AS37「カルナージにて~3~」

「戦技披露会か…凄いね」

 ヴィヴィオは話が終わったらそのまま露天風呂に行ってしまった。
 大人ヴィヴィオはさっきまで彼女が居たソファーを眺めながらリビングから外にでた所にあるベランダにもたれかかっていた。

「お前は出たことがあるのか?」

 シグナムに声をかけられて振り向く。
 呟いていたのを聞かれたらしい。
「…いいえ、私…私達はありません。明日見せますけど私達の魔法ってちょっと変わっているので…。」

 苦笑いしながら首を横に振る。     

「でも…あの子ならそういう可能性もあるんだろうな~って…。羨ましいとか悔しいとかじゃなくて凄いなって。」
「今更だけど同じだからなんて思わないでよ。目標位はいいけど私達は私達、こっちはこっちなんだから。」

 近くで話を聞いていたアリシアも入ってくる。

「でも…これで判ったわ。ここは私達の現在と大きく違ってきてる。私もそうだしヴィヴィオもチェントも…きっとそれに関係して母さん達の未来も…」
「うん…」

 静かに頷く。
 それはヴィヴィオ達が来たことでこの世界の未来にも影響を与えてしまったということ。それを心に深く刻み込まなくちゃいけない。

「戦技披露会か…ヴィヴィオが出るなら見てみたいね。」
「そうね。そうだ、見終わってから帰りましょうか。」
「お前達はヴィヴィオが出るのと知っているのか?」

 シグナムがまるで私達が決まったかの様に話すのに聞いてきた。

「まぁ…私もヴィヴィオなので、彼女が何を考えたのかわかったつもりです。でも…まだ言わないで下さいね、母さん達には。きっと彼女から聞きたいと思ってる筈ですから」

そう言って人差し指を立てて口前でウィンクした。



「う~ん…私はいいよ。」

 大人ヴィヴィオ達がそんな話をしていた頃、ヴィヴィオは露天風呂の滝の様に流れる湯の所に居た。隣にはアリシアが気持ちよさそうに座っている。
 湯が落ちる音で他の人には聞かれないから丁度いいと思って早速彼女の横に行って聞いた。

「いいの? お願いすれば聞いて貰えると思うけど?」
「うん。だって私までしちゃったら彼女に悪いでしょ。私達にとっては無くなってもいいけどあの子にとっては大切な役だから。」

 なのはとフェイトの話を聞いてヴィヴィオはその場で参加するのを伝えようと思った。しかしそこに過ったのはアリシアのことだった。
 一緒にアリシアの映像もお願いすればと考えた。少し位お願いを追加しても認められる可能性があるからだ。でも彼女は断った。
 なのは役の少女について気にしていたのだ。
 彼女は民間人でいわゆる役者とか芸能人。自身が演じた役が出なくなると彼女の活躍にも影響する。
 ジュエルシード事件でも闇の書事件で演じた2人は絡んだシーンは多い。はやて役のヴィヴィオだけでなくそこでアリシアまで映像を出さないようにすると彼女に影響する。そこまでヴィヴィオは考えていなかった。
 そこまで気を回せるアリシアに感心する。

「でもヴィヴィオはいいと思うよ。私は聖王教会側に居るからプライベートも含めて色々守って貰えるけどヴィヴィオは出来ないでしょ。」
「うん」
「だからヴィヴィオは私の真似しなくてもいいんじゃない。」
「それよりも、そんな楽しいイベントだったら私達も見に行きたいからチケットよろしくね。」

 そのささやかなお願いに笑いながら

「うん、わかった。」

 交渉成立とばかり互いの手を握った。 
    


 翌朝、ヴィヴィオは目覚めると着替えてリビングに行った。隣のキッチンで
 なのはとフェイト、プレシアが朝食の準備をしている。
 ヴィヴィオは意を決して彼女達の前に行った。

「おはよう、ヴィヴィオ。」
「なのはママ、フェイトママ…私、戦技披露会に出るよ。」

 2人は私の方を向いて、再び聞く。

「…本当にいいの?」
「うん。将来何をしたいかとか何になりたいとかはまだわかんない。でも…戦技披露会に出れば選べる道が広がるなら…出るよ。」

 決意を込めた眼差しで深く頷いて答えた。
 

 それから1時間後、教導隊と広報部に対しなのはとフェイトの連名でメッセージが届いた。
 先の交換条件について双方が認めた時点で成立していたのだけれど改めて
『高町ヴィヴィオ司書から戦技披露会の参加要望を承諾した』という短いメッセージを受けて動きが慌ただしくなっていく…
 


 そんなことを知らず、カルナージでは2日目のテストが始まろうとしていた。

「じゃあ今日のテスト始めるよ。2人とも魔力ダメージに絞るの忘れないで。ヴィヴィオ…えっと、大きいヴィヴィオは途中できつくなったら教えて。シャマルさんの結界壊さないようにね。」

 機器を用意しているマリエルの横でなのはが言う。

「今日は…応援というか、参加したい人が居るみたいだから。」

 後ろで騎士甲冑姿のシグナムとヴィータが笑みを浮かべるのを見て笑顔が引きつる。そのまま目を移すと2人の横でアリシアも来ていた。思わず駆け寄る。

「あれ? チェントと遊ばないの?」
「アハハハ…昨日はしゃぎ過ぎちゃって、まだ疲れてるみたいで、ママが看てくれてるの。」

 笑いながらいう彼女、でも…先にこうなるのを知っていた気がする。
 初めて見るものも沢山あったからヴィヴィオから見てもはしゃいでいた。
 全くもう…とため息をつきながらも彼女にとって良い思い出になったと思う。
 気合いを入れ直して空へと上がる。
 大人ヴィヴィオも後に続く。
 そして…

「いくよRHd、レリック封印解除、ユニゾン…インッ!」

 騎士甲冑を覆っていた虹色の魔力色が更に輝きを増して白色へと変えていく。
 同時に体内に莫大な魔力が駆け巡っていくのを感じる。しかも

(これ…すごい…)

ヴィヴィオは内心驚いていた。今までは強く激しい風が体を包んでいく感じだったのに、今は体の隅々に染み渡っていく感じ。
 力に振り回される感じは全く無かった。

「魔力計測値…SSSを突破、検知不能表示確認。センサー停止。データ同期…確認。なのはちゃん、いつ始めてもいいよ。」

 マリエルは魔力センサーが壊れる前に止めてなのはに言う。

「ヴィヴィオ、いつでも良いよ。」
『稼働時間30分位で。こっちもいくよアリシアっ、チェント!』

 少し離れた場所で大人アリシアとチェントがベルカ式魔方陣を広げる。

「了解、レイジングハート2nd・3rdのユニゾン、制限解除、増幅スタート」   

 バリアジャケットに変わった大人アリシアの横でチェントのバリアジャケットが弾け騎士甲冑に切り替わる。同時にモニタに映った大人ヴィヴィオのジャケットも騎士甲冑へと変化した。

「増幅状態を魔力値Sで固定。フェイト、いつでもいいよ。」
「う、うん。模擬戦開始」

驚いて見ていたフェイトが頷き模擬戦開始を伝えると、2人のヴィヴィオは同時に動いた。

「あれがあいつらの魔法か…」
「成る程、確かに少し変わってはいるな。」

 ヴィータとシグナムは珍しそうに見ている。

「詳しくは聞いてないですけど、ヴィヴィオとチェントのリンカーコアとデバイスを繋いで互いに増幅させて負担が来ないように私が制御してるそうです。」

 制御中の大人アリシアに代わってアリシアが2人に答える。

「ユニゾンともオーバーブーストとも違う方法か…、面白いな。それに…あんな魔力相手やとそれしか対応できんしな…。」          

 上空で始まっている砲撃の激突を見て半ば呆れていた。


   
(魔力と威力は私の方が上だけど、読まれてるね…)

 結界を壊してしまうスターライトブレイカーは勿論、ストライクスターズも使えない。相手も『ヴィヴィオ』だから聖王系の力もどこまで効くか判らない。
 そうなった時、ヴィヴィオの攻撃方法は限られていた。
 インパクトキャノンかセイクリッドクラスター・クロスファイアシュート…あと近接戦からの紫電一閃。
 でもそれらも全部昨日のテストで使っているから知られている。対してヴィヴィオ自身は大人ヴィヴィオがどんな魔法を使うのかよく知らない。
 読まれた先の勝負…ブレイブデュエルでシュテルとのデュエルを思い出す。

(私が私らしい方法で…)

 テストだからそこまで無茶をしなくていいのだけれど…。 

「このまま負けたくないよね、そうだ!」

 ある方法を思い出した。


~コメント~
 来週が私用で更新出来ないので先に掲載しました。
 ヴィヴィオ同士の模擬戦は何度か書いていますが、この2人は初めてだったりします。(一緒に戦ったことは何度かあるんですが…)
 
 この話を取材するのに、実際に温泉パークみたいな所に行ってみました。
…楽しかったですが、ゆっくり出来る場所じゃないですね。

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