AS49「女神の盾」(終)

 戦技披露会が終わって1ヶ月程経った頃、ヴィヴィオは自室で机に向かって勉強していた。
 期末試験までまだ少しあるけれど、今回は悠長に構えていられない理由がある。
 何せ前回のテストで私の代わりに受けたチェントが全教科満点という結果を残していってくれたのだ。
 今までも悪い訳ではなかったけれど、パーフェクトなんて叩き出されたら次の試験結果は注目されるに決まっているし、そこで散々な結果だとズルをしたと思われかねない。
 とりあえず今出来ることと言えば少しでも良い結果にする努力。
 
 不幸中の幸いか披露会以降、特に事件に巻き込まれもせずヴィヴィオは有意義な時間を過ごしていた。
 広報部が約束を守ったのかメディアに私が登場する機会は一気に減ってその代わりなのは役の少女をよく見かけるようになった。
 はやて曰く

『将来有望な局員を外に取られてはいけない』

 という論理が働いたらしい。
 むしろ盛り上がったのはStヒルデの中の方で、半ば公にベルカの騎士になったと思われていて先生が抑えてくれるまで大変だった。
 今は時々低学年の子が会いに来る位だ。
 
 一方で私は毎週定期的にブレイブデュエルの世界に行くようになった。
 覚えなくてもスキルカードで魔法が使えるというブレイブデュエルは魔法のレパートリーが少ない私にとっても宝の山だった。
 リインフォースのスキルを重点的に覚えながら、シュテルやフェイト達、新たなデュエリスト達もと積極的にデュエルをしていた。
 レヴィから言わせると

『私とのデュエルは楽しいし、勝っても負けても自分の弱い所がわかるから特訓になる』

 らしい…。 
 兎も角私はそこで彼女の魔法を覚えたら八神家に行ってはやてにその魔法を教えた。
 最初彼女を直接ブレイブデュエルの世界に連れて行こうと思っていたのだけれど

『ええよ、ヴィヴィオが覚えたら教えて。これ以上ディアーチェに叩かれたくないしな。』

 その話をママ達にしたら

『うん、はやてちゃんの言うとおり』
『ヴィヴィオが覚えたら教えてあげて』

 と言われて今みたいになっている。

 
そんなある日

【コンコン】
「ヴィヴィオ、ちょっといい? お客様なんだけど…リビングに降りてきてくれるかな?」

 なのはが顔を出して頼んだ。

「うん、いいよ?」

 いつもならヴィヴィオ~っと階段したで声をかけるか念話で呼ぶのにと思いながらもペンを置いて彼女の後を追った。
 リビングに行くとソファーに座っていたのは

「マリエルさん?」

 私服姿のマリエルが居た。
        
「今日ここに来たのはヴィヴィオに試作機のテストをお願いする為なの。」

管理局装備部では幾つかの民間企業と共同研究や・試作デバイスの制作をしている。各々が協力することで魔導技術の向上は勿論、デバイスの開発コストを抑えたり数少ない高ランク魔導師の研究データを共有出来るかららしい。
 そんな中に民間企業【カレドヴルフ・テクニクス】はあった。
 カレドウルフも試作デバイスの共同研究をしている。
 AMF環境や魔法が使えない時に内燃バッテリーと呼ばれる動力を元に動くデバイスの開発。
 今回ヴィヴィオへのテストと言うのはその1つの動作試験をして欲しいということだった。

「本当は装備部や教導隊でテストが出来れば良いんだけど、装備者が限られていて誰も試作機との相性が合わなくて。それで試しに以前取ったRHdのデータで見たら高い適合率が出たのよ。」

 RHdの設計者が彼女だから設計時のデータは勿論以前のテストや直して貰った時のデータも持っている。家族みんなのデバイスを見て貰っているし色々無理をお願いしていることもあるから困っているなら手伝いたい。でもヴィヴィオは素直に頷けなかった。
 アーマダイン・ラプター、異世界で作られていた人型デバイス。それを作った企業の名前が「カレドヴルフ・テクニクス」だったから。どういう経緯で魔力コアを入手したのか判らないけれどそれをあんな風に使ってしまうところが異世界とは言え信用できなかったのだ。
 とは言っても、マリエルがわざわざ家に来ると言うことはそれ程相性を求める物なのだろう。

「マリエルさん、その試作機って何ですか?」

 テストするかはおいておいて何のテストをするのかを聞く。

「これ」

 テーブルにコトッと置く。
 色は違うけれどアリシアのペンダントと同じ位のサイズ。重さも殆ど同じ。

「これは待機モードで起動するとこんな感じ。」

 ウィンドウを出して装着時のデータを見せてくれた。スカート横に付けたらフィンの様に見えるけれど形に見覚えがある。

「…フォートレスのシールドによく似ていますね。」
「フォートレスを知ってるなら話が早いね。これはフォートレスのシールドから武装を外して防御に特化させたシールドなの。デバイスと連動して動作するからなのはちゃんにもフォートレスと一緒にテストして貰ってて…問題はベルカ式なのよね。」
「? ベルカ式ならヴィータさんが…」

 そう言うとマリエルは苦笑いし、なのはもクスッと笑った。

「勿論ヴィータちゃんはテストしたよ…でもグラーフアイゼンと相性悪くて思ったとおりに動かないって…大失敗」

 なのはの話に納得する。
 近接戦からの突撃主体なヴィータにとってはいくら防御力が上がるシールドでも思い通りに動かなくては邪魔にしかならない。
 ブレイブデュエルでシュテルとデュエルした時、ヴィヴィオもそう思って近接戦に切り替えた時にはあえて全部捨てて身軽になった。
「前のコアのテストでもそうだったけど、近代・古代ベルカ式の魔導師ってフォワードで近接タイプが多いのよ。今は邪魔と思われてもそんな距離だからこそデバイスと連携して動くシールドが必要だって思うの。でも連携時のデータが全然取れなくて…」
「それで、私なんですね」
「うん…お願いできるかな」

 ヴィヴィオの戦技魔法を使ったスタイルはある程度までなら近接戦、中長距離戦のどちらでも出来る。
 紫電一閃やこの前覚えたシュヴァルツェナハトは近接戦用だし、クロスファイアシュートやストライクスターズは完全に中長距離戦向きだ。
 しかもゲームの中とは言え既にフォートレスを使った経験もある。
 ただどうしてもカレドヴルフの試作品というのが引っかかる。
  
 結局その場で答えられず、幾つかのデータだけ貰ってマリエルは帰って行った。

「先に断られるかもって話はしていたんだけど…ごめんね。でもこの話が出た時最初に名前が出たのはヴィータちゃんじゃなくてヴィヴィオだったの。」

 リビングでおやつのケーキを切り分ける。

「私?」
「教導隊の中じゃヴィヴィオ有名人なんだよ。」
「そうなんだ…え~っ!?」
「空戦Sランク試験の時からずっと見られてるんだよ。披露会もそうだったでしょ? ベルカ式…特に古代ベルカ式は魔導師が少ないし、スタイルが特化した人が多いから。」

 そう言われたら仕方がない…。1口サイズになったケーキを口に入れる。   

「それで…どうするの?」
「う~ん…ママはどうすればいいと思う?」

 聞き返す。

「ママはテストしてくれた方が嬉しいよ。マリエルさんの気持ちもわかるし大切なことだから…でも気になってるのはあの事件だよね。」
「うん…」

 たかがシールドと言えばそうだ。
 でも魔力コアも同じといえば同じなのだ。
 シールドも魔力コアも悪い訳ではない。問題はそれを使う者…
 
「少し考える。アリシアと相談していい?」
「いいけど、機密もあるからデータは見せちゃだめだよ。」
「は~い」

        
 そして日は暮れた頃、色々考えたあげく結局納得の出来る答えは見つからずヴィヴィオはアリシアに通信を送って相談した。

「どうすればいいかな…」
『すればいいんじゃない?』

 何を考えてるのとばかりにあっさりと答えられてヴィヴィオは椅子から転げ落ちた。

「そ、そんな簡単に決めて良いの?」
『いいんじゃない? だってミッドチルダ式は既に出来ててテストしてるんでしょ。ヴィヴィオが嫌って言っても誰かがテストするだけだから完成するのが遅くなるだけでしょ。』
『何にもない魔力コアみたいな技術が取られたりする訳じゃないし、データからあの魔法について知られたら大変だけど、それはマリエルさんやなのはさん達も警戒するだろうし、問題ないんじゃない?』
「でも…あこが作ってるんだよ? ラプターを作ったところが…何かしそうじゃない?」

 そう言うとアリシアはアハハハハと笑った。

『そんなの気にしてたんだ。それを言ったら、悠久の書や私達のデバイスなんてもっと大変な人が作ってるんだよ。実際に何かしちゃってる人が。』

 あっと思い出す。彼女は今頃くしゃみをしてるんじゃないだろうか。

『向こうの私が言ってたけど『あっちはあっち、こっちはこっちでしょ。』同じ所でもラプターを作ってないなら協力してあげたら?しない方が逆にラプターに向かう可能性もあるし、マリエルさんが来てる位なんだから。困ってるんだと思うよ。』

 こういう時の相談相手としてヴィヴィオが見えない部分からの指摘をしてくれるアリシアは頼りになる。

「そうだね、うんわかった! 相談乗ってくれてありがとう。」
『もし見られるなら私も見たいから教えてね。』

 そう言うと通信は切れた。
 早速リビングに行って

「なのはママ、試験機の話テストするよ。」

 それを聞いたなのはは

「わかった、マリィさんに連絡するね。期末テストの後になるようにするからヴィヴィオはテスト勉強頑張って」
「は~い♪」



「シールド系デバイスか~。」

 通信を切った後、アリシアはベッドに仰向けで寝転びながら呟いた。
ブレイブデュエルの中で使えたスキルカードを現実に使える様にしたのは凄いと思う。紫電一閃の様な【技】ではなく、古代ベルカ式の【魔法】として…。聞いた時は半信半疑だったけれど何か強い想いがあったのは気づいていたからセコンドを買って出た。
 その後も彼女は前に進んでいる。マリエルがどういうつもりかは判らないけれど、なのはが試験機のテストを薦めたのは将来教導隊へと思ってのことかもと思う。
 実際ヴィヴィオは向いているとアリシアも思う。でも、教導隊を目指されたら多分隣には居られないから出来れば違うところの方がいいと思ってしまい素直に喜べない。

「…私も負けてられないね」 

 羨ましさから比べている自分の考えに気づいて振り払う。
 私にしか出来ないこともある。それを積み重ねていけば良いのだから。



 それから数週間後、季節は秋から冬に変わり期末テストがあった。ヴィヴィオは全教科満点とはいかなくても自己最高点を叩き出し面目躍如した。
 そして、ある日ヴィヴィオはなのはと一緒に装備部に呼ばれて試験用デバイスを手渡された。

「試してみて、RHdのインテリジェントシステムと連携は取れているから思った通り動くはずだよ。」

 装備部の試験室で騎士甲冑は使えない。バリアジャケットを纏って起動させる。

『名前は【イージスシールド】。なのはちゃん達の故郷、第97管理外世界の伝承に出てくる女神の防具から付けたの。ヴィヴィオにぴったりでしょ。』

 バリアジャケットやなのはのジャケットと同じで白と青。赤でカラーリングされているのを見て照れながら言う。

「女神の防具…名前負けしちゃってますよ。そうだ、愛称付けちゃってもいいですか? RHdみたいに」
『愛称? いいよ。何て名前にする?』

 八神堂で読んだ本の中でイージスの名前はあったしその時描かれた女神の絵も覚えていた。だから…

「愛称…【アイギス】ってどうですか? 確かイージスの元になった名前です。」
『よく知ってるね~流石司書♪。愛称登録―アイギスと…これで呼んでも来るはずだよ。』
「よろしくね、アイギス♪」

 動作テストでヴィヴィオは驚いていた。言うほど違和感も無いし思った所に動いたり、時々RHdからも指示を出しているのかヴィヴィオの視線を追いかけている。2つの盾が1対で動くのかと思っていたけれど、それぞれ動かすことも出来るらしい。
『バッテリ稼働も出来るけど普段はヴィヴィオの魔力で動く様にしてあって2つ同時にシールド展開すればオーバーSランクの砲撃魔法にも耐えられる筈だよ。』
 試験機だけにかなり高いスペックを持っているらしい。そんな砲撃魔法をわざわざ受けるつもりもないけれど…
「こっちでテストとか模擬戦とかあるんでしょうか?」
『うん、時々お願いするけど先に慣れてくれた方がいいかな。許可は貰ってるからそのまま持って帰って。空戦魔導師の研修とかで使ってもいいけど、機密扱いだから色んな人に見せたり貸したりデータを見せなければ自由に使ってくれていいよ。』


 急いでテストをして完成させないといけないものだと考えていたけれどそこまで急いでいる訳ではないらしい。

「わかりました。」

 と頷くとバリアジャケットを解除する。するとシールドも同時に解除されてRHdの待機状態、赤い宝石とペンダントのチェーンを繋ぐホルダーになっていた。これなら落としたり無くしたりしないと安心する。

「女神の盾と聖王の鎧と剣…本当に昔の王様みたいになってきちゃった。」

冗談交じりに呟く。

 しかし、この時ヴィヴィオ本人を含む誰もがこれが始まりになるとは予想もしていなかった…

~コメント~
 イージスシールド、ヴィヴィオの台詞の様に北欧神話の女神の防具の名前です。古今東西の文献だけでなくゲーム、防空システムの名前でも使われている位有名な名前ですが…今話の大本はとある冊子にあったあるデバイス前身からつけました。今まで登場したデバイスの中でヴィヴィオに使わせたいと以前から思っていたデバイスだったので…
 というわけで短編も一旦本話で終了です。
 これからの話ですが、次話まで少し時間が空きます。来月新しいなのはの映画が上映されるのもありますが、1ヶ月程仕事で遠方に出ないといけなくなりました。
 …初の超極寒地帯…耐えられるのか少し不安です。

 10月後半~11月前半には再開出来ると思いますのでよろしくお願いします。

Tittwerを始めました。
 https://twitter.com/ami_suzukazedou
 SSについてとか活動についてとかを呟けたらいいなと思います。



 

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