第03話「6畳間のゆりかご」

「ごめ~ん…遅くなって」
「なのはママ」
「お疲れさん、なのはちゃん。」

 翌朝、昨日の夕食のお礼としてはやてと一緒に朝食を作っているとなのはがやって来た。
 彼女は教導訓練の責任者だったこともあって教導が終わった後訓練生の評価を行い報告した後で合流すると昨夜ヴィータから聞いていたから少し驚く。
 夕方辺りに来るかと思っていたけれど、急いで終わらせて来たらしい。  

「フェイトちゃんはまだあっち?」
「ううん、一緒に来たよ。先にエイミィさんの所に行ってからこっちにも来るって。私も手伝うよ。」
「なのはママ疲れてるんでしょ。もう少しで出来るからみんなと待ってて。」
「ヴィヴィオの手作りもあるから楽しみにしててな。」

 私の手作りと聞いて彼女は嬉しそうに

「は~い♪」

 そう言って厨房から出て行った。
 ご飯とだし巻き卵に焼き魚とお味噌汁とお浸し、大皿に肉じゃがを盛る。昨夜と違って純和風。
 シグナムが懐かしいと呟いている。

「おいしい」
「はやて、腕を上げたわね。」
「ありがとな。だし巻きはヴィヴィオの力作や。」
「とっても美味しいよ。料理上手になったね♪」

 なのはに褒められてエヘヘと照れる。

「本当に美味しい…。最近こっちやあっちに行っても桃子さんやはやてさんと一緒に料理してたのこれだったんだ。」
「うん、作り方が沢山あって楽しいよ。」

 食べて貰って美味しいと言われる嬉しさ、前にはやてから言われた気持ちがわかった気がした。

「もう少し慣れてきたら八神家レシピを渡せるな。」
「へぇ~、凄い凄い♪。」

 褒めるなのはの横に座るヴィータが正面のシャマルジト目で言う

「シャマル、早速抜かれそうだけどいいのか?」
「ひどーい!、私はもうレシピ貰ってますぅ~っ!」

 ヴィータの横で頬を膨らますシャマル。

「ハハハ、そうやね。シャマルも料理出来るよ。偶に失敗してるけどな。」
「その失敗が酷いのだが…」

 ヴィヴィオやアリシア、プレシアとチェントの4人を除く全員はハハハと苦笑いしている。その失敗を知ってるらしい。
 聞いているだけで体験しなくても良いことはある。彼女の料理は正にそれなのだろうとアリシアと一緒に苦笑いした。
 
 朝食後、月村家の書庫で本を読んでいると

『ヴィヴィオ、お父さんが迎えに来てくれたよ』

 なのはから念話が届いた。

『は~い♪、ママ読みかけの本借りてもいい?』
『ちょっと待って…帰りに元の場所に返してくれたら良いって。』

 近くにすずかが居たらしい。 
 読みかけの本と次に読む本の2冊を持って部屋を出た。

「すみません、慌ただしくて…。」

 車の所に行くと士郎とすずかとアリサが話していた。なのははトランクに荷物を積み込んでいる。

「クリスマスなんですから仕方ありませんよ。」
「みんな翠屋のケーキが好きなの。」

 アリサとすずかのフォローにありがとうと笑って答える士郎。

「お父さん、今日も忙しいの?」
「昨日ほどじゃないけどな。」
「手伝いに行っていい?」
「…高町さん、良ければ私もお手伝いさせて貰えないかしら?」

 なのはに続いてプレシアも言った。

「それは大助かりなんですが…良いんですか、折角の休暇なのに?」
「暫くお世話になるのでそれ位させて下さい。アリシア」
「うん、チェントとお留守してる。リニスも出してあげたいし。チェント、ママが夜に美味しいお菓子作ってくれるって。家で待ってようね。」
「うん♪」

 その様子を見てなのはが私に聞いてきた。  

「ヴィヴィオ…いいかな?」
「うん、私もお留守番してる。」

 手伝いに行った方がいいかと思ったけれど、今日は普段と違う位忙しい。
 士郎が大変だと言うのだから相当凄いのは何となく予想がつくし、それを知っているなのはとプレシアは士郎からでも来てくれたら大助かりだというのがよくわかった。

「じゃあ…私達はリニスと荷物を持って家に行くね。」

 海鳴市には今もまだセンサーがある。簡単に魔法を使う訳にはいかない。でも…魔方陣を使わない魔法は使える。車に積んでいた荷物を下ろす。

「なるべく早く帰るから。フェイトちゃんには家に行ったって伝えておくね。」

 話はまとまったとクルッと見送るすずかやアリサ達の方を向いて

「お世話になりました。」

 ペコリと頭を下げた後、虹色の光で3人と1匹、幾つかの荷物を包みこんで飛んだ。


「…領域固定した後で魔方陣も使わんと転移…本当に使いこなしてるな。」

 光と一緒にヴィヴィオ達が消えたのを見て見送る為に出てきていたはやては感嘆の声をあげる。

「私達からしたらはやてやなのは達も一緒なんだけどね…ねぇ、こっちに居る間に時間作れない? フェイトも一緒に」
「私達に?」
「うん、久しぶりにみんなでお話したいなって。」

 アリサとすずかの誘いになのはとフェイトは笑って頷き

「わかった。フェイトちゃんに聞いてみる。」

 そう答えると士郎の車に乗り込んだ。


     
「っと…着いた。」

 トンっと足音を立てて下りたのは高町家の庭だった。

「じゃあバッグ中に入れちゃおう。リニスも出すね。」
「あっ、リニスを出すの待って。これ位なら…4つもあればいいかな。」

 ゲージのロックを外そうとした時、アリシアは私を止めて背負っていたバックから何か出してくる。見れば小石サイズの結晶体。   

「? 魔力コア?」
「にも見えるけど…ちょっと違う」

 1つをえいっと庭の隅に投げた後、玄関の方へと走っていって…庭の億側から戻って来た。

「バルディッシュ、プログラム起動させて」
【YesSir】

 バルディッシュが答えた直後妙な感覚を覚える。

「結界?」

 魔法関係のものらしいけれど…何か抑えられている感じはない。

「にも似てるけどちょっと違う。チェント、リニスを出してあげて。」
「うん♪」

 チェントは私の前に来るとゲージを開ける。リニスが恐る恐る出てくるが、チェントを見て頬をすり寄せてきた。

「リニス専用の結界、久しぶりの海鳴だし外に出ちゃったら大変でしょ。10日くらいならこれで十分♪ コアも魔力が無くなったら消えちゃうから探さなくても良い。センサーにもなってるから誰が来たら直ぐわかる。便利でしょ♪」
「魔力コア…こんな風にも使えるんだ。」

 確かに家の外に出てしまうと探すのは時間もかかるしリニスも慣れない場所に出てしまうと危険だ。かといって月村家では猫がいっぱい居るからゲージから出せずこっちに来ても閉じ込めておくのもかわいそうと思っていたけれど、そこはアリシア達も考えていたらしい。
 当のリニス自身は寒いのか家の中に入りたそうに入り口を探している。

「待ってて、そこの窓開けるから。」

 そう言って玄関へと向かった。        

      
 庭から全員の荷物を入れてからリビングに行くとメモがあった。

「桃子さんからママとプレシアさん宛みたい、客間を使って下さいって。寒いから暖房とこたつを束ってねって…こたつ?」

 また聞き慣れない名前が出てきた。

「え~っと…話すより見た方が早いか。ミッドチルダじゃ見ないよね。リニス良かったね。こたつあるって♪」

 抱き上げられたリニスが答える。判っているのか鳴いて返事をする。
 何だろうと思って客間に行くと引き戸で繋がった部屋の真ん中に見慣れない物があった。
 椅子の座る部分が広くなった感じ…。厚手のシーツみたいなので下が見えない。

「広い椅子?」
「これがこたつ。入って良いよ」

 アリシアが抱きかかえたリニスを下ろすと知っているのかそのまま布の中に入っていった。
 アリシアはチェントと手を繋いでこたつに向かって行ってカチリという音を立てた後、足を中に入れて座った。

「低いテーブルなんだ。」

 彼女の前に同じ様に座ると足下がほんわかと暖かくなってきた。

「暖かくて気持ちいいでしょ。こっちに居た時家にもあったんだ。リニスのお気に入りの場所。それに…AMFより凄いんだから。今日みたいな寒い日は特にね。」
「?」

 どういう意味だろう? 私がその意味に気づいたのはそれから30分程してからだった。

「…これ…本当に…AMF…ゆりかごの結界より強力だよ…ファァァアアア」
 課題をしていたら思わずペンを落としてしまった。足が暖まって外に出たくなくなるだけでなく、催眠効果も含んでいる。既に1人と1匹は効果に負けて静かな寝息をたてていた。
 大きな欠伸をしてしまう。瞼が重い。
 きっと横になったら直ぐに微睡みが大挙して襲ってくるだろう。

「寝てていいよ。フェイトが来たら起こすから。」

 もはやノートには読解不能な文字が並んでいる。

「うん…お願い…」

 そう答えると微睡みに身を任せた。



「こんにちは~」

 それから小1時間程経った頃、玄関から声が聞こえた。
 その声でアリシアは誰が来たのか判って

「ヴィヴィオ、フェイトが来た…」

 声をかけようと彼女を見ると熟睡していた。
 静かに寝息を立てていて隣で眠っているチェントと並んでいると思わず頬が緩んでいた。
 そっと寝ている起こさない様に静かに部屋を出た。

「いらっしゃい、フェイト」
「姉さん…? ヴィヴィオも居るって聞いたんだけど?」

 出迎えるとアリシアが出迎えたから怪訝な顔をする。

「客間に居るよ。用意してくれた炬燵の中で起こすのが悪い位熟睡中。」
「そっか…懐かしいな…私も初めて入った時眠っちゃったんだ。」

 同じ事を言うのが可笑しくてクスッと笑う。

「?」
「何でもない。騒がしくしちゃうと起きるからリビングに行こう。」

 そう言ってフェイトと一緒にリビングへと向かった。
  

       
「…う…ん……何か…重い…」

 ヴィヴィオは急に胸の辺りが重くなって瞼を開くとそこには見慣れぬものがあった。

「なに?」

 体を少し動かすと胸の上にあったものも動いて顔を見せて鳴いた。
 炬燵の中に入っていたリニスが出てきて私の上で横になっていたらしい。
 人と猫では大きさは違っていても子供のヴィヴィオの上に大人の山猫が乗れば流石に重い。

「リニス、ちょっとごめんね。」

 そう言ってリニスを抱き上げて体を起こす。どうやら課題をしている途中で寝てしまったらしい。

「? アリシア?」

 リニスを抱き上げながら立ち上がるとリニスは体を捻って腕から逃げて再び炬燵の中に入って今度はチェントの横で炬燵から顔を出して丸くなった。 
その様子を見てクスッと笑い彼女を起こさない様にそっと部屋を出た。  

 ヴィヴィオは部屋を出た後、アリシアの姿を探しているとリビングから声が聞こえた。
そこにはフェイトの姿があった。
 ドアを開けて入ろうかと思ったけれど2人がとても楽しそうで、私やなのは達と話す時とは違う雰囲気にそっと足音を立てないように客間に戻り

「もうちょっとだけここでおやすみなさ~い♪」

 炬燵に入って再び襲い来る微睡みに身を任せた。



~コメント~
 あけましておめでとうございます。本年も鈴風堂をよろしくお願いいたします。
 11月・12月と掲載出来ずすみませんでした。
 冬コミで頒布した新刊の制作と出張先の環境整備(久しぶりに寒さで凍えそうでした)で気がつけば2019年になっていました。
 これから暫くは定期的に更新出来ると思いますのでよろしくおねがいします。
 

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