第21話「静かな決意」

「これで…こうして…わかったっ!」

 眉を寄せ唸っていたレヴィはそう言うと彼女の手に新たな魔方陣が浮かび上がる。
 ユーリが渡そうとした夜天の書の紙片からデータを復元させよう試行錯誤していたのだ。

「へぇ~器用だね~。ベルカ式のデータをミッドチルダ式の魔法で修復するなんて…」

 その様子をアリシアは隣で眺めていた。
 夜天の書はベルカ式のストレージデバイスだから書かれている文字もベルカ式、しかも語彙も複雑で翻訳が難しい古代ベルカ式だ。
 魔導書の紙片が普通かどうかわからないけれど、こういったデータ修復には同じ魔法体系ですることが多いから古代ベルカ式魔法を使おうとするのだけれど、レヴィが広げているのはミッドチルダ式魔方陣。
 全く違う物を使って紙片の欠けた部分が少しずつ直っていく様子に驚かされていた。
「その魔法初めて見た。ミッドチルダ式にもこんな魔法あるんだね」
「当然!ボクが考えたんだもん。今ここで!」

 素直に驚く。色々魔法を学んでいるアリシアやヴィヴィオでもこんな魔法は使えない。それを即興で作り上げられる彼女に驚き興味が沸く。

「すご~い! どうやって?」
「う~ん…なんとなく? 見てたらなんとな~く書いてあることが判って、どうすれば続きが読めるかなってなんとな~く考えてたら出来た。」

 小首を傾げながらの彼女の返事に判っていた事とは言えため息をつく。
 目の前で彼女がしているのは2つの魔法体系を繋ぐ新しい魔法を組み立て、それを何となくで出来るのは凄いと言うか何というか…。
 彼女の元になったのがフェイトのパーソナルデータだから彼女の知識を持っているのだろうか?
 凄すぎる能力に驚きたいところだけれど彼女の返事が全てを残念な方に持って行ってしまった。

「?」

 レヴィは首を傾げるが復元を続ける為に集中する。
 アリシアも話しかけると邪魔になるのでそれ以上話すのを止めて様子を見ていた。
 その時さっきシュテルに呼ばれて離れたヴィヴィオとシュテル、ディアーチェの話が聞こえてきた。
 大型機動外殻を壊した後、ヴィヴィオはなのはとシュテルの戦闘にも入ったらしい。何とかごまかそうとしているけれど、彼女達はいくつかの証拠を持ってヴィヴィオに話しかけている。

「偶然は何度も続けて起きないから偶然と言うのです。違いますか?」
「我等の目的は大いなる力です。それがユーリに関係しているのは間違いありません。」
「此奴達が邪魔をせぬなら我等も邪魔をせん。だが…ヴィヴィオ、貴様の目的は何だ? 返答によっては管理局との共闘を取りやめレヴィを連れここを出て我等は我等で動く。次に会った時は貴様達も敵と見なす。」
「共闘するには互いの信頼が不可欠です。はやてやなのは達は信じても良いと思いますが…私もヴィヴィオには疑念を持っています。あなた達もそうではありませんか?」

 …ヴィヴィオはかなり追い詰められている。シュテルがはやてを取り込もうとし、ディアーチェは既にヴィヴィオとの駆け引きに入っていた。
 このまま声が大きく、口論にでもなればレヴィの集中も切れてしまうと復元が出来なくなるし、これから大変なのに敵対するのも…。
 今までの経緯とディアーチェとシュテルの話をしっかり聞いていたら妥協点もあるのだけれど…ヴィヴィオは気づいていないらしい。
 仕方ないな~と思いながらアリシアはペンダントを握って助け船を出した。

『ヴィヴィオ、ヴィヴィオ。逆、逆に考えて』

 ペンダントを通して念話を送り後ろ手でVサインで合図する。
 私を見て少し考えた後、彼女が口を開く。

「…わかった。この事件が終わったら話す。それじゃ駄目?」
(正解♪)

 ヴィヴィオが2人に聞き直すのを聞いて小さく頷いた。
 
 ディアーチェとシュテルが求めている答え【ヴィヴィオと私の正体】は今は話せない。話せば過去に似た事件を経験した私達は管理局や3人に期待させてしまう。それは誤った未来に繋がりかねない。
 だから最低限知らせなくてはいけなかったリンディ、クロノ、エイミィにだけ名前を教え要所要所だけフォローすることにした。
 ここでそれ以上教えたらこの先の結果が全く判らなくなる。
 何処かで方針変更が必要な時も来るかも知れないけれど今はまだ闇の欠片事件・砕け得ぬ闇事件と比べられる程度の違いで進めて穏便に事件を解決させたいと思っている。であればここでディアーチェ達と敵対する訳にはいかない。
 ユーリが出てきた今となっては特に…。ディアーチェやシュテルもその考えは持っていてヴィヴィオに揺さぶりをかけた。

『納得のいく答えを話さなければ敵になる』

 と…。
 YesかNoで答えろと言って選択権はヴィヴィオにあると思わせる意図は見えている。ここはヴィヴィが答えず、そのまま返してディアーチェとシュテルに判断させる様に持って行けばいい。
 もしアリシアが同じ様に聞かれたら

「ふ~ん…じゃあやってみなよ。」

 と笑って答えただろう。その辺は彼女の優しさか…、話に割って入る方が余計に機嫌を損ねかねないのでヴィヴィオだけで答えた方がいい。
でも…

(ディアーチェとシュテルに「私は3人より強いよ」って…まぁウソじゃないんだけど、私じゃ言えないな…)

 クスッと笑うと

「ん? 何か変だった?」

 レヴィが聞いてくる。

「ううん、レヴィは本当に凄いな~って思っただけ」

 そう答えると嬉しそうに笑顔を浮かべて

「続けるから見てて」

 そう言うと再び復元に集中し始めるのをアリシアは彼女が言うとおり見つめるのだった。  
  

  
「アミタさんとキリエさん、仲直りできてよかったね。」

 同じ頃、管理局本局ではなのはとフェイトがカフェへの通路を歩いていた。
 キリエの病室を見舞おうと入った直後、アミティエとキリエが仲良く食事をしているのを見て良かったと思いつつ2人の邪魔をしないでおこうとそっと離れた。

「うん…でも、あれだけ沢山食べるのはびっくりした。」

 フェイトが笑って言う。
 病室に入った時、2人は仲良く食事中だった。しかし、既にランチで食べているトレイやお皿が10枚以上重ねられていて、多分、食事用のトレイを運ぶカーゴいっぱいにあった料理が半分以上なくなっていた。

「私もビックリした。アミタさん事情聴取の前にあんなに食べてたのに…」
「そういえば…」

 アミタは負傷してフェイトの聴取を受ける前に他の者達が驚く程食べた。それが彼女の驚異的な身体能力と回復力に繋がっているのは判った。けれど今はそれ以外にも知っている。
 体内にあるナノマシンを動かす為のエネルギーになっていること…

(私も少し食べたほうがいいかな…)

 お腹をさする。小腹が空いている位だから急いで食べなくてもいい。でも、アミタから貰ったナノマシンをもっと使う為には食べておいた方がいいのかも知れない。

「なのは、私達も今のうちに何か食べておこうか。」
「うん、アリサちゃん達にも連絡しなきゃ。」

 お腹をさすったから空いたのだと勘違いされたらしい。でもなのははフェイトに何も言わず彼女がランチを頼みに行くのを見送りながら近くの席に座り、月村家の端末を呼び出した。


「ジュースと…そっちのセットを2つ…ううん、4つ、お願いします。」

 フェイトはカフェのカウンターに行って店員に注文する。少しお腹が空いている位だけれど、アミタ達の食事を見て少しでも多めに食べなくちゃと注文した。

(まだ…違和感はないし動いている感じもしない…馴染んだのかな?)

 チクリと痛む腕を見て思い出していた。


 装備課でなのはとアミタがマリエルとレイジングハートの改修について相談していた時、別の局員に頼んでフェイトはアミタとキリエから貰ったナノマシンを体内に入れた。
 局員は躊躇したが先にリンディから許可を貰っていると彼女から受け取ったメッセージを見せるとそれ以上は何も言わず注射器に入れ二の腕に刺した。
 横目でアミタはその様子を見ていたらしく

「馴染むのに時間がかかります。少し休んでいてください。フェイトさんの装備改修案は私から伝えておきますので」

 スタッフから伝言を聞いて、彼女の指示に従い部屋の隅にある椅子に座り休んでいた。少しでも早くナノマシンが体に馴染むように願いながら…

「お待たせしました。」

 店員に声をかけられ我に返る。

「は、はい。」

 フェイトは用意されたトレイを持ってなのはの座るテーブルへと向かった。

        
「わっ! こんなにいっぱい?」
『なのは、どうしたの?』
『なのはちゃん?』

 トレイを持って行くとなのはが驚いた。ウィンドウからアリサとすずかの声が聞こえる。丁度見えないところに私がいるかららしい…。

「もしもし?」

 トレイをテーブルに置いてなのはの横に座る。

『フェイトちゃん、良かった。』
「フェイトちゃんがいっぱい持って来てびっくりしたの。」
「れから頑張らなくちゃって、いっぱい持って来た。」
『そうよ、なのはは夢中になったら休まないんだから、全部残さずに食べることっ! 作ってくれた人に悪いしね。』

 モニタ向こうでアリサが言うとなのはは少し笑って頷いた。
 それからフェイトはなのはと一緒にサンドイッチを食べながらアリサとすずかとのお喋りを楽しんだ。
 アリサとすずかが2人を心配してくれているのを嬉しく思いつつ、彼女達をこれ以上巻き込まない、海鳴や日本に被害を出さないと心に誓うのだった。

~コメント~
 今話は19話・20話の裏で起きていたアリシア・レヴィ・なのは・フェイトの話しです。
 大まかなあらすじは完成しており、BD版が発売されたので少しずつ補完しながら進めています。
(ライブに行きたかったですが、当日は間違い無く仕事で抜けられず断念しました)

 先にも書きましたが、先日AffectStory2~刻の護り人~の大まかなあらすじが出来ました。18~19話で期間に話の大幅な修正を行いヴィヴィオらしさが出た話になっていると思います。
 本話を含めBD/DVD版と少し違ったDetonationの話に進みますがBD/DVD版と比べて楽しんで頂ければと思います。

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