ヴィヴィオの日記帳「ドタバタお正月編」 16話

「ねぇヴィヴィオ、今日ははやてちゃん家にお泊まりしよっか?」
「うん!」


 ●がつ▲にち
 きょうははやてさんのいえにあそびにいった。
 なのはママやはやてさんのせかいでは「おしょうがつ」っていうんだって。
 ザフィーラにあえるのがとってもたのしみ!
 アギトさんっていうかぞくがふえたんだって。
 しぐなむさんみたいにおっきいのかなっておもってたらリインさんといっしょくらいですっごくかわいい~
 でも、アギトさんヴィヴィオがこわそうにしてた
 ちゃんとまほうつかったのに・・・
 おともだちになりたいな
シャマルさんの・・・こわいよ


【ピンポ~ン】
「・・・・・あれ??」

 チャイムを鳴らしても誰も出てこない事になのはとヴィヴィオは首を傾げていた。

 機動六課が解散して皆がそれぞれの道を歩んでいる中、はやては正月気分を味わいたい!という事で同じ世界出身のなのはとヴィヴィオを家に招いた。
 運良く休暇も重なった事でなのはも、実家に帰ろうと思っていたのだが、何よりもヴィヴィオが

「ザフィーラと遊べる~」

ととても喜んでいた事でミッドチルダにある八神家に遊びに行くことになった。そして、クラナガンの郊外にある八神家にやってきたのだが・・

「お邪魔しま~す・・」
「しま~す」

 チャイムを押しても誰も出てこない家の中から微かに声が聞こえた。首を傾げながらなのはとヴィヴィオはそ~っとドアを開けて中を覗くと、そこは空中戦の真っ直中だった。

「アギトちゃんもこれ着るです~っ!」
「そんな服、着れるか!」
「はやてちゃんが作ってくれたんです。そんな服とはヒドイですっ!」
「じゃあ捕まえてみろよ、そうすれば着てやる」
「わかりました。いくですっ」

 玄関・階段・リビングを所狭しと赤い光と白い光が飛び交っている。どうやらこの騒ぎでチャイムの音が聞こえなかったのであろう。
飛び交う光を二人してキョロキョロと見ていると、

「なのはか、久しぶりだな。ヴィヴィオも大きくなったな」
「いらっしゃい~待ってたよ。なのはちゃん、ヴィヴィオ」

 二人に気付いて奥からはやてとシグナムが玄関に出てきた。アギトとリインの空中戦に既に慣れているのか、何事も無い様に避けながら玄関にやって来る。

「ひさしぶり、はやてちゃん。シグナムさん」
「こんにちは。」

 なのはとヴィヴィオも併せて挨拶するが、周りで飛び交う光に戸惑っていた。

「あ~気にせんでいいよ。いつもの事やし・・・でもヴィヴィオが怪我するとマズイな・・リイン、アギトももう止め!」

 光達に向かって叫ぶが空中戦の真っ最中であるリインとアギトの耳には入らないらしく、治まる事は無かった。

「しゃーない・・実力行使といこか・・ちょっと部屋が汚れるのは痛いけど」

 シグナムも頷いて胸のペンダント、レヴァンティンを取り出した。はやてもデバイスを手に持つ。そんなはやてとシグナムに

「部屋を壊さず汚さずにアギトとリインを止めれば良いんだよね?ヴィヴィオできる?アレ」
「うん!」

 【アレ】となのは言われて頷くヴィヴィオ。興味深そうにヴィヴィオを見つめるはやて達を余所にヴィヴィオ一歩前にでて

「レイジングハート、いい?」
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 ヴィヴィオはデバイスをそのまま振り上げて即座に魔法を起動させた

「スターライトッ・・ブレイカーッ!」
「「!!ちょ!それは」」
「いいからいいから♪」

 慌てるはやてとシグナムを余所に微笑むなのは。ヴィヴィオが振り下ろすと虹色の球体が一気に廊下奥へ一直線に飛んでいった。

 ほぼ同時に奥の方で「グェッ」「あぅっ」と蛙が踏みつぶされた様な声が聞こえ、静かになった。

「なのはママできたよ!」
「うん、えらいえらい」

 頭を撫でられて嬉しそうなヴィヴィオはニコっと笑った。はやてとシグナムが慌てて廊下の奥へ向かうとそこにはアギトとリインが目を回してのびていた。


「へぇ~魔力所有者のみに影響するブレイカーか・・・本当に器用やね~」
 騒ぎも落ち着いてリビングでは先に居たヴィータ・シャマル・ザフィーラが寛いでいた。挨拶した後、なのはは出された紅茶を飲みながらさっきの魔法について話ていた。
 側でヴィヴィオがザフィーラにじゃれつく様に抱きついている。

「私も最初見たときはビックリしたけど、学校でも結構役立っててアレのおかげで友達も出来たんだって」

 最初はヴィヴィオの出生や育った環境が他の生徒とかなり違った事が原因で孤立していた。
 しかし、ある日同級生同士が喧嘩を始めた時今のブレイカーを使ってかなり強引に仲裁した事で急変する。
 魔力ダメージのみだった為怪我人も出ずに済んだ。しかもその事が幸いして喧嘩していた二人と友達になり、今では友達の数も少しずつ増えているそうだ。
 それよりも外部侵入者排除の為に学園内に設置された強固な魔法使用を制限する結界を余裕で通り越して繰り出されたブレイカーに学園関係者は驚きを隠せなかった。
 又、生徒の保護者でなのはの事を知る者が居たらしく、ヴィヴィオの桁違いの魔力がなのはから受け継がれている事にしたところほぼ全員が納得した。
 その後は喧嘩の仲裁等をする【もめ事仲裁人】としてちょっとした有名人になっているらしい。

  なのははシャッハを通じてその事を聞かされた時は思わず赤面してしまったが、なのは自身も幼少の頃に同じ様に力づくで止めた事もあり、何よりヴィヴィオが喧嘩を仲裁した時に言った

「叩いた方も叩かれた方も痛いんだからっ!」

という言葉に何故か少し嬉しかった。

「仲裁人とは・・・【管理局の白い悪魔】とはずいぶん違うな」
「全くだ」

 はやての言葉に苦笑しながら同意するヴィータやシグナム、シャマル。

「酷いっ、そんな事言うなら今度ははやてちゃん達に撃つよ、ヴィヴィオ~」

 少し赤面しつつも涙目になってヴィヴィオを呼ぶなのはに流石に慌てたのか手で止めようとする。他の三人もコクコク頷く。

「ちょっ、冗談や冗談!あんなん今食らったら防げんって!」

 そんな慌てぶりを見てなのはもニコッと笑った

「うん、こっちも冗談だよ」

 もうっと言いだけにホッとはやては一息ついた。そこに呼ばれたヴィヴィオがやって来る。

「なにーなのはママ?」
「美味しいケーキがあるんだって、ヴィヴィオも一緒に食べる?」
「うん!」

 嬉しそうになのはの隣に座った。


『やっと・・・終わったか・・・・助かった』
『ゴメンね。ありがとうザフィーラ』
ザフィーラは一目で分かるほど疲労困憊だった。


「いきなりあんな物ぶつけるか?・アテテ」
「無茶苦茶です・・イタッ」

 はやての焼いたケーキの甘い香りに誘われたのか、アギトとリインが起きてきた。しかしまだかなりダメージが残っているのか飛び方も力なくフワフワと流れるように飛んでいる。

「客人の前で喧嘩なんかするからだ。」
「せや、自業自得。それともウチかシグナムの雪だるまと火だるまの方が良かったか?」

 冷たく言い放つシグナムとはやての言葉に二人揃って青くなってブンブンと首を振る。
 なのははそんな恐ろしい事されながらも喧嘩をするアギトとリインに半ば呆れた。そこでふと疑問に思った事を聞いてみる

「リイン、アギトちゃんだっけ?どうしてあんな事になったの?」
「それはこれですの」

 リインが指さしたのはアギト、というよりアギトの着ている服だった。アギトが八神家にやって来た時、リインはサイズがほとんど同じアギトに服をあげようとお気に入りの服も含めて何着か渡した。
 しかしプライドからかアギトはそれを猛烈に拒絶したのだ。それをリインが怒って、今まで若干険悪気味だったのがここにきて一層酷くなってしまった。
 そんなリインとアギトにはやては手作りでリインとアギトの服をそれぞれ作り、それを今日着て貰おうとしたのだが・・

「これ・・ほとんど同じじゃねーか!」
「せや、一緒の材料で作ってるんやから当たり前やん」
「あいつと一緒は絶対嫌だ!」

 気絶している間に着せ替えられた服を見て、なのはは納得する。  同じ材料で作られたリインとアギトの服はほぼ同じで【ペアルック】の様だった。違うのはリインがミニの巻きスカートとパーカーに対して、アギトはキュロットとパーカーといった違い程度で遠目に見れば髪色でしかどちらか分からないであろう。

「我が主の手作りだ。アギトの為に苦労して作られた物をお前は拒むのか?アギト」
「ううっ・・・」

 シグナムの正論と横ではやてがどこから出したのかハンカチ持って

「本当に、本当に頑張って作ったのに・・・そんな酷い・・・オヨヨョョ」

 八神家全員の白い目がアギトに集中する。

「・・・わかった・・わかったよ!着てやるから泣くなっ!」
「そか!ありがとな」

 アギトの言葉を聞いた瞬間にパッと笑ったはやてにアギトは気付いた。
 ハメられたと
 
 真っ赤になって照れ隠しをするアギトを眺めていると、なのはは昔よく似た事があったかなと思い出す。しかしそれはすぐに見つかった。アギトの奥でよく似た事をした友人が美味しそうにケーキを頬張っていたからである。

「なんだ、なのは何か用か?」
「ううん、とっても美味しそうだなって」
「ああ、はやてのケーキはスゲーうめえぞ!あっヴィヴィオ、クリーム付いてる。っと」
「ありがとう、ヴィータさん」

 なんだかんだで妹達が出来たことで嬉しいのかもしれない

「じゃあお節食べよか、久しぶりの正月を満喫せんとな」

 今ケーキを食べたばかりだと言うのに、はやてはよっと立ち上がりキッチンに向かおうとした。そこでハッと思い出し立ち止まる。

「あっ・・雑煮作るの忘れてた・・白味噌あったか?」
「いいよ、お節だけでも。」

 そこまで凝らなくても気分を味わえればと思っていたなのはに対してビッと指さす

「いいや!鏡餅・お節・雑煮は決まりモンや!どれが欠けても満喫できんっ!そもそもな・・・」

 はやての力説と解釈がかなり長くなりそうで一同はゲンナリとなりそうだったが、先にキッチンへと走っていったヴィヴィオに助けられた

「はやてさん~、白味噌ってこの白いの?」
「つまり・・・ん?え?どれや?・・・・」

 ヴィヴィオに聞かれてキッチンに入ろうとした瞬間、はやてが硬直した。気になったヴィータとシグナムが後ろから覗いた瞬間はやてと同じように硬直した。更に続いたザフィーラも然り・・
 首を傾げたなのはが覗こうとしたとき、声の主で何が起こったのか判った。

「こんな事もあろうかと、ちゃんと作っておきました~お雑煮♪」
「わ~い、シャマルのお雑煮とってもおいしいんですよ」
「そうなのか?」

 嬉しそうに飛び回るリインと他の者が凍り付いた様を見比べながらアギトは不安を抱かずには居られなかった。
 ここに八神家の最後の晩餐かもしれない夕食が始まった。



「はい、リインちゃん♪アギトちゃんも」
「シャマルありがとーです」
「・・・・・ありがとう・・」

 リインとアギトは他の者よりかなり小さめなお椀を受け取った。そしてダイニングのテーブルに作られた二人専用のテーブルに戻った。
 アギトは椀の中の食べ物に対して違和感を持っていたが、リインがとても嬉しそうなのを見てまず大丈夫だろうと後に続いてテーブルに向かった。しかし、他の者の様子は違った。

『なぁ、はやて、これはやてが作ってたとかいう冗談じゃないよな?』
『ヴィータ・・・うちの顔見てそんな冗談準備してると思う?』
『ううん・・・』
『それでは・・・やはり』
『せや』
『・・・・シャマルさんなのね・・・』

 何度もシャマルの料理で昏倒させられた事のある八神家の面々はもちろんのことなのはも、そして一度だけ食べた時を思い出したのであろうヴィヴィオですら椀の中の【物体】を直視出来ず、隣のなのはにしがみついている。 半分泣きかけたような声ですがりつくヴィヴィオに
「なのはママ・・・」
「大丈夫・・・だから・・」
 なのはも精一杯の微笑みで返すが、その微笑みもかなりぎこちなかった。
 そんな中でシャマルが「お待ちどおさまでした~」と言う言葉で我に返ったはやても引きつった笑みを浮かべながら

「さ・・せ・・せやね、今年は全員揃った事やし、新しい家族も出来た事やし・・まぁ元気にいこうってことで。今年もよろしくな」
「いきなり命の危険が迫ってんだけど・・・」
「・・・まぁ、それじゃいただきます」

 はやてがまとめようと言った言葉に即座に突っ込みを入れるヴィータ。だが、誰一人突っ込みを入れる事は出来なかった。
 はやてが作った料理はどれもとても美味しくて思わず笑みが溢れる程だった。シグナム達の様に同じ家に住む者だけでなく、なのはやヴィヴィオもとても美味しそうに食べていた。

「そろそろ私の作ったお雑煮も食べてみて」
「・・あっ、それでねはやてちゃん。ヴィヴィオが学園でね~」
「・・・へぇ~そんなんや。面白そうやね」

 シャマルがさり気なく言った直後一瞬だけ空気が凍った。しかし何事も無かったの様に一同は団らんを無理矢理続ける。
 一瞬だけシャマルの笑顔が引きつった様に見えたのは多分見間違いだろう
 
「とっても美味しいんですよ、アギトも食べてみるです」
「・・・ああ・・・」

 テーブルの端で嬉しそうにリインがアギトに雑煮を薦める。恐る恐る椀に口をつけるアギト。中に入った餅と思われる物体を口に入れた時、はやて達の視線がアギト一点に集中した。
口に入れてモグモグと食べる。固唾を飲んでアギトの一言を待つはやて達。
 リインは生まれてすぐに食べてきた為、シャマルの料理に免疫がついていて論外。シャマルも同様。しかしアギトはゼスト・ルーテシアと旅をしていた時に料理をしていた事も聞いていたし、シャマルの料理に対する免疫も無い。
 アギトがゴクンと飲み込んた。ふと気付くと全員が見ているのに驚いて

「うわっ!なんだよ。食っちゃダメなのか?」
「いや、そういう訳では無いのだが・・・大丈夫か?」
「え?別に何とも?」

心配そうにするシグナムに訳が判らずそのまま答える。

「シャマルの雑煮食べてたな?何ともない?味はどうや?」

 はやての言葉にウンウンと頷くなのはとヴィータ

「・・別に・・結構美味かったけど?」
「シャマルの料理は美味しいんですっ!」
「そうですよ」

同意するリインとシャマルの方を振り向かずに

「ホンマに?気持ち悪いとかないか?」
「ああ、シャマルこれまだあるのか?」
「いっぱいあるわよ~」

 アギトの椀を持ってキッチンへと向かったシャマルを見てはやて達はふぅ~っと一息ついた。

「よかった~シャマルも料理上達してたんやね」
「ああ、前のは結構凄まじかったからな~」
「本当に・・」
「思い出しただけでもきつい」

 苦笑じみたシグナムやヴィータ・ザフィーラ。余程酷い目にあったのだろうとなのはは心中を察した。

「まぁまぁ、大丈夫な事も判ったしシャマルが作ってくれた雑煮よばれよか」







「アギトちゃん~お餅焼いてたら遅くなっちゃった・・・って、キャーッ!」

 暫くしてシャマルが戻ってきたが、時既に遅く・・・・・

「なのはママ、ねぇどうしたの?ママァっ!」
「シグナムっおい!返事しろって!ヤバイっ白目むいてるぞ」
「はやてちゃん、しっかりするですっ!泡吹いちゃだめです」

 テーブルにうつ伏せになってピクリとも動かないなのは、シグナムも白目をむいてテーブル脇に倒れている。折り重なるようにはやてが倒れて泡を吹いていた。テーブルの下ではヴィータとザフィーラが痙攣しヴィータにいたっては顔が真っ青になっていた。

「救急車って、こっちの世界じゃないし・・ええっと・・」

 慌てふためくシャマル達の声はなのは達に届く事はなかった。



 同じ頃

「どうしたの?キャロ」
「あっ、フェイトさん。ルーちゃんからお手紙届いたの♪」
「そうなんだ、何て書いてあるの?」
「ルーちゃん、お母さんに料理を教わってるんだって。」
「へぇ~、でも旅していたんだよね?その時どうしてたんだろう・・・」
「将来相手の人があまりにも可哀想すぎるから、一からしっかり教わってるんだって」
「そ・・そうなんだ・・どんな料理だったんだろうね」
「・・ちょっと怖そう・・」

 旅をしていたからと言って、それが料理の腕とは全く関係無かったというお話。



~~~コメント~~~
 コミックトレジャー11の際におまけ本として書かせて頂いたモノです。前回の「ピーマン嫌い編」と食べ物続きでしたのでどうしようか悩みました。
 一度ルーちゃんの料理も食べて見たいかも知れませんね。

Comments

ima
>錯乱坊様
毎回ありがとうございます。シャマルの雑煮、それはヴィータの言葉通り「命の危険」を伴います。
でも対抗馬でルーちゃんの料理も凄いかもしれません。
2008/01/29 06:25 PM
錯乱坊
アギト、リインを魅了するシャマルの雑煮。一度だけ本当に一度だけで良いから食べてみたい、医者とセットで。
ヴィヴィオも学校で馴染め始めた様で良かったです。
2008/01/23 03:28 PM

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