第35話「シュテルの決意」

「………」
「…………」
「………………」

 ヴィヴィオ達が帰ってから少し時間が経ったグランツ研究所の居住スペースのダイニングでは

「………」

 夕食の一時を静かな…重い空気が部屋を包んでいた。その理由はというと…

「…………」
只でさえ寡黙なシュテルが何も話さず静かにご飯を食べているのだ。

「プロトタイプで何かあった?」

キリエが小声で隣席に座っているレヴィに聞いた。

「わかんない、何にも無かったと思うけど…」
「ヴィヴィオ達が帰った後ずーっとこうなんです。」

 レヴィの奥隣に居たユーリも聞き耳を立てていたのか話に加わってきた。

「マスターモードの影響…じゃないわよね?」
「シュテルんはデュエルしてないし、ヴィヴィオが元気になったら全力でデュエルだー…みたいなこと言ってたけど」
「私が何か?」
「「「!? な、なんでもない(です)(わよ)」」」

 突然本人に聞かれて思いっきり慌ててごまかす。

「そうですか。アミタ、用があるのですみませんが食器の片付け代わって貰えませんか? 次のアミタの時に私がしますので」
「いいですけど、マスターモードの影響ですか?」
「いえ、少し…ごちそうさまでした。」

 そう言うと自分の食器を纏めてシンクに置いて部屋へと戻っていった。

「シュテルん…本当にどうしたんだろ?」

 彼女の背を目で追いかけた一同も答えられる者は居らず首を傾げた。

「父さん」

 アミタがグランツに声をかけると彼も察して

「うん、頼むよ」

「はい、キリエ…後片付けお願いします。」

 そう言うと、残っていたご飯を一気にかきこみ、シュテルの食器の横に置いて彼女の後を追いかけた。 



「シューテル♪ 部屋に居なかったので探しました。」
「アミタ…」

 アミタがシュテルの後を追いかけて彼女の部屋に行ったが居らず、色々探し回って外に出た時花壇のベンチに座る影を見つけてやってきた。

「私に何か用ですか?」

 寡黙な所もある彼女だけれど、それでもいつもに増して変だ。

「シュテルの様子がおかしいのでみんな心配しています。…プロトタイプでヴィヴィオ達と何かありましたか?」 
「いえ…何かあったと言えば…そうなのかも知れません。アミタ、相談に乗ってくれますか?」

 気弱というか本当に悩んでいるのか?

「私で良ければ」

 そう答えて、ベンチの隣に腰を下ろした。

「前にヴィヴィオとデュエルした時から彼女について研究していました。先日なのはの家族が来てくれた時、なのはのお父様にアドバイスを貰ったんです。『ヴィヴィオ攻略のきっかけは私とのデュエルの中にある』と…それを聞いて私は前回のグランプリの映像を何度も見ましたが…わかりませんでした。ですが…マスターモードのレヴィとデュエルしているのを見ていて…気づいたんです。」
「ヴィヴィオの攻略方法ですか?」

 聞くと彼女は沈黙の時間を少し取った後、小さく頷いた。 

「ヴィヴィオの…彼女は初めから相手本人を攻撃しません。カウンターか…相手の持つデバイスを狙います。ユーリやトーレ…未来のヴィヴィオやアインハルトの様に持たない者でも急所を避けています。ヴィヴィオ達が帰った後、今までのデュエル全てを見て確認しました。」
「それは、ヴィヴィオが魔法世界の住人だからじゃないですか? 現実の世界でスキルカードが使えたら、相手は怪我します。…怪我で済めば良い方で…。」

 現実世界で砲撃魔法なんか受けたら無傷で居られる筈がない。

「ですがアリシアやヴィヴィオの家族のなのはさん、フェイトさんは同じ素振りはありません。4人の中でヴィヴィオだけがそうなんです。多分なのはさん達も気づいていますがそれを伝えよう、直そうとしている風には見えませんでした。」
「どうして…」

 癖を見抜いたシュテルの研究熱心さにも驚かされるがそれが何故悩む理由なのかがわからない。

「アミタ、もし私達がスポーツ等で…誰かを怪我させて…かすり傷ではなくもっと深い怪我を負わせた後、同じスポーツをした時どうしますか?」
「それは…怪我させないように…あっ!」

 ハッと気づく。

「はい、怪我させない様に気をつけます。ヴィヴィオは今そういう状態なのかも知れません。」
「それに気づいた私がデュエルに勝つ為に誰かが負傷したのと似たシーンを作るのは正しいのでしょうか? ショッププレイヤーとして…1人のデュエリストとして…。」

 シュテルがマスターモードになっていたのに彼女とデュエルしなかった理由がわかった。
 只の癖だったら彼女は悩まずにデュエルをしただろう。だがその癖がヴィヴィオの心の傷に関係しているのならシュテルのデュエルは傷をえぐってしまう。
 何かに巻き込まれて倒れてここに連れてこられたのに、その上にそんなデュエルは望まない。
 しかし逆に更に強くなったヴィヴィオと全力でデュエルしたいとも思っている。全力のデュエルになれば知ってしまった癖は弱点として使うだろうし、使わなければ全力でデュエルをしたと言えないのではないか?
 2つの気持ちの葛藤がシュテルを悩ませていた。

「シュテルは優しい良い子ですね。ヴィヴィオの事まで考えてあげているなんて…でしたらヴィヴィオと全力でデュエルして勝ちに行きましょう。折角見つけた弱点なんですから思いっきり使って攻めちゃいましょう。」

 頬を緩めて彼女に答えた。その答えにシュテルは一瞬ポカーンとした顔をする。

「…そ、そんな簡単に決めていいのですか?」
「勿論、寧ろ大歓迎です。研究して相手の弱点を見つけて勝つ。勝負の鉄則です。ルールに反していないなら賞賛を受けても責められるものじゃないです。」
「それにこんな風にも考えられませんか? もしヴィヴィオが魔法世界に戻った後でその弱点を攻められて負ける…怪我したら…と。ここではブレイブデュエルの中でしか魔法は使えません。ブレイブデュエルではどれだけ魔法を受けても無傷です。だったらその弱点を克服する場所としては最適…でしょう♪」

 ニコッと笑みを浮かべる。

「あ…そう…ですね。」
「でも…そうなると益々ヴィヴィオは強くなっちゃって誰も勝てなくなるかもですが~。ブレイブデュエルのショッププレイヤー、開発者の娘としては困りましたね~。」

 少し困った様に言うと

「いいえ、そんな独走は許しません。私が必ず止めて見せます。勝ちますよ、次は必ず。」

凜とした声を響かせてシュテルがベンチから立ち上がった。
その顔には先程までの影は見えなかった。



「ヴィヴィオちゃ~ん、あっ、小さ…子供の方の…シュテルから電話」

 それから少し経った高町家。ヴィヴィオとアリシア、なのはとフェイト、大人ヴィヴィオと大人アリシアとチェント…やって来た面々がいきなり増えた事もあってヴィヴィオは直ぐに帰るか八神家にお世話になろうと考えたが、こんな機会はないと桃子の強い勧めもあって高町家の客間に居た。

「なのは、今小さいって言いかけたよね?」
「仕方ないんじゃない? 大人の私達と比べたら小さいのは間違いないんだし…チェントと比べても…ね♪」

 アリシアが2人に視線を送り、それに気づいたチェントが顔を真っ赤にしてバッと胸元を庇う。

「アリシアのイジワル…あっ電話、ヴィヴィオです。」

 なのはから携帯を受け取った。

『小さいヴィヴィオですか? そう言えば未来のあなたもそれなりに成長していましたよ。』

 電話向こうにも聞こえていたらしい、

「小さいはいいのっ…って嘘っ! 私が1番小さいの?」
『帰るまで研究所に居ましたから一緒にお風呂も入りました。話が逸れました』
「逸れてるかもだけど私には重要な話だよ。そっちも聞きたい」
『クスッ、それはそうとヴィヴィオ、明日は八神堂に居ますか?』
「八神堂? 明日帰るつもりだからご挨拶には行くつもり。T&Hとグランツ研究所にも」
『そうですか、それでは11時頃に八神堂に来てくれますか? 出来れば小さいアリシアも一緒に』
「11時に八神堂に? 私とアリシアと一緒?」

 アリシアの顔を見るが思い当たらないらしく首を横に振る。

「うん、いいよ。11時だね、わかった。」
『ではまた明日…』

そう言うと電話は切れてしまった。さっきの話の続きを聞きたかったのにと思いながらも明日聞こうと覚えておく。

「シュテルちゃん何だって?」

 携帯を子供なのはに返した後、大人なのはに聞かれた。

「わかんない、明日11時に八神堂に来て欲しいって…少し帰るの遅くなってもいい?」
「うん。ママ達も一緒にいこうかな。3人はどうする?」
「私達もついて行きたい…子供のはやてさん達を見たいっていうのもあるんですが、私とアリシアは先にグランツ研究所に行って待ってます。何か別の事件に巻き込まれたら大変だし。チェントは行ってきたら? 見るのもいい勉強になるよ。」
「…私は…お昼過ぎまで翠屋のお手伝いに行ってくる。その後研究所で合流…でいい?」

 翠屋にと言った彼女に視線が集まる。

「翠屋に? そっか、私達も手伝おっか、久しぶりだけど。」

「そうね~泊めて貰ってるし…」
「1人で大丈夫、お姉ちゃん達は先にグランツ研究所に行って。」

 何があるのかと思いながらもそこまで言うならと2人は引き下がった。

~コメント~
 プロトタイプシミュレータでシュテルがデュエルしなかった原因でした。
 ヴィヴィオの弱点・癖(?)の話は以前から書きたかった話だったのですが、
メインストーリーでは中々話しづらいというかそのシーンに巡り会えませんでした。
 
 
 

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