第09話「海鳴の思い出」

「っと…着いた♪」

 ゲートの出口に降りて辺りを見回す。

「ここは?…見覚えあるんだけど…どこ?」

 木はいっぱいあるけど、森の中という訳ではなくて…でも何処かで見たような…

「すずかちゃん家のお庭。魔法見られちゃうと大変だからね。」
「ここが…」

 言われて思い出す。初めて時空転移をしてなのはの代わりにジュエルシードを集め始めた時ここに来た。
 ここでは10年以上経っているけれど懐かしい気がした。  
 なのはとフェイトと一緒に月村家の屋敷に向かう。家が見えてきたところで

「なのはちゃ~ん!」

 ヴィヴィオ達が声のする方を向くと誰かが手を振っている。

「すずかさんかな?」
「ファリンさんじゃないかな。すずかちゃんは夕方に会うし、お兄ちゃん達も夕方位に日本に戻ってくるって言ってたから。」
「ヴィヴィオ、手を振って答えて」

 フェイトに促されて手を振るとクルッと振り返った後で
 家から何か落ちたり倒れたりした音と彼女の悲鳴が聞こえてきた。
 思わず目を瞑る。

「やっぱりファリンさんだ♪」

 なのはが苦笑いして頷いた。

(…ファリンさん…変わってないね。)

 ヴィヴィオも引きつった笑みを浮かべながらも懐かしさを覚えた。



「お家まで送ります。少しだけ待ってて…」

 ファリンがそう言った後家の中を見て言いよどむ。さっき音がしたのを片付けるのを思い出したのだろう。なのはの袖をギュッと握ると彼女も判っているらしく私にニコッと笑みを向けてから

「ありがとうございます、でも大丈夫です。久しぶりなのでのんびり周りを見ながら帰ります。」

 そう言って3人は月村家から出て翠屋へと向かった。

「こっちも夏が過ぎて涼しくなってきたね~」
「もう少し後だったら紅葉も綺麗だったのに…」
「紅葉?」

 聞き慣れない言葉に聞き返すと

「あっそうか、ミッドチルダにはあんまり広葉樹ないもんね。機動6課の近くにあった桜って覚えてる? 最後にみんなで模擬戦した時のこと。」
「うん、ママの魔法色と同じ花がいっぱい咲いてた。」

 頷く、凄く綺麗だったのを覚えている。

「じゃあ、秋に葉の色が変わったのは覚えてる? 森や山の木がみんな色変わるの。」

 あんまり良く覚えていなくて首を傾げる。

「私もここで初めて見て驚いたんだ。花とは違うけど凄く綺麗だった。」
「そうなんだ…私も見られるかな?」 
「…うん、みんなで見ようね。」

 そう言うとママ達は私の手をギュッと握った。



 管理外世界、日本、海鳴市…何度も来ていた筈なのに何処かが少し違っていて少し楽しい。

「海鳴も変わったね~」
「うん。それでも懐かしい…」

 なのはとフェイトも歩きながら辺りを見て時々指さして何かを話している。
 ヴィヴィオも2人の話を聞きながら2人が子供の頃を思い出すのだった。



「なのは~おかえり~!」
「いらっしゃい、フェイトちゃん、ヴィヴィオ」

 月村家から結構離れている筈だったのに、周りを見ているといつの間にか翠屋の近くに来ていた。店のドアを開けると、桃子が気づいてなのはに駆け寄って抱きついた。士郎もカウンター越しに顔を見せる

「ただいま、お母さん」
「こんにちは士郎さん、桃子さん」

 ヴィヴィオが士郎に駆け寄って会釈をした時

「おそ~い!」

 カウンターに座っていた女性が振り向いて言った。

「あ、アリサちゃん!?」
「アリサ、すずかと夕方に来るって…」

 してやったりといった風な笑みでヴィヴィオ達を見る。

「アリサちゃん、お昼前から待っていたのよ。」
「久しぶりに会えるんだから来るに決まってるでしょ。」
「決まってるって…アリサちゃん、仕事は?」
「そんなもの朝に全部片付けて来たわ。」

 胸を張って言う彼女に

(アリサさん…やっぱりアリサだ…)

 異世界の彼女と何度も会っているけれどやっぱり彼女は変わらない。唖然としながらヴィヴィオは思った。

「久しぶりね、ヴィヴィオ……アレ?」

 私の頭を撫でながら首を傾げる。

「…久しぶり…なのよね? 随分前に会った気がするんだけど…」
(!? まずい!)

 彼女を含むここのみんなには記憶封鎖をしていない。だから彼女はJS事件や闇の書事件で私がここに来たのを知っている。
 流石に記憶封鎖をする訳にもいかないから全力でごまかさなきゃ。

「こんにちは、アリサさん。ママ達が私の写真をいっぱい送ってたからそのせいですよ。きっと!」
「そうだよ、遊びに行った時とか入学式とかみんなに写真送ってたからそれと勘違いしてるんじゃないかな。」
「そうだよきっと…ううん絶対!」

 私が慌てたのを見てなのはとフェイトも気づいたのかフォローしてくれた。

「そう…? そうかもね…まぁいいわ、折角の時間なんだから色々聞かせてよ。」

 話を切り替えてくれたのを見て私たちはホッと胸をなで下ろした。



「2人揃って休暇を取って来たんだ。そんなの出来るなら前から取って帰って来たらいいのに。」

 高町家へ向かう間にアリサが少し頬を膨らませて言う。

「そうだね、ごめん。」
「でも、これからは時々帰って来られるんでしょ? それで許してあげる。」

 どんな言い様だと思いつつ時々遊びに来ても良いかなとヴィヴィオも思う。

 お店だと迷惑もかかるかるし色々積もる話もあるからとヴィヴィオ達は先に家に帰ることにした。本当はなのは一緒に来る筈だったのだけど、先に帰って待っててと言われて鍵を預かった。

…まぁ全然知らない家じゃないけど…


「ヴィヴィオちゃん、元気そうじゃない。」
「安心したよ。ここで療養する程の怪我だって聞いていたから。」

 アリサが座っていたカウンターに座ったなのはに桃子と士郎は言った。
 客が少ないのを見計らった後、なのはがさっきまでの笑顔を曇らせた。

「うん…、見た目はいつも通りなの。でも…魔導師…魔法使いにとって1番大切なものが動いてないんだ。」

 魔法文化についてはある程度聞いているけれどそこまで深くは知らない…

「大切な物?」
「昔、私が大怪我した時にも同じ事があったの。あの時は怪我の方が酷くてリハビリを始めた位からそれも回復してたんだけど…ヴィヴィオは…」

 さっきまで彼女が居た方を見る。その悲しそうな眼差しを見て桃子も士郎も笑みが消えた。

「あっちに居たらどうしても魔法を意識しちゃう。少しの間魔法が使えなくなっただけだって思ってても1月・2月も経てば焦りが出てくる。でもここなら魔法は意識しなくていいから…。私…見てるしかないのかな…お父さん、お母さん…」

 多少の困り事であれば大丈夫よ♪と笑顔で言えるのだけれど軽く答えられず、娘の瞼から流れる涙を見て桃子は静かに彼女を抱きしめる。
 静かな嗚咽を聞きながら優しく抱きしめるのだった。

~コメント~
 Side-U(海鳴)ということでヴィヴィオ達の話でした。
 随分久しぶりにファリン登場です。(8年ぶり?)

 
 

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