17話 バレンタインパニック(前編)

~~ピンポンパンポ~ン~~

 今回はヴィヴィオがちょっとしか登場しません。
 それじゃヴィヴィオの日記帳じゃ無いじゃないかっ!とご指摘頂くのも無理からぬ事だとは思います。
 後編でヴィヴィオが関係してきますので、暫くお待ち下さい

~~ピンポンパンポ~ン~~
「ティアナ」
「はい、八神部隊長」

 ある日、通路でティアナははやてに声をかけられた。思わず敬礼してしまう
 それを見てはやては苦笑しながら

「ええよ、堅苦しせんでも。ティアナは管理外世界97番の事って詳しい?」

 管理外世界97番。どこかで聞いたなと少し考えると、はやての顔を見て思い出した。

「えっと・・半年程前に行った八神部隊長やなのはさんの出身世界ですよね?」

その答えに笑みを浮かべてはやては頷いた。

「そや、うちやなのはちゃんの出身世界でその他にも何人か暫く暮らしてた世界。そこで2月に少し変わったイベントがあるんよ。興味あったら調べてみてな」
「はぁ」

そう言い残すとはやては去っていった。

「イベント・・・何だろう?」

 はやての後ろ姿を見送りながら、何故そんな事を教えてくれたのかと疑問に感じていた。


「よっし、報告書完成っ」
「うそっ速いよティアっ、急いで書くからもうちょっと待ってて」
「良いわよ急がなくても」

 オフィスで報告書を書き終えて「ん~っ」と背筋を伸ばす。隣の席ではスバルが辿々しい手つきで書いている。
 あと2~30分はかかるかなと眺めていると、ふとさっきはやてから聞いたイベントの事を思いだした。

「イベントか・・・」

 スバルが書き終わるまで時間つぶしに丁度いいかもと思ったティアナは管理外世界97番の事を調べようとした。

「単一国家じゃないのか・・・それじゃ、日本・・・あった」

 はやてが他の国の話をするとは考えにくく、隊長達が暮らしていた国、日本の情報を調べていくと・・

「ブッ!」

 いきなり吹き出しそうになった。

「どうしたの?ティア?」
「何でもない、速く書かないと先に帰るからねっ」

 何かあったのかと振り向くスバルに誤魔化しつつ、吹き出しかけたページを再び開いた。
 そこには【節分:鬼に豆をぶつけて邪気を追い払う祭り】と書かれていた。それだけならティアナも吹き出しはしなかったのだが、その後に【鬼は鬼でも白鬼は怒らせたらあかんよ】と注釈が入っており、読んだ瞬間に誰が誰のことについて書き加えたのかティアナで無くとも6課に所属する者にははっきりと判ったであろう。
 一瞬書かれた人に聞いてみても良いかなと逡巡するが、私も被害を受けるのは間違いないだろうと思い止まった。
 多分このイベントでは無いだろう。私がぶつける事は出来ないし、出来てもやりたくない。
 続けて探していくとこれかな?という物を見つけた。

【バレンタイン:女性が男性に愛の告白をする日。日本ではチョコレートを贈る風習がある】
 愛の告白・・・誰が誰に?私が??誰に?
 思わず顔が熱くなるのを無視して詳しく調べていく。どうやら告白というより異性の友人やお世話になっている人に贈ることもあるらしい。

『もしかして、八神部隊長・・・』

 少し前に映画のチケットを貰い色々あって彼と一緒に観た事を思いだした。その後、カフェで映画の話をしたり六課の話や最近の事で盛り上がった。
 時には巫山戯たり子供っぽい部分を出すこともあったが彼には彼だけの価値観を持っていることも何となく判った。
 揃って宿舎に戻った後、はやて自身からはやてが撮っていた写真を貰った。写真の中でこんな風に笑えたんだとティアナ自身も知らない表情を見たことに少し驚きつつもその写真は宝物になっている。

『気付いてるのかな・・・』

 でも、彼には凄く世話になっているし異性の中でエリオを除いて一番良く話す人なのも確かだ。

「買ってみてもいいかな・・」

思わず口にしていた言葉にスバルが食いついた。

「何か買うの?服?それともお菓子?」
「・・っ!何でも無いわよっ。それよりスバル報告書できたの?」

口に出ていた事の照れ隠しを判っていて怒るようにいうと

「うん、さっき。で、ティア呼んだんだけど全然応えてくれなくって。どうしたの?」

端末を覗き込もうとするスバルに慌ててページを閉じる。

「何でもないっ。それじゃ提出して部屋に戻るわよ」
「え、ティアっ待ってよ~」

端末を閉じてオフィスを出て行った。


「ねぇ、はやてちゃん?」
「なに?なのはちゃん」
「ティアナに何か言った?次のオフシフトで本局ポートの使用申請が来てるんだけど・・・」

 同じテーブルでサラダを食べているはやてに向かって聞いた。

「別に何も?オフシフトやし、連絡がついて戻れるなら許可するよ」
「うん・・私もいいけど・・何か隠してない?」

 はやては心の中で『なのはちゃん鋭すぎるで』と突っ込みつつ、まだ今は内緒の方がいいと思い

「ううん、別に何も」

と誤魔化した。じーっとはやての目を見るなのはが少し怖かったが、ここは我慢しどころである。

「ヴィヴィオ、ほっぺに何か付いてるよ」
「?ありがとう」

 ヴィヴィオの頬をハンカチで拭い、たわいのない会話で話題を逸らした。


「ここか・・・」
【カラーン】

 ティアナがドアを開けると

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?~あら?」
「こんにちは」

 朝1番に本局クラナガン直行の列車に乗り込み、本局の転送ポート使用許可証を提示してなのはやはやての故郷、海鳴市にやって来ていた。
 聞いた話では昔連続してロストロギアが出現した事もあり、現在も無人端末中継装置やセンサーが稼働している。
 そして、目的の場所はというと

「確か、なのはの生徒の・・・」
「ティアナ・ランスターです。」

 海鳴市にある喫茶店【翠屋】だった。

「何かなのはに?」

 目の前の女性が少し緊張する。

「いえっ、違います。なのはさんはとても元気です。実はお願いがありまして・・」

 なのはが大怪我を負ってティアナが代わりにと誤解されたと思ったティアナは慌てて否定した。


「いらっしゃいませ、お二人様ですか」

 30分後喫茶翠屋からは聞き慣れない声が響いていた。

「はい、ランチセット2つと食後にコーヒーとレモンティーですね。少々お待ち下さい」

 桃子はその素振りに少し驚きながらも嬉しそうに眺めていた。


「バレンタインに贈るチョコレートが欲しいんです。」

 ティアナがここに来た目的、それはバレンタインというイベントで贈る【チョコレート】というお菓子を貰う事。イベントで贈る物であるなら現地でお菓子を作っている人に聞く方が確実だし、何より本場モノである。
 そう考えたティアナは面識のある桃子を訪ねたのだった。

「いいわよ、どれくらいのが欲しいの?500円くらいからあるわよ。それとも本命?」
「あっ・・・」

 にこやかに言う桃子の言葉でハッと気付いた。使える通貨を持っていない

「あの・・・私、こっちのお金持ってないんです」
「良いわよ、折角遠くから来てくれたんだし。ティアナさんはどれがいい?」
 
 桃子の好意は嬉しかった。しかし、それではティアナの気が済まない。

「それじゃ、私に何かお手伝い出来ることはありませんか?」
「そうね~、じゃぁ!これ」

 手渡されたのは黒い服の様な物、何をすればいいのか判らず思わず首を傾げた。



「お待たせいたしました。ランチセットになります。ごゆっくりどうそ。はい、ご注文はお決まりでしょうか?」

 ティアナの役割はセンターガード、常に全体把握と攻守のバランスを維持しスバル達に指示をする事である。数分の内に翠屋のテーブル番号やメニュー・流れは判ったら飛び入りのウェイトレスが誕生していた。

「マスター、新人いれたの?良く動くね」
「ううん、娘の友達。あれで初めてらしいのよ。私もビックリしちゃった」

 カウンター席で常連客と思われる男性と桃子は雑談しつつもティアナのテキパキとした動きにどこか懐かしいものを感じた。

「いらっしゃいませ~何名様でしょうか?」

昼時の翠屋から聞こえる声は途絶えることが無かった。



 夕方、客足が引いたあたりでテーブルを拭いていたティアナに声をかけた。

「ティアナさん、お疲れ様~ホント助かっちゃった。」
「いえ、そんな・・・」
「それじゃあ行きましょうか、あなた~後お願い」
「おう、気をつけてな。ティアナさんもありがとう。なのはにもよろしくな」

 奥から出てきた男性=士郎はニカッっと笑うと2人を送り出した。

『どこかで聞いた声だけど、誰だろう?』

 一瞬士郎の声を聞いてそんな疑問がかすめたが、桃子が出て行くのを見て後をついていくことにした。


 ティアナと桃子が向かった先は少し歩いた先にある家だった。家の前に「高町」と表札がかかっているのを見て自宅に呼ばれた事が判る。
 入って少し広い部屋に案内された後、

「ちょっと待っててね」

と言われ、その部屋で待たされる事になった。モニタの様な機器の上に小さな絵が飾られている。
 少し気になって近づいて見ると

「なのはさん、フェイトさんに八神部隊長、ヴィータ副隊長、シグナム副隊長にシャマル先生、リイン曹長まで・・・」

 それは高町・ハラオウン・八神の3つの家の集合写真、なのはが足に包帯をしているところを見るとあの事件の後に撮られた物なのだろう。それでもなのはは笑っていた。

「それ、なのはが何か大きな事故に巻き込まれて入院してやっと帰ってきた時に撮った写真なの。あの子凄く酷い怪我をしてもまだ続けるんだって・・血は争えないのね」

 後ろから桃子の声が聞こえ、振り返ると自嘲気味に微笑んでいた。

『そっか・・あの事件はこっちでは・・』

 本当なら真相をきちんと聞きたかった筈、でもなのはの家族はそれをしなかった。娘の選んだ道を信じたから。もし、同じ境遇に置かれたらどうしただろうとふと考える。
 これがなのはやなのはの家族の強さなのかも知れないと思った。

「あっ、ゴメンね~しんみりした話しちゃって」
「いえ」
「そうそう、準備出来たから、こっちに来て」
「?」

 先程までの空気を吹き飛ばすかの様に、桃子が手を取り別の部屋に引っ張っていった。
 そこには並べられた調理器具と茶色がかった固形物、それに同じ色の粉末と多分調味料と思われる物が並べられている。

「じゃ、はじめよっか」

さっきまで使っていたエプロンを渡して自分も同じエプロンを着る。

「何をすれば?」
「チョコレートでしょ♪」
「ええ、そうですが」
「だから、今から作るの♪」
「え?誰がです?」
「ティアナさんが♪」

 そうなんだー私が作るんだーチョコレート・・・ええっ!

 別の世界へと飛ばされていた気がしたが、自分で呟くとはっきりと自覚した。

「無理ですっ!作ったことも無いですし、時間もあまり・・」
「あとどれくらい?」

 六課ークラナガンー中央ポートー転送ポート、時間を逆算していく。

「4時間くらいです」

 ティアナが答えたのを見て桃子がポンと手を叩いた。

「4時間あれば充分作れるから、今から頑張ろう~♪それに貰った方も手作りの方が嬉しいんじゃない?」

 当人の意志とは全く関係なく事を進めるのは2人とも同じなんだ・・と心の片隅で呟いていた。



「本当に有難うございました」

 ほぼ4時間程経った頃、慣れないチョコ作りに悪戦苦闘しながらもなんとか見られる程度の物に仕上がった。丁寧に包装された包みを何重にも途中で壊れないように巻いて今は紙袋に入っている。

「私も一緒に作れたし楽しかったわ、ありがとう。また近くに来たら寄ってね」
「はいっ、それじゃ失礼します」

 残された時間が少なくて、最後は慌ただしくなってしまっけど来て良かった。
 何度か頭を下げて最寄りのポートに急ぐことにした。
 帰り道、渡した時どんな風に受け取って貰えるかと想像すると少しだけ胸が躍る気分だった。



~~コメント~~
 日記の無いヴィヴィオの日記帳はヴィヴィオの日記帳じゃない!とご指摘を頂くかも知れません。
 年始に続いて時事イベントですが、少しでもティアナ側に立った感じで進めたいと思いこの形をとりました。
 次回は日記帳も入ります

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Comments

錯乱坊
えと、突っ込みたい所はご自身で突っ込んでるので、次回に向けて如何ヴィヴィオを関わらせるのか気になる所です。
ヴァイスのチョコレートをヴィヴィオが食べてしまう感じでしょうか?
チョコレートはビターそれともスウィートそこも気になります。
2008/02/05 10:02 PM

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