第12話「秘めた決意」

「本当に…失態続きや…」

 八神はやてはこれでもかという位沈んでいた。
 なのは達とオールストン・シー内にあるリゾートホテルで合流した後、戒める様に呟く。
 事件についてクロノから情報を貰っていて、記憶から消える間も無く目の前に容疑者が現れた。
 彼女達が夜天の書が目的だったのなら、あの時1人で対応せずに誰かと合流するまで海上に逃げても良かった。リインと合流して騎士甲冑が使えれば、あの少女に助けられなくてもと思う。
 そして…全員と合流した後もそれは言えた。
 狙っている物が判っていたのだから前に出ずに退避するか、リインに預けて予備デバイスを使うという方法もあるし、逆に夜天の書を使ってもっと条件の良い話し合いに持ち込む余地もあった。
 そうすれば上手くいけば2人の拘束、少なくともアミティエの妹、キリエとは話をする時間は作れただろう。
 フォワードに向いていないのに前線で対象の前に出ていた。
 挙げ句の果てキリエに逃げられ夜天の書は奪われ、はやて自身を含め全員が負傷した始末…。
 酷いミスのオンパレードだ。
 事件を軽く見過ぎていたと後悔する。

「はやてちゃん…」

 悲しそうな顔で見る八神家の末っ子を見る。 
 後悔しているばかりでは先に進めない。

「ありがとうな、リイン。取られたものは取り返すよ。」 

 決意を新たにした。


『みんな、部屋に集まって』

 その時リンディから念話が届いた。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リインの顔を見回すが全員が頷く。みんなに念話を送ったらしい。
 集まる部屋でソファーに寝かされていたはやては立ち上がる。続けて別の部屋に居たなのはやフェイト、2人と一緒にアリサとすずかも入ってきた。
 大型モニタを囲むように八神家の全員が集まり。はやての隣になのはとフェイトが並ぶ。 アリサとすずかは部屋の端まで下がっている。

「リンディさんから集合って、何か判ったのかな?」
「それならクロノから通信がある筈だよ。」

 首を傾げて言うなのはにフェイトが答える。

「そうやね。何かの発表とか…フェイトちゃんそっくりやった子の紹介とかとちゃうかな?」

 2人はまさかとハハハと笑う。
 だがその時、リンディに続いて入ってきた少女達を見て。

「!?」

 冗談で言ったはやて本人は勿論、他の者も驚きの余り声が出なかった。



「やっぱり驚かせちゃったね。」
「そうなるでしょ♪ 気にしないでいこう。」

 リンディに続いて部屋に入ったヴィヴィオは小声でアリシアを話す。
 
「みんなはもう会っているわね。彼女達には事件解決まで協力して貰うことになりました。色々気になるでしょうし聞きたいとは思うけれど、2人が話し辛そうな時はそれ以上聞かないであげて。自己紹介お願いできるかしら?」

 リンディが横に移動する。      

「たか…じゃなかった、ヴィヴィオです。さっきは色々と驚かせてごめんなさい。事件解決までお世話になります。」

 ペコリと頭を下げる。

「アリシアって言います。ヴィヴィオもそうだけど私にも色々聞きたいことはあると思います、特にあなたはそうだよね♪。」

 ウィンクして言うとフェイトが驚いてビクッと震える。

「何処から来たのとか家族構成とかそういうのは理由があって話せないけどそれ以外は友達みたいな感じで話してくれると嬉しいな。」
「それじゃクロノから連絡があるまで待機していて。ヴィヴィオさん、アリシアさん、飲み物は何がいいかしら?」
「オレンジジュースで」
「わ、私も同じものでお願いします。」
「判ったわ。」

 そう言うとリンディは再び出て行ってしまった。

    
    
(…気まずい…)

 全員の視線が私達に集まっている。私は兎も角、アリシアは…当然と言えば当然なのだけれど。

「仕方ないな~、よしっ!」  

 こういう時注目されているのを逆に利用するのがアリシアの凄いところだ。躊躇っていた私の手を取ってフェイトとなのはの前に行く。

「フェイト、色々と聞きたいと思うけど全部秘密で♪ 少しの間よろしく。あ~でも、この髪型だと間違われちゃうね。ヴィヴィオ、リボン持ってて。」

 そう言うと髪を留めていたリボンを解いて、その内の1つで後ろにまとめた。

「懐かしいね。久しぶりじゃない?。」
 以前似た様に異世界のフェイトと一緒に居て間違われない様にとし始めたポニーテールだった。「改めてよろしく♪」  
「よ、よろしく…」

 アリシアが出した手をフェイトは怖ず怖ずと握った。



「ヴィヴィオちゃん、さっきはおおきにな」

 アリシアがフェイトやなのは、加わってきたアリサとすずか達と話しているのを見ているとはやてから声をかけられた。

「ううん、機械の上に居た女の子に話が聞けたら良かったんだけど…、それに…夜天の書奪われちゃったんだよね? …何もできなくてごめん。」
「来てくれただけで十分や、夜天の書はちゃんと取り返すよ。私…ううん、うちの家族が残してくれた大切な本やから。」

 はやては笑顔で答える。

「それよりも…シグナム」
「はい、ヴィヴィオ…でいいか? お前が紫電一閃を使ったと聞いた。何処であれを覚えた?」
「っ!!」

 思いっきり焦る。
 はやてを襲っていた機械目がけて放ったインパクトキャノンが無効化されたのを見て何らかの方法で無効化されたと推測し、ヴィヴィオも同じ無効化の力で潰そうと考えた、それも相手に知られない様一撃必殺で…。
 しかし、その場に作られていた結界ははやてが作ったものらしくそこまで強いものじゃない。下手に砲撃系を使えば結界が壊れて周りに被害が出る。
 そこで士郎から貰った小太刀に鎧の力を弱くして切った。
 本当は1番手前の機械を切って終わらせるつもりだったのだけれど、制御が甘かったのか予想以上の威力が出てしまい光の刃は全台に届いていた。
 それは兎も角…話を戻して、『体感ゲームで覚えて、元世界のあなたから教わりました。』なんてシグナムに言える訳もなく…。

「ごめんなさい…答えられません。」

 素直に謝る。

「すまない、リンディ提督から言われていたのに気になっていてな、つい聞いてしまった。教えてくれる時が来るなら期待している。」

 シグナム差し出された手を握る

「そうや、ヴィヴィオちゃんと自己紹介…は無理屋から私から話すな。私は…」

 はやては自己紹介の後、ヴィヴィオが料理に興味を引かれているのに気づいて2人を中心に色々と料理の話で盛り上がった。



「それでな、隠し味でチョコレートを1欠片入れて…」
「えっ? なによ…なのは、あんた本気でそれ言ってるの!?」

 はやての八神流レシピを聞いていると声を荒げたのが聞こえてヴィヴィオとはやては声のした方を向くとアリシアがなのはに言っていた。
 突然だったらしくなのはは驚いているし、2人の雰囲気が悪くなったのを察してフェイトとアリサが間に入っていた。何があったのかと駆け寄る。

「アリシアどうしたの?」
「あ…うん…」
『ごめんヴィヴィオ…あのね…それでお願いなんだけど…』

 その後彼女から念話が届く。
 それを聞いてキリエとの戦闘を思い出すと確かにそれは言えた。 

「フェイト、はやて…ちょっと来て」

 アリシアが2人を呼んで廊下に出る。2人は何かわからず彼女の後に続いた。

(仕方ないな~、でも気持ちはわかるけど。)

 ヴィヴィオは心の中で苦笑いしながら彼女からのお願いを引き受けた。


 
「ねぇ、フェイトとはやては気づいてるよね。あの子…なのはが異常なのを」

 アリシアは廊下に出てドアを閉めた後、一緒に出てきたフェイトとはやてにぐいっと顔を寄せる。

「なのはが異常?」
「おかしいよ。キリエさんとの戦闘で引っかかてたの。フェイトはフォワードだから前に出るのはわかるよ。なのははフェイトのサポートをしながら動かなきゃいけないでしょ? でもなのははフェイトより前に出てた。それも何度も…前に出すぎてる、踏み込み過ぎてるのに気づいてない。」
「どうして2人とも教えないの? 私がすぐに気づいた位だからもう判ってるよね?」
 
 アリシアが気になったのはフォーメーションだった。
 初めてキリエと相対した時、彼女達がフォーメーションを組むならフォワードがフェイトでなのははセンターガード兼バックアップだった。
 後ではやて達が来た時は、フォワードはフェイトとシグナム、2人のフォローとしてヴィータ、センターになのは、バックアップでシャマルとザフィーラ、全体支援ではやて&リインといったフォーメーションが組めた。
 これらはアリシア自身がヴィータとシグナムから指導を受けていた時に【2人以上で動くなら自分がどの位置に居るかを考えろ】と繰り返し言われていた。だからヴィヴィオと一緒に動いた時は彼女が前に出た時はバックアップに回るし、逆に自身が前に出た時は彼女がバックアップをしてくれていた。
 話を戻して、さっきの戦闘を見る限り要であるなのはが前に出てしまったことでフォーメーションが崩れていた。
 ヴィヴィオがなのはの代わりにセンターに入ろうとしていたが、練習もしていないのに連携が取れるとは思えず、巻き込まれないように早々に離脱することを考えた。丁度キリエが猛スピード意で迫ってきたのでヴィヴィオの間に入って2人で離脱した。
 なのはが全員を支援出来る位置で動いていればアミタと協力してキリエを捕らえられた可能性は十分にあった。
 さっきその事をなのはに少し話したのだけれど、彼女は全く気づいていなかったからつい声を荒げてしまった。

 なのはは気づいていなくてもフェイトとはやてがそれに気づいていないとは思えない。彼女達も

「…アリシアちゃんは凄いな。見ただけで気づくなんて…。私達は待ってるんよ。なのはちゃんならいつか自分で気づく時が来る。それまでは私達が守ろうってフェイトちゃんやみんなと話し合ったんや。」
「私もはやても…なのはのそういうところがあったから…困った時に1番近くに来てくれたから私もはやてもここにいる。もしなのはに何かあれば今度は私達が助けるよ。なのはは私の大切な友達だから」
「うん」

 フェイトと一緒にはやてが頷く。

「…わかった。事件の間は私達も注意する。でも、なのはが気づいた時には遅い時もあるんだからね…。」

 身近に居る2人が知っているなら大丈夫だろう…とも思いたいけれど、既に似た事件で痛々しい怪我をした彼女の姿を思い出すのだった。

~コメント~
 もしヴィヴィオななのはRefrectionの世界に来たら?
 今話でやっと合流です。

 

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