第11話「ヴィヴィオなの?」

「ここが…」

 ゴクッと唾を飲み込んでその敷地に入る。入って直ぐに

「お待ちしていました。所長がお待ちです。」

 小柄な女性が玄関から現れ会釈をした。

「久しぶり、チンク。」
「マリエル技官。ご無沙汰しています。」

 そう、私マリエル・アテンザはミッドチルダにある研究施設へと来ていた。
 何故私がここに来る事になったのかというのは、半日前に遡る…。
「はい、聖王教会との事務レベルでの協議ですか…?」

 いつも通り出勤して白衣を着た直後、私のコンソールが鳴った。出たのはレティ・ロウラン元提督。彼女は今装備部系とは違う部署に居るけれど、以前から色々お世話になっている。

「ええ、急な話で悪いわね。事務レベルとは言っても技官同士の交流会みたいなものだと考えて。」

 魔力コアの更なる有効活用方法を考える為の技術交流会らしい。
 装備部は本局魔導師のデバイス運用を支援する為、民間企業との共同開発している。
 民間企業は貴重な運用テストデータが取れるし、管理局は低コストで優秀なデバイスが確保出来るという互いにメリットがあるからだ。
 そんな中でも聖王教会とは少し距離があった。
 理由は本局とミッドチルダ地上本部との軋轢、同じミッドチルダにある聖王教会もどちらかと言えば本局より地上本部寄りの為あまり本局と協議や共同開発はしていない。だからそれがいくら元上司から頼まれた話とは言え半信半疑だった。

「何処で待ち合わせれば良いですか?」
「いいえ、直接研究所に行って頂戴。場所は…」

 とは言っても最近ある研究者と技術交流が増えていた。理由は彼女が開発した物とその専用デバイス開発。彼女から伝えられた場所を聞いて私は驚いた。

「…私が行ってもいいんですか?」

 彼女と私は同じ船に乗った事もあるけれど直接何かしている訳ではない。…ある件から距離を置くためにあえて離れていた。
 だけど…彼女の技術力は彼女が作ったデバイスを見て十分に理解している。
 魔力コア専用のデバイスは彼女の技術も大いに取り込まれている。

「話は通してあるから問題無いわ。そう、それと…先日故障報告のあったデバイスとデータも持って行ってくれるかしら。これはあくまで個人的にだけれど…」
「了解しました。」

 その言葉でこの時期に依頼を受けた理由を理解して私は急ぎ着替えてミッドチルダに飛んだ。



「みんなは元気?」
「はい、皆元気です…私とディエチはちょっと色々ありまして暫く休んでいましたが。」
「ええっ! 今度看ようか?」
「い、いえっ今は問題ありません。」
「あんまり無茶しちゃだめだよ。幾ら強いっていっても限度があるんだから。」
「ありがとうございます。」

 チンクと話ながら案内して貰う。無期限観察と聞いていたが特に変わりは…どちらかと言えば落ち着いた雰囲気だったのが打ち解けやすくなった気がする。

「うん、いつでも相談してね。」

 そう言っていると部屋に着いたらしく、中に案内され彼女は出て行った。

「会議室…なのかな?」

 辺りを見回す。殺風景な只の会議スペースなのに何故か生活感を感じてしまう。首を傾げるが直ぐに理由はわかった。
 部屋の片隅に敷かれたカーペッドの上に何個かのぬいぐるみと小さな棚があってそこから生活感を感じたからだ。
 その上に置かれたノート…というか分厚い画用紙。手に取ってパラパラとみる。

「…子供?」

 そう言えば…撮影の時も彼女は小さな子供を連れていた。彼女が描いたのだろうか? 決して上手いとは言えないけれど暖かみがある絵、そこには笑顔が溢れていた。

「いい絵でしょう? ここに置いておかなくてもいいのだけど…私の宝物よ。」

 いつの間に来たのか気づかず慌ててノートを元の場所に戻した。

「すみません、勝手に見てしまって。」
「構わないわ。何度か連絡はさせて貰っていたけれど、初めまして。プレシア・テスタロッサです。」
「初めまして。管理局装備部マリエル・アテンザです。」

 差し出された手を握って答えた。



「ねぇ、アリシア…ヴィヴィオ大丈夫なの?」

 一方、少し離れたStヒルデ学院。2限目の授業の最中、隣の席に座っているコロナがアリシアに小さな声で聞いてきた。

「えっ? 何かあった?」

 引きつった表情で聞き返す。

「だって朝から…どこか変じゃない?」
「そ、そう? 久しぶりだからちょっと緊張しちゃってるんじゃない?」

 彼女の視線の先には…授業を受けているヴィヴィオが居る。

「少し経てばいつも通りに戻るよ。うん、お昼過ぎ辺りにはきっと…」
「う~ん…そうだね。」

 あまり話していると先生に怒られてしまうからコロナはそれで納得したのか戻った。
 それから時間は少し経ってお昼前

「アリシア、ちょっとこっちに来て!」

 今度はリオに手を捕まれて教室から引っ張り出された。

「ねぇ、ヴィヴィオに何かあったの? 何か変に余所余所しいし最近の話を聞いても良く覚えてないっぽいし…、いつもなら『今日はどこで食べようか?』みたいにお弁当持ってくるのに…」

 自分の席に座って周りをキョロキョロ見ている。
 …どう見ても不審すぎる。 

(…私だけじゃフォロー出来ないかも…)

 多分ヴィヴィオがおかしいのに気づいているのは2人だけじゃ無いだろう。それもその筈、今ヴィヴィオ本人は海鳴に行っていて、彼女はチェントなのだから…。



 それは昨日の事、ヴィヴィオと通信で暫く海鳴に行くと聞いた後、家のチャイムが鳴った。

「は~い、いっ!?」

 誰が来たのかとウィンドウを出して見てみると、つい先日元の世界に帰った筈の

『こんばんは~♪』
「ヴィヴィオと私っ!? チェントおおっ!?」

 つい先日別れた3人が映っていたのだ。

「もーっ、思いっきり驚かされたわよ。」

 とりあえず3人を家に入れてリビングに通す。チェントが先に寝てくれて助かった…。ため息をつきながらアリシアもソファーに腰を下ろす。

「ゴメンゴメン、ヴィヴィオの家に行こうとしたら途中ではやてさん達を見つけちゃって、あっちに行くと色々ややこしそうだからこっちに来たんだ。」
「こっちでも十分ややこしくなるんじゃない? 何かまた事件? もし事件があっても今は協力出来ないわよ。あの後ヴィヴィオが大変なんだから」

 そう言うとさっきまで和やかだった大人の私が神妙な顔つきで

「大変って…もしかしてRHdが壊れた…とか?」
「? そっちはあんまり良く知らないけど、ヴィヴィオ、魔法が使えなくなっちゃってるの、リンカーコアが動いてないんだって。明日から治るまで海鳴に行くの。」
「「「!?」」」

 流石に3人とも驚いたらしい。

「無茶してたから、学院祭で模擬戦した時も殆ど魔法使えてなかった。」
「ど、どうして落ち着いてるのっ? そのままじゃアリシアやプレシアさんが消えちゃ…」

 大人ヴィヴィオが驚く。

「消えてないし足もあるでしょ? それが私達が落ち着いてる理由。ママーっ、RHdも壊れちゃってるの? ヴィヴィオからマリエルさんに預けてるって聞いてるけど。」

 隣のキッチンで飲み物を用意していたプレシアが戻って来た。
 プレシアと3人にはコーヒーを、私には暖かいミルク…何故か納得出来ない…。

「そうよ。少し修理が大変だって聞いているわ。アリシア、ヴィヴィオやフェイト、なのはさんに言ってはだめよ。」
「母さん、その修理が大変なのって…もしかして交換出来ない部品があるからじゃ無いんですか?」

 大人アリシアが聞く。プレシアは一瞬私の顔を見て考えた後…

「そうね…黙っていても仕方ないわね。」

 そう言って話し出した。

「今、ヴィヴィオのデバイスRHdは起動出来なくなっているわ。理由は単純、メインコアになっていたレリック片とメインフレームのジュエルシードが失われたから。失われた原因は不明。他のパーツは用意出来てもその2つだけは用意出来ない。今日リンディが私が持ってるレリック片とジュエルシードを使わせてくれって来たわ。」
「…ウソ…そうか、私とチェントのデバイスに。」

 アリシアのペンダントにはレリック片が、チェントのペンダントにはジュエルシードは入っている。これがあれば直せる…

「駄目よ、それはあなた達の物。ヴィヴィオには渡せない。」
「どうしてっ!」

 アリシアは食い下がる。

「チェントは既に2度それらを使っているからよ。あの子が使ってしまった物、同調した物だからヴィヴィオは使えない。それに…あの子が成長した時、これが無ければヴィヴィオと同じ道を辿ってしまう。ねぇ、あなた達の世界のレリック片とジュエルシードは無い?」

 プレシアは他にある場所を知ってたけれど使えないと判断した。それは技術者では無く母として選択。
 それに気づいてアリシアは小さく『ゴメン』と謝る。

「ごめんなさい、お母さん。私達の世界にも余ってるレリック片はありません。私達のデバイスに全部使っちゃったから。」

 チェントが胸から赤いペンダントを取り出す。

「そう…悪かったわね。」
「母さん、ヴィヴィオのデバイスRHdで足りないパーツってそれだけなんですか?」

 大人の私が今度は聞く。

「ええ、法令上の問題はあるわね。…今どの管理施設でもロストロギアを組み込む事は出来ない、レリック片は兎も角ジュエルシードをパーツとして使えない。」
「…実際に修理は出来ますか? 母さんの研究所にある機器を使えば?」
「可能よ。」

 それを聞いた大人の私はニヤリと笑った。

「幾つかお願いがあります。RHdが壊れたって話はマリエルさんからの報告ですよね? その情報が間違いだったって事にして下さい。」
「それとRHdの設計データ…メンテナンスのデータを手に入れて下さい。あと…暫くチェントをここで預かって下さい。」
「全部お願い聞いてくれたら、私達がレリック片とRHdに入っていた同じNoのジュエルシードを持って来ます。」
「!!」

 目を丸くして驚くプレシアとアリシア

「ええっ!? そんな物何処にあるの?」

 隣の大人ヴィヴィオも驚いている。

「全然使ってない世界から持ってくる。ヴィヴィオが時空転移出来ない世界。あれだけプレゼント渡したんだから、1つ2つお土産貰っても怒られないでしょ♪」
「あっ!」

 アリシアも思い出した。ヴィヴィオが時空転移に目覚めなければレリックもジュエルシードも使われない。ヴィヴィオが聖王としての資質を失った世界…私にも判った。
 確かにあこにはある。未使用のレリック片とジュエルシードが…

「ええ、わかったわ。ヴィヴィオ、アリシア…お願いね。」

こうして私達はRHdの修理に動き出した。


…動きだしたのだけれど…

(流石に知ってるって言ってもいきなりヴィヴィオになりきれって厳しかったかな。)

 何故2人がチェントを置いていったのかは彼女に聞いた。
 連続転移は魔法の負荷が大きすぎてまだ難しく、あっちのヴィヴィオは直ぐにここから転移していた為ここの思い出というか記憶が弱くて転移が難しかったそうだ。
 でもチェントはここで2週間程居たからそれも強くて飛べた。ここまでは飛べたけれどここからは連続転移になるから難しいと判断して2人で行ったらしい。

 残された彼女は最初『研究所でお手伝いします』と言っていたがそれを私が止めた。止めた理由は…流石にヴィヴィオの出席日数がマズイと考えたから。
 前の事件で2週間以上休み、魔法が使えるまで暫くまた休む。課題はちゃんと提出しているけれどこれから先の事を考えると1日でも学院に行っていた方が良い。

「が、頑張るねっ!」

 話を聞いた彼女も気合いは入れていたが…どうも空回りしている。

(いきなりコロナおねーちゃん…だもんね…はぁ)

 登校時にコロナを見つけて声をかけた時、私は頭を抱えた。…確かに彼女から見れば『コロナおねーちゃん』で合ってるのだけれど…

「ちょっとヴィヴィオを呼んでくる。先に屋上で待ってて。ヴィヴィオ~」

 私はそう言ってリオ達から離れてヴィヴィオを呼びに行った。



 チェントを連れて廊下に出る。
 彼女は登校直後に大失敗をしたからなるべく目立たない様にしようと考えていたらしい。だがいつものヴィヴィオを知っているクラスメイトからすると違和感しか無くて彼女を連れ出す時にもほぼ全員の視線を集めていた。
 アリシアは仕方なくプレシアに通信を送った。

「ママ~、いきなりバレちゃいそうなんだけど…あっ、ごめんなさい。お話中でした?」

 プレシアと一緒にモニタに映ったのはマリエル・アテンザの姿だった。

『構わないわよ、数日位大丈夫かと思っていたけれど困ったわね。』
「ごめんなさい…」
『気にしなくてもいいわよ。気づかれない方がおかしいでしょう。』
『…本当に別人ですか?』

 シュンと落ち込むチェントにプレシアは笑顔で答えるがマリエルは驚いている。

「どうしよう…」
『そうね、今日・明日位なら調子が悪いって誤魔化せるけれど1週間・1月を考えるなら協力者が必要ね。リオとコロナはヴィヴィオの魔法は知っているの?』
「ううん、Sランクを取ったとかは知ってるけど…」

 時空転移や異世界の話を2人にする訳にはいかない。もし何処からか話が漏れれば彼女達も事件に巻き込まれかねない。特にヴィヴィオが魔法を使えない今それは危険過ぎるしアリシアが判断して言えるものじゃない。

『そうね…前の事件で事故にあった事にしておきなさい。事故の影響で魔法も以前の様に使えず、一時的に記憶が曖昧になっている…。フェイト達が暫く出ているから預かっていると…。何かあれば私に連絡するように先生にも伝えて頂戴。』

 全て話す訳にはいかず、別人だとは言えないのだから具体的な案としてはそれ位だろう。
 ヴィヴィオが前の事件で魔法が使えないとかフェイト達が出ていて、チェントを家で預かってると言うのは本当なのだから…。

『1週間もすれば慣れるでしょう。少しずつ思い出してくるだろうからいつも通り接してほしいって頼みなさい。大変でしょうけどお願いね。』
「うん、わかった。」
「はい」

 頷いてアリシアは通信を切った。

~コメント~
 AdventStoryを書いている時、ヴィヴィオとの入れ替わり話をしたいなと思っていたのですが機会が無かったので久しぶりにやってみました。
(実はヴィヴィオとチェントの入れ替わる話は以前にもしていたりします…)
 背丈とかも若干チェントの方が大きいのですが…皆気づくよ(笑)
 大人アリシアは話を上手く進めてくれるので助かるのですが、逆に説明っぽいのが増えるので気をつけます。ハイ…

 

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