第33話「受け継いだ心」

「……行ったわね」
「…行きましたね~」
「行ったな」
「行っちゃいましたね」

 虹色の光が消えるのを見送りプレシアとマリエルはフゥっと息をついた。マリエルの肩に乗ったリインとアギトはん~っと両腕を上げて伸びをしている。
 4人が出来ることは全てした。
 後は任せるしかない。
でも心配はしていない。何故ならプレシア自身が消えずにここに居るのだから。

 
 
「それでは私も帰ります。ヴィヴィオが帰ってきたらテストするから来る様に伝えて下さい。リイン、アギトもクラナガンまで一緒に行こうか。」
「はいです♪」
「ファ~~~~、じゃあその間ポケットで寝かせても~らおっと♪」

 アギトが大欠伸をしてからマリエルのポケットに入るのをみてクスッと笑う。

「ええ、ご苦労…いいえ、お疲れ様。あなた達も手伝ってくれて助かったわ。」

 今度のことは彼女、マリエル・アテンザが居なければ違う未来になっていたに違い無い。プレシアは敬意を込めて3人に言った。

「私こそ沢山勉強になりました。お疲れ様でした。」

 疲れを見せながらも彼女はペコリと頭を下げて研究所を後にした。



 3人の姿が見えなくなったところで

「もう出てきても良いわよ。それともずっと隠れているつもり?」

 彼女に声をかけた。

「……気づいていたのですか。」

 木陰から現れたのはイクスヴェリアだった。

「突き放しておいて物陰から覗くなんて趣味が悪いわね。」

 雰囲気からイクスではなくオリヴィエだろうか。

「何故居るとわかりましたか? センサーに見つからないように気をつけていたつもりだったのですが…。」
「センサーじゃないわ。あなたならヴィヴィオの頼みを断った後で来ると思ったのよ。お茶くらい飲んで行きなさい。」
「ご馳走になります。」

 そう言うと踵を返して研究所の中へと入る。イクスもプレシアの後に続いた。 



「プレシア・テスタロッサ、何故あなたは私が来ていると思ったのですか?」

 ロビーのテーブルにカップを置くとイクスはカップを手に取ってお茶の香りを楽しんだ後飲んだ。

「今、ここにあなたが居る理由に気づいたからよ。」
「ゆりかごの聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトではなくイクスヴェリアとして。あの子達を導く為でしょう? その中に異世界の彼女達も含まれていない訳がないもの。」
「………」

 涼しげな顔でお茶を飲む。まだ押し足りないらしい。

「あっちのヴィヴィオが聞いたのはヴィヴィオの居る世界に行く方法。それは確かにあるわ、けれどそれをあなたから教われば彼女の成長は望めない。勿論それはこっちのヴィヴィオも同じだけれど、あの子は未知の恐怖を持っていないから教える前に使いこなしてしまう。」

 以前異世界のヴィヴィオが間違ってこっちに来てしまった時にプレシアはその魔法を見ていた。

「『虹の橋』。チェントが使えたのだからあの本を使う資質は必要だけれど管理権限は無くてもいい、だから彼女達も使える筈。でもあなたは伝えなかった。」
「問題と一緒に答えを渡せば次からも頼ってしまう。あの年まで時空転移しか使えていないのなら尚更他の魔法も知らなければいけない。だからあえて教えず突き放した。違うかしら?」

ヴィヴィオが肩を落として帰ってきた時、プレシアはその話をしようとしたが喉まで出かけたところで止めた。
 彼女がその話をしなかった理由に気づいたからだ。
 そこまで言うとイクスはカップをテーブルに置いた。

「ほぼあなたの言った通りです。付け加えると私は彼女達に更なる期待も持っています。私は彼女の…イクスヴェリア様と体を共有しています。先の事件で私は私の非力さを知りました。イクスヴェリア様がマリアージュを使って下さらなければ2人を助ける事も出来ませんでした。」
「これからもヴィヴィオは幾つもの壁にぶつかります。その時…私では力が足りず…誰かに頼らざるえない時もあるでしょう。」
「その時の為のあの子達?」
「私達の時代であれば王の下には信頼のおける数人の騎士が居ました。しかしヴィヴィオは王ではありませんし彼女も騎士を求めないでしょう。騎士に代わる信頼のおける友も家族も居ます。しかし彼女達にも話せない事があれば…彼女達は話をするには最適でしょう?」

 確かに本人達の悩みは誰以上にわかるのも本人達…。

「ええそうね。だけれど、それだけ強い繋がりを作って大丈夫なのかしら? 以前の時間軸がぶつかるという…」
「それについては心配していません。」

 そう言って1冊の本を取り出す。オリジナルの刻の魔導書だ。

「これを使わなければぶつかりません。あなたがこの魔導書から作った新たな鍵と、その鍵を持つ刻の主が居るのですから。」
「…そう、それが理由なのね。」

 静かに頷くと魔導書をデバイスに戻して再びカップを取る。
 時間軸の衝突は同じ刻の魔導書と複数の時間軸からの来訪者が1つの世界に集中した為に起きた。だがその後、ヴィヴィオが先の事件に巻き込まれた時同じ様な状況になってもプレシアもアリシアもリニスも消える予兆は無かった。
 その違いは…ヴィヴィオが刻の魔導書ではなく悠久の書を使っているから。 

「そこまであの子達を見ているのに、ヴィヴィオが魔法を使えなくなって何故慌てなかったの? 心の問題は自身で解決するものだから?」
「心の問題…ですか?」

 イクスは首を傾げる。

「そうよ、異世界でヴィヴィオはフェイトやなのはさんを倒して…傷つけてしまったから聖王の力で魔力を抑えようとしたのではなくて?」

 再び聞くと彼女は納得したらしく頷く。

「…ああ、あなた達はその様に捉えたのですね。間違っていますよ。」
「えっ?」
「魔力を抑える為に力を使ったのはあなたの言う通りでしょう。上手く使えればそこまで負担にもならない筈ですが…そこは慣れていなかったのでしょう。」
「先程の話ですが彼女は彼女の家族を傷つけた後悔から魔力を抑えたのではありません。彼女の心はその程度で折れたりしませんよ。」

 プレシアやシャマルが考えていた原因を一笑されてしまった。

「じゃあどうして…」
「抜き身の刃をそのまま持ち歩く者は居ません。折れた鞘も新たな鞘となり彼女の下へと向かいました。」

 微笑んで答えるイクス

「そう…そうなのね。」

 彼女が何を考えて動いたのかその言葉で全て納得した。
 

 
「えっ、RHd…どうして?」

 ブレイブデュエルの中でヴィヴィオは突然聞こえた声に驚く。
 ストライクスターズの発射態勢だったなのはもヴィヴィオが途中で止まったのに気づいてスキルをキャンセルし彼女の所へと向かった。

「ヴィヴィオ、どうしたの?」
「ママ…RHdの声が聞こえたの。私の中から」
「RHdのっ!?」

 突然聞こえたということになのはも驚くがその直後、外から声が聞こえた。

『お待たせ、ヴィヴィオ。』
「えっ? 大人の私?」

 目の前にウィンドウが開いて大人のヴィヴィオとアリシアが映った。再び驚くヴィヴィオとなのは

『うん♪ 連れてきたよ。呼んであげて、ヴィヴィオのパートナーの名前を』

 2人の優しい微笑みに促される。

「じゃ、じゃあこれって。」

 モニタ向こうの2人が笑顔で頷く。

【Call me master】

 再び聞こえた声、それはヴィヴィオが1番聞きたかった声だった。


 一方時間と場所が離れた、海鳴市の高町家。
 なのは達がヴィヴィオを連れて行ったのを見送った後、すずかはなのはの部屋でヴィヴィオが倒れた時に散らばった文具を片付けていた。

「これって…ヴィヴィオちゃんの?」

 その中で1冊のノートを見つける。なのはが持っていたものじゃない。新しいノートは彼女のだろうか?
 中を開くとそれはヴィヴィオがこっちに来てからつけていた日記だった。

 時間と一緒に消えていく場所に憂い、新たに出来た場所に喜び、海鳴での数日が彼女にとってとて充実していたのが読むだけでよくわかった。
パラパラとめくって最後に書かれたページを開く。

 ラプターって、使用者とデバイスの関係…私とRHdの関係って何だろう?
 無限書庫検索するのを手伝ってくれたり通信も頼めば直ぐ繋いでくれる。これは売ってるデバイスでも出来るから道具と同じ…でもRHdはそれだけじゃない。
 困った事があれば相談も聞いてくれるし私が迷っていたら一緒に考えてくれる。それにいつも私のことを考えてくれているのも知っている。なのはママやフェイトママみたいな大切な家族の1人…スバルさんやティアナさんがパートナーや相棒と呼ぶ理由も判った気がする。
 でも…私はそんなRHdの声を聞いていたのかな?
 あのの日、いつもの朝からいつもの毎日がまた始まるんだと楽しみにしていた私は話しかけるまでRHdが壊れてるのに気づいてなかった。
 あれだけ無理をさせていたのに…それでも心の何処かで壊れたら直して貰えるっていう気持ちが何処かにあったから私の我が儘を通しちゃった。
 それって私がRHdは…ラプターと同じ、壊れたら修理して貰えるのが当たり前の道具って思っていたから?
 壊れる前…帰ってすぐにマリエルさんの所に持っていけば…ううん、無理する前に気をつけていたら…
 あっちの私やママ達の未来を変えたいって思ったのは本当だし、ママ達やアリシア…こっちのみんなが笑ってられる世界を続けたいのも本当。でもその為にRHdが壊れちゃうなら…今みたいに魔法を使わない方がいいのかな…。

(……ヴィヴィオちゃん…)

 すずかやアリサ、桃子や士郎達にとって魔法はなのはやフェイトが使えるけれど未知のものでしかない。同じ様にヴィヴィオが使える時間移動魔法はなのはやフェイトにとってヴィヴィオだけが使える未知のものなのだろう。
 だから2人もヴィヴィオが悩んでも答えてあげられなかった。
 
「すずか~、こっち終わったわよ。どうしたの?」

 アリサが部屋に入ってくる。

「ヴィヴィオちゃんの日記。ヴィヴィオちゃん…なのはちゃんやフェイトちゃんを傷つけたから魔法が使えなくなったんじゃないよね、きっと。」

 彼女にノートを見せる。彼女もそれを見て顔を曇らせる。  

「…そうね…私達が子供の頃魔法ってもっと素敵なものだと思ってたけど、なのはやフェイト、はやて…ヴィヴィオも魔法が使えたから悩んでるのね…」

 なのはとフェイト、はやてから魔導師だと聞かされた後2人も「魔法」という言葉に少しだけ憧れた。でもその憧れは直ぐに砕け散った。
 なのはが重傷を負ったのだ。
 その一報をフェイトではなくはやてから受けたアリサはなのはを魔導師になることを止めさせようと動こうとした。しかしなのは本人の意思を知り士郎や桃子の気持ちに気づいてあえて何も言わなかった。

「すずか、次になのは達が帰って来たらみんなで遊びに行くわよ。悩んでる時間が勿体ない、毎日こっちに来たいってヴィヴィオがなのはやフェイトにお願いする位楽しい思い出を作ってあげましょう。」

悩みに答えてあげることも、相談に乗ることも出来ない。それでも私達には出来ることがある。
 彼女の言葉にすずかは笑顔で頷いた。

~コメント~
 Web拍手のコメントでも「魔法が使えなかった理由」について色々考えて頂いていましたがようやく真相を話せました。
 デバイスが無ければ魔法が使えないという単純な理由ではなく、ラプターの事件を通してヴィヴィオが自身とRHdの関係を見直す機会として作りたかったのがAfterを書きたかった理由でした。
 巻き込まれた方はたまったもんじゃないですけどね。

 話は変わりまして、先週掲載を休ませて頂いた時ですが静奈氏と休日が合ったので飛騨高山~ワンフェスに取材&打ち上げ旅行に行ってきました。
 サークルとしては結成から10年以上経っているのにこういう旅行は初めてです。静奈氏は色々と用事を詰め込んでいたので着くと宿までは別行動も多かったのですが…
 飛騨高山に着くと「雪、ゆき、ユキ~っ! 寒っ!」という位真っ白でした。
 某学園のアニメの聖地&近くに隕石が落ちる某劇場アニメの聖地が車で30分くらいと調べていて、車借りて運転しているのに某聖地の酒のお店で試飲してしまい
2時間後に電車で迎えに来てくれた静奈氏に連れ帰られるという馬鹿をしたりと楽しかったです。
 ワンフェスについては次回にでも…


 
 

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