…が、がんばるっ!」

 まだ彼女には伝えなきゃいけない事が沢山ある。だからもう少しの間は負ける訳にはいかない。
 ベッドの中で握り拳を作って誓うなのはだった。



「ただいま~久しぶりのベッド~…」

 同じ頃2階の自室でヴィヴィオもベッドに埋もれていた
 寝返りをうって暗い部屋の中で天井を見上げる。
 今度の色々で判った事はある。世界は本当に繋がっている
 もしブレイブデュエルの世界に行かなかったら、フォートレスについて何にも知らないままだったし、アリシアもヴィヴィオを抑えられなかった。それにチェントとも会えなかったから知らない間にあっちのヴィヴィオとアリシアは大変な事になっていただろう。
 それに…何をしなくちゃじゃなくて私自身がどうしたいのか、何をしたいのかを考えさせられた。

「これで良かったのかな…?」

 現在を変えて未来を変えるという意味
 直ぐに答えが出る訳でもなく、正しい答えがある訳でもない。きっとずっと考えなきゃいけないこと…。

「明日からまた頑張ろうね…」

 そう言って瞼を閉じた時

【ねぇ、かだいはいいの?】

 心の中から声が聞こえた。かだい…かだい? 

「課題!!」

 ガバッと飛び起きる。色々ありすぎて思いっきり忘れていた。学院とコラード先生から貰っていた課題。明日から学院に行くということは…少なくとも学院の課題は全部終わらさなきゃいけない。

「マズ…全然やってない。」

 青ざめながらも課題を全部出して

「…ちょっと過去に飛んで…ううん、私がしなくちゃいけないんだから!」

 気合いを入れて机に向かうのだった。



 世界は必然が積み重なってできている。

 いくら偶然と思えようと何か理由があるからそこにある。

 数多の必然が連なって世界は成り立っている。 

 例え幾つもの事象が目の前にあっても、選んだ事象だけが必然になる。

 事象が些細な事であっても重大な事であっても変わらない。

 それが理であり真意。

 連なってしまった必然を消す事は出来ない…

 選んだ必然はあなた自身の未来なのだから 

 
~あとがき~  未来を選ぶという意味
 もしヴィヴィオが時間移動魔法が使えたら? リリカルなのはASシリーズはこんなコンセプトで始まりました。TV版やVivid、ゲームの世界にも行きました。幾つもの世界を経てヴィヴィオは成長します。
 そんなヴィヴィオが今回行った世界はブレイブデュエルの世界(INNOCENTS)となのはシリーズでの1番の未来世界(なのはForce)です。なのはForceは娘Typeで連載され途中で休載してしまっている話です。休載した話なので結果等も全く判りませんがその中にヴィヴィオを連れて行くには幾つかのリスクがありました。

 第1にForce世界にも成長したヴィヴィオが居るのでどう扱うか?
 第2に今までのなのはシリーズとは毛色が違っていて直接事件に加わるのは難しい。
 第3に事件の真相が全くわからない。

 それらを考える中でヴィヴィオと違う異世界のヴィヴィオ達(異世界チーム)の力を借りました。 異世界チームはAgainStory2(闇の欠片事件)で初登場し、AffectStory~刻の移り人~でヴィヴィオを助けに来て、今作に至ります。
 彼女達は闇の欠片事件からの未来世界に存在するヴィヴィオ、アリシア、チェントでヴィヴィオ達から見ると数年後(大体ヴィヴィオがチェントと同い年位)で年齢相応にヴィヴィオがまだ経験していない辛い事も知っています。
 そんな彼女達と共にヴィヴィオとアリシアは未来を変えるという意味を考えます。自分が考える良い未来が必ずしも全員にとって良い未来ではない。それでも変えなければいけないのか?
 未来を変えるという事は、本来あった良い未来から悪い未来に変わってしまう人も居ます。本昨ではその一例としてラプターを選びました。
 ラプターの開発コンセプトは兎も角、存在自体はデバイスや戦闘機人・複製母体から生まれたコピー等の人為的に作られた存在と比較された時、人と違う生まれ方をした者がどんな風に扱われるか? もしこの存在をオリヴィエが知ったらどうするだろう? その世界はヴィヴィオは居るけれど時空転移の資質が引き継がれていない世界です。その答えが刻の魔導書を通じて異世界のヴィヴィオに危険を伝える事でした。
 AdbentStoryのAdventはブレイブデュエルで新しい可能性が「到来する」やヴィヴィオが聖王として「降臨する」という意味で使いましたが、ヴィヴィオの新しい可能性を見つける旅だったのかなと思います。
 第1話が2015年9月でしたので1年半強というシリーズ最長になってしまいました。
途中で何度も掲載が遅れてしまったにも関わらず、おつきあい頂きました皆様本当にありがとうございました。
 本編は一旦終了となりますが、もう少し短編的に続けたいなと思ってます。こっちはシリアス&バトル風味よりいつものドタバタ的なもので…


 
 

Comments

ima
>光希様
 いつもありがとうございます。
 掲載期間が開いたりと色々お待たせしてすみませんでした。
 ヴィヴィオとチェントの関係ですがきっと2人だけだと出会いの色々があったり互いの距離感が掴めなかったりとギクシャクしますが、間にアリシアが入ると良い関係になるのかなと思います。もう少し大きくなれば仲良くなれるかも知れませんね。

 外伝的な話としてAdventStoryAfterを掲載開始しました。
 長期掲載だったので色々残っている謎もあるのでその辺を含めながら話を進めていきたいと思っています。
2017/05/26 11:57 AM
光希
imaさん、1年以上続いた今回のお話が無事完結しましたね。
お疲れ様です。今回もとても良いお話でした。
今回のお話に登場したヴィヴィオと同じくらいいの方の
チェントは大人ヴィヴィオと仲が良さそうだな~っと思いました。
この最終話の前の話でヴィヴィオが学園祭に出るために
時間移動した時に会ったチェントがヴィヴィオと
手を繋ぐ所を読んだ時もビックリしちゃいました。
幼いチェントはヴィヴィオが好きではなかったのでは?っと。
今回のお話を読んでこの2人が今までより仲良くなるお話しが
読んでみたいな~って思いました。
本編は一旦終了したのにもう少しだけ短編的に続けるそうですね?
更新楽しみにしてます。頑張って下さい。
長々と失礼致しました。
2017/05/07 12:30 AM

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