第12話「母の想い」

「こんにちは、高町ヴィヴィオです。」

 こっちに来た日の夜、高町家のリビングに集まった皆の前でヴィヴィオはペコリと頭を下げた。

 なのはとフェイトが娘を連れて帰って来たというのを聞いて、夕方から何人かやって来た。
 最初に来たのは月村すずか。私を見て頭を撫でながら『また会えたねヴィヴィオちゃん♪』と囁かれた時には流石に驚き過ぎて固まってしまった。
 彼女はしっかり私の事を覚えているらしい…
 暫く経ってなのはが戻ってくるとフェイトやアリサ・すずかと楽しくおしゃべりしつつ夜になって士郎と桃子、美由希がエイミィとアルフ、そして…見かけない同い年位の子供を2人連れてきた。
 そして…

「遅くなった、ごめん。」

 
「久しぶり、なのはちゃん、フェイトちゃん」

 そう言って家に来たのは、恭也と忍と…そしてまた見かけない同い年位の子…
 その後で知らない大人の人が何人か…、なのはとフェイトと話してるのを聞くと以前翠屋に居た事があるらしい…
 それなりに広いリビングが人でいっぱいになってきた。

(恭也さんと忍さんと一緒に来た子が雫ちゃんで、エイミィさんとアルフさんと一緒に来た子がカレル君とリエラちゃんか…)

 以前から話は聞いていたし、写真も見せて貰ってたけど最近の物じゃなかったから3人を見て驚いた。 
 同じ年頃がヴィヴィオ・カレル・リエラ・雫の4人だけだったから自然と4人が集まってお話した。雫とカレル・リエラも初めて会ったらしく最初は戸惑っていたけれど1時間もしない間に話せるようになっていた。

「Sランク魔導師って聞いてたからもっと怖いって思ってた。叔母さんみたいに模擬戦好きで…」

 そう言ったのはカレル。彼らは海鳴市でエイミィやアルフと一緒に暮らしているらしい。魔導資質もそれなりにあるのか、時々クロノが教えているが2人ともどちらかと言えば魔法が無いこっちの暮らしの方が好きだと聞いた。
「…模擬戦もするけど、私も本を読んでる方が好きだよ。あっそうだ!、雫さん、アリシアって女の子知ってます? 私と同じ年で…」

 1年位前、ジュエルシード事件の撮影で来た時アリシアと話していた子が彼女の名前を出していたのを思い出した。

「…知ってる。同じ学校だったから時々見かけてた、父さんからそっちに引っ越したって聞いた。元気にしてる?」

 彼女は言葉を選びながら話してる気がする。まだ警戒されているのだろうか?

「元気ですよ~、こっちに来て美由希さん達と練習したいって言ってました♪」

 そう言うと今まであまり興味なさそうな雰囲気だったのに頬を緩ませて

「…あの子もしてるんだ…ヴィヴィオもしてるの? だったら…」

 そこまで言ったところで

【ぽんッ】
「!!」

 雫が後頭部を軽く叩かれた。

「コラッ、誰でも構わずバトルしない。恭也が見てないと思ったら全く…ごめんね、この子強そうな子が居たら誰でも構わず決闘申し込んじゃうの。」
「け…決闘…」

 リエラが数歩引いて呟く。 

「そんなんじゃないよ、アリシアも同じ剣練習してるって聞いたからヴィヴィオも」
「しててもこっちに来た理由恭也が言ってたでしょう。そんなに練習したいなら…美由紀~、ちょっと」

 そう言って雫の腕を捕まえて連れて行ってしまった。

「同じ学校じゃなくて良かった…」

 その呟きを聞きながら私は何も言えず2人の後ろ姿を目で追いかけた。

「……忍さん…全然近くにいるのわかんなかった…」

 幾ら近くに居たとしても、ここまで近くに来ていて気づかなかったのにはヴィヴィオ自身驚いていた。高町のみんなもそうだけど…月村のみんなも人間離れしてる気がする。


 そんなヴィヴィオ達を眺めながらなのはは来てくれた人に挨拶したりしていた。

「なのはちゃん、おひさし♪」
「エイミィさん♪」

 エイミィがやって来てグラスを軽く小突かせた。

「ヴィヴィオ、元気そうじゃない。おか…リンディ提督からこっちに帰ってくるって聞いた時は何すればいいか本当に慌てたんだから。」
「すみません…お騒がせしまして…」

 桃子達とアリサとすずかには話したけれどここまでみんなが来たのは彼女の活躍もあったらしい。

「伸び盛りの魔導師の中で偶に無茶する子が似た様な状態になることもあるらしいから休暇だと思ってゆっくりしたら? それに…」

 彼女はキッチンの方を見る。そこには桃子と以前翠屋で働いていた人と輪を作って談笑していた。

「桃子さんと士郎さん…なのはちゃんに会えて嬉しいんじゃないかな…。」
「はい…」

 胸がチクリと痛む。

【ヴィヴィオとフェイトちゃんと暫くそっちに行っていい?】

 通信で聞いた直後の顔は脳裏に鮮明に残っている。
我が儘を言ってそのまま異世界に行ってしまった娘をどう思ったのか…
今になってその気持ちが判った。

「お母さん…お父さん…」

 涙がにじむ。

「なのは、ヴィヴィオは私が見てるから」
「うん…ありがとう。フェイトちゃん」

 ここに居る間…私が出来る事をしよう…そう思うなのはだった。



 そんな事があった翌朝、ヴィヴィオとフェイトは山麓の公園に来ていた。
 魔法が使えなくても心を落ち着かせる練習は出来る。いつも通りの練習をしようと思って出かけようとしたら

「折角なんだしママも一緒に行きたいな。」

 既にトレーニング用の服に着替えて待っていた。
 瞼を閉じて心を静かに胸の鼓動に耳を傾ける。暖かな光は感じない。昨日教えて貰ってなかったら慌てていただろう。
 でも、みんな少し休めば治るって言うし、私自身無茶な魔法を沢山使ったし学院祭の模擬戦で違和感もあったから…暫く魔法が使えないんじゃないかって…
 だから今出来ることはみんなに心配かけないで焦らずに、でも1日でも早く治す。 
 
「フゥ…」

 数分間集中した後、息をついて瞼を開く。

「もう良いの?」
「うん、後は…そうだ! フェイトママ一緒にメニューを考えて。」
「メ、メニュー!?」
「うん♪ 魔法が使えないとアリシアに負けるなんて悔しいもん。」
「そ…そうだね。じゃあ最初はジョギングから。山の上まで競争♪」

 そう言うと彼女は突然走り始めた。

「あーっ! ズルーイ!」

 ヴィヴィオは彼女をを追いかけた。


 山麓の公園から少し走ると山頂に広場がある。
 ブレイブデュエルの世界では士郎や恭也、美由希がジョギングの後の剣の練習場所として使っていてヴィヴィオも何度か行っていた。
 フェイトを追いかけて駆け上がると小気味よい音が聞こえて来た。フェイトが立ち止まって音の鳴る方を見ている。

(こっちも同じなんだ…)

 彼女の横まで行くと、似た光景が広がっていた。

「ハァアアアッ!」
「テリャァアアアッ!」

 少女が両手の木刀で攻めるが、それを女性がいとも簡単に払う。少女がふらついて隙を見せるが女性は何もせず体制を整えるのを待って少女の攻撃を再び払った。

「威勢が良いのは声だけっ?」
「まだまだっ!」 

 女性は高町美由希、そして少女は昨夜会った雫だ。
2人の練習を近くで見ていた恭也が私達に気づいて手を振る。美由希も気づいているらしく、雫の攻撃を払った直後笑みで答えた。

「おはようございます、凄いですね雫さん」
「おはようフェイトちゃん、ヴィヴィオ。まだ粗さも目立つ。」

 そうは言うが一見しただけでも十分強いと思う。魔法なしならアリシアより強いんじゃ…
 そう思っていると、フェイトに頭をコツンと叩かれた。

「模擬戦はダメだからね。私がシャマル先生に怒られちゃう。」
「俺たちは魔法は使えないし軽い運動程度でよければ…これも持って来てる。」

 笑いながら近くに置いてあったリュックから何かを取り出す。
 それは木刀を一回り太くした様な棒だった。刀身を触るとグニャッと曲がる、柔らかい素材で出来ているらしい。私達がここに来るのを予想していたみたい。

「フェイトママ♪」

 魔法も使わずに怪我しない様に気遣いもされている。 

「む~…っ、じゃあ少しだけだからね。」
「やった♪」

 私はギュッと握り拳を作って喜ぶと2人に苦笑いされた。

「美由希、雫。そこまでだ。」

~コメント~
海鳴市編第2話は高町家+αの登場回でした。
以前も名前だけ登場していたキャラも居るので簡単に紹介を…

 カレルとリエラはクロノとエイミィの子供で「なのはStrikerSサウンドステージ1」で名前だけ登場しています。
 本編ではフェイト達の引っ越しに合わせてミッドチルダに戻った可能性もあるのですが、今話では昔のフェイト達同様に海鳴市とミッドチルダを行ったり来たりしています。

 月村雫は月村すずかの姉、月村忍と高町恭也の子供です。
 リリカルなのはのスピンオフ元(とらいあんぐるハート3)の月村忍Endingで登場しています。ASシリーズでも初期の頃から(AgainStory)名前だけ時々出ていましたがやっと本人を登場させられました。


 

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