第14話「3人の強さ」

「さてと…どんな歓迎してくれるか楽しみだね♪」

 楽しそうに言うパートナーに対して私はため息をついた。

「う~…私はまた怒られそうな気がするんだけど…」

 見えてきた特務6課に行くのが今更ながらにヴィヴィオは憂鬱になっていた。


 私達の目的はこの世界にあるレリック片とNo10のジュエルシード。両方とも遺失物管理部の保管庫あるのは知っている。
 最初は空間転移で行って持ち帰っちゃえばいいと考えていたけれど、そうすると後で予想外の問題が起きそうな気がする。何故なら2つともここの私達に深く関係しているからだ。
 だったら逆にこっちの母さん達に話をして正式に貰える手続きをしてみようと言うことになった。最悪ダメと言われたら少し前に移動して最初の考えを実行すればいい。
「アリシア、どんなメッセージを送ったの?」

 まだ魔力が戻りきっていない状態での転移だから思ったより減っていて私はミッドチルダの公園で休んでいた。その傍らで彼女が特務6課にメッセージを送っていた。 

「どんなって普通のメッセージだよ? 夕方頃に行くから3人とも待っててねって。」
(…ぜったい何か変な事書いてる…)

 私の長年の勘がそう告げている。
 隊舎が見えたところでその入り口に数人の姿が見えた。その姿を見て私はやっぱりと手を額に当てた。

「…滅茶苦茶警戒されてるじゃない!」

 そう、そこに居たのはシグナムとヴィータ、ザフィーラ、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ…全員がバリアジャケットとAMF装備で固めていたのだ。
 隊長を除くフォワード陣がフル装備で出迎えているのだから警戒レベルじゃない。

「大丈夫だって、話しに来ただけなんだから。こんにちは~♪」

 そう言って先に走って行ってしまった。

「ちょ、ちょっと待って!」

 私も後を追いかけた。



「お前…よくここにっ!」

 グラーフアイゼンを構えるヴィータ、ティアナとエリオもデバイスを構える。

「こ、こんにちは」

 殺気じみた気迫に気圧される。でもアリシアは深々と頭を下げた後

「はじめまして、アリシア・テスタロッサです。フェイト達と約束してるんですけど案内して貰えますか?」

 ニコリと笑って言った。こういう時の肝の据わり方は呆れてしまう。彼女的には『今戦って勝てる相手じゃないんだからわざわざ敵対する意味がないでしょ♪』というところなのだろう。私もぎこちない笑みを浮かべて会釈した。

「フッ、聞いている。部隊長室に案内しよう。」

 一瞬笑った後、シグナムがデバイスを待機状態に戻してジャケットも解除した。

「シグナムっ!」
「「シグナム副隊長!!」」
「戦意が無い相手に刃を向けるのか? そもそも2人が何かをした証拠はあるのか? すまないが所持品の検査だけさせて貰うがいいか?」
「もちろん。」

 シグナムが言うとアリシアは微笑んだまま頷いて両手を横にあげた。。
 特務6課だけではECウィルスとラプターを暴露したアリシアが目の前のアリシアと同一人物だという証拠はない、聖王のゆりかごを動かしていたのがヴィヴィオだという証拠もない。
 管理局本局・ミッドチルダ地上本部と連絡を取られるとその可能性も出てくるけれど、そうするとこっちのヴィヴィオに影響するから間違い無く出来ない。
 更に言うとヴォルフラムを攻撃したのはフッケバイン一味であってヴィヴィオとアリシアではない。
 そもそもここのヴィヴィオはミッドチルダに居るし、アリシアは10数年前に死んでいる。
 それが判っているからアリシアは笑顔でここに来たのだと判った。でも…

(アリシア、いつか後ろから砲撃魔法撃たれるよ…絶対)

 そう思いながらも私も両手を横に挙げて検査を受けた。 



「チェント達は無事に着けたでしょうか?」

 一方その頃、異なる時間の時空管理局本局、その中にある居住区のリビングでユーリは呟いた。

「戻ってこないところを見ると無事に着いたのでしょう。ですが、彼女の…アリシアの計画には問題が山積みです。特に彼女の思考に触れた者が素直に賛同してくれるか…」

 シュテルが答える。今日は久しぶりに4人の休暇が重なってディアーチェの準備が終わればショッピングに出かける予定だ。

「問題って?」
「休む前にチェントから彼女達がこの前行った世界と事件について聞きました。トラブルに巻き込まれながらもアリシアが考えた作戦は私も驚かされました。荒唐無稽な作戦ですが5人でその地のなのは達と管理局に対抗する為には全てが終わった後であればその方法しか無かっただろうとも思えます。彼女がセンターにいるからこそヴィヴィオやチェントの能力も発揮できるのだと改めて思いました。ですが…敵対した者の怨嗟は彼女に集まります。その上で交渉しても不信感と怨嗟から良い返事は貰えないでしょう。」

 ある意味立案する者の苦悩とも言っていいだろう。
 人望やその者の魅力で人を動かすのと理や理論・計算を以て人を動かすのでは動かされた者の心理は大きく異なる。
 その時の結果は同じでも続けて何かを行おうとした時、同じ結果は生まれない。
…とは言え、彼女ならそれも含めて計算している可能性もあるが…

「う~ん…でもそれは大丈夫じゃない?」

 シュテルの心配をレヴィが気にする風でもなくテーブルにあったクッキーを1つつまんで口に入れる。

「何故ですか?」
「アリシアが1人で動いてるなら危ないけど、アリシアを守れる子が2人もついて行ってる。ヴィヴィオもそうだし、チェントもね。足手まといになりたくないからって理由だけで私達に特訓を頼んだりしないよ。家族なんだから、守れなかったのが悔しかったんじゃないかな…チェントは言わなかったけど。」
「「………」」

 シュテルとユーリはその返事を聞いて目を丸くした。

「驚きました…レヴィからそんなまともな返事があるなんて…」
「私もです…」
「ん? ヴ~~~~~それって僕を馬鹿にしてるでしょ。滅茶苦茶酷くない!?」
「失礼しました。」
「ごめんなさい。」

 素直に謝ると彼女は笑顔に戻る。  

「まぁレヴィの言う通りだろう。3人がそれぞれの役割を把握し動けばいい。アリシアが苦手なものはヴィヴィオやチェントがすればいい。それが彼奴らの強さだ。待たせたな。」

 そう言ってディアーチェが部屋から出てきた。

「私達みたいにですね。」
「はい。」
「うん」
「そうだな。では行かけるか。」

 そう言うと全員が玄関へと向かった。

(未来の彼女はどちらの道を歩むのでしょうか…)

 王道と覇道、彼女はそのどちらの可能性も持っている。  



「ヴィヴィオ、アリシア。特務6課にようこそ。」

 部隊長室に案内された私達をはやてが出迎えた。和やかに言っているが目は笑ってない。
 部屋の中のソファーに据わったなのはとフェイトの表情にも笑みは無い。

「はじめまして、アリシアです。手厚い歓迎ありがとうございました。」

 アリシアは手を差し出す。。

「聖王のゆりかごで来られると今のここじゃ太刀打ち出来んからな、ヴォルフラムも襲撃受けて修理中やし。」

 はやてがアリシアの手を取って握手する。アリシアは和やかな顔で

「ホント最前線て大変なんですね。人手が足りなくなってあんなの作るのも判る気がします。でもさっきヴィータさん達が揃ってましたから今は余裕が出来たんですね。良かったです。」
「何処かの誰かのおかげで任務も減ったからな。フッケバイン一味を追いかける準備をしてるよ。誰かのくれた対ECウィルス剤もあるしな。」
「そうですか、その薬そのまま効けばいいですね。その…一味さんがもし同じ物持ってたら対策しちゃうんじゃないですか?」
「…それが手を組んだ報酬か?」

 はやてから笑みが消えた。

「何の話です? 私は可能性を言っただけですよ?」

 しかしそれを知りながらもアリシアはニコニコと笑みを浮かべている。

……事件を知ってる者が居れば思っただろう。聞いてるだけで胃が痛くなる。

「あの…はやてさん、アリシアもその辺で…」
「そうですね。お願いがあってここに来たのでその辺りを話してもいいですか?」
「…そうやね…冷めたお茶しか出せんけど、どうぞ。」
「喉が渇いてたので丁度いいです。おじゃましま~す」

 悪びれない様子でソファーに向かう彼女を見ながらハァ~っと深いため息をつきながら私も後に続いた。

「それで、今度は何? ラプターの研究開発は中止になって今は小っちゃいアリシアから貰った魔力コアの研究に移ってるよ。そっちも止める?」

 どうやらアリシアは魔力コアの製法を渡したらしい。

「そっちは興味ないのでいいです。未来に何かあれば彼女が動くかも知れませんが私には関係ありません。今日ここに来たのはある物を貰えないかなって。」
「何が欲しいの?」

 売った言葉を全部綺麗に打ち返されてふて腐れてお茶を飲むはやての代わりにフェイトが聞いた。

「JS事件で回収したレリック片とジュエルシードNo10です。借りると返すの大変なんでください♪」
【ブッ!!】

 聞いた直後はやてが思いっきりお茶を吹き出した。幸い吹き出した方向には誰も居なかったが後で誰かが掃除するのだろう…その人に心の中で謝る。

「い、今なんて!?」
「ご、ごめん。アリシア…さん、もう1度言って」
「アリシアで良いですよ。世界は違うけどフェイトのお姉ちゃんですから。」
「いや、そ、そうじゃなくて…もう1度何が欲しいって?」
「だから、JS事件で回収されたレリック片とジュエルシード事件で回収されたジュエルシードのNo10を下さいって言ったんです。」
「……んなもんあげられるかぁっ!! 指定遺失物を何やと…」

 前にテーブルがあればひっくり返す位の勢いで言った。まぁそういう反応になるだろうなとは思っていた。
 それより驚いたのはアリシアの話術、険悪な空気を全部受け流して一気に吹き飛ばしてしまった。
 彼女が私を見て目で合図する。
 ここからは話せということらしい。

「ヴィヴィオの…小さいヴィヴィオのデバイスが壊れちゃったんです。その修理にレリック片とジュエルシードがどうしても必要なんです。彼女の世界のも、私達の世界のも全部使っちゃったので…ここにあるのを貰えませんか?」
「ヴィヴィオの…?」 

 なのはが耳を傾けてくれた。

「でも…こっちの、私達のヴィヴィオもそれが無いと困るんじゃ?」

 フェイトも話を聞く体勢に変わった。

「ここのヴィヴィオは私や彼女の様な資質を持ってないからレリック片もジュエルシードも使わないの。でも…彼女はデバイスが無くなると魔法が使えない。その中にはここに来たあの魔法も含まれていてこのままだと私とアリシアは消えてこの時間軸も影響を受けちゃう。」
「えっ?」

 はやても驚く。

「私…ヴィヴィオは時間移動魔法が使える様になって成長するとある時間に行きます。ジュエルシード事件が起きる前、プレシアさんが研究していた駆動炉が事故を起こす前に行ってアリシアを、ジュエルシード事件で虚数空間に落ちる直前に行ってプレシアさんを助けてヴィヴィオとアリシアが同じ年の時間に送り届けます。私はもう助けたけど、彼女はまだこれからです。」

 アリシアが隣で頷く。

「母さんとアリシアを…ヴィヴィオが助ける?」
「うん、プレシアさん達は暫く異世界で暮らした後、私がその魔法に目覚めた後にミッドチルダに戻って来る。その時プレシアさんがアリシアを守る為に作ったのが魔力コア。」
「ここのヴィヴィオはその魔法の資質を持ってない、だからプレシアさんもアリシアも居ないし魔力コアもない…資質を持ってたら多分もっと違う今になっていた筈。」 
「ここも…影響を受けてる?」

 なのはの呟きに強く頷く。

「だから、彼女のデバイスを直さないとここも…私達の世界も大きく変わる。どこまで変わるか判らないけど…」
「現在が変わる…」

 隣で聞いていたアリシアはヴィヴィオの話を聞いてこういう話は彼女の方が良いと思った。
 敵視する空気を吹っ飛ばした後は彼女が話すと親身になってくれている。
 話の流れを変えたり状況分析するのは彼女より得意だと思っている。でも実際に親身になって聞いて貰おうとするとそういう状況変更をした者が話すと耳を傾けて貰えない。

(あとひと押し…は待った方がいいか)

 最後の手段として【話し合わなくても持って帰ることは出来る】と言うカードはあるが出さない方が良い方向に進みそうだ。ここはヴィヴィオに任せようと思った。
  
「でも…どうすれば指定遺失物を…」
「調べて貰えれば判るけどレリック片は保管されているけど指定遺失物から外されてると思う。じゃないと私達もレリック片が使えないから。ジュエルシードは魔導企業に貸し出された事がある。」
「えっ!?」

 そう言うとはやては端末を出して調べ始めた。

「本当や…レリック片、指定遺失物じゃなくて事件の証拠扱いになってる。事件はもう終わってるしこれなら譲渡許可…は取れる。でもジュエルシードは管理者登録を含めた期間を限定した貸与…貸し出しになってる。」

 はやては数分も経たない内に調べた。流石遺失物の専門部隊を率いた事があると驚く。

「レリック片はそれなりの理由をつけたら出来るけど、ジュエルシードは無理やな。」

 早くも暗礁に乗り上げてしまった。

「どうしよう、アリシア」
「レリックだけでも何とかなるけど…はやてさん、先にレリック片だけでもお願い出来ますか? それとフェイト、私達をちょっと連れて行って欲しい場所があるんだけど…」
「えっ、どこ?」
「軌道拘置所。会いたい人が居るの、ティアナさんに案内お願いって」

 誰だろう?

 怪訝な顔をするフェイトが私を見るが私も流石に判らず首を傾げた。

~コメント~
 来週はお仕事で更新出来そうにないので先に掲載しました。
 2章のSideシリーズですが複数の世界がほぼ同時に進行してしまうので3つに分けました。

 Side-Mはミッドチルダでの出来事を中心になるので今まで路線のどちらかと言うと短編集に近い話になります。

 Side-Uは海鳴市での出来事を中心に、海鳴市、日本にいて中々登場させられなかったキャラが出てくるので、時々スピンオフ元の人も登場したりします。

 で本話Side-AはAnotherWorld、異なる時間軸の話を中心に進めていてAdventStory後のForce世界や刻の移り人から時間が経った未来の世界になっています。
 
 途中でシュテルが話していたのはAdventStoryでの大人ヴィヴィオ達の配置について周りがどう思っているかを書いてみました。
 
 さて、少し話は変わりまして10月に入りまして当SSサイトも無事10年目に入りました。短編集「ヴィヴィオの日記帳」からまさか当時生まれた子供がヴィヴィオと同じ年になるまで続けるとは当時全く考えていませんでしたが、これもひとえに読んで下さった方、感想を頂く方、文庫本を手にとって下さった方があってだと思います。
 1年前はAdventStoryで全部出し切ろうと思いその話で終わらせるつもりでした。
ですが、なのはVividの連載が終了すると聞きましてもう少しだけ続けようと思い今話を書いています。
 今後も頑張って話を続けて行きたいと思いますのでよろしくお願いします。



 

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