AS48「夜空に虹がかかるとき」

 模擬戦が終わってヴィヴィオはヴィータと一緒に救護テントに運ばれた。
 勝ったとは言え満身創痍…歩いて戻れると救護班のスタッフに言ったが逆に背中を強打していたから安静にしているように言われた。
 そしてテントで待っていたのは……

「ヴィヴィオ…フェイトママは凄く怒ってます。どうしてかわかるかな?」

 ム~っと怒ったフェイトが待っていた。

「え~っと…はい、ごめんなさい」
 怒られる理由は山のようにあった。
 異世界での特訓していいとは言って貰ってたけれど…こんなことをするとは思ってなかっただろう。
 アリシアやなのは役の少女も流石にそこはフォロー出来ない。でも…

「フェイトちゃん、あまり怒らないであげて。」
「私からも頼む」
「ああ」
「シャマル先生…シグナムさん…ザフィーラ…」

 ヴィータを看ていたシャマルとシグナム、ザフィーラがベッドの横にやってきた。シグナムに頭をポンと撫でられる。    

「どうして、シグナムも判ってるでしょ!あんな…」
「ああ、戦技披露会で未熟な魔法を見せるべきではない。だが我らにはヴィヴィオに感謝しても足りぬ理由がある。」
「ヴィヴィオ、書からも失われた…リインフォースの魔法を見せてくれたのだな?」
「!?」

 3人を見ると頷いている。
 彼女達を見てヴィヴィオは自然と笑みがこぼれた。

 闇の書事件の撮影で知ったこと、守護騎士達は新たな主に呼び出されると前の主の記憶を失う。しかし台詞や彼女達の言葉の中で昔のリインフォースについての記憶はあった。 
 彼女達が覚えているかは賭けだった。
 彼女達、ヴォルケンリッターは全員覚えていた。
 
 先の事件で奇跡的に使えたデアボリックエミッションから他の魔法を使える可能性を見つけ、リインフォースが旅立った時、はやての持つ夜天の書からも失われた【彼女が使っていた魔法】を蘇らせる。
 そんな無茶苦茶なことを誰も考えつかないだろう。
 でもヴィヴィオはそれを思いつき、実現出来る可能性があった。

 時間軸の異なる世界、ブレイブデュエルのある世界ではリインフォースは生きていて彼女の魔法はブレイブデュエルで彼女が使うスキルカードになっている。
 そこでヴィヴィオは大人ヴィヴィオ達を連れてブレイブデュエルの世界に行き、グランツ研究所と八神堂・T&Hで頼み込んで特訓していた。
 なのはとフェイトと約束したのは学院を休まないことと夜には帰ってくること。
 毎日授業が終わってからブレイブデュエルの世界に行き、夜には戻って課題をして翌朝登校するという生活を繰り返していた。
…すぐにアリシアにバレて彼女も一緒にいくことになったけど、彼女はヴィヴィオの考えに賛同しセコンドを買って出てくれた。

「時間が無くてミストルティン系と防御技しか覚えられませんでした。もっと早く思いついていれば…」
「いや、急がなくてもいい。昔を思い出した。後で我が主にも伝えて欲しい。祝福の風が残した欠片、分けて貰えると我らも嬉しい。」
「はい♪」
 


 それから数分後

「ヴィヴィオ~お疲れ様。シグナムから話を…」

 なのはがやって来た。

「シ~!」

 アリシアが人差し指を唇に当てて言う。ヴィヴィオを指さす。彼女は静かに寝息をたてていた。

「相当疲れちゃってるみたいで…診察途中で寝ちゃって。シャマル先生からも寝ていた方がいいって。」
「そう…アリシア、知ってたら教えて欲しいんだけどどうして騎士甲冑を残してたの?」

 アリシアは近くのベッドにヴィータが居るのを察してなのは役の少女に後を頼んでなのはをテント外に呼び出す。そして小声で言う

「なのはさんまだ内緒にして下さいね。実はアレ、バリアジャケットと鎧の複合ジャケットなんです。」
「!?」

 なのはが驚いて声をあげそうになるが、慌てて手で口を塞ぐ

「ヴィヴィオ、魔法なしでもオリヴィエの鎧みたいなの着てましたよね。どうやって出してるのかはわかんないんですがどうして【古い鎧】なのかなって思ってて、もしかしてヴィヴィオの中のオリヴィエのイメージから作られてるんじゃないかって考えたんです。騎士甲冑も元々ヴィヴィオのイメージから作ってるでしょ。」
「うん…」
「それで、あっちに行った時にイメージしなおしてバリアジャケットの防御部分、ハードシェル装甲の所だけ鎧を重ねられるように練習してたんです。あれ、ずっと使っていると結構疲れるみたいなので全身じゃなくて部分だけなら長く使えるかなって。この辺はシュテルのアイデアですけど」
「それでずっと使ってたんだ…」
「あと…どうしてかわかんないんですけど、向こうでエクセリオンになっちゃうと今日の魔法が使えなくて…あれだと使えたのもあります。最後はスタミナ切れで動きが鈍くなってきたのを見て私が騎士甲冑に戻るタイミングを言う作戦でした。ずっとベルカの魔法と近接だったのに急にストライクスターズを使ったらヴィータさんも対処しきれないと思って。避けられたら負けてました。」
「そこまで考えてたんだ…あっちに行ったらお礼言わなくちゃね。」

 笑顔で言うなのはにアリシアも

「はい、次に行くときは報告する約束なので。」

 笑って言った。     

「じゃあ、次は私だね。ヴィヴィオは起きないだろうから2人で見てて。ヴィータちゃんとヴィヴィオの試合に負けない位頑張るから。」       

 そう言って走って行った。


「…アリシア、なのはさんは?」

彼女が駆けていった後テントからなのは役の少女が出てきた。

「次がシグナムさんとの模擬戦だから行っちゃった。ヴィヴィオ達に負けない位頑張るから見ててって。」

 そう言った時ふと思い出す。

「ねぇ、最後ヴィータさんがヴィヴィオの後ろに居た時、どうしてヴィータさんが戦えないってわかったの?」

 あの時ヴィヴィオは魔力はともかく体力的に限界で、クロスファイアシュートも使えないから負けたと思っていた。しかし彼女はヴィヴィオやアリシアよりも早くヴィータが戦闘不能なのに気づいた。

「魔法のことはよくわからないけど、あの時ヴィータさんの目がヴィヴィオを見てなかった。…見えてないか意識が無いんじゃないかって。時々演じてる人が同じ様になったの見ているから。だからあこでヴィヴィオが魔法を使ったら危ないって思って慌てて止めたの。」

 彼女が居なければアリシアはヴィヴィオに何か使える魔法を使う様に言っていたし、放たれれば確実に直撃していた。
 疲れていてもSランクの魔法を受ければ…只では済まないし、それを撃ったヴィヴィオも言ったアリシアも取り返しがつかないところだった。
 一瞬背筋がヒヤリとする。

「目でわかるんだ…居てくれて助かった。ありがとう。」

 そう言って彼女と握手した。



「勝っちゃったね…」
「うん勝った。あの子達の勝利だね」
「凄かった…」

次の模擬戦が行われる迄の休憩時間、大人ヴィヴィオ達は観戦席から通路に出ていた。

「じゃあ、帰ろうか。」

 色々と判った。
 彼女の幼い故の危うさや脆さを知り、そんな者が力に翻弄されないのが不思議だった。でもそれはヴィヴィオ達の杞憂だった。
 彼女には決めたら貫こうとする強い意志がある。
 どれだけ困難で険しい道だとしても向いて進む意志と彼女を支える者達、それらが組み合わさって奇跡を起こしているのだと知った。
 そしてそれは彼女だけじゃない、自分たちにもそれは言えるのだ。それを教えて貰えた。

「帰るのですか?」

 変身魔法を解いて、刻の魔導書を取り出した時後ろから声が聞こえた。

「はい、用も終わりましたし色々教わりましたから。」

 イクスヴェリア…だけれどこの感じは彼女だろう。   

「あなた達の未来が良き未来であることを」
「はい」

 そう言うと刻の魔導書を開き3人はその時を後にした。

            
      
「…ん…ママ?」

 ヴィヴィオが目覚めたのはそれから数時間経った頃だった。体が揺れているのに違和感を感じて目を開けるとそこには母の背中があった。

「起きたんだ。フェイトちゃんは少し遅くなるって」
「…披露会は?」
「終わったよ。ママびっくりしちゃった。それに…嬉しかった。はやてちゃん、話を聞いて泣いて喜んでたよ。またお話してあげてね。」
「うん…、でも約束守れなかった。最後に使っちゃった…」
「大丈夫。よく見えなかったし、映像もちゃんと処理するって。もう少し寝てていいよ。」
「うん…ありがとなのはママ…」

 そう言うと再び微睡みの中に意識を沈めた。


「本当にお疲れ様。」

 再び聞こえてきた寝息になのはは頬を崩して言う。
 ヴィータはテントで目覚めると眠っているヴィヴィオの側に来て言ったらしい。「思い出させてくれてありがとう…」と。
 彼女がしたかったことはきっと彼女にしか出来なかったこと。  

 今日の模擬戦でヴィータに勝ったことは色んなところで影響するだろう。撮影ではない高町ヴィヴィオとしての力を見せてしまった。
 リンディやレティ・プレシア、はやて、ユーノ、カリム、イクス…守ろうとしてくれる人も多いけれどそれでも何処かで限界がある。
 その時彼女の笑顔を守ってあげられるか?
 きっとそれがなのはにとっての試練なのだろう。

「次は私達が頑張らなくちゃだね…」

背に感じる温もりに心の中で誓うのだった。

~コメント~
 ヴィヴィオにとってのリインフォースの存在はちいさなものではありません。
古代ベルカ繋がり以外にも倒すべき敵であったり、助けられなかった友人であったり、世界が変われば一緒に食卓を囲んだ家族の様な存在です。
 ヴィータと試合が決まった時、彼女は勝負の行方よりもヴィータとの試合を通して何が出来るのかを考えます。そこで思いついたのがブレイブデュエルの世界から魔法を持ってくることでした。
 闇の書事件を体験し、更に闇の書事件の劇中劇で八神はやて役を演じ、ブレイブデュエルの世界を知っていて、アインスやシグナムの魔法が少し使えたヴィヴィオだからこそ思いついた方法ではないでしょうか。

Tittwerを始めました。
 https://twitter.com/ami_suzukazedou
 SSについてとか活動についてとかを呟けたらいいなと思います。


 

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