AS36「カルナージにて~2~」

 ヴィヴィオや異世界の自分達がデバイスのテストをしている間、アリシアはチェントと一緒に遊んでいた。滅多に見られない自然豊かな場所で彼女も楽しいらしく膝下位までのせせらぎに入ってキャッキャと声をあげているしプレシアも笑って私達を見ている。

(私とあっちの私もそうだけど、チェントも違うんだ…)

 改めて実感する。 
 Stヒルデに通い始めてすぐ、迎えに行ったら妹は泥だらけになって走って来た。プレシアと一緒に目を丸くして驚いたけれど怒ることはなかった。輝かしいばかりの満面の笑みでかあさま、ねえさまと呼ばれたら怒る気も失せてしまったからだ。
 気になって翌日虐められたりケンカしたのかと思ってシスターに聞いたら全くそんなことはなく、活発で誰とでも楽しそうに話すからクラスの人気者になっていると聞いて胸をなで下ろした。
 
 アリシアがここに来たのは寂しがらせた妹や家族と遊びたかったからだ。
 あんな事件に巻き込まれたからこそ、今の一時が宝石の様に輝いている。
 30分程遊んで、身体が冷えてきたのを感じて2人でプレシアの所に戻った。
プレシアからタオルを受け取って濡れた髪を拭う。
『テストは気にならないの?』

 折角の時間を壊したくないのか、念話で聞いてきた。

『全然、だってママ達やマリエルさん達が作ったデバイスでしょ。』

 現在と未来・異世界のミッドチルダと近代・古代ベルカの魔導技術が集まっているのだ。
 この程度のテストで何か起きる訳がない。
  
『それよりも最近遊んであげられなかったから、今日はいっぱい遊んじゃうの。水着も持って来たしねっ♪』
『そうね』
        

 
その頃、アルピーノ邸のキッチンにはやてが立っていた。

「ごめんね、手伝って貰っちゃって」

メガーヌが礼を言う。ルーテシアは明日の食材の買い出しに行っていてシャマルとシグナム、ヴィータも付き合っている。

「こちらこそ急に大人数で押しかけてすみません。」

 笑って言う。10人以上で押しかけたのだから食事の準備だけでも大変だ。
 はやては見越して休暇を無理矢理合わせて来た。それと…
 
「…ねぇ、ヴィヴィオちゃんの魔法…はやてちゃんも知ってるのよね?」

 2人静かに下ごしらえをしていると彼女に聞かれる。
 静かに考えていたのは彼女が心の中で葛藤していたからだというのははやては気づいていた。
 ヴィヴィオ本人やなのは、フェイトに聞きづらいことを話せる者としてここに来たのだから…

「…はい、知ってます。一緒に行ったこともあります。」
「昔を変えたいと思ったりしないの?」
「何度も思いましたし言いかけたこともあります。…でも、出来ることと出来ないことがあるのを知って、私の願いは出来ないことやと判りました。」
「悲しい事件と別れがあって…管理局に入って…機動6課を作ったからヴィヴィオを保護出来て、なのはちゃんと家族になって、あの魔法が使えるようになったんです。だから私の願いは叶えられません。割り切れた訳とちゃいますけど、そう思ってます。」

 メガーヌの願いは判っている。
 あの事故でクイントやゼスト、自身が巻き込まれない様な未来。
 せめて2人が生きている現在を…。
 しかしその願いは叶えられない。ヴィヴィオがここに居る一因に彼女達も関わってしまっているからだ。話を聞いた後彼女も自分と同じ悩みを抱えるだろうと考えたからだ。  
 その考えに至った時、はやては時空転移を作った者の考えに触れた気がした。

 時空転移は過去を振り返る魔法ではない、現在と未来を見つめる為の魔法だと…

 その時

「私もお手伝いします~♪」

 とヴィヴィオが入ってきた。話を聞かれたかと一瞬ドキッとなるが、彼女の雰囲気からそういう雰囲気はないので大丈夫だろう。

「ありがとな、もうテスト終わったん?」
「はい、今はマリエルさんとママ達がデータを見てます。あっちの私達も何かしてるみたいで…」

ヴィヴィオにはデバイスデータを調べるのは難しいらしい…
 下ごしらえは終わったから続きはヴィヴィオにも出来るだろう。

 食材とトレイをテーブルに置いて作り始める。   

「模擬戦だったんでしょう? ヴィヴィオちゃんが勝ったの?」

 その最中、メガーヌが聞くと彼女は笑って答えた。

「全然勝てませんでした。当たったと思ったら全部避けられちゃうし、フェイントしてもバレちゃってるし…」
「まぁ今日は予定通りに動いてるかを見るテストやし、無茶をする必要ないからな~。明日も模擬戦するんやろ?」
「今日ので問題なければ明日は思いっきりしちゃっていいそうなので、頑張ります。」

 拳を握りしめて話す彼女を見てふと思う。

(こういう所はフェイトちゃんに似てるな…)

 海鳴に居た頃シグナムに模擬戦で負けた後、彼女もこんな風に言っていた。 

「まぁ怪我せんようにな♪」

そう言いながらも皆が見ている前で無茶をすることは無いだろうと思うのだった。



「1日目のテストお疲れ様でした。明日も頑張りましょう。かんぱーい」 

 それから小一時間後、アルピーノ邸の庭に全員が集まっていた。
 夕食はバーベキュー、ヴィヴィオ達が用意した野菜や肉を刺した串をシグナムとヴィータ、人間形態になったザフィーラが火を起こしたグリルに乗せていく。
 ジュ~っと美味しそうな音を立てている。 

「手伝えなくてごめんね、なかなか離れてくれなくって」

 ジュースを持ったアリシアがやってきた。

「私もお手伝いだったし、最近一緒に居てあげられなかったから寂しかったんでしょ。」

 チェントを見る。彼女はグリルを興味津々に見ている。流石に触ると火傷するからプレシアが近くに居る。 

「さっきあっちの私から聞いたんだけど、今日のテストは問題なかったみたいだよ。」
「ホント! よかった~」

 それを聞いてホッとする。

「明日もあるんでしょ?」
「うん、明日は思いっきり使って良いんだって。今日はママ達の指示通りにしか魔法使えなかったしあっちの私にも負けちゃったから…明日は頑張るよ。」

 元々今日は魔法を使っても異常はないかを見るテスト。
 壊れて直ってきたからこそ大切さが身にしみている。

「張り切りすぎないでよ~、って私も慣らしだったから明日はもっと動けるよ。」

 大人ヴィヴィオが焼けた串を持ってきた。アリシアは受け取りながら聞く

「ヴィヴィオどうでした?」
「凄いよ、スペックアップしたRHdに振り回されてないし、砲撃と射撃魔法同時に使ったり、近接格闘戦の途中でセイクリッドクラスターとか、母さん達から指示無かったら避けられなかったよ。」
「へぇ~、それってRHdに任せてるの?」
「うん、私はフォローよろしくってお願いしただけだから、RHdが考えて使ってくれたんだ。でもあっさり避けられたからビックリしたけど、ママ達から聞いてたんだ。他に癖あるのかって思ったよ。」
「今日のテストで当てても仕方ないでしょ。でも、癖じゃないけど何となくどんな風に動こうとしてるのかはわかったよ。牽制したいんだな~とか、近接戦にもっていきたいのかな~とかね。」
「え?」

 笑顔の大人ヴィヴィオの言葉を聞いて驚く。

「今はまだ意識しなくてもいいよ。そのうちコラード先生から特訓受けるだろうしね。アリシアも」
「私もっ?」

 驚いてコラードを見る。彼女はメガーヌと話をしていた。その時ヴィヴィオ達の視線に気づきニコリと笑ったのだけれどその笑みを見て背筋に寒いものが走った気がした。


 
「やった♪ こっちも同じだ」

 楽しかった夕食の後、アリシアはここに来た目的の1つ露天風呂に来た。
 こんな本格的な所は早々お目にかかれない。かけ湯も早々にお目当ての湯船に入る。

「これは…聞いていた以上ね。」
「アリシアが来たいと言っていたのがわかるわ。」
「おふろ?」

 続けて入ってきたのはマリエルとプレシアとチェント

「そうだよ、あっちは少し熱いから入るのに気をつけてね。」

3人が洗い場に行った後、先に入っていたルーテシアが近寄ってきた。

「へぇ~よく知ってるわね。フェイトさんから聞いた?」

 異世界の彼女とはともかく、アリシア自身は彼女とそれ程話したことはない。ただJS事件については以前当時のニュースを調べたりもしたので公になってること位は知っている。後でフェイトに聞かれて嘘だと思われるのもなんなので素直に話す。

「私もヴィヴィオと一緒に色々行ってたので…異世界のここに来たことはあるんです。」
「異世界の私にも会ってるんだ。ねぇねぇどんな感じだった?」

 更に顔を近づけてくる。   

「ルーテシアさんみたいにスタイルもよくて格好良かったですよ。ただ…すっごく元気な人でしたけど…」

 目の前の彼女が物静かだとは思わないけれど、あっちのは…色々ぶっ飛んでいた気がする。

「そう? 私は元気じゃ無いって…そう思ってる?」
「?」
「沢山の目があるんだから落ち着いたところを見せておかないと後が大変なのよ、テストが終わったらヴィヴィオと一緒に遊びに来てよ。本当の私を見せちゃうから。」

 ニコッというよりニヤリと笑う彼女に

(ああ…猫かぶってるだけなんだ…)

 と思わず納得してしまった。

「それに…ヴィヴィオも少し大変になるしここは良い練習場所になるわよ。」

 入り口の方を向いて言う彼女の言葉がどういう意味か…今のアリシアには理解出来なかった。



 その頃、ヴィヴィオはルーテシアが話した通り少し大変な話を聞いていた。
 食事の後片付けが終わった後、なのはとフェイトから『大切な話があるの』とアリシアと一種に露天風呂に行くのを止められたからである。
 リビングにはヴィヴィオとなのは、フェイトの他にはやて達やコラード、異世界の3人も居た。 

「ヴィヴィオ、戦技披露会は…知ってるよね?」
「うん、もうすぐだよね。去年もなのはママとシグナムさんの模擬戦凄かった。今年も行っていいんでしょ?」

 なのはから聞かれて頷く。教導隊のエースオブエースと首都航空隊の筆頭騎士の白熱したバトルは戦技披露会の目玉の1つになっている。

「…そうなんだけど…今年はヴィヴィオにも出て欲しいんだ。戦技披露会に」

 フェイトに言われて首をかしげる。

「…出る…私が?」
「うん…」
「戦技披露会に…ええーっ!? 私まだ初等科生だし司書だよ。教導隊でも候補生でもないし、Sランクは取ったけどあれはレリック持ってる為だし…」
「うん、わかってる。実は闇の書の撮影からヴィヴィオについて色々起きてるの。」
 
 ヴィヴィオは黙ってなのはとフェイトの話を聞いていた。
 空戦Sランクを取って撮影時の事故で闇の書の管制人格と戦った映像が広まった頃から管理局内でヴィヴィオに対して色んな声があがったらしい。
 司書を辞めさせ候補生にすべきだとか、Stヒルデからもっと実践的な学習が出来る士官学校への転校話、各部署への異動。魔力コスト制を用いていて高ランク魔導師が少ない現状でヴィヴィオの待遇は現実とかけ離れていると。
 教導隊員と執務官の家族だから優遇されているのではという話も出てしまった。
 そこに闇の書映像で民間からもヴィヴィオについて問い合わせが増えてきていて、管理局としてヴィヴィオにも戦技披露会に出るようにという指示があった。
 なのはとフェイトは家族として断ることも出来るのだけれど、あえて受ける交換条件を出した。それは闇の書事件の映像を含む管理局の広報等でヴィヴィオを使わないこと。
 それにより今後ヴィヴィオが町中で視線を感じるのも減るだろうと。 
 3人が海鳴に行っている間に広報部はそれを受け入れたと聞いた。しかし、その時のヴィヴィオは魔法が使えない状態になっていたからその話は止まっていた。
 けれど、今日魔法が使えるようになったからヴィヴィオに伝えたらしい。

交換条件を出して相手が呑んだ以上、こちらも約束を守らなくちゃいけない…約束を破ればなのはとフェイトの立場にも影響するのはヴィヴィオにも理解出来た。

 話を聞いてう~ん…と考える。 

「それ程時間がある訳じゃない、ここに居る間にどうしたいか聞かせて。ヴィヴィオがどうしたいのか…。ママ達のことは気にしなくていいから」
「ヴィヴィオ、私はヴィヴィオとちゃうから戦技披露会に出る、出んは答えられん。戦技披露会は戦技教導隊や管理局のトップレベルの魔導師が腕を競う大会や。なのはちゃんやシグナム、ヴィータも参加したらギリギリまで本気で魔法使ってる。こんな大会やから参加したくても参加できひん魔導師なんて数え切れん位居る。その中でヴィヴィオに出て欲しいって声が出てきた。管理局がトップエースの1人として認めたというのはヴィヴィオの将来にとっても何か得るものはあると思うよ。」

 はやてが隣に座って頭を撫でた。  

「ヴィヴィオ、初めてあなたと会った時に言ったわね。『将来どうなりたいかを考えておいて』って。丁度いい機会よ、考えてみなさい。あなた自身の未来を」

 コラードが微笑んで言う。

「……はい」

 ヴィヴィオは静かに頷いた。

~コメント~
 本話の戦技披露会についてはAdventStory第47話「高町なのはの憂鬱」の続きになります。
 VividともVividStrikeともForceとも違うヴィヴィオの成長を書いてきた時、左記の流れによってはお蔵入りにしようかとも思っていました。
ですが改めてヴィヴィオ自身の将来を考え始めるきっかけになればと思い書いてみました。


 

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