AS33「無自覚の反撃」

「ふぅ~…やっとただいまだよ~」

 私、高町ヴィヴィオは自分の部屋に入るなりベッドにダイブした。
久しぶりの主をベッドはポフッと音を立てて出迎える。
 この感触が懐かしい。

「RHd、帰ってこられたね♪ 調子はどう?」

 ころんと寝返って胸のペンダントを出して話しかける。

【I`m pretty good.】

 返事を聞いてニコッと笑う。

「…こ…は…すかっ!」

その時リビングから声が聞こえた。
 海鳴経由で戻って来てはやてに戻ったのを伝えた後、フェイトから何か大切な話があるから部屋に戻るように言われたけれど、声からして何か怒っているような気がする。
 
 気にならないかと言えば気になるけれど、彼女が私に見せたくないと思ったのだから気にしないでおこう。

【Master?】
「ううん、私ももう平気。明日から頑張ろうね♪」

 明日からやっと普段の生活に戻れる、それが今のヴィヴィオにとってはとても楽しみだった。



 翌早朝、いつもの魔法練習をしていた公園に行くと壊れていた遊具は新しい物に変わっていて立ち入り禁止もなくなっていた。

「…居ないよね?」

この前みたいに知らない人が来ていたら怖い。
 妙な視線の類いには慣れているし、アインハルトの様な古流武術者がストリートファイトをしかけて来ない限りそれなりに戦えるという自信も少しだけある。…そんな人が他にも居たらそれはそれで巻き込まれたくないのだけれど…。
 閑話休題、怖いのは私の魔法で無関係な人を傷つけないかということ。
 魔力ダメージに絞っても相当なダメージがある、もし何か事故を起こして巻き込んでしまったらと思うと怖いし、そんな状態で集中して練習は出来ない。 
 周りに変な人は居ないかをキョロキョロと見回す。
 ジョギングする女性が少し遠くに見えるだけで人気はない。
 目を瞑り心を落ち着けてリンカーコアの鼓動を感じる。鼓動を感じる度に魔力が指先まで巡っていく。久しく感じなかったから出来るか不安だったけれど上手く出来てホッと一息ついた。

「じゃあ…魔法の…あっ、まだしちゃいけないんだった。」

 今までは魔力制御の練習を続けてしていたけれど、今のRHdはブレイブデュエルの中で使っただけでこっちではテストもしていない。

【Sorry】
「いいよ、RHdのせいじゃないんだから。マリエルさんにいつテストするか聞かなきゃね。ぞれじゃ帰ろうっか。」

 笑って答えると私はなのはとフェイトと朝食を食べて制服に着替え、3人一緒に家を出た。

「なんだか久しぶりだね」
「うん、ヴィヴィオ、学院久しぶりだけど無理しちゃだめだよ。」

 なんだか2人とも心配性が戻っている気がする。

「大丈夫だって、帰って来てすぐ何も起きないよ♪ いってきま~す」

 笑顔で別れた。
 …でもその時、既に事件は起きていた。


 
「おはよ~コロナ、リオ♪」

 学院の前で2人を見つけて声をかける。

「!? ヴィヴィオ!」
「お、おはよ。」

思いっきり驚いているというか…私を見る目が変な気がする。

「どうしたの?」
「…ヴィヴィオだよね?」

 恐る恐るリオが聞いてきた。

「私、高町ヴィヴィオだよ♪。ちょっと色々あってお休みしてたけど、もう元気! 完全復活!」
「…」
「……」
「………」
「…本当にどうしたの?」

 聞いた瞬間

「やっといつものヴィヴィオに戻った~っ!」
「キャッ! 何っ?」

2人に抱きつかれた。



 少し前に戻って

「今日も遅れを取り戻すわよっ!」

同じミッドチルダにあるプレシアの研究所。
 登校するアリシアとチェントと別れた後、プレシアは中に入ったところで小さく握り拳を作って気合いを入れた。
 そんな彼女を微笑ましく見つめながら

「そうだ!、私達も手伝おうか?」
「いいね、それ」

ヴィヴィオの案にアリシアが頷いた。でもチェントは…

「いいのかなぁ?」
「いいのいいの♪ プレシアさんにも色々迷惑かけて遅れちゃってる訳だし、少し位未来の技術を話しても大丈夫でしょ。何か判らない発明する危ない魔導師じゃないし。」

 その返事にアリシアとチェントは微妙な顔をする。思い詰めた時に限っては何だか判らない物を発明する魔導師の方が【安全】なのを知っているからだ。
 それ位ずば抜けた能力が無ければ、ECウィルスの解析と対抗ウィルス剤を僅かな時間で作れない。

「ま、その時は私達が止めればいいし、こっちの私もそれは判ってるから大丈夫でしょ。」

 要は暴走させなければいいのだ。

「それよりも…チェント、帰ってくる時何か気になってるみたいだったけど?」

姉に聞かれて

「…あっ!大変!! ヴィヴィオに言わなくちゃ!」
「私?」
「じゃなくてこっちのヴィヴィオ。私、ヴィヴィオの代わりにStヒルデに行ってたの。」

 慌ててデバイスを取り出して、こっちで使えないのに気づいて

「お母さ~ん、お姉ちゃんかヴィヴィオに通信繋いで~っ!」

母の研究室へと駆けだした。



「アリシアっ!」
「おはよ、じゃなかった。ごきげんよう、ヴィヴィオ」

 教室に駆け込むなりアリシアの席に行く。

「ごきげんよう、私が居ない間に何したのっ?」

リオとコロナに聞いた話と私の記憶が全く噛み合わない。
 2人も疑問を持ってアリシアに聞くと、私が何かの事件で記憶があやふやになっていると言われたそうだ。それを聞いて真っ先に彼女の所へ来た。

「何って、答えはこれ」

 彼女は私がどうして来たのか気づいていたらしく、デバイスから1枚の画像を取り出すと私に見せた。そこに写っていたのは私が手を合わせて謝っている。でもこんなのを撮られた覚えはない。そこで画像の彼女がチェントだと気づいた。

「チェ…あの子?」
「そっ、いつ帰ってくるか判んなかったから。あとこれ課題、さっき彼女から送られて来た。」

RHdにデータが届く。学院で出されていた課題だ。しかも全部終わっている。

「感謝してよね、私にも彼女にも。こっちでフォローしてたんだから。」

 海鳴市に行っている間、チェントは私の代わりに来ていたらしい。

「うん…ありがと。放課後に研究所に行くよ、課題のお礼もしたいし。」
「どうかな? 課題の分はお礼言えばいいと思うけど…差し引きするとヴィヴィオの方が大変かもね。」
「私の方が大変?」
「お昼までに判るわよ。…先に知ってもどうしようもないしね。」

 首を傾げる私に彼女はため息をつきながら呟いた。



 複製母体と複製母体から作られたコピー、コピー同士では遺伝子レベルでは同じでも全く異なる環境で生きていれば性格も特技も違ってくる。
 ベルカ聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを複製母体として生まれた私とチェントも例に漏れなかった。
 読書好きから司書になった私と違って彼女にも得意なものがあった。

「ヴィヴィオすご~い!!」
「あ…ありがと…」

 私はその結果を目の前にして誰よりも驚いていた。
 学院祭で思いっきり楽しんだ後に何があるかと言えば、生徒なら誰もが知っている定期テスト。
 その結果が返ってきてヴィヴィオは息を呑んだ。

 全科目Aランク…というか100点、パーフェクト。得意なベルカ語系だけじゃなくプログラムの構成式も全くミスは無かった。

「うわぁ…」

 唯一事情を知っているアリシアもまさかここまでとは思っていなかったらしく、驚きを越えて呆れていた。

「ま、まぁ、学年が1つ上かも知れないし、そうだったら楽勝でしょ。」

 逆に言えば同じ年だったり、1年下の3年生だったら目も当てられない。笑みを浮かべるがきっと引きつった笑みになっているだろう…。

「冬迄に頑張らなきゃ大変だね~。…もし次のテストで酷い点を取ったら」

 ハッと気づく。その時は何かズルをしたと思われてしまうに違いない。
 時空転移でテスト後の未来に行って…と考えたけれど頭を振って振り払い

「が、頑張る!」

握り拳を作って答えた。



「そういえばこの時期ってStヒルデのテストじゃなかった?」
「そんな時期か…懐かしいね。でもずっと休んでたから追試か、悪いことしちゃったね。」

研究所で機材を片付けながらアリシアとヴィヴィオがふと思い出す。

「大丈夫、私が代わりに受けたよ。」

チェントは洗濯をしていたのか大きめの籠にシーツや衣類を入れて持って来た。話が聞こえていたらしい。

「…受けたの?」
「うん、向こうと殆ど同じだったよ。」 

 そう言って外へと向かう妹の後ろ姿を目で追いかけつつ親友と2人で顔を見合わせる

「…無自覚って怖いね。」
「一矢報いたってところじゃない? あの子にとっては大変だと思うけど…」


  
冬の期末試験までヴィヴィオは必死に勉強して苦手教科を克服し、パーフェクトとはいかなくても自己最高点を叩き出したのは言うまでもない…


~コメント~
 久しぶりに短編集です。
 ASシリーズで学業面についてはあまり触れていなかったので書いてみました。
Vividのヴィヴィオは成績優秀でしたが…こっちの彼女達はどうなんでしょう?
 私的にはヴィヴィオは読書好きから文系、アリシアはプログラム系が得意なので理系かなと勝手に思っていたりします。
 その2人の背中を見て育った彼女は…


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