第10話「マテリアルからの風」

「幾らあなた達が優秀な局員だからと言って…」
「クロノ提督ではありませんが、組織には守らなくてはならない規律というものが…」
「ヴィヴィオもアリシアも局員であって聖王教会にも…」

 管理局装備部の1室でヴィヴィオはただひたすら彼女の説教を受けていた。
 目の前に居るのはマリエル・アテンザ。私達のデバイスの基礎設計をしてくれた1人で私や母さん達にとって頭が上がらない人の1人。
 かれこれ30分…何故私が彼女の説教をひたすら受けているかと言うと、アリシアから頼まれた修理部品を貰う為だ。

(やっぱり…こうなっちゃうよね…)
 普段はここまでお叱りを受けることは無いのだけれど、任務外の事で勝手に留守にして帰って来たらデバイスが壊れて私達で修理するから部品だけくれと言われたら、何の為の装備部かと言う話にもなるし、デバイスマイスターとしては聞き捨てならないのだろう…

(後でアリシアにも怒って貰おう)

 私だけ言われるのは流石に癪だ…でも壊した原因の殆どは私だから

『コアリンク状態でこんなのされちゃ私でもフォロー出来ませんよ』

 と履歴でも送られると火に油を注ぐだけだろう…アリシアなら自分とチェントを守る為にしかねない…ううん、間違いなくする。

「聞いてるんですかっ!」
「も、勿論です。」

 そんなところにドアが開いて

「もうその位でよかろう。デバイスのパーツを渡してやってくれ。」
「ヴィヴィオも凄く反省してますし、なぁ」

 ディアーチェとはやてが入ってきた。そう言えば2人で何かの任務に行っていたとユーリが言ってたような…と思い出す。

「…判りました。後で交換したパーツとデバイスのログを持って来て下さい。それで申請はこちらでします。」
「ありがとうございます!」

 何だかんだ言ってもフォローしてくれる彼女に笑顔で答えた。


「ありがとうございました。ディアーチェさん、はやてさん」
「話せんのだから仕方ない。」
「私はもう少しお灸を据えて貰った方がいいと思ってたやけど、ディアーチェがな『そろそろ助け船を出してやろう』って」
「なっ! 貴様はっ!」

 ニヤリ顔で言うはやてにディアーチェがバッと顔を赤らめる。

「ディアーチェさんありがとうございます。それで…2人揃って本局になんてどうしたんですか?」

 ディアーチェは兎も角、はやてはミッドチルダ地上本部所属だからここに来るのは珍しい。

「ユーリから聞いているであろう? お前達の妹の特訓の為だ、何処かの馬鹿が2日で仕上げろと言ってきたからな。」
(私の妹じゃないんだけど…)
「すみません、無理をお願いして…。」

 突っ込みを入れると話が逸れていくからあえてせずに礼を言う。

「戦技魔法や魔導制御はシュテルやレヴィ、ユーリに任せておけば良い。我はその支援だ。」
「魔法使いまくって集中したらめっちゃ疲れるやろ? おいしい料理を沢山食べて休めば直ぐに特訓に戻れるからな♪」

 流石だと感嘆をつく。。
 ディアーチェはチェントの回復役らしい。逆に言えばそこまでシュテル達が叩き込むということ…

「1人で十分だと言ったのだがな…」
「こんな面白い事、独り占めはあかんよ~♪」

 ため息交じりにぼやくディアーチェにはやてが横から抱きついて言う。
 どうやら追い返しきれなかったらしい…

「まあいい、普段逃げていたヤツが自分から頼んで来たのだ。そうだヴィヴィオ、貴様も一緒に揉まれてこい。」
「!?」
「そうやね、隣で受けたらあの子にもいい刺激になるんとちゃう。」

 マズイ…このまま話が進めば私まで特訓に入れられてしまう。

「デバイス修理中ですし、まだ怪我も治ってないし、これから部品をアリシアの所に持って行かなきゃなので…お気持ちは嬉しいですが、次の機会に…。それじゃ」

 数歩後ずさってから全力で逃げた。


 脱兎のごとく逃げたヴィヴィオが面白く笑ったが彼女の姿が見えなくなったを見てディアーチェは真顔に戻る。

「なぁ、あの部品は…」
「うん判ってる。フレーム連結用やったね…相当な強度の」

 彼女も気づいていたらしい。
 デバイス相応のダメージを彼女も受けているに違い無い。あの魔法が使えない位…

「心境変化には良い機会やったんやろね。」

 3人がそれぞれの役割を昇華させる方法もあるがそれだと臨機応変な対応は難しくなってしまう。アリシアが管制をしてヴィヴィオとチェントがどちらでもフォワードになれる体制になれば自由度は増す。
 バックアップの彼女本人が前向きでなく士官でも騎士でもない一般局員扱いの者にそこまでさせられず、ディアーチェ達も思っていても出来なかったのが彼女本人から求めて来たのだ。

(成長させるのだな…あの魔法を使う者は…)
「そうだな。差し入れでも先に作って持って行こうか」
「そうやね♪」 

 彼女達が紡いで向けた時間が平和だというのを感じるディアーチェだった。



「細かいとこまで取っとけばよかったかな~」

 ディアーチェ達が全員動き出した頃ミッドチルダに居るアリシアは眉間にしわを寄せて頭の後ろで腕を組んでいた。
 メインとなる交換パーツをヴィヴィオに頼んだからそれが来る迄修理が始められず、その間にデバイスに残していた情報からヴィヴィオのRHdの故障予想をしていた。
 消耗パーツや交換可能な系統であればわざわざ動かなくても既に修理されているだろうし、インテリジェントシステム等の致命的レベルであれば手出し出来ない。気にしているのは交換可能だけれど交換パーツが用意出来ない箇所…

「ただいま~、頼まれてたの全部貰ってきたよ。マリイさんの説教付きで…」

 ドアが開いてヴィヴィオが帰って来た

「ありがと、そこに置いといて~」
「人に頼んどいてそれは…何見てるの?」
「RHdの構成データ。あっちでカウンタープログラムを仕込んだ時に取っといたの。ざっとしかないから行く前に見といた方がいいかな~って。よし、わかった!」
「わかった?」
「うん、マリエル技官はあっちでも滅茶苦茶優秀だってこと。私達位の年でフレーム代わりにジュエルシード入れて安定させてるんだから。使う方も使う方だけどメンテしてる方も大概だわ。」

 手元に白旗があればすかさず挙げていた。

「それじゃ始めますか。私達の相棒の修理」

 幾ら考えても答えが出るものじゃない、先にしなくちゃいけない事を終わらせる。腕まくりをして立ち上がった。



 練習相手を代わってモニタ越しにチェントの様子を見ていた時、端末のコール音が鳴った。

「はい、訓練室」
『シュテル、そっちはどんな感じ?』

 ウィンドウが開いてはやての顔が映った。

「……力みが抜けましたので今はレヴィとユーリが魔導制御を見ています。」
『…つまらん…シュテルの驚く顔見たかったのに、全然驚いてない…』
「ナ、ナゼハヤテガイルンデスカ。ドッドウシテココノナンバーヲシッテルンデスカ…これで満足ですか?」

 大きく両手を挙げて言うと

『思いっきり棒読みやし…それボケ殺しや…』

 向こうで頬を膨らませていた。

「後ろを見て我が家のキッチンだと判りました。察するに任務を終えた後そのままディアーチェに話を聞いて付いてきたのでしょう? それで用件は何ですか?」
『シュテルんとちょっと話したかっただけ…』 
「切りますよ?」
『貴様が出ると話が進まんではないかっ! シュテル、チェントの様子はどうだ? 休憩するなら差し入れをと思ってな。』

 画面が動いてディアーチェの顔が見えた。2人で料理を作っているらしい。

「あと小1時間程で休憩を入れるつもりです。集中力と魔力量は流石ですよ、私とレヴィと軽く模擬戦をした後でも魔導制御出来ています。候補生にも引けを取らないレベルです。勿論彼女の気持ちが向いているからでしょうが。」

 モニタで見ている映像をウィンドウに投げて送る。
 ユーリは司書として一緒に仕事をしているから癖を知っているのか時々アドバイスをするだけで大きなプログラムでも構築からプログラムを送り魔方陣を描くまでがスムーズに出来る様になっている。
 それを見てディアーチェとはやても少し驚いていた。

「アリシアからは魔導制御力の強化を言われていますから、力みが無ければ2人に任せて時々私が模擬戦を交えてテストをします。」
『わかった。では休憩時間に合わせて持って行く。細かい話はその時に聞く。』

 そう言うと通信は切れた。

「…緊張の糸が緩まなければばいいのですが…」

 彼女に付いてくるであろう者に一抹の不安を持ちつつもモニタに目を戻すのだった



そして、それから3日後…

「平気?」

 ヴィヴィオが聞きながら彼女に1冊の本を渡す。彼女は

「うんっ!」

 強く頷いてその本を開き詩編を口にし扉を開けた。

~コメント~
 Side-A(異世界)第2話です。もう少し話を詰め込みたかったのですが、全体の話が大きくなるので絞らせて頂きました。

 
 

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