第13話「RHdの軌跡」

「ただいま~…今日1日が凄く長かった…」

 研究所に着いてアリシアはロビーのソファーにバタッと倒れ込む。

「…ごめんなさい…」 
「ううん、頼んだの私だから。ゴメンね色々疲れたでしょ。」
「…うん、少し…」

 謝るチェントに言う。
 授業内容については特に問題も起きなかったのだけれど、ヴィヴィオとチェントの違いがはっきりわかった1日だった。
 リオとコロナに学院祭の後でちょっと事件に巻き込まれてと話してフォローをお願いした。
滅茶苦茶レアな虹色の魔法色も同じだしまさか別人だとは思われないだろうと思いつつもとりあえず私と彼女達から聞かれたらそう答えようとなって聞かれたクラスメイト何人かに伝えると思っていた以上の速さで伝わっていき、放課後に保健室に呼ばれて色々カウンセリングを受けた。
 幸か不幸かなのはとフェイトが休暇申請を出していたおかげで、学院から連絡出来なかったらしく。呼ばれた後に私がママに再び通信を送って暫く預かっていると先生達に伝えて何とか落ち着いた。
 …ただ何かが起きる度に私の精神力はガシガシ減っていた気がする…

「お母さんにただいまって言ってくるね。チェントも行く?」
「うん」

 研究室に向かう2人の背を眺めながら

(あ~…フェイトとなのはさんにも言っておかなきゃ…)

 このまま帰って来たら大変だ。ペンダントを出して通信を送ろうとした時、先にメッセージが届いていた。今日のドタバタで全然見てなかったと思いつつ開くとフェイトからだった。

『恭也さんから見るだけでも練習になるからと聞いて送ります。何かあったら連絡下さい。』

 添付されていたファイルを見る
 ヴィヴィオと彼女より少し背の高い少女が練習していた。何処かで見覚えがある…聖祥の上級生に居た様な…。小太刀サイズの2刀流…ということは、彼女が月村雫だろうか?

『ヴィヴィオ、凄いですね。』
『うん、雫の動きに合わせてる…』
『私も驚いてます。』

 恭也と美由希とフェイトの声が聞こえた。

「雫さん…結構練習してるんだ。いいな~」

 練習期間だけで言えば大先輩でこっちは通信教育みたいなものなのだからこんな言い方は失礼なのだが他に聞いている人も居ないしこの際気にしない。
 ヴィヴィオに合わせた動きでも凄く自然に棒を振っている。

 でも動きを見てて…私の脳裏に違和感を覚えた。  
「………あれ?」

 5分ほどで2人の模擬戦は終わって映像は消えた。
 気になってもう1度見ようとした時

「お姉…じゃなかった、アリシア~。帰るから準備してだって~」

 奥から声が聞こえて

「は~い、帰ってから見ようっと」

 答えてウィンドウを閉じた。



 同じ頃、管理局本局装備部の1室でマリエルは幾つものウィンドウを広げていた。どのウィンドウも高速でプログラムとその実行結果が流れている。
 彼女はその中の端末に向き合っていた。
 今日プレシアと直接会って彼女は沢山の事を得た。
 特に魔力コアの設計思想には感銘を覚えた。
 局員に合わせてより使いやすくより効率的に動き、迅速に事件を終わらせる支援をするのが装備部の任務。だから魔力コアの仕様を聞いた時もその使用方法は事件解決に向けてのものだった。

「これはね私の親バカな考えから生まれたのよ。」

と照れ笑いながら教えてくれた。
 管理局側の設計者として争い戦いで使うのではなく、術者を守り助けるの物として使って欲しいのを知って欲しかったから。
 フェイトの裁判過程で知った彼女の母、プレシアが何故彼女を生み出したのかを知った。
 多くの人を介しての伝聞やメッセージでは気持ちは伝わらない。だから彼女はレティ提督に頼んで直接私を呼んだそうだ。
 その上でRHdの修復に協力して欲しいと頼まれた。

 ジュエルシード事件時にマリエルはRHd-レイジングハート2ndを見て驚愕した。
 呼称や設計時期にも驚かされたがそれよりも当時の技術では無理だと思われていた高魔力結晶体との接続方法が示されていて、リンディが一緒に持って来た物がまるで決められたかの様組み込めたのだ。当時は全てを理解する事が出来ず、又メインフレームの代わりになりそうな物もなくその指示に沿って作業した。
 しかし彼女の頭にはずっとその技術が残っていてその理解出来なかったものがようやく全て理解出来るようになった数年後、JS事件でヴィヴィオが保護されて2年前なのはとフェイトからヴィヴィオ専用デバイスの設計依頼を受けた。
 その時に思い出した。
 かつて自身が指示され理解出来ずメンテナンスしたデバイスは自身が設計した物だったと。
 そうして何度かの調整を経てストレージデバイス-RHdを作った。
 予めメインフレーム破損時におけるジュエルシードを入れる場所と接続方法を記載して…。
 時々メンテナンスをする中でフレームがジュエルシードに変わったりインテリジェントシステムが加わって驚きもしたが、ヴィヴィオの才能の開花と共に成長するデバイスを見守ってきた。
 だからマリエル自身も出来るなら新しいデバイスではなくRHdを修理したいと考えているが問題が解決出来なかった。しかしそれを解決出来る光明が見えた。
 レリック片とジュエルシードは彼女が用意するから、私にはRHdから何故メインコアとメインフレームが消えたのかを調べて欲しいと。
 マリエルは2つ返事で受けた。
 壊れたデバイスからデータを取るのは簡単な事じゃない。1つ操作を間違えばそのデータも消えてしまう。これが出来るのは設計者だけ…。
 そして出来ることはもう1つ…。
 以前考えていたイメージを具現化していく…
  

 
「はい、遺失物管理部とも相談しましたが現状での承認は難しいそうです。」

 夜遅く、八神はやては自室で通信をしていた。その相手はリンディ・ハラオウン。
 彼女から問い合わせを受けたのは今朝。

【RHdの中に入っていて消えたレリック片とジュエルシードが手に入れられた場合、法的に問題なくRHdに入れられるかを調べて欲しい】

 寝ぼけ眼でその文面を読んで唸りながらも海鳴に行くなのは達に挨拶をして出かけ、アリシアとミウラを会わせた後、出勤して再びその文面を見た。
 プレシアから貰える様に話がついたのだろうか? だとしたら、アリシアのペンダントに入れたレリック片の管理者ははやて自身になっていて、リンディもプレシアもそれは知っているから何か連絡でもあって良い筈だと首を傾げる。 
 とりあえず、機動6課設立時にお世話になった上司に連絡を取って指定遺失物の利用規程について詳しい局員を紹介して貰い、更にその局員と通信とメッセージで何度かやりとりをした。

「ですが、ロストロギアの安定利用の可能性を調べるという調査目的でしたら所持の許可も下りやすく、既に民間の研究機関にも貸し出されています。管理規定は厳しいですが…。」
『貸し出しじゃなくて、指定前から入っている場合はどうなのかしら?』

 はやては手元のメモを何枚か捲る。

「その場合も聞いてます。暴走の危険性がなく安定しているのであれば所属長からの報告でいいそうです。その場合安定しているという証拠を遺失物管理部に提出と管理責任者の登録が必要です。RHdはその状態でジュエルシードが組み込まれています。RHdの管理者はマリエルさんがなってくれてます。ですから新しいジュエルシードを使う場合はマリエルさんからジュエルシードが無くなった報告がされた後で承認になるので…消失理由も報告しなくてはいけませんし、続けて同じ指定遺失物の管理者申請をしても承認が下りないだろうと…」

 早い話管理不行き届きになる訳だ。
 罰せられたりはしないが、今後遺失物の貸し出し等には影響するだろう。

『そう、悪いことをしたわね…』

 リンディは表情を曇らせた。

「…新しいジュエルシードだったら?…」

 しかしはやては自分で話した言葉を反芻してある事に気づいた。遺失物管理部の局員は確かにそう言っていた。メッセージを見直してある考えが浮かぶ

「リンディ提督、こんな方法は取れませんか?」   

 その方法を聞いたリンディも

『…可能性はあるわね、それでいきましょう。』

 ニコリと微笑んで頷いた


~コメント~
 ヴィヴィオが持っているレリックについて【輪廻】という短編を書きました。今話はそのRHd版です。
 ヴィヴィオのパートナーとして話の中心に居るレイジングハート2nd-RHdですが誕生については以前から何度か書いていました。しかしマリエル視点でのRHdを作った経緯については中々書く機会がなく、今話がいいタイミングだったので掘り起こしてみました。
 ようやくAnotherStoryでのフラグが回収できました。 
 
 

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