第01話「故郷の風」

「わ~っ♪ 何だかお祭りみたい。」

 高町ヴィヴィオはその光景を見て胸を躍らせた。

「賑わってるな~。元々は聖誕祭みたいな厳かなイベントやったんやけどな、みんなお祭り好きやからね~。」

 ここは第97管理外世界―日本―海鳴市。
 ヴィヴィオは商店街を歩きながら隣の八神はやてと話していた。

「その内聖誕祭もこんな感じになるのかな…だったら楽しそうですね♪」
「う~ん、人も違うし文化も違うから…難しいんとちゃうかな。」

 
 彼女が苦笑する。
 どうして私達が海鳴市に居るのか? というのは数ヶ月前に遡る。



 異世界で作られていた人造端末―ラプターを巡って私達は現地の管理局と戦った。激戦を経てその事件は解決したのだけれど、その影響で私は一時期魔法が使えなくなって魔法文化の無いママ達の故郷海鳴市に療養に来た。
 私は勿論、ママ達も休暇を取ってくれて一緒に…。
 その時ママ達の親友、アリサ・バニングスと月村すずかは『休暇を取れば海鳴に帰って来られる』と初めて知ったらしい

『年末年始には3人一緒に必ず帰ってくること!』

 と約束させられてしまった。
 幸い今は大きな事件もなく、教導隊の訓練等もそれ程忙しくないことがあってか私達3人は今年の休みを海鳴で過ごすことにした。
 でも幾ら忙しくないとはいえ、全く仕事が無い訳ではなく初等科学生の私と同じ程休みが貰える筈もないので2人は数日遅れてくることになっている。
 何故か隣に居る八神はやてを除いては…

「はやてさん、本当に良かったんですか? 私と同じ位休んじゃって…10日以上お休みですよ?」

『私も一緒に行くからよろしくな♪』
 一足早く海鳴に行こうとしていた私に声をかけたのははやてだった。
 彼女もアリサから言われて海鳴に帰省しようとしていたのは知っていたけれど…
 それだけ休んでも大丈夫なのかと不安になる。
 彼女は司令と呼ばれるれっきとした管理職だからだ。

「ええんよ、闇の書事件の撮影の後で入院させられてからまとまった休みも取ってなかったしな。それに今の私の仕事はミッドチルダに居なくても出来るんよ。」

 ハハハと笑って答えるはやて、何か誤魔化している気がする。

「あ~っ疑ってるやろ? まぁ…ヴィヴィオは知ってるからええか。私の今の仕事はミッドチルダ海上警備の部署設立の準備。今作ってる船…ヴォルフラムの運用計画とかな。異世界の事件で教えてくれた特務6課の準備段階…やね。」
「特務6課…」

 異世界のママ達やはやてやスバル、ティアナやチンク達を含む特定事件を追跡する部隊…。ミッドチルダの首都クラナガン上空で戦った相手。
   
「私らはあっちの私と同じにはならんよ。動く理由も目的も違うからな。」
「こっちにラプターは無いし、違法な研究をしてた研究所は全部潰して関係者は全員捕まってる。私がここに居るのもそのご褒美の1つやね~♪ ヴィヴィオ、教えてくれてありがとうな」

 2ヶ月位前に管理局広報部から発表されたニュースはほぼ全ての管理世界に衝撃を与えた。
 管理世界では有名な魔導企業『ヴァンディンコーポレーション』の取締役が違法研究に直接関わっており、取締役を含む関係者が逮捕され相当数の研究施設で違法実験が繰り返されていたのだ。

 複数世界が関係した大規模犯罪として管理局本局主導で捜査が行われた。 
 本社を含め全ての研究施設や頻繁に通信している先全てに対して大人数の執務官を派遣し膨大な証拠を消される前に押収した。
 広報部はその中から幾つかの情報を選んで出したのだけれど、企業のネームバリューと実験内容にメディアの取材が加熱していった。
 本局を含む各世界の地上本部にも管理体制の不備として矛先は向いたが、それ以上に叩かれたのは研究していた企業側だった。
 結果、ヴァンディンコーポレーションは主要な管理世界で叩かれて今は風前の灯火になっている。

 その事件の発端になったのがヴィヴィオだというのは彼女の身近の者しか知らない。
 ヴィヴィオが異世界で見て来た違法実験のことをはやてに伝えた後、彼女が本局や地上本部の関連部署に教えたことで一気に動いたらしい。
 何故ヴィヴィオがそこまで知っているかというと…フェイトとティアナも急遽呼び出されて暫く帰って来なかったからである。

 またラプターの方も、プレシアの開発した魔力コアによって計画そのものが中止されている。
 これらから異世界のはやて達が担当していた事件も開発協力も全て無くなっていた。良いのか悪いのかは判らないけれど事件を追いかける専門部隊より良いのかなと思うことにした。
 
「それにな、ここに居るだけでも仕事になってるんよ。おっちゃん、鯛焼き2つ、餡子多いのお願いな♪」
「まいどっ♪」

 通りがかったところでお店がありはやてが何かを買ってくる。
 紙に挟まれた物から湯気が出ていた。パクッと食べるはやてを見て同じ様に食べる。
 暖かいのと甘いのと…チョコポッドとは違う風味を感じた。

「おいしい…これ…翠屋で食べたのに似てる。暑い時に氷の上に乗ってた。」
「かき氷な、冷やしても美味しいし暖めても美味しい。お腹暖まるやろ♪」
「うん…美味しい。ありがとう、はやてさん」

 私がそう言うと彼女は頬を崩した。
 それから私達は今日の目的であるスーパーミクニヤを見つけて入った。



「ねぇ、はやてさん。さっき言ってたのってどういう意味です?」

 ミクニヤで食材を色々買った後、私達はそのまま高町家へと入った。
 今日は12月24日―クリスマスイブ。海鳴市…日本ではこの日パーティや家族・恋人・友達と祝うことが多いらしい。
 でもそれは一般的な話であって例外になる人達も居る。
 高町家はその例外だった。
 12月、特に今日は翠屋にとっても1番忙しい日だ、毎年大量にケーキを作る為桃子は勿論士郎や美由希、アルバイト達も含めて大変だそうだ。
 海鳴に遊びに来ると決まった時からヴィヴィオも手伝うつもりだったけれど、流石の3人もクリスマスが終わるまで何も出来ないからと言われて月村家にお世話になっている。
 今日が終わればみんなグッタリして帰ってくるだろう。
 そこで帰ってきてからご飯の準備をするのは大変だと思い、はやてと一緒に高町家の夕食の準備に来たのだ。
 家族の1人とは言え、簡単に家の鍵を貸してくれるのは…少し心配でもある。

「ん?さっき言ってたのって?」   
「こっちに居るのが仕事って言ってた話です。海鳴市で新しいロストロギアが見つかったんですか?」
「ちゃうちゃう、『こっちに居るのが…』って言うか『ヴィヴィオの近くに居る』のが仕事♪」
「私の近くに居る?」

 どういう意味だろうと首を傾げていると鍋が吹きこぼれかけていたらしくはやてが火を弱めた。

「うん。『将来有望な最年少のベルカの騎士の身辺警護』、立派な仕事やろ♪。」
「将来有望な最年少のベルカの騎士…って、ええっ!?」

 何故一緒に居るのかと思っていたら私が原因だった。
 笑って答える彼女に思いっきり驚くと彼女はアハハハと笑った。

「正式な任務と違うけど、本局・地上本部・聖王教会から内々に頼まれてな。何か事件に巻き込まれるとは思ってないけど、管理外世界まで追いかけてくる人も居るからな~、昔…私はうちの子が居たから大丈夫やったけど、なのはちゃんやフェイトちゃんは苦労してたよ。色んな人につきまとわれて…」
「…冗談…ですよね?」

 冗談じゃないと笑えない。最近は賤かになっているのにまたあの視線が増えるのは正直勘弁して欲しい。

「あくまでも保険な、まぁ何かあったら相談に乗るよ。よし出来たっ♪ ヴィヴィオ、すずかちゃんとアリサちゃんが首長くして待ってると思うから帰ろうか。」
「うんっ♪」

 火を止めて鍋に蓋をして、ラップに包んだお皿を冷蔵庫に入れる。
 その横ではやてはメモをサラサラっと書いた後、エプロンを外して2人は高町家を後にした。   

  

「じゃあいくよ、せーのっ!」
「「「「メリークリスマス♪」」」」

 月村家に戻って小一時間後、ヴィヴィオははやて達と夕食を食べていた。
 立食式にしてそれぞれ食べたい料理を取り分ける様にしてあるのは、遅れて来る本局組メンバーとミッド地上メンバーの為だ。

(…あの子が居たら、「おにくおにく」って言うんだろうな…)

 少し前のことなのに懐かしく思ってしまう。

「退屈だよね、雫が居たら街を案内したり話し相手になれるのに…お姉ちゃん達と一緒に出かけているの…」

 談笑するはやてとアリサを見ているとすずかが謝ってくる。

「いえ…何度か来てるのに知らないことも多くて楽しいです。」

 月村雫、高町恭也とすずかの姉―忍の一人娘…何故か私を練習相手にしてくる。
 かなり…少し苦手だった。
  
「そう言えば、今日来るんでしょ? フェイトにそっくりな子、名前は…アリサ…じゃなくて…」
「アリシアですね。みんなで来るって言ってたからもうそろそろ来ても言い頃なんですけど…」

 私の親友、アリシア・テスタロッサ。
 彼女と彼女の家族も今日から海鳴に来る。
 雫に対する盾代わり…ではなく、私達が海鳴に行くのを知って彼女達も帰省ということになったのだけれど彼女の母、プレシアの仕事が一段落してからになった。 

「う~ん…私が来る前にチェントの渡航許可申請でもたついてたからフォローしたけど…まだ下りてないんかな?」
「渡航申請って…そんなにややこしいの?」

 アリサが聞く

「ううん、元からこっちに住んでた人には許可出やすいんやけど、ミッドチルダや魔法文化の世界でずっと暮らしてた人は色々審査が必要なんよ。」
「ヴィヴィオはなのはちゃんの子供やし、管理局職員やから簡単に許可出るけど…」
「あっそうか…」

 チェントは表向きはミッドチルダの保護院から引き取って家族になったと聞いていた。
 
「町中でいきなりデバイス起動させて砲撃魔法撃たれたら大変やろ? 普通に端末出して話するだけでも大騒ぎになる。向こうで普通にしててもこっちではオーバーテクノロジーなんてのも色々あるからな。管理外世界に来るのはそれなりにハードルがあるんよ。」

 管理外世界には文化干渉してはいけない。
 司書として管理局員になった時に最初に教わった決まりだ。

「へぇ~…ん? ちょっと待って、そんな事いいながらあんた達普段から魔法使いまくってたじゃない。私達と通信したり、バリアジャケット着て飛び出したり…」
「アハハハ…それはそれ、これはこれ」

 どうやら昔色々あったらしい…。
 そんなことを話していると、外に転移魔方陣の光が見えた。紫色…プレシアの魔法色。

「すずか様、お客様が到着されました。」
「ごめ~ん…遅くなっちゃって。」
「アリシアご挨拶。こんばんは。月村さん、お世話になります。」
「あっ、こんばんは、よろしくお願いします。」
「おせわになります。」

 プレシアに怒られて慌てて頭を下げるアリシア。チェントもプレシアを真似て挨拶する。

「お待ちしていました。丁度食事中なので一緒に食べましょう。ファリン」
「かしこまりました。」

 ピッと敬礼するようにして3人から荷物とコートを受け取った。
 何も言われなくても判っているといった風なファリンに驚いていたけれど、彼女達のグラスを持ってくる時に何も無いところで躓いて、慌てて私とアリシアで支え辺りの被害を抑えたのは言うまでもない。



「どうしたの? 夕方には来ると思ってたのに…チェントの渡橋許可が出なかったとか?」 

 プレシアがすずかやアリサと話している間にヴィヴィオはアリシアに聞いた。

「そっちは先に準備してたから…問題はこっち。そろそろ落ち着いてきたかな?」

 そう言うと、部屋に残した大きな荷物の方へ行く。月村家の猫達が何かあるのかと既に集まってきている。そっと裾を持ち上げるとそわそわしているリニスが居た。

「リニス?」
「そ、私達がここからミッドチルダに引っ越す時に連れて行ったから一応はこっちの猫になってるし許可も貰ってたんだけど…渡航前の予防接種をすっかり忘れてて。」
「予防接種…あっ!」
「お陰様でこんな感じ…いいお婆さん猫な筈なんだけど、どこにそんな力があったのかって言うくらい暴れて大変だったんだから。」

 腕をめくり上げると何カ所も傷用のテープが貼られている。かなり引っ掻かれたらしい… 
 
「急遽旅行用のゲージを買って…今はこんな感じ。落ち着いたら出してあげてもいいかなって」
「へぇ~…珍しい種類だね。山猫に…近いのかな?」

 興味があるのかゲージの中を覗き込む。

「すずか、ゲージは…」
「うん、ここでは開けないよ。アリシアちゃんごめんね。この子慣れない場所に来て凄く警戒してるから今ゲージから出さない方がいいよ。それまでずっとこの中に入れておくのもかわいそうだから…後で部屋に広いゲージを置いておくからそこに入れてあげて。」

 折角広い場所に来て、友達になれそうな猫も沢山居るのにと思っていたけれど、ここの猫は兎も角リニスは慣れていないから攻撃してしまうらしい…。
 そうなんだ…と思っていると

「はい、リニス。もう少し我慢してね。」

 アリシアも判っていたのかそう答えるとそっとゲージの裾を下ろした。


  
「ほんと、改めて見るとアリシアだっけ…昔のフェイトにそっくりね~。この前来た時は本当に驚いたわ。」
「チェントちゃんも…アリシアちゃんの妹っていうか…ヴィヴィオちゃんとの方が似てるような…」

 再び簡単に乾杯をした後、談笑を始めた。その中でアリサとすずかにとってアリシアは思いっきり目を惹いていた。アリシアは

「かわいい妹ですよ~」

 と微笑みながら私に念話を送ってきた。

『アリサさんとすずかさん…私のこと知らないんだよね…どうする?』

 彼女の話をすればプレシアの話しもしないといけないし、そもそもの私やチェントの話とあの魔法についてもある程度話さなくちゃいけない。
 彼女達は魔法については知っていても私の魔法を何処まで知っているのか…

(すずかさんは…何となく気づいてるかも…教えてくれるのを待ってるのかな?)

 彼女は何度か会う度に覚えている様な感じがあった。
 ヴィヴィオははやてとプレシアが話している方を見ると、2人は微笑んで頷いた。私に任せるつもりらしい。深呼吸をして手に持っていたジュースをテーブルに置いて2人の前に立つ。

「アリサさん、すずかさん…大切なお話をしていいですか? それと…今から話す事は誰にも言わないで下さい。」
「な、なによ、急に真剣になっちゃって」
「アリサちゃん、聞こう。約束する、誰にも話さない。」

 すずかはそう言うと椅子に座り直して聞く体勢をとった。


~コメント~
 メインキャラの里帰りから話は始まりました。
 少し説明的なところが多いですが1話目なのでその辺はご勘弁を…

 時系列的な話ですが、前回の短編集から2ヶ月程経っています。その間にもう1つ話はありまして、それが「リリカルなのはAS0~ゼロ~」にあたります。
 
 話は少し変わりまして、本話でSSサイトの更新回数が500回を突破しました。
 ここまで書き続けてもまだ書ける。リリカルなのはは凄いと思います。

Tittwerを始めました。
 https://twitter.com/ami_suzukazedou
 SSについてとか活動についてとかを呟けたらいいなと思います。

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